昨年9月にデビューし、期待の新星として各メディアから注目を集めている3ピース・バンド、Prague(プラハ)が初のアルバム『Perspective』を完成させた。現在23〜24歳の彼らが、ありのままをパッケージしたという本作は、現代社会を生きる若者の不安、悩み、葛藤が生々しく綴られた、いまの時代を象徴するような作品だ。自らも現代に生きる若者であることを自覚し、「いまさら革命的な音楽なんて作れるの?」とまで言い放つ彼らの時代感とはどんなものなのか。見栄も建前も捨てて、Pragueの3人に本音で語ってもらった。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ)
「いまさら革命的な音楽なんて作れるの?」って。でも、そういう感覚を抱えてやれるのは自分たちの世代だけだし。
―もともと高校の同級生から始まってるバンドなんですよね?
鈴木:僕ら2人(鈴木と伊東)が、ずっと同じクラスだったので、自然と一緒にいて、同じバンドを組んだりして、卒業してからも同じ専門学校に入って。(金野は)そのとき大学生だったんですけど、その大学に行った僕らの共通の友達から紹介してもらって、一緒にスタジオに入るようになって。
伊東:俺と雄太は同時期に専門学校に入ったんですけど、その1年後に金野が大学を辞めて、同じ専門に来たんです。それで、その専門学校で自分たちのことをいいと言ってくれる人に出会えて、卒業生が出るイベントに出させてもらったんですけど、そのときに今のレーベルのスタッフさんが見に来てくださって。そこから1年くらい下積みというか、バンドとしてのクオリティを上げて、そろそろだなというところでデビューに至るという。
―バンドのどういう部分を評価してもらったんですか?
鈴木:曲自体が変化球なものが多いので、そういう部分をストレートにリスナーに伝えることに、可能性を見出してくれていた感じはありますね。
伊東:自分たちが自然のまま、ありのままやっていた音楽性を評価してくれてはいたんですけど、「雑食性」という言葉を挙げてくれたときに、自分たちはこれでいいんだっていうふうに思えたんですよね。
―3人でPragueをやるにあたって、どういう音楽性を目指そうと?
伊東:そこがいまどきの若者っぽいのかなと思ったりもしてるんですけど、もともと「こんなバンドをやりたい」とか、「こういう音楽を目指そう」とか、そういう話もせずに、楽器でコミュニケーションを取ってた部分があったんですよ。でも、そのときから「なんかいけそう」と感じていたというか。若さゆえかもしれないですけど(笑)。
鈴木:漠然とした自信はありましたね。始めた頃は感情のまま曲を作って、勢いもあるじゃないですか。きっと自分は天才だと思ってしまったんですね(笑)。その気持ちをいまも持続させてる感じはあります。
鈴木
伊東:僕らの世代って、気付いたときには既にいろんな音楽があって、もうやることがないというか。「いまさら革命的な音楽なんて作れるの?」って。そういう世代に生まれちゃったなと思うんですよ。でも、そういう感覚を抱えてやれるのは自分たちの世代だけだし。そういうやつらが作る音楽が、どう人に伝わるのかなと思って。
―やり尽くされてるからこそ、逆にチャレンジしがいがあるというか。
伊東:そうですね。むしろそこに対する自信はすごくあるんですよ。でも、自分たちは、神の子供でもないし、歴史に残るような天才でもない。そういう自分たちが出す音楽っていうのは、一般の人たちからすると、近いところにあるのかなって。あまり特異すぎると、遠ざかりすぎちゃって見えるから、そういう点では絶対に伝わるはずだと思うんですよね。
物事をフラットに考えたい。安易な言葉とか、フレーズとか、そういうのに騙されたくないんですよね。
―ファースト・アルバムとなる『Perspective』ができあがったわけですけど、どういう要素を出したかった?
伊東:雑食性というか、振り幅が広いバンドなので、どうまとまりをつけようかと。自分たちの音楽って、感覚のままやっている部分もあるし、いろんな曲調があるので、インタールードを挟んだり、曲順にこだわったりして、どうやったらPragueをわかりやすく提示できるか考えましたね。
―タイトルの『Perspective』にはどういう意味があるんですか?
