『うれしくって抱きあうよ』YUKIインタビュー

穏やかな優しさ、純粋な楽しさ、音楽が世界に放てる無限の喜びを振りまくように、現在のYUKIは歌っている。アルバム『うれしくって抱きあうよ』には、1曲目の“朝が来る”からラストの“夜が来る”まで、まるで人生の中の1日を大切に楽しみつくすような楽曲が並ぶ。ジャズの生々しさや、ビッグ・バンドのゴージャスなサウンドや、AOR的なアプローチなどバラエティ豊かに、自らを音の中で解放しながら、生き生きとした命そのものの輝きを表現しているような作品なのだ。それは明らかに今の日本の音楽シーンにおいて、とても貴重で刺激的なものだと思う。

(インタビュー・テキスト:上野三樹)

感動とともに涙が流れるような感覚を、体じゅうが感じたがっていた

―『うれしくって抱きあうよ』、素晴らしいアルバムです。

YUKI:ありがとうございます。今回は作っている時から、すごく満足感があって。1曲1曲、出来上がる度に「間違ってない方向に行ってる、自分の思い描く音と寸分違わぬ音が鳴ってる! うれしい」という気持ちで作ってきました。

『うれしくって抱きあうよ』YUKIインタビュー

―今のYUKIさんは、自分の為でなく特定の誰かの為でもなく、ほんとに自然に何かに導かれるかのように歌われている感じがしたんですけど。前作『Wave』以降、どんな変化があったんですか。

YUKI:ひとつ確実にあるのは、自分の普段の生活の中で何か素晴らしいもの、建築や美術や音楽といった素晴らしい芸術に触れた時に感じる、「今、生きているこの喜びをどうしよう」という思い。こういう時に何かモノが生まれるのではないか、というような思いに打ちひしがれて、感動とともに涙が流れるような、そういう感じを、もう体じゅうが感じたがっていたんです。

やっぱり女性なので、体のホルモンバランスによる変化も大きいと思うんですけど、女性のそうした自然な原理というか、そういうものに対して、なるべく逆らわずにいたいんですね。前作の『Wave』も、それに逆らわずに出来たものだったんですけど、今回はその波の中でも「生きていることを目一杯享受して、人生をまっとうしたい」というか「この太陽の下で目一杯遊んでやる!」みたいな気持ち……それが、この2年間、今もずっと続いているんですけど、あるんですよね。

―制作としては、一昨年に「New Rhythm Tour」を終えてから本格的にスタートされたそうですね。

YUKI:はい。ツアーがあり、その後に怒濤の曲作り期間があり、子供を授かって少しお休みをして、またレコーディングを続けるんですけど、かなりお腹が大きくなる時期までやっていました。その時に、素直な気持ちで音楽を作るということを止めなかったんですよね。「何だこれ、楽しい!」「何だこれ、いい曲だ!」「こんな言葉が出てきた!」って、何でも自分の力に変えながら作っていきました。

ピュアなところに戻ると、やっぱり人って、もっと笑っている生き物なんじゃないかと思ったんです

―私は、今のYUKIさんが今作に込めた、喜びを外に向かって歌にして、波動にしたいっていう気持ちが、一過性のものではなくて、これからもずっとご自身の中にしっかりある、芯になっていくような気もするんですけど。

YUKI:でもそれはきっと、私が生まれた時から根本的にそうなんだと思います(笑)。やっぱり人には、生まれながらの何かがあると思うんですけど、きっと私は、生まれながらに楽観的であり、生まれながらに笑いたいんだと思います。人って、赤ちゃんの時はみんな基本的に機嫌が良くて、でも成長過程では色々なことがあって、不機嫌さを人に見せてみたりとか、自分は世界一不幸だと思ってみたりとか、そういうポーズだったりアピールだったりが生まれてくると思うんですけど、もっとピュアなところに戻ると、やっぱり人って、もっと笑っている生き物なんじゃないかと思ったんです。

