学ランで統一された衣装で、今やコンテンポラリーダンスの代名詞ともいえる存在にまで上り詰めたコンドルズ。日本のみならずアメリカ、ヨーロッパなどにおける絶賛、『サラリーマンNEO』での「サラリーマン体操」や、NHK朝の連続テレビ小説『てっぱん』での振付け、さらにはバンド活動に至るまで、その活動は国境もジャンルも超えて、多くのファンに支持されている人気カンパニーだ。そんな彼らの待望の新作『ロングバケーション』がいよいよ2011年1月29日、30日に彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて上演される。結成から15周年となる同公演にかける意気込みを、主宰者で希有なダンサーでもある近藤良平に聞いた。
(インタビュー・テキスト:萩原雄太 撮影:小林宏彰)
コンドルズが持っている「誇り」とは
─『ロングバケーション』というタイトルが付けられた今回の舞台ですが、このタイトルに込められた意味を教えてください。
近藤:今回の公演の直後、2011年の2月から彩の国さいたま芸術劇場が改修のため休館になってしまうんです。それと掛けて『ロングバケーション』がいいかな、と思ったのがきっかけですね。あとは僕の世代的にキムタクの『ロンバケ』かな(笑)。
─彩の国さいたま芸術劇場で、コンドルズはもう5年にわたり公演を行っていますね。やはり思い入れの強い劇場なのでしょうか?
近藤良平
近藤:ピナ・バウシュやローザスなど、海外の著名なカンパニーが公演を行っている劇場ということもあり、日本のダンスカンパニーとして、その劇場から「公演してください」というお話を頂けることはとても嬉しいですね。なので、「コンドルズ的」な誇りを持って公演をしています。
─「コンドルズ的」な誇りとは、どんなものでしょう?
近藤:土足で踏み込んでいくような感じ、ですかね。立派で上等な場所をあえて汚すように踏み込んでいく。それが、味でもあります。だから、いつも怒られてしまいそうなギリギリのラインなんですけど(笑)。
創作方法は「連想ゲーム」
─今回の新作は、どのような舞台になりそうでしょうか?
近藤:いつもタイトルから舞台を発想するんです。『ロングバケーション』といっても、キムタクが出演したドラマのイメージもあるし、特定の作品ではなくても、例えば「休日」から連想して「日曜日のお父さん」のように思い浮かぶイメージもたくさんあります。そういったイメージを連想ゲームのように発想していくことで、舞台が立ち上がっていくんです。バラバラのイメージが最終的につながっていく感じですね。
コンドルズ ©HARU
─タイトルから何を連想できるかが勝負になるんですね。
近藤:そうですね。さいたまで冬に創作するのは今回初めてなので、逆に夏休みのイメージに憧れるような、ほのかに夢見がちな作品になるんじゃないかと思います。
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2/3ページ:役者を「調子に乗らせる」演出術
役者を「調子に乗らせる」演出術
─近藤さんは、コンドルズの舞台では振付・ダンスはもちろん、映像なども手掛けていらっしゃいますよね。
近藤:コンドルズは今でも、映像も演奏も美術もほとんど内部で作っているんです。もともとはお金がかかるから自分たちでやろう、という理由から始まったんですが。だいたい準備にギリギリまでかかっちゃって、「もっと踊りの練習がしてえ!」っていう状態に陥るんですけど(笑)。
─近藤さんの演出術をお伺いしたいのですが、ダンサーを活かすためにどのような意識をお持ちなんでしょう?
©池上直哉
近藤:役者やダンサーって、基本的に不安を抱えているものなんですね。だから演出家は、彼らに「それでいいぞ」って言ってあげるのがすごく大事。いい意味で調子に乗らせるんです。自分を出していない人からは何も見えてこないので、調子に乗ることで面白いものを掴んでもらう作業を重要視していますね。ただし、すぐ調子に乗るような人なんかは止めることもありますけど(笑)。
「コンテンポラリー」ってなに?
─コンドルズは「コンテンポラリーダンス」ジャンルのカンパニーとして認識されていますが、近藤さん自身はそういったジャンル分けを意識することがありますか?
近藤:実は何とも思っていないんですよ。「コンテンポラリーってなに?」くらいの感じです。そもそも「コンテンポラリー」って、言葉としてそんなに使わないですからね。ただ、ダンスの普及はしていきたいと思っています。ダンスのイメージって、一般的にはまだバックダンサー的な意味で使われていますよね。それを「鑑賞するダンス」という方向に持っていきたいと思っているんです。
─普及といえば、近藤さんは障がい者や学生、社会人までさまざまな人を対象にワークショップを行っていますよね。
近藤:そうですね。ワークショップをすることでいろいろな場所でダンスが行なわれて、ダンスに直接触れる人が増えるといいなと思っています。クラシックバレエって、駅の数だけスタジオがあると言ってもいいほどで、バレエと言えば誰でもわかりますよね。それと比較すると、僕らが上演するようなダンスは、「よくわからない」と言われてしまう。同じダンスなのにそれっておかしいと思うわけです。
─ワークショップの参加者からは、どういう反応がありますか?
