「時折僕らは/革命と恋のために生きる」――僕はたったワンフレーズで、このバンドのファンになってしまった。東京の外れ、福生を拠点に活動する5人組バンド、Over The Dogs。一瞬で星空を浮かび上がらせるような無垢なハイトーンボイス。それをやさしく、力強く、家族のような温もりで支えるバンドサウンド。そして何度もハッとさせられるセンチメンタルな言葉の数々。デビュー・アルバム『A STAR LIGHT IN MY LIFE』は、普遍的なメロディーを響かせながらも、想像力豊かに紡がれた世界観で、絶えず琴線を揺さぶる傑作だ。この日取材した恒吉豊と佐藤ダイキの2人は、聞けばまだインタビューは2回目ということだったが、独特の音楽観、人生観に取材中は終始引き込まれっぱなしだった。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)
ボーカルをやってた幼なじみが、電車に轢かれて他界してしまいまして…。
―Over The Dogsは、もともとどういう経緯でできたバンドなんですか?
恒吉(Vocal&Guitar):幼なじみと高校生の頃に組んで。そのときは僕、ドラムだったんですけど、ボーカルをやってた幼なじみが、電車に轢かれて他界してしまいまして…。どうしよっかなーと考えて。どうせだったら自分がボーカルにまわって、バンドの名前は残そうかなぁと。
―「じゃあ、俺が歌うよ」みたいな?
恒吉:もうまさにそんな感じですね。ちょうど自主盤のCDをリリースして、ツアーもまわってみようって、お客さんも多少ついてきたときだったんですけど、自分がボーカルになったらどんどん減って(笑)。
恒吉豊
―それはキツいですね。
恒吉:それで一旦ライブをやめて、音源を作りなおそうってことになって。それまでは前のボーカルをどこかで意識してたのか、自分本来のキーよりも低めに歌ってたんです。でも、自分の声はもっと高いから、全部キーも変えて、曲も自分で作って。それでもう一回自主でCDを出したら、少しずつうまくまわりはじめて。
音楽じゃなくてもロックだなぁと思う人はいっぱいいるし、絵じゃなくても芸術だなぁと思うものもいっぱいあるしって考えたら、ポップのなかで表現してもいいのかなと思って。
―恒吉さんがボーカルになる前は、違う音楽性だったんですか?
恒吉:もうまったく違いましたね。パンクっぽかったんですよ。
―えっ! じゃあ、全然違うバンドに生まれ変わったくらいの感じなんですね。やりたい音楽性はメンバー内で一致してたんですか?
恒吉:いちおう一致はしてたんですよね。最初はツェッペリンとか、ジャニス・ジョプリンとか、ジミヘンとか、キンクスとか、あの辺の時代が好きだったんですけど。
―でも、音楽はパンク系?
恒吉:そうですね。でも、自分には合ってないんじゃないかっていう周りの声もあって。普通に歌謡曲も好きだったし、ポップスも好きだし、ロックも好きだし、いろいろ好きだったから、自分に合ったものをやろうと思って。
ダイキ(Bass&Chorus):以前はパンクバンドだったこともあって、まさかいま自分がこういう音楽を作ってるっていうことは想像してなかったんですけど、やっぱり恒吉の曲が好きなメンバーが集まってやれてるバンドなんですよ。だから、目指す音楽性とかは、おのずと一緒なのかなって。
―いまはすごくポップな歌モノだと思うんですけど、J-POPの影響は?
恒吉:J-POPというか、昔からフォークは好きでしたね。吉田拓郎も好きだし、中島みゆきも好きだし、トモフスキーとか、その辺の人も好きだし。なんか、ポップって、すごいロックだったりすると思うんですよ。
―それはどういう意味?
恒吉:ロックンロールって言ってる人たちを否定するわけじゃないんですけど、やってることはロックンロールだけど、先人たちがやったロックンロールを真似てるだけで、あんまりロックを感じないなって思うことがあって。それでアルバムにも入ってる“ロックンロールは簡単だ”っていう曲を作ったんです。別に音楽じゃなくてもロックだなぁと思う人はいっぱいいるし、絵じゃなくても芸術だなぁと思うものもいっぱいあるしって考えたら、ポップのなかで表現してもいいのかなと思って。
それがパクりになってしまうなら、僕はパクってもいいと思ってる。
―曲はどうやって作ってるんですか?
恒吉:まさにこの取材を録音してるテレコ(テープレコーダー、実際はICレコーダー)を持ってるんですけど、思ったことをパッと録って、その一節から曲を膨らませていったりするんです。ポロっと出たことが、けっこう本質ついてたりするじゃないですか。なるべく嘘はつきたくないというか、それを本質のまま膨らませて曲にしたい。膨らませていくと嘘になってしまうことも多いので。
―テレコに吹き込むときは、どんなきっかけで?
