今年1年でフルアルバムと3枚のシングルをリリースし、年明け1月にも新しいアルバム『ベランダの煙草』のリリースを控えているsuzumokuが、大きな飛躍の時を迎えている。もともとストリートからうたを歌い始めた彼は、安易なラブソングや応援歌など歌わずに、彼自身が感じ取ったリアリティーをありのままに表現することで道を切り開いてきた。日常の美しさを切り取るセンスも素晴らしければ、センセーショナルに社会を批評する毒々しさも痛快で、彼からどんな歌が生まれてくるのか、常に聞き手をワクワクさせてくれる希有なシンガーソングライターだ。そして1月に出るアルバムは、そんな期待に応えるどころか、予想を飛び越え頭にガツンと響いてくる、驚きの傑作アルバムだった。
(インタビュー:タナカヒロシ テキスト・撮影:柏井万作)
いわゆる一般的に知られているラブソングっていうのは、本当にラブソングなのかな? って
―前のアルバム『素晴らしい世界』のリリースが今年の3月で、年明け1月にもう新しいアルバムをリリース。その間にシングルも3枚出して、すごいハイペースで活動されてますよね。まずアルバムに先駆けてリリースされた“フォーカス”についてお伺いしたいんですけど、この曲はどういう経緯でできたんですか?
suzumoku:趣味でカメラをやってるんですけど、そういえば自分の好きなカメラについて、歌を作ったことがなかったなというところから始まって。だいたい作ってみたんですけど、歌詞の内容が全然いまとは違って、フィルムの名前が出てきたり、ものすごいマニアックで。
―カメラオタクに捧ぐ、みたいな。
suzumoku
suzumoku:そうなんです(笑)。いちおう新曲できましたって、いろんな人に聴かせたんですけど、「曲の雰囲気はいいんだけど、歌詞が非常にもったいないことになってるな」って(笑)。確かに自分でも、バラードとしてはいい感じのメロディーなんだけど、こうなると歌詞のなかに人間味というものがほしいなと思っていて。そんな時に、「ラブソングにしてみたらどう?」っていう意見をもらったんですね。でも、いままでちょっと敬遠してた部分もあるんですよね、ラブソングっていうのは。
―それはなぜ?
suzumoku:他人の恋愛話を聴いても別におもしろくないなと思っていたので。でも、食わず嫌いかもしれないと思って、ラブソングを意識して、メロディーもちょっと作り直して、歌詞も書き直したんです。「ラブソングの〈ラブ〉っていうのは〈愛〉だよな、いわゆる一般的に知られているラブソングっていうのは、本当にラブソングなのかな?」って思いまして。こう、誰それに会いたいとか、君が好きでたまらないとか。
―「会いたくて会いたくて震える」的な(笑)。
suzumoku:それは「愛」というよりは、「恋愛」の曲なんだろうなと。じゃあ「愛」とはなんぞやと思って辞書で調べたら、「誰それを慈しむこと」と書いてあって。それなら「慈しむ」はどういう事なんだろう? と思って調べたら、そこには「愛すること」って書いてある(笑)。行ったり来たりなんですよね。
―はははは(笑)。
suzumoku:だから自分で考えてたんですけど、「愛」って日常というものに密接に関係しているものなのかなと思って。家族との関係もそうだし、長年連れ添った夫婦も、愛情があるからそこまで一緒に歩んでこれたんだろうと思うんです。だから、「いま隣にいる人」って大切だなと思ったんです。もちろんそれは恋人かもしれないんですけど、「その人とのいま」という関係は、そこに愛情っていうものがあるから成り立っているんだと思って。
―大切な人、ということでもありますよね。
suzumoku:そうですね。だから、これは聴いてくれた人がそれぞれに答えを持ってくれたらうれしいですね。「愛」をテーマに書きましたけど、そこに明確な答えがあるのかと言ったら、そういうことじゃないと思うので。
歌に風景描写を入れることで、主人公の気持ちがより伝わるんじゃないかと思って。
―“フォーカス”というタイトルもそうですけど、曲ができるきっかけになったカメラについての部分も残ってますよね。
suzumoku:普段見ている世界も、ファインダーから覗いたり、限られたなかで見てみると、意外と気付けなかったことが見つかるんです。そういう「いまを切り取る」っていうことを考えたときに、カメラっていうテーマはすごく良いなって。いまを大事にしていこうって。
― suzumokuさんの歌って、歌詞にすごく風景描写みたいなものが入ってると思うんですけど、カメラ好きということが影響してるんですかね?
suzumoku:そうかもしれませんね。思い出とかもそうですけど、楽しかったとか辛かったとか、いろんな気持ちっていうのは、そのときの情景とセットで覚えていたりしますよね。だから歌にも、そういう描写を入れることで、主人公の気持ちがより伝わるんじゃないかと思って。
“モダンタイムス”は、バラエティ番組を見てるときに、くっだらねーなと思いながら作りましたね
―だからsuzumokuさんの歌って、すごい映像が浮かんでくるんですね。情景が具体的に出てくるじゃないですか。今回は歌詞カードがフォトブック仕様になっていて、suzumokuさんが撮った写真がたくさん載ってますね。これ、世界観のあるすごく良いパッケージでした。
suzumoku:このフォトブックをつけるっていうのも、聴いてくれる人の想像力を固定しちゃうんじゃないかなと思ったんですけど、写真と音楽と絵(ジャケットもsuzumoku自身が書き下ろしている)と、全部一緒にしたものを出してみたいなって。実際に曲のことを考えながら、改めて写真を撮ったものがこうして形になると、ものすごい愛着も湧きますし。写真には手書きの歌詞が入っているんですけど、すっごい印象が強くなりますね。
―ちなみにこの写真は曲ができてから撮ったんですか?
suzumoku:ほぼそうですね。歌詞がほとんど仕上がったうえで、この歌の主人公は、どういう部屋から出て、2人でどこに行くのか。それで、最後は夕日を見てっていう写真の順番もストーリー性を考えて。人があまり写ってないんですけど、その主人公たちの目線を大事にしたいなと思ったんですよね。
―なるほど。こういう情景を浮かべながら曲を書いたりするんですか?
suzumoku:街を歩いているときに印象的なシーンに出会うと、曲を作りたくなったりしますね。みんな会社が終わって、下を向いて、すごい群れをなして帰ってるシーンで、ああいう曲が流れたらいいだろうなとか。新宿の大ガードをくぐってる最中に、ゴリッとした曲がほしいなとか。終電待ちのホームとか。曲を作りたいときは、そのときに自分が聴きたい曲っていうのをすごく意識するので。
―1月に出すアルバムに入っている曲では、そういうシチュエーションはあったんですか?
suzumoku:飲み会とかに行くと「俺ってすげーんだぜ」みたいな人がいるじゃないですか?(笑) そういうシチュエーションのあの感じを人に聴かせたいと思って作ったのが“身から出せ錆”って曲です。“放課後スリーフィンガー”は、僕が学生の頃にギターを弾いてたシチュエーションを思い出して。いま中学高校でギターを始めた子って、どういうシチュエーションで弾いてるのかなと想像しながら書いてみました。“モダンタイムス”は、夜9時から11時くらいにかけてのバラエティ番組を見てるときに、くっだらねーなと思いながら作りましたね(笑)。でも、そう思いながらも見てる自分に、ムダな時間を過ごしたなっていう戒めも込めて。
情報操作されて、気付いたらお偉いさん方に都合のいい世の中になっちゃいましたっていう
―今回のアルバムって、“フォーカス”みたいなやさしい曲もありつつ、その“身から出せ錆”とか“モダンタイムス”みたいに、世の中への不満みたいなものが隠れてる気がするんです。
suzumoku:『素晴らしい世界』から3枚のシングルの流れで、自分のなかの陽の部分をすごく出せたと思うんですよね。その反面、「影の部分を出してもいいのかな?」と思うようになって。でも、やっぱり昔から付き合いのある弾き語り仲間のライブに行くと、なんていうか、隠さずにバーッと歌ってて。そういうのを見てると、本来そういうものだったなというか。
―必要以上に遠慮しちゃってたんですね。
suzumoku:ストリートの頃は言いたいことをなんの遠慮もなく歌っていたし、やっぱりそういう影の部分も必要だなと。なので、最初の頃の気持ちをもう1度復活させて、フラストレーションとか、「なんでこうなんだろう?」っていう不満とか、改めて、どストレートに歌にしてしまおうと。それで曲を作ってみると、なんか悩んでた部分も全部解決するんですよね。逆にそういう影の部分ばっかり歌ってたら、今度はきれいなことが歌えなくなるんじゃないかとか、その繰り返しなのかなって。
―ちょっと話を戻しますけど、“モダンタイムス”の歌詞って、現代社会に対する皮肉というか、すごく強烈ですよね。さっき言ってた、バラエティ番組を見てくっだらねーなと思ったっていうのは?
