日本のインスト・ロックにおけるトップランナーの一組、LITEが新作『Illuminate』を発表する。本作のプロデュース/エンジニアを担当したのは、ポストロック/音響派の第一人者であるシカゴの巨匠ジョン・マッケンタイア。彼のSOMA STUDIOで録音された本作は、プログレッシヴでソリッドなLITEらしさを残しつつも、楽曲の構成・楽器の音色共に見事に洗練された素晴らしい仕上がりになっている。彼らが本作に辿り着いたのは、ジャンルに埋没する事を良しとしない強靭なクリエイティヴィティと、国内外を問わず「繋がり」を大事にしてきた姿勢が背景にあってこそ。『Illuminate』というタイトル通り、彼らの活動は今後ますます日本のバンドの行く先を照らす光となるだろう。ギターの武田とベースの井澤に話しを聞いた。
(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)
突き抜けたことをやりたいと思ってインストっていう道を選んだんですけど、枠にはまっちゃってるのかなって思ったときに、面白くないなと思って。
―前作『Turns Red EP』と今回の『Illuminate』は、どちらも変化に対する欲求が明確に表れている作品だと思います。なので、まずはその欲求がいつ頃から出てきたのかを教えてください。
武田:『Phantasia』っていうアルバムを2年ぐらい前に出したんですけど、4人で音を詰め込むだけ詰め込んだような作品で、「これ以上詰め込むのは方向性的にどうなんだろう?」っていうのがあったり、あとはジャンルに属してる音だなって思ったんですよね。ポストロックとか…
―マスロックとか。
武田
武田:そういうシーンの音だなって客観的に聴いても思ったんです。突き抜けたことをやりたいと思ってインストっていう道を選んだんですけど、枠にはまっちゃってるのかなって思ったときに、面白くないなと思って。それで歌を入れてみようとか色々アイデアが出たんですけど、その中でシンセを使ってみて、同じフレーズでもシンセで弾いたらまったく別のものになるっていうのに面白さを感じて。
―今振り返ると前作『Turns Red EP』はどんな作品だったと思いますか?
武田:自分らの中で色々ルールをぶっ壊せた作品ですね。ただ音楽的な面で言えば、シンセを使って曲を作るってこと自体やったことがなかったのもあって、まだもっとやれたって部分はあるんですけど、なんか爆発できたなって印象は持ってます。
(ジョン・マッケンタイアは)かなりシンプルな人なんですよ。
―では今回ジョン・マッケンタイアにプロデュースを依頼した経緯を教えてください。
武田:新作を『Turns Red EP』の方向性で作っていこうと考えときに、バンドサウンドの中でのシンセの位置をわかってくれるエンジニアに録ってもらいたいと思って。そういう意味で、トータスなどをやってるジョン・マッケンタイアはバッチリな人選だし、もともとすごいファンだったので。
井澤:『Turns Red EP』をJ・ロビンスっていうアメリカのエンジニアとやったのがきっかけで、アメリカでも制作できるって気づけたところもあったんで。
―コンタクトは直接メールを送って?
武田:そうですね。J・ロビンスもそうだったんですけど、意外と垣根がなくて。個人でやってる人たちなんで、コンタクト取れば予定合わせて受けてくれるんです。日本のエンジニアと変わらないですね。値段も現実的な値段なんですよ。
―「ジョンの持ってるこの部分が欲しい」っていう明確なヴィジョンがあったんですか? それとも、「まずはジョンとやってみよう」っていう感じでした?
武田:「これだったらヴィンテージのシンセでやった方がいい」とか、パンニングのアイデアとか、そういうの欲しいと思ってたんですけど、一緒にやってみたらかなりシンプルな人なんですよ。録り音は生で鳴ってる音を録るって感じで、すごい純粋なものが録れたと思います。
何もない自由だとどこに行っていいのかわからない、ある程度制限がある中の自由が心地いいなって。
―僕としては、マスロックとかポストロックのフィジカルな身体性を持った上で、非常に洗練された作品になったと思っています。ご自身たちとしてはどんな作品にしようというヴィジョンがあったんですか?
武田:『Phantasia』(08年5月発売のアルバム)は演奏の内容をがっちり決めて、ライヴでもそのままやるみたいな感じだったんですけど、『Turns Red EP』はインプロ(即興演奏)の部分が多かったんです。アドリブで弾いたりとかもして、ジャンルの枠にはまらない部分を出したかった。それで今回の『Illuminate』は、前のフォーマットっていうか、タイトで、曲構成が決まってる中で、枠にはまらない部分を出せたらいいなって。なので“Image Game”ではミニマルな、タイトなリズムの中で、たまにありえないキメがあったり、止まったりして、そういう「ありえなさ」を表現したいと思って。
―“Andromeda”にはボーカルというか、声が入ってますよね。このアイデアは?
