根っからの音楽人 伊藤ゴローインタビュー

作曲家、編曲家、ギタリスト、プロデューサーであり、ソロ・ユニットMOOSE HILLやボサノヴァ・デュオnaomi & goroとしてアーティスト活動も展開する伊藤ゴロー。一般的にはボサノバのイメージがやや強いかもしれないが、それも彼にとっては一側面でしかないようだ。ビートルズ、ジョン・レノン、オーティス・レディングといった自身のルーツにオマージュを捧げた、伊藤ゴロー名義による初のボーカル・アルバム『Cloud Happiness』、YMOのお三方をはじめ、commmonsのアーティストを中心とした豪華な面子がクリスマスの名曲をカバーし、伊藤がプロデュースを担当した『Christmas Songs』(アートブック付きの限定盤『Christmas Songs and Pictures』も同時発売)というこの秋冬にリリースされる2枚の作品で、彼は自らの音楽領域を益々広げている。そう、肩書きにもジャンルにも縛られることなく、好奇心の赴くがままに様々な音楽を吸収し、作品として世に送り出し続ける伊藤ゴローは、根っからの音楽人なのである。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

(今回収録したのは)若い頃作ったんで、曲作りもままなってない感じとか、そういうのが愛しいなと思って。剥き出しの、原形のまま録ったつもりなんですけど。

―プロフィールには「作曲家、編曲家、ギタリスト、プロデューサー」とありますが、ご自身としてはどの肩書きが一番しっくり来ますか?

根っからの音楽人 伊藤ゴローインタビュー
伊藤ゴロー

伊藤:あまり気にしたことがないんですけど…こだわりはないっていうか、「音楽をやってる人」みたいなところですかね。居心地のいいところはどこかっていうのは自分でも定かではなくて(笑)。今回ソロをやってますけど、果たしてこのソロが自分の一番居心地のいいところかというとそれもまた…。作ってるときはこれだと思って作ってたんですけど、いざできてみると、自分の中のひとつの要素なのかなって。


―「伊藤ゴロー」名義だからこれが本質というわけではない?

伊藤:自分が辿ってきた音楽的なルーツをやったという意味では本質的なところかもしれないですけど、このために今までずっと積み重ねてきたわけでもないので…。曖昧で申し訳ないんですけど(笑)。

―いえいえ(笑)。そもそも自らのルーツを見つめ直すような作品を作ろうという考えはどのようにして生まれたのですか?

伊藤:ずっとやりたかったんですけど、なかなかタイミングがなくて。その鬱積したものを吐き出したっていうのが正直なところなのです。

―ルーツを表面的になぞるだけのような作品にはなっていませんよね。もっと本質的な部分でのルーツへの共感、同じ作り手としての意識のようなものを感じます。

伊藤:そうですね。表面的にジョン・レノンっぽい、ビートルズっぽいっていうのを探し出すのは大変で、パッと聴きはそんなに(ルーツを)感じないかもしれないけど、仰られたとおり、そういうことだと思います。

―“Down In The Valley”は18歳のときに作ったそうですが、若い頃から歌ものの曲を作っていたのですか?

伊藤:そんなにたくさんは作ってなかったですけど、誰に聴かせるともなく、ホントに自分のためみたいな感じで作っていたんです。(今回収録したのは)若い頃作ったので、曲作りもままなってない感じとか、そういうのが愛しいなと思って。剥き出しの、原形のまま録ったつもりなんですけど。

―若い頃の、ある意味では未完成な曲をそのままの形で出すのは勇気の要ることだったのではないですか?

伊藤:色んなアーティストの作品を聴いても、そういう(ある意味で未完成な)ところに惹かれるんです。ちょっといびつなものっていうか、それがその人の個性なんだろうし、きっとそういういびつなところが聴く人にとっても魅力になるのかなと思っていて。新しい曲だと、そのまま録っちゃうみたいなことはできないかもしれないけど、昔の曲ならいいんじゃないかと思って。

好きなものは片っ端から吸収してやってみたい。そこは我慢したくない。

―自分で歌うということも、やはりルーツと向き合うために必要だったのでしょうか?