近藤:今、丸の内のビジネスマンを対象にしたダンスワークショップをしているんですが、すごく面白いんですよ。それぞれ違う会社に勤めている人たちが集まっているんですが、たまたまワークショップで出会った人たちなのにすごく仲良くなっちゃって。「みんなで『てっぱん』のオープニングダンスに応募しようか」なんて言ったりしています(笑)。
─ビジネスマン向けのワークショップでは、予想外の反応も返ってくるんでしょうか?
近藤:教えているのはビジネススクールの「表現クラス」なんですが、みんな久しぶりに他人に触れたという人たちばかりで。中には「15年ぶりに他人と触れ合った」なんて言う人もいます。それでもみんな人と接しようと積極的に参加していて素敵だなと思います。教える側もダンスや舞台は「サラリーマンには通用しないだろう」と思ってしまいがちなんですが、そんなことは全然なかったんですよ。ダンスはみんなに開かれているもので、みんなに面白いと思ってもらえるし、表に出ていくことができるものだと、最近急に思うようになりました。
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3/3ページ:15年後はロックを鳴らして太極拳?
いつまでも悪ふざけしていたい
─来年はコンドルズ結成から15周年になりますが、意気込みはありますか?
近藤:10周年の時は、「こんなに続けてきてすごいな」と実感していたんですが、15周年は特別な意気込みもなく受け入れています。いつも通りのちょうどいい塩梅で「悪ふざけ」をできればいいかな、と思っていますね。
─ところで、この15年間を振り返った時に、一番思い出深い瞬間とは何でしょう?
近藤:海外公演の経験ですね。最初はニューヨークに行ったんですが、まだ日本でも知名度が低い時期だったんです。自分たちでは「すごく面白いことをしている」と思っていましたが、はたしてこれがアメリカで通用するのかとても不安でした。でも、いざやってみたら非常に好評で、見に来ていたプロデューサーたちが終演後すぐに飛んできて「君たちすごいよ!」って言ってくれたんです。そこでようやく突破口が見えた感じがしましたね。日本でも海外でも通用する、という意気込みはあったので、「俺たちは間違っていない」と確信した瞬間でした。
©池上直哉
15年後はロックを鳴らして太極拳?
─そういえば、以前コンドルズメンバーの石渕さんが「コンドルズのメンバーは結成当初から上手くなっていない」と言っていましたが、それは本当ですか?
近藤:(爆笑)。僕が振付するコンドルズのダンスはちょっと特殊なんですが、そのダンスはみんな上手いんです。けれども、ちょっとジャズダンスのような振りになったりすると全然踊れない(笑)。みんな、そういう努力をしていないんですよね。逆に、一般のダンサーにはコンドルズの振付けってすぐには踊れないだろうと思います。
─では最後に、これから15年後、結成30周年の時にはどんな活動をしていると思いますか?
近藤:コンドルズは続けてますよ。もしその時、体がきかなくなっているとすれば、仮に60分の公演なら40分は落語みたいにしゃべって、10分は演奏する。そして最後の10分はすごーくゆっくりな太極拳みたいな動きで踊ったりするんじゃないでしょうか。ガンガンにロックを鳴らしながらとか(笑)。そんな感じになっているかもしれませんが、コンドルズはそういう姿勢でいいんだ、と思っています。
- イベント情報
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- コンドルズ埼玉公演2011新作
『ロングバケーション』 -
2011年1月29日(土)14:00 / 19:00
2011年1月30日(日)16:00
会場:埼玉県 さいたま市 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
構成・映像・振付:近藤良平
出演:
青田潤一
石渕聡
オクダサトシ
勝山康晴
鎌倉道彦
ぎたろー
古賀剛
小林顕作(映像出演)
田中たつろう
橋爪利博
平原慎太郎
藤田善宏
山本光二郎
近藤良平
料金:前売4,500円 当日5,000円 学生席2,500円
- コンドルズ埼玉公演2011新作
- プロフィール
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- 近藤良平
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振付家、ダンサー。1968年生まれ。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。20ヶ国以上で公演、ニューヨークタイムズ紙絶賛、渋谷公会堂公演も即完満員にした男性学ランダンスカンパニー・コンドルズ主宰。現在、NHK連続TV小説「てっぱん」オープニング振付、NHK総合『サラリーマンneo』内「テレビサラリーマン体操」振付レギュラー出演中。TBS系列『情熱大陸』出演。NODA・MAPの『THE BEE』で鮮烈役者デビュー。三池崇史監督映画『ヤッターマン』振付。コンドルズバンドプロジェクト・ストライクではベースを担当。
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