20年の活動を振り返った第一弾「フラカン入門」に続く第二弾では、3月31日にリリースされるフラカン初の映画主題歌『元少年の歌』に収録される新録の“深夜高速”のプロデュースを務めた盟友・曽我部恵一との対談をお届けしよう。デビュー当初からの付き合いという二組に、“深夜高速”の話はもちろん、出会いからお互いに対する印象、ライブに対する向き合い方や音楽業界の変遷、さらには過去のぶっちゃけ話まで、存分に語っていただいた。
(インタビュー:タナカヒロシ テキスト:金子厚武 写真:柏井万作)
90年代、フラカンとサニーデイの出会い。
―デビュー当時によくフラカンとサニーデイで対バンをされていたそうですけど。
曽我部:ロッキング・オンの兵庫慎司さんっていう人が紹介してくれて。「すごいバンドがいるよ」って。
―一緒に対バンしてみたらどう? みたいな?
曽我部:そこまでいかなくて、「すごいいいから、絶対好きだから聴いてみて」って、CDかテープをもらったんですよね。それが初めて聴いたきっかけでした。たぶんお互いに似たような環境で。
マエカワ:そうだね。俺ら、『若者たち』(1995年4月発売)が出た頃にサニーデイをチェックしてたんだけど、これまでにない肌触りの音楽で「わっ! すげーの出てきたな!」って思ってね。
曽我部恵一
鈴木:当時は渋谷系がボーンってきてた時期だったよね。
曽我部:そうそう。当時は90年代で、「センスがいい」みたいなところが評価されるような時代だったけど、フラカンは自分が中学のときとかに聴いてたようなロックというか、インディーの、例えばスターリン(遠藤ミチロウを中心に1979年に結成されたバンド)とか、そういう匂いがあるバンドだったんですよ。すごいなと思いましたね。
―どんなところがすごかったんですか?
曽我部:やっぱりライブですよね。あの当時の印象は、今も全然変わんないんですけどね。ああいう迫力がどうやったら出るんだろうっていうのは、ずっと思ってました。あと、僕らはMIDIっていうわりと小っちゃい会社からリリースしてたけど、フラカンはソニーだったから、宣伝とかもすごいいい感じでやってて羨ましかった(笑)。打ち上げがめちゃくちゃデカいとか。
マエカワ:その印象はあると思うわ(笑)。新宿の呑者家銅羅とかね。
曽我部:あそこ貸し切ってやってたりしたよね? 俺らはもう、居酒屋のテーブルを2つくらいで(笑)。でも、フラカンの打ち上げは楽しいから行ってましたよ。人がいっぱいいるし、わりとタダで飲めるし(笑)。
“深夜高速”ってすごい曲だから、何度もリリースしていいと思うんですよ。
鈴木圭介
―今回『元少年の歌』に、曽我部さんプロデュースの“深夜高速”が収録されますよね。これはどんな経緯で?
鈴木:“元少年の歌”が映画の主題歌ということもあって、それきっかけでフラカンのことを知った人のために、もう一回“深夜高速”を入れないかっていう話がレコード会社のスタッフから出てきて。ただ、僕らが普通に演奏したら去年録った“深夜高速”と同じになっちゃうから、誰かにプロデュースしてもらおうと思ったんです。
―なるほど。曽我部さんにお願いした理由は?
鈴木:僕らのことを知らない人にお願いするつもりはなかったんですよ。曽我部は僕らのことをよく知ってるし、どういう風に料理してくれるのかな? っていう興味がものすごいあったし、どういう風にレコーディングするんだろう? っていうのを知りたかったのもあって(笑)。
―それで曽我部さんもやりましょうと。
曽我部:もちろん。“深夜高速”ってすごい曲だから、何度もリリースしていいと思うんですよ。手を変え品を変え、この曲を後世にちゃんと伝えていったほうがいい。だから今回やらせてもらうのも、その作戦の一つって感じでやりたいと思ったんです。その作戦のなかでの自分の役目って、これまでのフラカンのお客さんとは別の層に、別の角度で広げていくってことでしかないから、そこは色々考えましたけどね。よりわかりやすいじゃないけど、歌が伝わるのはなんだろうなって。それで、アコースティックなノリでやろうって話しになったんです。
―歌を伝えるのに主眼を置いて?
曽我部:そうそう。「曽我部恵一がやったらこんな風になりました」みたいなことではなくて、この曲がずっとラジオとか街で流れ続けるための一つの手段であるべきだと思って。最初に耳にしたときからすごい曲だと思ってたけど、初めて聴いてから何年も経った今も、全然飽きないというか、同じエネルギーが曲から来る。ホント生きてる曲っていうか、すごいなと思います。
―僕が今回思ったのは、去年のバージョンは押し出すような歌で、曽我部さんがプロデュースしたのは引き込むような感じだなって。押しと引きが違うのかなって。
曽我部:歌を聴いている人に入っていくような感じがあるかもしれないですね。アレンジもね、ためてためてっていうね。最初は間奏などでもっと盛り上げる部分もあったんですけど、あえてそれもなくして、最後までピシッと耳を澄まして聴けるっていうのを重視しましたね。
ライブっていうのが、こっちが主体的にできることとしてはひとつあるから、ひたすらやり続けてる。
―フラカンも曽我部さんもライブの数が多いですが、色々な活動の中でもライブの優先順位は高いのでしょうか?
曽我部:ライブは重要だと思いますし、まず、僕はライブをしないと食っていけないですからね。生活するためにライブをやっているところは絶対にあります。
マエカワ:それはね、俺らも思いっきりそうだしね。
曽我部:もちろん、その場でお客さんが盛り上がってくれて、「よかった」って言ってくれることがうれしいからやるっていうのもあるし。
マエカワ:そうだね。それにライブをやることで知ることが沢山あるよね。
曽我部:そうそうそう。一本のライブにいろんなことが集約されてる。アレンジとか、曲のよさとかも、結局はライブで試されるから。だから、CDは副産物っていうような感覚ですね。昔は逆だったの。90年代はCDのアルバムに説得力がもうちょっとあったんですね。でも今のリスナーの人たちは、アルバムやCDだけで評価したりしなくなってる。
マエカワ:前はね、アルバム出してツアーに行くのが当たり前だったけど、今は別に関係ないもんね。
曽我部:それまではアルバムっていうのが一応、ロック・バンドが活動をしている証だし、その成果だったと思うんですよ。だけど今はロック・バンドが何を自分たちのアイデンティティとしていいか、いまいちわかんない時代だから。僕も含めて、とりあえずライブっていうのが、こっちが主体的にできることとしてはひとつあるから、ひたすらやり続けてるんです。ライブが全てだとも思ってないんですけど、ライブしかやることがないっていうような時代ですね。
フラカンを見てると、カレー屋さんが20年ずっと続けてるのとホントに一緒。それが一番リスペクトできることですね。
―お客さんとのコミュニケーションの仕方っていうか、フラカンも曽我部さんもお客さんとすごいコミュニケーションしてると思うんですよね。純粋なMCだけじゃなくて、ステージの魅せ方全体として。そういう部分で意識されてることってありますか?
鈴木:それはあんまり意識してないかなー。物販に出たときにお客さんと話したりとか、そういうことは前よりは増えましたけど、ライブ中は考えてないかな。お客さん側からライブの途中で話しかけられたら、答えたりもするし、無視したりもする。
マエカワ:その場の流れだよね。
鈴木:うん、完全にそうだね。逆にこっちからお客さんをいじったりするときもあるし。でも、別に考えてやってるわけじゃないですね。
曽我部:難しいですよね。お客さんをいじればそこで湧くけど、僕らもお客さんも果たしてそれを求めてその場にいるのかっていうと、違うような気もするし。ライブはめっちゃ盛り上がってるバンドとかでも、CDは売れてなかったりすることもあるじゃないですか。だから、無理矢理にでも盛り上げるとかじゃなくて、音の説得力みたいなものを、フラカンはやってる気がしますね。
鈴木:どんだけ伝わったかっていう。その尺度がまた難しくて、ライブした後にアルバムがたくさん売れたから伝わったのかどうかはわからないんだけど。例えば、フェスでワーッと人がたくさん集まったと。その場はすごく盛り上がったけども、結局その後のワンマンに、たいしてお客さんが来なかったとか。じゃあ、あれは伝わってなかったのかなっていうと、そんな即効性があるものでもないのかもしれない。2年後とかに来る人だっているかもしれないし。
曽我部:僕はカフェをやってて、それの数字とか見てると思うんですけど、浮き沈みがすごいですよ。2月に入ったらパタッとお客さんが来なくなったりとか。雪降ったら来ないとか。で、それで一喜一憂してるともたないっていうか。いかに自分の心を安定させて同じことを続けるかっていうことだと思うんですけどね。
マエカワ:そうだよね。自分らでマネージメントを始めた頃は、ツアー行ってお客さんがこの前より減ったりとかしてたら、「うわっ、減っちゃったな」とか思ってたけど、それをやってると疲れちゃうだけなんだよね、結局。
曽我部:減るときもあるし、伸びるときもあるし、平にしてみて何が残ったかっていうところが重要だから。僕が好きなカレー屋さんとか、この前行ったら今年で20年とか言ってて。僕は10数年行ってるけど、今食っても、本当に美味しいなって思うわけ。それだけが多分答えで。お客さんが入ったり入らなかったりすることはあっても、20年続いてて、今日も一番美味いカレーが出てるっていうことがポイントなわけじゃないですか。ロック・バンドもそれだけを目指すべきで。フェス出たからどうとか、1枚CDが売れたからどうとかっていうことではないんですよね。そこにいかに左右されないで、自分がベーシックな活動をできるかっていうのを、ツアーとかライブをやると勉強できます。アルバムだけ作ってると、そういうのがわかんない。
マエカワ:絶対にわからんね。
曽我部:アーティストみたいな気分になっちゃうし。「作品」、みたいな。
マエカワ:ライブとかツアーなんて、生活の中心だからね。
鈴木:だから変に美化もしないし、よくも悪くも平熱だよね。
曽我部:そうそう。音楽活動って生活やライフスタイルと関わっているものだし、フラカンを見てると、カレー屋さんが20年ずっと続けてるのとホントに一緒。だから、それが一番リスペクトできることですね。自分もそういうのを目指したいなって。
「曽我部恵一」っていう芯がドンとあって、何をやってもすごいっていう説得力がある。
―曽我部さんが、フラカンのライブを見て一番いいなと思う部分って?
曽我部:いくつかあるんですけど、圭くんがガツンといったときに、それを全員が支えに行ってる感じが好きですね。バンドの信頼感が強くて、それが音にも出てるし、目にも見える感じが、やっぱずっと一緒にやってる人たちのすごさかなと思いますね。そこは一番感動するかな、いつも。
―一体感というか、信頼感というか。
曽我部:うん、信頼感。各自が信頼しあってるというか、支え合ってて、4人でないと成立しない音だし、それをみんなが100%理解してやってる。それが説得力を持って観てる側にドーンと来るから、感動しますね。
―このバンドじゃないと出せないなっていうのを見たときに、嫉妬したりもするものなんですか?
曽我部:いいなって思いますよ。なんかね、あるんすよ、愛っていうか。それがかっこいいなと思って。そういうのを俺もやりたいなっていうのはありますね。うちのバンドはまだそこまでいってないと思う。こいつほんとクビにしてやろうかなと思う(笑)。ダメですね、そういう意味では。
鈴木:時期もあるじゃん。すごく仲いい時期もあれば、悪い時期もあるし。
曽我部:そうそう。なんか、仲がいいとか悪いとかじゃないんだって分かるようになった。僕は一回それで失敗したから、サニーデイのときに。仲が悪いことがつながりの終わりだと思ってしまったところがどこかにあって。でもそういうことじゃないんですよね。
―フラカン側から見て、曽我部さんのここはスゴい! っていうのは?