武田:最初は歌がない状態で曲を作ろうとしてたんですけど、主旋律みたいなものがこの曲には必要だと思ったんです。でもストリングスではないと思って、その代わりになるものとして歌を入れたって感じですね。
井澤
井澤:今までの楽曲って、バンドでセッションをやり続け、アイデアを待って、そこから武田の舵取りがあってできあがっていく形が多かったんですけど、今回はセッションを一回録ってパソコンに入れて、そこからもう一スパイスっていうのを(武田が)家で考えて提示してくれて、それをやってみたんです。その一スパイスだけで世界観も一気にできあがるんですね。“On The Mountain Path”しかり、もう一スパイスってところで、パーカッションをすごい足したり。
武田:これまではずっとセッションで作ってきたんで、同じものができちゃうっていうのを感じてたんですよね。
―ちなみにインスト・バンドって、歌や声がないからこそできる音楽を追求していくバンドと、そこに対するこだわりはないけど結果的にインストがメインになってるバンドに大きく分けられるかと思うんですけど、LITEはどちらでしょう?
武田:ボーカルっていう選択肢は基本的にはなくて、4人で合わせて音楽になるものを作りたいんです。なので、歌がなくても表現できるものがやりたいっていうのが根本にあると思います。でも、曲によっては歌がメインでもいいかなとは思うんですけどね。
―実際試したことってあるんですか?
武田:スタジオで一人で試したことはあるんですけど、でも「ねえなあ」みたいな(笑)。歌えないっていうのもでかいですけどね。ボーカル入れれば早いですけど、そうじゃなくて4人でやれることをやりたいっていうのがモチベーションというか。ある程度枠が決まってる中の自由みたいな感じですね。何もない自由だとどこに行っていいのかわからない、ある程度制限がある中の自由が心地いいなって。
井澤:なんとなくの執着心だよね。『Phantasia』の後に新しいものがやりたくて、歌を入れようかとかって話し合いもして、色々試行錯誤したんですけど、『Turns Red EP』まで全然生まれなかったんですよ。でもシンセを使ってみたら、「まだ4人でやれるんじゃない?」っていう意識が出てきたんだと思うんですね。
このままじゃつまんなくなっちゃう、もっと楽しく生きたいっていう、そういうモチベーションは常に持っていたい。
―インスト・ロックは2000年代の後半には飽和状態を迎えてしまって、ちょっと先が見えない時期もあったと思うんですけど、去年ぐらいから新しい方向性を見出してるバンドが増えてきたように思うんですね。
武田:確かに飽和状態っていうか、自分たちがその中にいるなって感覚が寂しくて。一番根本にあるのって、単純に言うと人と違うことがやりたいってことなので、その一つの選択肢としてシンセを入れてみたっていうのはあるんです。シーンをどうこうするって考えは特になくて、自分との戦いっていうか、このままじゃつまんなくなっちゃう、もっと楽しく生きたいっていう、そういうモチベーションは常に持っていたいと思うんですね。ハードコアとかそういう部分から来る衝動で持っていくっていう方法は自分の中で行き詰まってて、そういう衝動的な爆発よりは、アート的な爆発っていうか、そんなに激しくはないんだけど、ものすごくとがってるとか、そういう方向にバンドがなっていけたらいいなと思って。
―井澤さんはレーベル運営もされていて、海外のバンドを国内でリリースしていたりもするわけですが、自分が楽しむっていうのはもちろんあるとして、音楽シーン全般の状況を良くしたいっていうモチベーションもあるのでしょうか?
井澤:大きくシーンを変えてやろうみたいな気持ちはあんまりないです。僕はLITEのベースだし、LITEっていう音楽でやりたいことはやれてる状態なんです。ただいろんな国や場所を転々と周ったときに、ライヴがかっこいいバンドとか、仲良くなれたバンドを大事にしたいとは思ってて。今まで僕らは繋がりだけでやってきているような気もするんで、それはずっと大事にしたいんです。そういう意味で、繋がる場所という形でレーベルをやってる気がします。すごい簡単な、弱い言葉ですけど、友達になりたいというか、輪を広げていきたいなって。
―でも、それが今やマイク・ワット(パンク・シーンの重要人物)からジョン・マッケンタイアまで繋がってるわけですよね。
井澤:それも繋がりの繋がりなんです。日本で仲良くなったパトリックっていう外人がいて、彼がヨーロッパ・ツアーを組んでくれたり、ヨーロッパでのレーベルをやってくれてて、そのパトリックがマイクの大ファンだったんですよ。マイクも繋がりを大事にする人で、ファンともすごい話してくれる人なんですね。その繋がりでマイクが日本に来るときに「LITEとやれるか?」ってパトリック経由で話が来て。全て数珠繋ぎだと思います。
日本の音楽シーンって海外から注目されてると思う。
―今って音楽業界が厳しいって言われ続けてますけど、その分個の力が強くなってきてますよね。
井澤:そうですね、今って個人でも実現できちゃうんですよね。昔日本に遊びに来てたオーストラリア人がいて、僕らのスタジオまで来てインタビューをされた事があるんですけど、海外は「人がどう動くか」っていうのが強いと思うんですね。
―LITEもまさにそうやって自分たちで動いてきたバンドですよね。
井澤:最初は相当辛かったですけどね。初めてヨーロッパ・ツアーに行ったときは、パトリックと繋がって、お願いしてっていうのをホント個人でやってたから。交通費を自分たちで出してってところから、全てを自分たちとパトリックでやったような感じだったんで。
―そもそもパトリックとはいつ出会ったんですか?