伊藤:そうですね。自分で歌うのが一番説得力があるのかなと思って。

―実際作ってみて、新たに発見したことはありましたか?

伊藤:自分の曲を自分で歌うのは楽ですね。ギターをレコーディングするよりも、歌の方が簡単でした(笑)。さすが自分の曲っていうか、どうすればいいか自分が一番知ってるんだなって。ライブになるとまた違うんですけどね。

根っからの音楽人 伊藤ゴローインタビュー

―それは意外ですね。普段からよくやってらっしゃるギターの方が、慣れている分簡単なのかなっていうイメージがあったので。

伊藤:僕も意外でした(笑)。

―(笑)。あと本作のことを「ロック・アルバム」と呼んでいらっしゃいますが、人によっては「これがロック?」と思う人もいると思うんですね。そこで伊藤さんが「ロック」という言葉をどのように捉えて使っているのかをお聞きしたかったのですが。

伊藤:うーん、確かに…「ロック・アルバム」って言ったら、もっとビートが効いてたり、そういうものかもしれないけど…まあ自分が聴いてきたロックはこういうものだったっていう(笑)。

―あまり「ジャンル」というものを意識されることはないですか?

伊藤:今はロックの中にもオルタナとか色んな呼び名がついて細かく分かれてるけど、自分が聴き始めた頃はテクノもロックのひとつだし、ポップスも同じフィールドだと思って聴いてたんで、そういう意味でギャップを感じる人もいるかもしれないけど、自分の中ではそんなに…あまり考えたことなかったですけど(笑)。

―「今回はボサノヴァ」「今回はロック」みたいに分けることもないですか?

伊藤:そんなに変わんないですね。

―中心にボサノヴァがあるという感じでもないんですよね?

伊藤:そうですね…

―最初の肩書きの話と同様に、「このジャンルが自分の中心」っていうのはないわけですね。

伊藤:節操ないっちゃないのかもしれないけど、色んな音楽が好きなわけじゃないですか? クラシックからロックから、色んなものが。好きなものはやればいいっていうか、片っ端から吸収してやってみたいっていうのはあるんですよね。そこは我慢したくないというか。

―ではジャンルが関係ないとすると、伊藤さんの中で音楽を作る上での軸となる考え方はどういったことになりますか?

伊藤:そうですね…なるべくいい曲ができるように、それが何よりですね。いいメロディ、いいハーモニーがあれば、どんなアレンジでもいい曲になるはずだと自分に言い聞かせてやってますね。それが一番人に届くものかなと。聴いてる人に届けばいいなっていう願いを込めてやってます。

坂本龍一の音源、それもあの超有名な「戦メリ」をエディットすることは、胃が痛くて(笑)。

―では続いて『Christamas Songs』についてですが、そもそもこういった作品を作ることになったきっかけは?

根っからの音楽人 伊藤ゴローインタビュー

伊藤:2年ぐらい前から、commmonsのアーティストを中心にこういうものを作れたらいいなっていうのはあったんです。教授(坂本龍一)をはじめ、細野さん、幸宏さんにも何らかの形で参加してもらいたいっていうのがまずあって、ただみなさん忙しいんで、それで2年という歳月が流れたっていうのもあるんですけど(笑)。あと最初はcommmonsのみんなで1曲を作ろうっていう“We Are The World”的なものをっていうのがあったんですけど、なかなかそれも難しくて。


―それは聴いてみたかったですね。でも、結果的には素晴らしいアーティストが集まった素晴らしい作品になっていると思います。

伊藤:アーティストが決まった時点で絶対いいものになるっていう確信があったし、それがなければ作れないですよね。まずアーティストありき、そこだけですね。

―伊藤さんにとってのクリスマスはどんなものですか? 本作には“Snow”という曲で参加されていますが、ご出身が青森ということで、雪には思い入れも強いかと思いますが?