suzumoku:情報操作されてるってことに、みんなもっと気付いたほうがいいんじゃないかっていう。テレビって、全然流行っていないものでも、いま大ヒットしてますとかいって放送したら売れると思うんですよ。ファッションとかも、いまの流行りはこれっていうのとか、カリスマ誰それが紹介した云々とか。
―それ、絶対ありますよね。
suzumoku:情報操作されて、気付いたらお偉いさん方に都合のいい世の中になっちゃいましたっていう。力の持ってる人だけがしめしめとなっちゃう世の中になるんじゃないのかなって。民主主義とは言いつつも、実はすごく独裁的なものになっちゃうのかな、なんていうことを考えてるうちにできた曲っていうか。
―でも、インターネットとかによって、昔に比べれば真実を見やすくはなってますよね。
suzumoku:政治とか、この前の尖閣諸島のYouTubeとかもそうだと思うんですけど、情報としては目に見えるけど、実際のことはわからない。インターネットの情報とかって、確かにすぐに調べられるんですけど、身を持って知ったわけではないですよね。すごく薄っぺらいけど、とりあえず知った感じになるというか。人間関係もそうだと思うんですけど、チャットとか、2chの掲示板とか、Twitterとか、ネットのなかで仲良くなったふうの関係なんていうのは、実際に会ったときにどうなるかわかんないし。
―上辺だけの情報に騙されるな的なことが“モダンタイムス”のテーマ?
suzumoku:騙されてというか、「ハマっちゃってませんか?」みたいな。
―ぼくは確実にハマっちゃってますね(笑)。
suzumoku:ちょっとした自分なりの警鐘というか。ネットやメディアとの関係っていうのは、いいバランスを保つべきなんだろうなと思いますね。
―そういうことって、歌だからこそ言えるみたいなところもあると思うんですよ。
suzumoku:これを素で言ったら変な目で見られるのがオチですよね(笑)。だからギターというのがいい武器になってくれてるなと思いますね。そういう口に出せないような思いとかを、歌という形で代弁するのがシンガー・ソングライターの真髄なのかなと思いますし。そこを意識せずとも、思ったことを歌にして書いたら、実は誰かの思っていたことを代弁してたとか。そういうことでもあると思いますし。
―suzumokuさん自身は、普段そういうことを言わないタイプ?
suzumoku:言わないですね。お酒が入ると別かもしれないですけど(笑)。普通のときは、けっこう冷めてるほうなのかなって。その分、秘めてる感情はいっぱいあるので、それを歌にして吐き出していきたいなと思います。
- リリース情報
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- suzumoku
『フォーカス』 -
2010年12月1日発売
価格:1,260円(税込)
apart.RCORDS / APPR-12021. フォーカス
2. フォーカス(Instrumental)
- suzumoku
- リリース情報
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- suzumoku
『ベランダの煙草』 -
2011年1月12日発売
価格:2,100円(税込)
apart.RCORDS / APPR-2007
- suzumoku
- プロフィール
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- suzumoku
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中学2年でギターを持ち、同時に作詞・作曲も始め、地元静岡のストリートで歌い始める。様々なジャンルの音楽を聞き漁り、音楽性を模索する日々。高校卒業後、楽器製作の専門学校に入学し、ギターやベースの製作に明け暮れる。音楽は完全に趣味にしようと決め、岐阜にある国産手工ギター工場に就職。音楽活動を一旦休止するも再開。ギター職人の道とミュージシャンの道、どちらが本当に進むべき道なのか真剣に考え、06年夏、プロミュージシャンになることを決意。07年1月に上京し、10月にアルバム『コンセント』でデビュー。都内を中心にライブ活動を続ける中、08年からインスト・ジャズ・バンド"PE'Z"との合体ユニットpe'zmokuを結成。ギター&ヴォーカル担当として大抜擢。多くの経験を積み重ね、2010年ソロ活動を本格的に始動し、3月にアルバム『素晴らしい世界』を発表した他、3枚のシングルをリリース。2011年はニューアルバム『ベランダの煙草』と同アルバムを携え、初の全国ツアーをスタートさせる。
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