武田:ファーストを出したときとかなんで2005年かな? パトリックが日本に遊びに来てて、直で連絡取って来て、ライヴ行くよってなって、終わった後飲みに行って。大晦日だったんですけど、2人で正月まで飲み明かして(笑)。そのときに「俺がレーベルやるから」って言ってて、「なんて熱い奴なんだ」と思って。そこから全てが始まりましたね。何かが変わりそうな気がするっていう、希望のある出会いでした。
―最近そういう日本の音楽が好きな外人さんが日本のバンドを海外に連れて行くって話を良く聞くようになりました。
武田:日本の音楽シーンって海外から注目されてると思うんですね。雑誌見てそう思ったとかじゃなくて、アメリカ行って話してみたりとかすると、すごいみんな日本の音楽知ってるんですよ。田舎の街に行ってもtoeの話をしてたりとか、日本のインディの話を普通にしてたり。
―へえ、そうなんですね。
武田:ライヴを向こうでやるとすごい盛り上がってくれるんですよ。逆に盛り上がりすぎて「ホントに聴いてるの?」っていうのもあるんですけど(笑)、日本だと真剣に静かに聴いてくれるじゃないですか? それってバンド側としては難しかったりもすると思うんですよね。(日本のバンドは)そういうお客さんをのらせるためにどうしようとかすごい考えるんで、そういう難しい状況の中で育つと必然的に注目されるっていう状況なんじゃないかって、この前みんなで話してたんですよね。
―なるほど。では最後に、EP、ミニ・アルバムと続いて、次はアルバムが期待されると思うのですが、今後についての展望を聞かせてください。
武田:『Turns Red EP』で自分らを壊して、『Illuminate』で方向性を固めるっていう段階にあるんですね。その2つってまだとっ散らかってて、「どっちに行きたいの?」って部分がバンドとしてもあると思うんです。でも自分の中では行きたい方向が決まっていて、本物なものを作りたいっていうか、どこからも評価されるものを作りたいっていうモチベーションがあるんです。2枚の流れを汲んで、ようやくそこに到達できるのかなって思います。
―『Phantasia』の後の試行錯誤を抜けて、今はバンドがすごくいい状態にあるんでしょうね。
武田:そうなんですよね。ようやく曲作りでも「こういう方向に行こう」ってパシッと決められるっていうか。健康な状態に戻って来た感じです(笑)。
- イベント情報
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- 『FUJI ROCK FESTIVAL'10』
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2010年7月31日(土)
会場:新潟県湯沢町 苗場スキー場『Illuminate Release Tour』
2010年9月15日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:下北沢SHELTER2010年9月18日(土)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪 鰻谷SUNSUI2010年9月19日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:名古屋CLUB ROCK'N'ROLL『NEUTRAL NATION 2010』
2010年9月26日(日)
会場:お台場SEASIDE COAT『LITE presents SPECTRUM vol.6』
2010年10月17日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:六本木SuperDeluxe
- リリース情報
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- LITE
『Illuminate』 -
2010年7月7日発売
価格:1,600円(税込)
I Want The Moon RDCP-10051. Drops
2. Image Game
3. On The Mountain Path
4. Andromeda
5. 100 Million Rainbows
- LITE
- プロフィール
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- LITE
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2003年結成、4人組インストロックバンド。2005年に1stミニアルバム『LITE』、2006 年に1stアルバム『filmlets』をリリースし、独自のプログレッシブで鋭角的なリフや リズムからなる、エモーショナルでスリリングな楽曲は瞬く間に話題となり、国内で 注目を集め始める。2007年には『FUJI ROCK FESTIVAL 07』への出演や、 2度目のヨーロッパツアーを行う。2008年5月に2ndアルバム『Phantasia』をリリース(日本・EU)し、国内外の大型フェスへの出演や、3度目のヨーロッパツアーを行う。2009年には『SUMMER SONIC 09』に出演を果たすなど、認知、人気共に急上昇中のLITE。 近年盛り上がりを見せているインスト界の中でも、最も注目すべき存在のひとつである。
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