例えば辛い状況の中にいたとしても、その中でもなんとか楽しく生きようと工夫するだろうし、人はもっと強いものだと思うんですよね。だから私は自分でも、結構強いのかも、と思うんです。それに、強くなったほうが楽しいと思ったから強くなってきたし、人を許したり、自分を許したりするほうが楽しいんだと気付いてきたから。怒りのパワーではなくて、笑いやジョークの大切さとか、ピンチの時の乗り切り方とか(笑)、そういうことがだんだんスキルとして身についてくるんですけど、でもやっぱり基本的に私は、きっと楽しくいたい人間なんだろうなと思います。

―ではYUKIさん本来の楽しさや明るさで歌ってる感じなんですね。

YUKI:そうだと思います。だからこそ無理がないんです。

『うれしくって抱きあうよ』YUKIインタビュー

与えるでも奪うでもなくて、与え合うことが大事

―例えば“プレゼント”という曲では、「ステージを前にして あなたにもできるよって 歌うようなイメージ」と、かなりストレートなメッセージを書かれていて。「満たされた」「これはビジネスじゃないわ」という言葉も印象的ですが、この曲にはどんな思いが込められているんですか。

YUKI:プレゼントとは本来、与え合うものなのだと思うんですけど、欲しがるばかりの人が多すぎるなと思うんです。愛されたがって、欲しがって、全然もらえなくて悔しくて、「なんで私ばっかり?」とか、「こんなにしてあげてるのに何もない」とか。欲しがるばかりになってしまう人って、「何がそんなに苦しいんだろう?」って。

―YUKIさんはそういう葛藤がないんですか?

YUKI:ないですね……というより、なくなりましたね、そういえば。誰かにイライラするようなことがあっても、その人の嫌なところを変えようとか今は思わなくなりましたし。その人はその人でいるだけであって、自分がイライラしなければいいんだということに気が付いて(笑)。それに去年は私が、周りにいる人に対して「よし、これはいいことなんだ」「今やるべきなんだ」と思ってやっていたことが、結局は自己満足にどっぷり入っていたことがあって。その人から何の見返りもないことに対して「あれ? 私はやっぱり何か見返りを求めているのかもしれないな」と思ったことがあったんです。その時に、「あぁ、そうか。そういう風に思うことって苦しいな」って。

やっぱり何かをしようとした時は、与えるでも奪うでもなくて、与え合うことが大事なんだと思ったんですよね。それはモノとかではなくて、例えば「ありがとう」という言葉を与え合うだけで嬉しくなって、気持ちが良くなる。だけど、たとえ「ありがとう」という言葉が返って来なかったとしても、自分が「良かったな」と思えばいいわけで。みんなは自分と違う人なんだということを、もっともっとわかっていくと、毎日もっと快適な時間が増えるなと思ったんです。私にはそんなにたくさんの時間がないなと思うので、だったらもう快適な時間だけのほうがいいんです(笑)。それはやっぱり、自分を許すことで、その人も許すことなんだなと思ったんです。

ビジネスではなく、満たされて歌っている。こんな気持ちは初めてかも

―そうした経験からくる、人としての考え方の変化も大きいんですね。“うれしくって抱きあうよ”にも「欲しいものなどもはやないんだ」って、はっきりと歌われてるじゃないですか。

YUKI:そうですね、もうないです。やっぱり許し合う気持ちや、与え合う気持ちや、慰め合ったり、労い合ったりする気持ちや、あとは感謝の気持ちさえ持っていれば大丈夫です! 本当に。「ありがとう」って、いつも思っていれば大丈夫! 私も悪口を言われたら「すごく悲しい!」と思うんですけど、そんな人に対しても悪口を言ってくれて「ありがとう」なんです。「私、気付いたわ! ありがとう」って(笑)。

『うれしくって抱きあうよ』YUKIインタビュー

―そこでまた感謝すると(笑)。「自分の心の中の満たされない思いを曲にして歌っている」という方もいらっしゃいますが、満たされていて、ビジネスじゃなくてというYUKIさんが今、音楽をやって唄っている理由をあらためてお訊きしてもいいですか。

YUKI:はい。楽しいからです(笑)! それに、みんなに私の音楽を聴いてもらって、喜んでもらえればと思っています。ビジネスでもなく、満たされて歌っていて……これは本当の気持ちですね。こんな風に思ったのは初めてなんじゃないですかね? 今までは何となく「私って楽しい人だな〜」と(笑)、普通に暗い歌は歌わないほうだなと思ってはいたんですけど。特に最近は「健康でいられることが心から最高に幸せ!」と思うんですよ。その感覚を、もっとみんなにも感じて欲しいんです。

音楽家、芸術家はみんな独りよがりです。でも私は、その独りよがりをどれだけ楽しんでもらえるかだと思っていて。表現は色々あるけれど、独りよがりだけど、人を惹きつけるもの、惹きつけないもの、ってあるんですよね。だからこの作品が人を惹きつけなかったらしょうがない。これが人の心を動かさなかったのならしょうがないと思うんですけど、自分から出てきた素直な気持ちで作りました。これを今の2010年の……もちろん世界中で聴いてもらいたいんですけど、まずは一番伝わる、日本の人に聴いてもらって、変化を起こしたいなと思っています。

リリース情報
YUKI
『うれしくって抱きあうよ』(初回生産限定盤)

2010年3月10日発売
価格:3,990円(税込)
エピックレコードジャパン ESCL-3390

1. 朝が来る
2. プレゼント
3. COSMIC BOX
4. ランデヴー
5. just life!all right!
6. チャイニーズガール
7. 恋愛模様
8. さようなら、おかえり
9. うれしくって抱きあうよ
10. ミス・イエスタデイ
11. 汽車に乗って
12. 同じ手
13. 夜が来る
[DVD収録内容]
1. Dance!Dance!Dance!
2. うれしくって抱きあうよ(music video)
3. COSMIC BOX(music video)
4. ランデヴー(music video)
5. 汽車に乗って(music video)

リリース情報
YUKI
『うれしくって抱きあうよ』(通常盤)

2010年3月10日発売
価格:3,059円(税込)
CD/ESCL-3392

1. 朝が来る
2. プレゼント
3. COSMIC BOX
4. ランデヴー
5. just life!all right!
6. チャイニーズガール
7. 恋愛模様
8. さようなら、おかえり
9. うれしくって抱きあうよ
10. ミス・イエスタデイ
11. 汽車に乗って
12. 同じ手
13. 夜が来る

イベント情報
YUKI concert tour 2010
『うれしくって抱きあうよ』

2010年7月3日
会場:埼玉 戸田市文化会館

2010年7月7日
会場:神奈川 神奈川県民ホール

2010年7月10日
会場:広島 広島厚生年金会館

2010年7月11日
会場:広島 広島厚生年金会館

2010年7月17日
会場:大阪 グランキュ−ブ大阪メインホ−ル

2010年7月18日
会場:大阪 グランキュ−ブ大阪メインホ−ル

2010年7月24日
会場:北海道 さっぽろ芸術文化の館(旧北海道厚生年金会館)

2010年7月25日
会場:北海道 さっぽろ芸術文化の館(旧北海道厚生年金会館)

2010年7月31日
会場:石川 本多の森ホ−ル

2010年8月14日
会場:福岡 福岡サンパレス

2010年8月15日
会場:福岡 福岡サンパレス

2010年8月18日
会場:兵庫 神戸国際会館こくさいホ−ル

2010年8月19日
会場:兵庫 神戸国際会館こくさいホ−ル

2010年8月28日
会場:愛知 名古屋国際会議場センチュリーホール

2010年8月29日
会場:愛知 名古屋国際会議場センチュリーホール

2010年9月4日
会場:宮城 仙台サンプラザホール

2010年9月5日
会場:宮城 仙台サンプラザホール

2010年9月13日
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2010年9月14日
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2010年9月17日
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2010年9月18日
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2010年9月25日
会場:沖縄 沖縄コンベンションセンター劇場

2010年9月26日
会場:沖縄 沖縄コンベンションセンター劇場

プロフィール
YUKI

1993年、JUDY AND MARYのヴォーカリストとしてデビュー。バンド解散後の2002年2月よりソロ活動を開始。先鋭的なサウンドや前衛的なビジュアルで独自の世界観を確立し、これまでに『PRISMIC』『commune』『joy』『Wave』の4枚のアルバムをリリース。独特の歌声、歌詞、ライブパフォーマンスからアートワークに至るまで、全てにおいて研ぎ澄まされた表現は、あらゆる方面から常に注目を集めている。2010年3月、5thアルバム『うれしくって抱きあうよ』をリリース。



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