恒吉:例えば本を読んでて、一節だけ抜き出して、それを書き出しの一行にしたり。それがパクりになってしまうなら、僕はパクってもいいと思ってるんですけど。
―際どい発言ですね(笑)。
恒吉:なんていうか、盗作しようとか、金のためとかじゃなくて、ここでこの一行を使いたいっていうのは絶対使っちゃうし。それで訴えられたとしても、「あ、使いました」っていうだけで、別に逆らおうとも思わないし。そうやって、本とか、映画とかを観て思ったことを、メロディーもつけて、テレコに吹き込むんですよ。それを何百個も何千個も貯めておいて、それを聴きながら、部屋でギター弾いて、歌詞書いて。
―そんな作り方してたんですね! 僕は歌詞の世界観がほんと素敵だなと思ったんですよ。特に“みぎてひだりて”がおもしろいなぁと思ったんですけど、これはどういうときにできた曲なんですか?
恒吉:太宰治の『斜陽』に、「人間は恋と革命のために生まれて来たのだ」っていう言葉があって。
―あっ、太宰治の言葉だったんだ! 出だしの「時折僕らは/革命と恋のために生きる」っていうところが、すごいグッときたんですよね。
恒吉:そうなんです(笑)。「なるほど!」と思って。そこから書き始めて。
―僕、『斜陽』は読んだことないんですけど、歌詞は本とは違うストーリーで広がっていくわけですよね?
恒吉:もちろん、まったく関係ないところで。ストーリーに沿ってしまったらおもしろくないし、それこそ盗作になってしまうし。前に斉藤和義さんが何かの本で、自分はビートルズみたいな曲を真似して作るみたいなことを言ってたんですよ。でも、自分はジョン・レノンでもないし、ポール・マッカートニーでもないから、どうしてもビートルズにはならない。そのビートルズと斉藤和義の距離感が自分のオリジナルだ、っていうことを言ってて。なるほどなぁと思って。
―それはおもしろい考え方ですね。
恒吉:やっぱりいろいろ感化されるものってあるけど、だからといって僕は絶対に太宰治になれないし、ビートルズにもなれないし、斉藤和義にもなれない。かっこいいか、かっこ悪いかっていうのはわかんないけど、目指すものがあって、それとの距離感があって。好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いだっていう感じでやってますね。
人それぞれ考え方が違うのは当然だから、「うん、そうだよね」って思ってくれたらラッキーだし、「そうじゃねーべ」って思ってくれたら、むしろ作戦通りというか。
―恒吉さんのなかで「いい曲」っていうのは、どんなものですか?
恒吉:自分のなかでほんとにグッとくる歌詞が、絶対に一行はないといけないなと思ってます。その一行を引き立てるためなら、変な話、前後の歌詞はくだらなくてもいいんですよ。その一行が自分のなかで最高だったら、その曲は成り立つんで。
―キラーワードみたいな感じですね。1曲だけでいいんですけど、そのキラーワードを教えてもらえますか?
恒吉:何がいいだろうなぁ…。例えば、“マルデメロス”の「君に言わなきゃ だけど嫌われちゃうかな」っていう歌詞は、すげーかっこ悪いんですけど、実際言ったら嫌われるのかなって、女の子に対してだけではなく、いつもビクビクしながら喋ってるときがあって。
―あー、そういうことって、逆に歌とかじゃないと言えないですよね。バンドのメンバー内でも、「ここの歌詞がグッときたよ」みたいな話をしたりするんですか?
ダイキ:歌詞についてはあんまり話はしないですね。
恒吉:メンバーによって、後から言ってきたりするやつはいますけどね。「あれはよかったー」とか。
佐藤ダイキ
ダイキ:理解ができない歌詞も、メンバー各々あるし。「えっ、そう?」みたいな。でも、それは価値観じゃないですか。そういう解釈の仕方もあるのかなって。全然、否定的な意味で理解ができないというわけじゃなくて。
―理解できないほうがおもしろいっていうときもありますしね。
恒吉:なんか、例えば「愛はこうだ」とか、オチをつけすぎるとおもしろくないと思うんですよ。聴いてても説教されてるみたいな気分になっちゃう。だから、「こうですよ」っていうよりは、「こうじゃないかな」とかって、ちょっと余裕を持たせた感じというか。人それぞれ考え方が違うのは当然だから、「うん、そうだよね」って思ってくれたらラッキーだし、「そうじゃねーべ」って思ってくれたら、むしろ作戦通りというか。
“最大幸愛数”っていう曲は、「愛」よりももっといい、違う言葉を見つけたいっていう気持ちで作った曲。
―歌詞には共感してもらわなくてもいい?
恒吉:そうですね。アルバムには入ってないですけど、“愛”って曲があって、「愛というものがあるなら 僕は信じて生きよう/愛というものがあるなら 僕は疑ってみよう」っていう歌詞があるんです。まさしくそれで、みんないろんなものを疑って聴いてもいいと思うし。“愛は勝つ”っていう歌もあるけど、たぶん負けることもあるだろうし。結論づけると、逆に嘘臭くなってしまうときもあると思うんです。ちょっと余裕を持って歌詞を書いたほうが、賛否両論あっておもしろいんじゃないかと。
―共感よりも、そこから想像を膨らませてほしい?