金野
金野:このバンドは何か名前をつけるというときに、すごく悩んでしまうんです。悩んで悩んで、どうしていいのかわからなくなって、あとはひらめき待ちっていう状態に必ずなるんですよ(笑)。今回もそういう状態になったんですけど、そのときに『Perspective』という言葉を見かけて。調べてみたら、透視図とか、遠近法って言葉が出てきたんですけど、これって絵で使うような言葉じゃないですか。
―あー。絵画的な。
金野:自分の目に見えてるものを、そのまま正しく描くっていうような意味もあるらしくて。それを知ったときに、昔からある音楽の歴史をちゃんと手に取って、正しく世間に示すみたいな意味にもとれるんじゃないかと思ったんです。語感もよかったし、なんかそれがしっくりきて。
鈴木:正しく示すっていうと、ちょっとおこがましいんですけど、物事をフラットに考えたいっていうのは3人ともあって。安易な言葉とか、フレーズとか、そういうのに騙されたくないんですよね。自分らがこの目で見て、信じた道だけをやりたいっていう思いがあるので、そういう意味でも『Perspective』っていうタイトルはピッタリだったと思います。
愛は人を救うかもしれないけど、愛が人を傷つけることだってある。
―簡単に「愛だよ愛」みたいなのは言いたくないということ?
伊東:伝えたい部分がそこではないというか。愛は人を救うかもしれないけど、愛が人を傷つけることだってあるし。それがすべてだと言い切ってしまうのは違うだろうと。音楽=直接的な言葉みたいな部分もあるとは思うんですけど、もっと別の視点でも楽しめるポイントがたくさんあると思うんですよ。
―実際の歌詞には、自問自答とか、葛藤が出ていると思うんです。
鈴木:そうですよね。昔に書いた歌詞もあるんですけど、24歳の自分らが作るありのままをパッケージしようっていうコンセプトがあったんです。そういう意味では、自分の弱気な部分とか、不安とか、希望とか、そのときのありのままがちゃんと書かれているので、よかったなと思います。
―その不安とかを歌うことで、同じような悩みを抱えている人に共感してもらいたい?
鈴木:あー、どうですかね。最初はそう思ってたんですよ。でも、悩んでる人って、そんな音楽は聴きたくないよなと思ったりもして。自然とサビでは前向きなことを書きたくなる自分がいる一方で、Aメロの暗い部分がなければサビの盛り上がりも存在しないなと思ったり。やっぱり陰と陽には密接な関係があると思うので、きれいなものばっかりを表現するのは、ちょっと嘘くさいなと。暗い部分も書きつつ、前を向きたいっていう気持ちは出ていると思います。
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3/4ページ:国語は嫌いだったんですよね(笑)。
国語は嫌いだったんですよね(笑)。
―そういう自問自答した歌詞っていうのは、実際の性格が反映されてるんですか?
鈴木:そうですね(笑)。あんまり多くをしゃべらないというか。頭のなかであれこれ考えてしまうタイプだと思います。曲自体の構成が難しくなったりすると、歌詞の書き方も難しくなったりする傾向があるし。
伊東:もともと語尾に特徴があって、中性的な言い方をする点はすごく彼らしいところだと思うんですけど、結成当時は漢文みたいな感じだったんですよね。
―漢文って(笑)。それはそれでおもしろそうですけど。
伊東:だから当時は、「おーなるほど。でもわかりません!」っていう感じだったんですよ(笑)。でも、今回のアルバムには、デビュー当時から最近作った曲まで入ってるんですけど、雄太が変わっていってるのがすごくわかるんですよ。
伊東
―変わってきてるっていうのは?
鈴木:見え方は明るくなったかもしれないですね。だけど、その裏にはすごいドロドロしたものがあるんです(笑)。でも、最終的にはやっぱりきれいなものに行き着いてほしいところはあるので、そのドロドロしたもののちょっとした一粒を歌詞のなかに織り交ぜていて。もともと書き方が自閉的だし、説明くさくなるのがネックだなと思っていたんですけど、もう少し地に足のついた書き方をしたいなと。
―自閉的な歌詞も悪くないと思いますけどね。そういう世界観っていうのは、影響を受けた本とかがあったりするんですか?
