取り壊し予定の家を音楽に合わせてメチャメチャに破壊した「家破壊ライブ」、来場者の携帯を壊したり、卒業証書を引き裂くなどした「人生リセットパーティー」など、センセーショナルなイベントで賛否を巻き起こしている謎の音楽グループ「AL familia(アルファミリア)」。自ら株式会社を起こし、次は「100万円バラ撒きライブ」を決行すると豪語する彼らの狙いとは、一体なんなのだろうか。中心人物のYamazaki EisuiとHama Haniの2人を直撃。ぶっ飛んだイメージとは裏腹に、残酷な現代社会に対して必死にもがく、リアルな若者の姿が浮かび上がってきた。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ)
ちゃんと音楽をやったら、少なくとも犯罪者にはならないんじゃないかと思って。
―とりあえずAL familiaって何者なんだ!? っていうのがあるんですけど。
Yamazaki Eisui
Yamazaki:ちゃんと話すと長くなるんですけど、昔からちょっと出しゃばるクセがあるんですよね。そのせいでバイトをしてても、「お前はバイトなんだから、与えられた仕事だけこなせばいい」みたいな扱いをされて。でも、進学校に通ってたこともあって、「なんでこんなヤツにそんなこと言われなきゃいけないんだよ」とか思って、さらにまた出しゃばって。そうすると向こうは完全にシカトですよね。だんだん隅っこに追いやられて。それでもう、「こいつは殺してやる」とか思うようになったり、どうしていいかわからなくなって。
―そこからどうやって音楽活動に?
Yamazaki:もともとピアノはちょっと弾けたんですけど、そうやって追いつめられたときに、ピアノを弾いてたら泣きそうになってきて。自分で自分の曲をもっと聴きたい、そうしたら自分自身救われるんじゃないか。ちゃんと音楽をやったら、少なくとも犯罪者にはならないんじゃないかと思って。
スタンガンを持って、黒人を追っかけまわしてる女がいたんですよ。
―なるほど。グループとして活動するようになったのは、どんな経緯で?
Yamazaki:たまたま六本木に遊びに行く機会があって。そしたら、スタンガンを持って、黒人を追っかけまわしてる女がいたんですよ。「やべー、なんだこいつ!?」と思って。もうビビビッときちゃったんですよね。それで、話しかけるしかないと思って。ちょっとドキドキしながら「何があったの?」って。
Hama Hani
Hama:追っかけまわすっていうのは大げさなんですけど、ちょうど私も六本木で飲んでいて、「君の首が好きだ」とか言って触ってきた黒人がいたんですよ。それで護身用にスタンガンを持っていたので。
Yamazaki:それでHamaと話しているうちに、バイトの経験のこととかで意気投合して。いま俺はこういう曲を作っているから、聴いてみてくれないかと。そこからだんだん盛り上がって、これを世の中に出そう、バンドを作ろうっていう話になったんですよね。
―それで他のメンバーも集めだしたと。
Yamazaki:はい。ボーカルはロックのアイコンみたいになれるヤツがいいなと思って。最初は神父の息子に会ってみたり。
―とりあえず変なヤツを探そうと?
Yamazaki:そうです。その神父の息子はデスメタルを歌ってて(笑)。そのギャップはよかったんですけど、俺が思い描いているものとは違うなぁと。それで、中学高校の同級生で、廊下ですれ違うたびに、誰も知らないような洋楽を口ずさんでた変なヤツがいたなと思い出して。それがWMOだったんですけど、歌わせてみたらこいつしかいない! と思って。
社会のピラミッドがあったら、底辺をごにょごにょ歩いてるようなヤツばっかりです。
―ドラムのYoshi Takashiさんはプロフィールに「借金王」って書いてありましたけど…。
Yamazaki:借金ばっかしてて、基本的に連絡が取れないんですよ。まぁ、とりあえずおもしろいヤツだし、普通に生きてるヤツよりは全然ロックしてると思うし。あとはMAOUってのが。
Hama:MAOUはいつも写真のままの格好なんですよ。中央線で変なヤツがいるって有名になってるみたいなんですけど。普段から名前はMAOUだし、ホテルの宿泊名簿にもMAOUって書いてるらしくて。
Yamazaki:ニートなんですけどね(笑)。でも、外タレのロックスターみたいなオーラを出してて。楽器はできないから、「立ってるだけでいい」って言って、モデルって役職を与えて。
Hama:新大久保のラブホ街に「THE GHETTO」っていうアングラな場所があったんですけど、そこで出会って口説いた感じですね。まぁ、社会のピラミッドがあったら、底辺をごにょごにょ歩いてるようなヤツばっかりです。
ようやく「相手にされたい」って素直に思えるようになったんですよね。
―AL familiaは音楽よりも活動そのものに焦点が当たってるように見えるんですけど、音楽をやる目的みたいなものは?