鈴木:まずもう、甘えが絶対ないよね。
曽我部:いや、ありますよ(笑)。僕はだから、フラカンと比べていいところはほとんどないですから。
鈴木:いやいや(笑)。
曽我部:プロデュースワークも一緒にやらせてもらったけど、こういうところでしか貢献できるところはないから。
グレートマエカワ
マエカワ:自分だからそう言うけど、この間サニーデイともツアーやったし、去年までは1年に1回くらいソカバンともツアーやらせてもらってるけど、全然違うわけよ。
鈴木:サニーデイとソカバンで立ち位置が変わるよね。
マエカワ:サニーデイのときは、ソカバンとはまったく違うテンションで、歌を伝えることに集中してるような感じがするよね。一緒にライブを3本やったんだけど、どんどんバンドが固まってくのを目の当たりにして、こういうのがバンドなんだよなって思った。
鈴木:これが今年またサニーデイで何本かやるんだろうけど、もっとこれ進化していくんだろうなって。
マエカワ:見てて恐ろしい、この人は。「曽我部恵一」っていう芯がドンとあって、何をやってもすごいっていう説得力があるんだよね。
曽我部:いやまぁ、言ってくれてるだけですよ(笑)。だってフラカンはね、ライブほんと絶対すごいんですよ。勝てないですよ。勝ち負けじゃないけど、やっぱそれはもう、ハンパないっすね。
―フラカンがまたメジャーに戻ってきて、まわりのバンドマンたちも「フラカンすごい!」って言ってますもんね。
マエカワ:それもね、メジャーの方がいいのかどうか、ちょっと話を(曽我部に)訊いたことあって。いろんなこと知ってるし、自分でレーベルを立ち上げてるわけだし。で、ちゃんと教えてくれて。自分らでやったらこういう風になるよとか。音楽が素晴らしいだけじゃなくて、そういう音楽活動についても絶大な信頼をよせられる人間なんですよ。
曽我部:でもね、僕が自分でやり始めたのは流れ上なんです。でも、フラカンがソニーっていうのは、俺はすごいなと思いましたけどね。またソニーでやるっていうのを聞いたときに。
マエカワ:そうだね。同じところだからね。一回切られてるところだし。
曽我部:懲りないなーと思いました。懲りない人らですよ、本当に(笑)。もう懲りてるはずなんですけど、懲りないなと(笑)。それがかっこいいんですよ、フラカンって。
- リリース情報
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- フラワーカンパニーズ
『元少年の歌』(初回限定盤) -
2010年3月31日発売
価格:1,470円(税込)
Sony Music Associated Records1. 元少年の歌
2. 40
3. 深夜高速(Acoustic)
[DVD収録内容]
「元少年の歌」Full ver.
「深夜高速(Acoustic)」レコーディング風景
- フラワーカンパニーズ
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- フラワーカンパニーズ
『元少年の歌』 -
フラワーカンパニーズ
『元少年の歌』
- フラワーカンパニーズ
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- サニーデイ・サービス
『本日は晴天なり』 -
2010年4月21日発売
価格:2,800円
ROSE RECORDS1. 恋人たち
2. Somewhere in My Heart
3. ふたつのハート
4. 南口の恋
5. まわる花
6. 水色の世界
7. 五月雨が通り過ぎて
8. Dead Flowers
9. Poetic Light
10. だれも知らなかった朝に
- サニーデイ・サービス
- プロフィール
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- フラワーカンパニーズ
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89年、名古屋にて鈴木圭介 (Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一 (G)、ミスター小西 (Dr)の4人で結成。95年にアンティノスレコードよりメジャーデビュー。01年、アンティノスレコードを離れ、自らのレーベルTrash Recordsの立ち上げに参加。熱く地道な活動が、アーティスト達から絶大な支持を集め、再び注目を集める。08年夏、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズと契約し、メジャー復帰。10年1月には、オールタイムベストアルバムとなる「フラカン入門」をリリース。男40歳!結成20周年にして快進撃を続ける、スーパーライブバンド!
- プロフィール
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- 曽我部恵一
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1971年8月26日生まれ。香川県出身。1995年サニーデイ・サービスのボーカリスト/ギタリストとしてデビュー。2001年よりソロ活動をスタート。2004年、メジャーレコード会社から独立し、<ローズ・レコーズ>を設立。活動母体である<曽我部恵一BAND>は、シンプルなロックンロールを軸に、小細工無しのストレートで熱いライブを繰り広げる。2008年にはアルバム『キラキラ!』を発表。同年7月には、サニーデイ・サービスを再結成し、2010年4月に10年ぶりとなるアルバムをリリースする。
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