伊藤:それはありますね。雪が降ると北の人間は何かが変わるっていうか、気持ち的にも雪モードに入るっていうか(笑)。特に今は(青森から)離れているので、どうしても雪というものに対して郷愁めいたものを感じるんです。ものすごくハッピーなだけじゃない、よってクリスマスもそういうものになっちゃいますね(笑)。

―楽しいだけじゃなくて、寂しさの影が…

伊藤:そういうものの方に惹かれてしまいますね。でもショーン・オヘイガン(ハイラマズ)がコメントを寄せてましたけど、子供が生まれると、子供がすごくクリスマスを楽しみにしていて、その様子を見ると、自分が子供の頃を思い出して、幸せな気分を味わいたいと、僕もそう思いますね。

―ショーンの曲にはお子さんのコーラスが入っていますが、これは伊藤さんが薦められたんですよね?

伊藤:そうそう、ちょうど自分のアルバムでロンドンのショーンの家にレコーディングで行ったときに、すごい可愛い子供がいて。「一緒にやったらどう?」って言ったら、ホントにやってくれて。

―トクマルシューゴさんが参加しているのも嬉しかったです。

伊藤:トクマルシューゴさんとは、実際に会って話をしたことはないんです。ギリギリこう、すれ違ってて(笑)。アイスランドに原田知世さんのレコーディングで行ったときに、トクマルくんもライブしに来てたんだけど、僕はレコーディングでそのライブを見に行けなかったりとか。

―トクマルさんだけ2曲のメドレーになってますね。

伊藤:「何やってもいいですよ」って言ったら「2曲やりたい」って(笑)。「どっちがいいですか?」って聞かれたので、「どっちでもいいですよ。何なら2曲でも」って返したら、「じゃあ2曲やります」って(笑)。

―(笑)。あとはやっぱり『戦場のメリークリスマス』で有名な坂本龍一さんの“Merry Christmas Mr.Lawrence”が印象深いですね。これは伊藤さんによる「re-model」と表記されていますが。

伊藤:やっぱり有名だし、これを入れるのが一番しっくり来るんじゃないかって。でも一味欲しいなと。そうしたら教授が「好きにしてください」って(笑)。

―どんなイメージで取り組みましたか?

伊藤:数年前から、歌じゃなくて言葉の要素をちりばめたものをやりたいと思っていて、それをこの曲でできないかなって。でもとにかく、坂本龍一の音源、それもあの超有名な戦メリを、エディットするということは、胃が痛くて(笑)。

―(笑)。作業の途中でやり取りはあったんですか?

伊藤:ありましたね。ちょっとアイデアをもらったりして。結果的に「自分の曲が別のものになるのは嬉しい」って喜んでくれたので、一安心っていう(笑)。ものすごく光栄ですけど、やりたい、でも自信があるようで無いような、細かいところではファンの方に怒られるんじゃないかとか、こんなにしちゃってとか、複雑な気持ちでやってました(笑)。 色々と挑戦していくのが、自分の仕事には必要なのかなと思っていて。

―でも最後にあの曲が来ることで、1曲1曲が個性的なアルバムにひとつの芯ができる感じがして、素晴らしいと思いました。では最後に、伊藤さんの今後の目標を教えていただけますか?

伊藤:10年後とか最近よく考えるんですけど…難しいですね(笑)。色々と挑戦していくのが、自分のこういう仕事には必要なのかなと思っていて。前やったことの続編みたいなことをしてしまうと、自分的にも満足しないだろうし、必ず一歩挑戦して、聴いた人に「今度はそういうことをやってるんだ」って伝わればなと。

根っからの音楽人 伊藤ゴローインタビュー

―それを積み重ねていけば10年後も見えてくる?