恒吉:はい。今回のアルバムは『A STAR LIGHT IN MY LIFE』というタイトルで、直訳すると「私の人生における星の光」っていう意味なんですけど、別に本当に星のことではなくて、「自分のなかの照らしてくれるもの」みたいな。それは彼女でもよければ、大切にしているおもちゃでもいいし、ペットでもいいし、シャーペンでもなんでもいいんですけど、「私の人生における最高の恋人」って特定しちゃうよりも、「星の光」って言っておいて、それぞれが思い浮かべればいいと思うんです。それがシャーペンと言われたって、何か大事な思い入れがあって、人生を照らしてくれるシャーペンなら、僕は絶対に否定できないし。
―いろんなモノに置き換えられる言葉にしたかったんですね。
恒吉:好きなように捉えられる言葉だったら、一番いいなと思って。最後の“最大幸愛数”っていう曲は、「愛」よりももっといい、違う言葉を見つけたいっていう気持ちで作った曲なんです。愛の歌って、みんなが歌ってるから、もう歌い尽くされてるじゃないですか。「僕はそれを最大幸愛数と呼ぼう」っていう歌詞があるんですけど、別に「みんな呼んでね」って特定しているわけじゃなくて、「〈愛している〉よりも、もっと素晴らしいことを探しているんだよ」って。
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4/4ページ:好きなことも嫌になるくらいやりたいなって。
好きなことも嫌になるくらいやりたいなって。
―今回のアルバムは自己紹介的な面も強いと思うんですけど、みなさんにとってどういう位置づけのアルバムですか?
ダイキ:いまのメンバーになって初めてのアルバムにはなるので。
恒吉:このバンドのメンバーは、もう一生変わらないんですよ。変わるときはきっと解散だし。ということは、バンドがよくなることはあっても、悪くなることはないんですよね。だから、最高のアルバムなんですけど、逆に言えば一番レベルの低いアルバムで。次のアルバムは絶対にもっといいし、その次のアルバムはさらにいいし。衰えたと思ったらやめるべきだと思ってるので。Over The Dogsが作っていくアルバムのなかでは、たぶん最悪なんです。でも、それがないと次にはいけないから。
―最高だけど最悪な1枚。そういう考え方もあるんですね。
恒吉:メンバーはほんとに仲いいんですよ。媚売ってるわけじゃなくて(笑)。いま、ピアノとギターと一緒に住んでるんですけど、毎日一緒ご飯に食べるし。ご飯作って、帰ってくるまで待ってるんですよ。
―嫁じゃないですか(笑)。
恒吉:「何時に帰ってくるの?」って。それで、みんなでご飯食べて。「今日はどうだった?」とか喋りながら。ほんとにあったかい家庭みたいな感じなんですよ。お風呂入っちゃいなよとか(笑)。
―でも、そういう人柄は音にも出てる感じがしますね。5人の仲間の物語みたいなものを見せられてる気分になるというか。今後、自分たちの音楽で、例えば「人生変わりました」と言われたいとか、ものすごい世の中に影響を与えたいとか、そういう目標みたいなものってありますか?
恒吉:ほんとにこれはかっこつけられないんですけど、音楽で食べていくことですよね。音楽をやって、好きなことでお金が入ってくるっていう余裕は本当にほしくて。いつかそれがキツくなっていったら、それはそれで気持ちいいのかなとも思いますけど。変態なんですかね(笑)。でも、気持ち悪くなるくらいおいしいものは食べてみたいと思うし、好きなことも嫌になるくらいやりたいなって。人の人生を変えようとは思ってないですけど、それで変わる人がいたら、それはそれでいいと思うし。でも、それは別に俺の力じゃなくて、その人の生命力だと思うので。
―たまたまきっかけになっただけで。
恒吉:最初からその人は生命力があったんだなと思う。きっかけにはなるかもしれないけど、歌1曲で人なんて変わらないですよ。でも、本当に生命力がある人のきっかけになれたら、それはそれでうれしいですね。
- リリース情報
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- Over The Dogs
『A STAR LIGHT IN MY LIFE』 -
2010年6月9日発売
価格:2,100円(税込)
MODERN TIMES RECORDS / MDTR0021. A STAR LIGHT IN MY LIFE
2. マルデメロス
3. みぎてひだりて
4. サカナカナナニカナ
5. 彼女によろしく
6. 地球生命体
7. セロリは嫌い
8. 蟻と少年と内緒事
9. ロックンロールは簡単だ
10. もしも僕がシェフなら
11. 星に何万回
12. おとぎ話
13. ラバーボーイラバーガール
14. 最大幸愛数
※シークレットトラックあり
- Over The Dogs
- プロフィール
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- Over The Dogs
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{プ恒吉豊(Vo&Gt)、樋口三四郎(Gt&Cho)、佐藤ダイキ(Ba&Cho)、星英二郎(Key&Cho)、田中直貴(Dr)の5人からなるロックバンド恒吉豊のハスキーな天然系ハイトーンボイスと独特な歌詞は聴く者の心を揺さぶり、それを支える楽器隊はこの5人でしか為し得ないアレンジでその世界観を広げている。
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