Yamazaki:音楽については、とりあえず自分が救われればいいかなと。人に聴かせようと思って作ってないので。
―でも、いまは人に聴かせようと思って活動してるわけですよね。それはなぜ?
Yamazaki:相手にされたいからじゃないですか。やっぱり、小さい頃から、しゃしゃり出てはシカトされて、相手にもされなくなって。その繰り返しで二十何年生きてきて。ようやく「相手にされたい」って素直に思えるようになったんですよね。
―それでいきなり、どう考えても金にならなそうなイベントをやって、自分たちで会社まで作って。傍から見たら、「どこからお金が出てるんだ?」って疑問もあるんですが。
Hama:別に大きな組織がバックにいるとか、そういうのは全然ないんですけどね。誰ひとり有名人の血統も引いてないし、どう考えても親から金の出る家庭環境じゃないし。ただ、人前に出る以上は、絶対に一張羅を着なきゃっていう意識はあります。
Yamazaki:会社を作ろうと思ったのは、単純に世の中に自分たちのCDを出したいからなんですよ。個人じゃ相手にされないから、会社を作らなきゃと思って。
株式会社になったら何でも相手にしてくれるんだということがわかって。株式会社っていうだけでシカトされないし。
―普通にライブハウスに出演して、地道にファンを増やして、っていう考えはなかったんですか?
Yamazaki Eisui
Hama:まずメンバーが集まらない。
Yamazaki:あと、ライブハウスっていう空間がダメで。ライブハウスに出てる人たちって、みんないい意味で「俺はロックだぜ」っていうカッコいいヤツらばっかじゃないですか。それを見ると「はぁ、俺なんて…」って思っちゃうんですよ。別に自分がロックだなんて思ってないから、そのなかに自分が立つっていう絵が思いつかない。
―それは意外ですね。
Yamazaki:単純にバンド仲間もいなかったので、誘われないっていうのもあるし。もともと自己満足でやってたバンドだから、そこまでライブやろうっていう発想にも至らなかったし。でも、さっき言ったように、相手にされたいっていうのがあって。CDを出そうと思っても、個人だと流通も相手してくれないんですよ。それで、いろいろ勉強していくなかで、株式会社になったら何でも相手にしてくれるんだということがわかって。
―確かに、そういう考え方もできなくはないですよね。
Yamazaki:株式会社は1円から作れるっていうことも知って、じゃあ作ってみようかって。とりあえず居場所がほしかったんです。株式会社っていうだけでシカトされないし。みんな会社の中身とか見ないじゃないですか。まぁ、なんだかんだお金がなきゃ始まらないので、そこはありとあらゆる手を使いましたけど。
―それ、すごい気になりますけど。
Yamazaki:そこは謎のままにさせてください。でも、みんなが思うようなめでたい方法は使ってないですよ。
Hama:うん。使いたくても、何ひとつ使えなかった。
Yamazaki:金持ちの知り合いとかいればよかったんですけど(笑)。
Hama:最近、知り合いに業界関係者がいるっていう情報を聞きつけて、超キメキメの格好して乗り込んだんですよ。「ありがとうございます。音楽会社をやっておりますHamaと申します」みたいな感じで、資料とかも持って行って、一生懸命熱弁したんですけど、「いまね、○○○(売り出し中の某ガールズバンド)やってるから無理」って言われて。
―はははは(笑)。
Yamazaki:○○○に負けたAL familiaっていうね。
曲には絶対的な自信があるんです。だから、嫌いだろうがなんだろうが、とりあえず俺らのことを知ってもらって、曲を聴いてくれというのがあって。
―ニュースと言えば、今度「100万円バラ撒きライブ」をやると発表されましたけど。
Yamazaki:そうなんです。俺らが必死こいてかき集めた100万円をバラ撒こうと。最初は六本木ヒルズに埋めようぜとか言ってたんですけど、絵的に地味だなと思って(笑)。それで、もうどっかのビルからバラ撒くかと。詳細はいま詰めているので、発表を楽しみにしていてください。おかげで貯金が残高6万になっちゃっいましたけど(笑)。
Hama:ここまできたら、とことん派手にやっていきたいなと。
Yamazaki:うちは上場したいとか、そういう発想はまったくない会社なので、いまが楽しければそれでいいんです。お金はなんとかして、また集めたらいいし。まず、自分たちのやりたいことありきで、個人じゃ相手にされないから法人格は持っていようみたいな。
『人生リセットパーティ』の様子
―ただ、相手にされたところで、「100万円バラ撒きライブ」みたいなことは、いつまでも続けられないと思うんですけど、その先の目標っていうのは?
Yamazaki:やっぱり、人に聴かせようと思ってないとは言っても、曲には絶対的な自信があるんです。だから、相手にされたいっていうのは、嫌いだろうがなんだろうが、とりあえず俺らのことを知ってもらって、曲を聴いてくれというのがあって。先のことを考えるのは、それからですよね。でも、いまはいまで、楽しいことができてるので、けっこう快感だったりしますけど。
自分たちはそんなカッコよくないってところに辿り着いたら、楽になりました。
―アルバムに入ってる“The Dream”とか、普通にいい曲だなと思うんですよ。けど、こういう奇抜な活動をしていると、ちゃんと聴いてもらえなくなる可能性もあると思うんです。
Yamazaki:でも、そもそも聴いてもらえてないから。
Hama:そんなものがあるっていう存在すら知られてない。
Yamazaki:ほんと消去法なんですよ。出演できるライブハウスもない、メジャーのコネもあるわけでもない。その結果、ここに辿り着いちゃっただけで。売れるとか売れないとか関係なく、自分のロックをただ伝えられればよかったんですけど、実際はそれすらできなかった。相手にされない時期が長過ぎて、このままいくのはキツい、なんでもいいから世に出ようと。
―音楽シーンに新しい風を吹き込みたいとか、そういう気持ちは?
Yamazaki:ないですよ。かっこいいバンドとか、本当にロックなヤツらはいくらでもいるし、そういう人たちと同じ土俵で戦って勝てるわけがないから。
Hama:こんな寄せ集めがね。
Yamazaki:そうそう。1・2・3で合わせたら魔法のような音楽が生まれるとか、そんなことはできないので。
―普通は既存のシーンがつまんないと思うから新しいことやるわけじゃないですか。それとまったく逆の発想ですよね。なんか、楽な道を選んでるつもりなのかもしれないですけど、実際は大変なほうに行ってるという。見てる側はおもしろいからいいんですけど。
Yamazaki:普通のことをやっちゃいけないっていうのは思いますよね。もう、ここまでやっちゃったんだし。どんどんハードル上げちゃってるなとは思いますけど。
Hama:まぁ、典型的な「中2病バンド」って言われてますから。あと、「香ばしい」とか(笑)。
―「2ちゃんねる」らしいですね(笑)。ちなみに会社概要には、事業内容として「弱者が人権を獲る為のレジスタンス運動」って書いてありますけど、具体的には?
Yamazaki:国を倒そうとか、政権を変えようとかっていう発想はないし、いまの日本で充分生きていけると思うんですけど…。
Hama Hani
Hama:普通に働いてる人たちから、「フリーターの分際で楽しそうだな」とか、そう思わせられたらいいかなと。最初の頃は「フリーターに人権を」とか、自分たちが選ばれし革命家みたいな思いで言ってたんですけど、おこがましいですよね(笑)。
Yamazaki:ゲリラ組織とか言ってたよね(笑)。
Hama:ほんと、選ばれし血統みたいな、そんな勢いだったよね。
Yamazaki:でも、実際そんなことはないっていう。自分たちはそんなカッコよくないってところに辿り着いたら、楽になりました。
―なんか、今日取材をするまで、すごいぶっ飛んだ人たちなんだろうなと思ってたんですけど、予想に反して親しみやすいというか。ちょっと驚きました。
Yamazaki:別にカッコよく見せても嘘になるから。これで数年後に本当にカッコよくなれればいいなと思うんですけどね。いま背伸びしてもバレバレなので。そこは正直に伝えてください。
- リリース情報
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- AL familia
『freeter’s anthem』 -
2010年4月1日発売
価格:1,890円(税込)
GOGOA-1001 / GOGGO&GOGGA
1. intro
2. 無力者の尊厳とjazz
3. 世界の片隅のアンセム
4. 粛清
5. 慈愛
6. knightley
7. By the world
8. 安らかな崩壊
9. 世界の片隅のアンセム(acostic ver)※オフィシャルサイトで購入した方には、特典として「AL familiaとの飲み会招待券(Club AL)」「破壊用CD」がつきます。
- AL familia
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