鈴木:あるのかなぁ…。人並みには読んできましたけど、めちゃくちゃ掘り下げて読んだわけじゃないので。
―ちょっと文学的な香りがするなぁと。
鈴木:国語は嫌いだったんですよね(笑)。例えば現代文の授業とかって、2〜3ページとか、一節とかを抜き出すじゃないですか。ちゃんとプロローグからエピローグまで読んで、ひとつの作品になるはずなのに、一節だけ読んで、作者が考えてることを述べよとか言われても、わかるわけないじゃないですか。それに正解なんてないはずだし。
―確かにそうですよね。
鈴木:でも、逆に考えると、言葉ってそれだけ重要なんだなと思ったんですよね。ちゃんとした提供の仕方をしないと、間違った解釈をされてしまう。そういう意味では、歌詞に関しても慎重な書き方をしていたんです。真っ直ぐなことを書きすぎたら勘違いされてしまうかもしれないとか、そういうつもりじゃないけど誤解されてしまうかもしれないとか。ただ、結局それは自分に自信がないからだと思って。そこからは自分が何を考えてるのかとか、そういうことをしっかり書けるようになりましたね。
さっきまでの話とは違うのかもしれないですけど、最終的には大きな愛を伝えたい(笑)
―そんな話をしてるそばから、一節だけ切り取って訊きたいんですけど(笑)、1曲目の“Greedy Rhythm”にある「情報に酔っちゃって/感情が麻痺して」っていう歌詞とか、すごい現代っぽいなと思ったんです。時代性みたいなところは意識してるんですか?
鈴木:してますね。よく大学生とかが「何がやりたいのかわからない」みたいなことを言いますけど、僕自身、最近までその気持ちがすごいわかったんです。いまは選択肢がありすぎて選べないとか、選択する前に好きか嫌いか決めなきゃいけないと勘違いしてしまう人が多いと思うんですよね。それって、いまっぽいなと思うし、自分もそうだなと思っているので、そういう自分自身の時代感は、歌詞のなかでも表現したいなと思ってます。
―それと、“Stance”に出てくる「君を覆う劣等感」っていう歌詞がすごく気になってるんですけど。
鈴木:もともと劣等感だらけの人間なので。“Stance”っていう曲名自体に現れてるんですけど、劣等感だらけの僕でもがんばって生きてるよって(笑)。やっぱり同じ悩みを持ってる人って、たくさんいると思うんですよね。そこに見向きもしないで、がんばろうよ、楽しもうよ、踊ろうよって言う人もいますけど、「俺、そんな楽しめないよ。こんな悩んでるのに」みたいな。みんな本当はこうじゃないのかな、絶対に同じこと考えてる人いるよなと思って書いたところはあって。…なんか暗いな(笑)。
―でも、そういう部分にリアリティがあるというか。いまの若い子もそうだし、僕も30歳ですけど劣等感を感じるときはいっぱいあるし。そういうことを包み隠さず言ってくれる姿勢は、むしろ共感できるなと思ったんですよね。
金野:そうかもしれないですね。
―バンドとしては、どういうポジションにいきたいですか?
鈴木:さっきまでの話とは違うのかもしれないですけど、メッセージで言うのならば、ちゃんとした現実を見て、最終的には大きな愛を伝えたい(笑)。
―えーっ!!
鈴木:でも、ほんとそうなんですよ!
金野:すっごいわかる。
伊東:結局そうなんですよ。いずれはきっと、愛を歌うだろうっていうのはすごく思うんです。でも、いまは24歳だから、いましか言えないこともあるだろうっていうのが自分たちの考えてることで。
鈴木:なんせ愛を伝えるほど成長してねーだろと。
―堂々と愛を伝えられるようになりたい?
鈴木:なりたいですね。いまはまだ必然性がないし、同い年の人が愛を歌ってても、あんまりピンとこないので。
―むしろいまは「愛って何?」っていう状態ですよね。
鈴木:わかってるわけがない。いま愛を歌うなら、「愛ってわからない」っていう歌詞を書きますよ(笑)。
- リリース情報
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- Prague
『Perspective』 -
2010年7月14日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-16061. Greedy Rhythm
2. Light Infection
3. Roam
4. 遮光
5. バタフライ
6. 曇りのち -Interlude-
7. 日照り雨
8. Distort
9. Negai
10. 流転
11. Impudent -Interlude-
12. Stance
13. シェイカーラブ
14. 夜半に問う今
15. Slow Down
- Prague
- プロフィール
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- Prague
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関東出身のスリーピースバンド。同じ高校で三年間同じクラス、軽音楽部、プライベートも一緒にいた腐れ縁のギター/ボーカルの鈴木雄太とドラムス伊東賢佑 の二人が、同じ音楽専門学校に進み、2006年に金野倫仁と出会って結成。自主制作盤を2枚出したところでレコード会社の目にとまる。2009年9月9日 (水)シングル「Slow Down」でキューンレコードよりメジャーデビュー。
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