伊藤:どうですかね? 自分はビートルズだけじゃなくて、パンク〜ニューウェイヴ世代だったんですけど、そういう音楽ってホント短いじゃないですか? 4、5年ぐらいで死んじゃったり、アルバム1枚で終わっちゃう、そういうはかないものだったりするから(笑)。

―確かにそうですね。

伊藤:自分の音楽が10年続いて、さらにもう10年やれたとすると、ひとつの原動力だけじゃ作れないっていうか、違うパワーが必要かなっていう。だから何十年もやってる人、挑戦してやってる人はやっぱりすごいなって思いますね。ブルースマンから、ジャズから、ジョアン・ジルベルトから、常に新鮮に何かをやってるわけじゃないですか? 少しずつ更新していかないと、もたないですよ(笑)。5,6枚で終わっちゃいますもんね。だから自分もそうやって、少しずつ何かを探してやっていければと思います。

リリース情報
伊藤ゴロー
『Cloud Happiness』

2010年9月29日発売
価格:2,500円(税込)
RZCM-46607

1. Happiness
2. Captain Coo With A Butterfly
3. The Sun Is Shining
4. Cruel Park #C
5. Interlude
6. De Longueuil À Berlin
7. Down In The Valley
8. Snow
9. White Book
10. Postludium #3
11. By This River

V.A.
『Christmas Songs』通常盤

2010年11月17日発売
価格:3,500円
RZCM-46627

1. Frosty the Snowman / 原田知世
2. Rudolph the Red-Nosed Reindeer[赤鼻のトナカイ]/ 細野晴臣
3. White Christmas / 高橋幸宏
4. Christmas Eve ∼ We Wish You a Merry Christmas / トクマルシューゴ
5. Kabon's Christmas / Sean O'Hagan(The High Llamas)
6. Sleigh Ride [そりすべり]/ コトリンゴ
7. God Rest Ye Merry Gentlemen / naomi&goro
8. Listen, The Snow Is Falling / 嶺川貴子
9. Snow / 伊藤ゴロー
10. Finland / Arthur Jeffes(The Penguin Cafe)
11. Merry Christmas Mr.Lawrence re-modeled by Goro Ito / 坂本龍一

初回限定盤『Christmas Songs & Christmas Pictures』(税込価格:3,500円)には菊地敦己(Bluemark)監修による豪華アートブック集付き。
アートブック参加アーティスト:
小金沢健人
長崎訓子
Matthieu Manche
塩川いづみ
横山裕一
菊地敦己

都築潤

Christmas Songs リリース記念緊急企画!
Christmas pictures and movies contest

伊藤ゴロープロデュースの珠玉のクリスマスコンピレーションALBUM「Christmas Songs」。このアルバムのリリースを記念して、「Christmas picture and movie contest」を開催いたします。

募集内容
■Christmas Pictures
あなたのお家の自慢のクリスマス・ツリーを写真に撮って送って下さい。

■Christmas Movies
今作品に収録されている楽曲(どれでも可)をイメージした映像をyoutubeに上げてURLを送って下さい。

送り先:christmas@commmons.comへ送って頂くか、twitterでハッシュタグ #xmassongs を付けて画像を貼り付けて呟いて下さい。こちらでピックアップさせて頂きます。

いずれもプロアマ、クオリティは問いません。誰でもお気軽に参加できます。 皆様のご応募お待ちしております。

最優秀賞には編師203gowによる世界で一つだけのクリスマスグッズをプレゼントいたします。

詳しくはコチラまで

プロフィール
伊藤ゴロー

作曲家、編曲家、ギタリスト、プロデューサー。インストゥルメンタル音楽をメインに、映画やドラマの音楽を手がけ、国内外でアルバムのリリース、ライブを行う。原田知世直近の2作「music & me」「eyja」をプロデュース。ソロ・プロジェクト MOOSE HILL (ムース・ヒル) として、また布施尚美とのボサノヴァデュオnaomi & goroとしても活動中。



記事一覧をみる
フィードバック 1

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 根っからの音楽人 伊藤ゴローインタビュー

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて