昨年は各地の注目イベントを総ナメにする勢いでライブを重ね、8月にリリースしたアルバム『僕らのファンタジー』も軒並み好評を博したSEBASTIAN X。将来を嘱望されるバンドとして、今年はさらなる注目を集めるであろう彼らだが、結成3年、23歳にして大きな期待を背負ったことは、年相応とも言える苦悩ももたらした。1月26日に配信限定でリリースされるシングル『光のたてがみ』は、人生の分岐点における不安をまるごと希望に変えてしまうような、SEBASTIAN Xらしいエネルギッシュな歌だが、そこに至るまでには一筋縄でないストーリーがあった。「他人の意見を聞くばっかりで、自分の意見を聞くのを忘れていた」という時期を経験したばかりの彼ら(ベースの飯田は諸事情により欠席)に、現在進行形の心境を語ってもらった。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)
全部机上の空論だし、現在進行形で変わってることだし。
―1月26日に『光のたてがみ』が配信限定シングルとしてリリースされますけど、なんでまた配信で出すことになったんですか?
永原:これは私が言い出したんですけど、音楽をやっていく上で、配信がどうのとか、CDが売れないですねとか、やっぱりライブがとか、たくさんお話を聞く機会があって。でも、みんな言うことが違うんですよ。それで、うーん……って思ったんですけど、全部机上の空論だし、現在進行形で変わってることだし、お客さんに曲を届ける方法がいくつかあるのであれば、試してみたいなと思って。
左:工藤歩里、右:永原真夏
―とりあえずやってみようと?
永原:はい。私は基本的に配信で曲は買わなくて、CD屋さんで買うことのほうが多いんですよ。むしろ最近はレコードで欲しいなと思ってるくらいで。でも、どのフォーマットでも必ず良いところと悪いところがあるじゃないですか。しかもその良い悪いは人によって絶対に違うから。その代わり、配信でやれることは全部やりたいなと思って。
―今回は「動くアートワーク」仕様なんですよね?
永原:そう。紙に印刷しちゃうとジャケットは動かないけど、画面上だったら動かせるじゃん! と思って、動くアートワークを作ったんです。あと、ホームページに簡単なダウンロード講座を作ろうとか。配信限定だからって、ただのニュースとして流れてしまわないように、素敵な要素をたくさんつけようと思ってます。
―配信だからこそですね。
永原:しかも今回、曲のテーマも「目に見えないもの」について歌っているんです。だからちょうどいいんじゃないかなと思って。そもそも音楽は目に見えないものだし、CDとかモノになった歴史のほうが短いじゃないですか。目に見えるほうが安心するのもわかるし、お金を払うんだったら目に見えるものが欲しいのは私も一緒なんだけど、もっと違う時代に生まれていたら、「一回録音したやつを買うなんておかしくない!?」ってなるかもしれない。ただ、配信なら違う国の人も簡単に入手できたり、いいところも絶対あるから、やってみようと思いました。
なんでそんな分岐点ばっかりの人生を進んでいけるのかなって考えたら、道を照らしてくれる光があるんじゃないかと思って。
―『光のたてがみ』はどういう経緯でできた曲なんですか?
永原:外苑前のカフェでご飯を食べてたら、隣でキャリアウーマンみたいな人が女友達と話してて、「私、将来何をやったらいいかわからないの」とか言ってたんですよ。カバンからめっちゃファイルとか出てきたりして、どう考えてもバリバリ仕事してる感じなのに、まだ迷うか! まだ悩むか! って思ったんです。まぁ、私の考えが浅はかだったんですけど。なりたい仕事に就けるかは別として、一度就職したら、そこである程度完結するものだと思ってたんですよね。でも、よくよく考えてみたら、会社のなかでも「お前は上にあがっていくのか、それとも現場でやっていくのか」みたいな分岐点がいっぱいあって、そこでみんな悩んでいくのか! 一生悩むのか! と思って作った曲です。
―超具体的ですね(笑)。
永原:でも、その分岐点が全部暗闇のなかだったら、もう無理だと思うんですよ。何も光がないけど走っていくみたいなことは、しんどすぎるじゃないですか。そんなことずっとやってたら、病気になっちゃって、社会からポロリしてしまうと思って。
―まぁそうですよね。
永原:じゃあ、なんでそんな分岐点ばっかりの人生をみんな進んでいけるのかなって考えたら、どっちに行ったらいいかわからないときに、道を照らしてくれる街灯みたいな光があるんじゃないかと思って。で、それは何なのかなって考えたら、人でも書かれた言葉でも何でもなくて、「目に見えないもの」が光になるんだろうなって思ったんですよ。その光に向かってみんな進んでいるのかなって。だからみんな病気にならないで、暗闇のなかを走っていけるんだなって思いながら作りました。
人の意見を聞くばっかりで、すごい簡単なことすら選べなくなってる自分に気付いて。
―真夏(永原)さん自身も、進めなくなったような経験があるんですか?
永原:超あります! 私、どちらかというと、自分から動いてくんだって思うよりも、何かに導かれて生きていきたいと思ってて。無宗教なのに神社とかには昔からよく行くんですよ。「今年は企画イベントがうまくいきますように」とか(笑)。そういう目に見えない力をすごく信じていたんです。でも、去年末くらいから、それが信じられなくなったんですよね。
―それはなぜ?
永原:たぶん、人の意見ばっかり聞いてたからなんじゃないかと思って。ライブが終わって、いろんな人から感想をもらうじゃないですか。でも、Aさんはああだった、Bさんはこうだった、Cさんは、Dさんは……、みんな言うことが違うんですよ。これを全部聞いてたら、絶対やっていけないなと思って。
―あー、ありますよね、そういうの。
永原:それで、なんでその導かれる力が弱くなっちゃったのかなって思ったら、自分の意見を聞くの忘れてたんですよ。人の意見を聞くばっかりで。そう思ったときに、すごい簡単なことすら選べなくなってる自分に気付いて。だから、今年は自分の意見ばっかり聞く一年にしようと思ってるんです。人の意見を飲み込んで自分の意見になる場合もあると思うんですけど、最終的には自分の意見が本当の光になると思うので。
―いいと思います!
永原:「いいと思います」いただきました!(笑)
小っちゃい「できた」を集めて、大きい「できた」にしたい。
―いや、ほんといいと思います。以前フラワーカンパニーズにインタビューしたときも、近いことを言ってたんですよね。実際、いろんな人からいろんな意見を言われると思うので、バランスを保つのは難しいと思いますけど。
沖山:この人(永原)、もともと他の人の意見を聞いてるようで聞いてないから。
永原:そう!(笑)。聞く余裕ができちゃったんですよ。いままでは「嫌だ!」って言って、ずっと聞いてなかったんですけど、ちょっと心に余裕ができたから、聞いてみようかなって思っちゃったんです。いまならいろんな人の意見を聞けるかもって過信してたんですよね。でも、まだそういうスキルが足りなかったみたいです。
―歩里(工藤)さんもそういうのありましたか?
工藤:ありました。私も年末にかけてそんな感じだったんです。なんか自分の意見がよくわからなくなって。そんな状態で人の意見を聞いて、ますます判断がつかないみたいな。自分の意見が定まってないから、ふらふらした状態になってしまうことがけっこうあって。年始になって、それにようやく気付き始め……。
―年始って、まだ年明けたばっかじゃないですか。
工藤:そうなんですよ(笑)。ほんとつい最近、このモヤモヤ感は、そういうことだったのかっていうのに気付いて。
―ほんと現在進行形なんですね。
永原:でもこの間、音楽とか全然やってない友達に久しぶりに会ったんですけど、「最近どうよ」って話してたら、まったく同じこと言ってたんですよ。だから、そういう時期なのかなぁと思って。
―年頃ですかね(笑)。
沖山良太
沖山:たぶん、いままでは自分たちでやることが、自分たちの範囲内に収まってたんですよ。
工藤:あぁ、それあるかもねー。
沖山:やることが増えたり、やる幅が広がったりすると、自分だけではわからないことが多すぎて、答えが出てこなかったりするんですよね。だから任せるところは任せちゃって、最低限自分がやらなければいけないことを絞っていかないと、全部考えてたらいっぱいいっぱいになっちゃうから。
永原:なんか、どこでしゃべってても、「やれるかどうかわかんない」みたいなことばっかりがはびこっていて。今年は「やればできること」をいっぱい追いかけたいです。小っちゃい「できた」を集めて、大きい「できた」にしたい。
結局どこの川に行ったって海につながると思うんですよね。だから本当はどっちの道でもいいんです。
―『光のたてがみ』を聴いていると、「どっちに行こうか迷う」というよりは、「どっちに行っても楽しそうじゃん」みたいな感じがすごい出てると思うんですよね。
永原:そう! それはずっと思ってます。その分岐点でどの道を選んだのかって、リアルタイムで生きてるときは大切だと思うけど、結局どこの川に行ったって海につながると思うんですよね。だから本当はどっちの道でもいいんです。
―それは名言ですね!
永原:でも、ここまで受け身の考え方だと、ちょっと嫌がられることもあるんです。インタビューで「自分たちで世界を変えていこうと思わないんですか!」とか言われて、私は「思わないです」って言うんですよ。「世界はどっか遠いところで、バタフライ・エフェクト(小さな変化がやがて無視できない大きな変化になること)みたいに知らない間にどんどん大きくなって変わっていくから、自分もそのひとつになるだけであって、自分が変えることなんて一生ないと思っていて。だから人間ひとりとか集団が変えたように見えても、それは何かの効果でそう見えるだけで、本当は全然違うところで変わっていると思っているから、世界を変えるよりも、変わった世界をちゃんと受け止めることのほうが大切だと思っていて……」とか言うと、「はぁ?」って言われます(笑)。
―僕もいま言いそうになりました(笑)。まぁでも、世界を変えるのも、変わった世界を受け止めるのも、最終的には同じことのような気がしますね。
永原:そう! どっちに行ったって結局海に!
工藤:便利な言葉だなぁ(笑)。
―ははは(笑)。楽曲自体は、すごいメジャー感があるっていうか、ポップ感があるっていうか。『僕らのファンタジー』でもけっこう意識してたと思うんですけど、ポップさを狙って作ったりしている部分はあるんですか?
永原:超ありまーす(笑)。ポップスを作ろうっていうのは、うまく説明できないんですけど、会社(レーベル)との約束っていうか。「いろんな人が聴ける曲を作ろう」って言われて、「いいよ!」って言ってCDを出してるから。その約束はずっと守っていきたいなとは思います。
―「いろんな人が聴ける曲」っていうのは、誰でも作れるわけじゃないと思うし、誰でも歌えるわけじゃないと思うんですよね。でも、前にインタビューしたときも言いましたけど、セバスチャンはそういうことができる子だと思うんですよ(笑)。
永原:あははは。ありがとうございます。がんばります。
―まぁ、とりあえずは“光のたてがみ”をリリースして、2月25日のワンマンライブですね。ワンマンということで普段のライブとは違う試みも?
永原:ホーンセクションが入ります。あとスティールパンも。
工藤:CDのアレンジでホーンセクションが入ってる曲があるんですけど、それをライブ用にアレンジしてやろうかなと。
―それは楽しそう!
永原:かなり楽しいと思うので、ぜひ遊びに来てください!
- イベント情報
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- 『光のたてがみ』リリース記念SEBASTIAN Xワンマンライブ
『スタールビーの唇よ歌え!』 -
2011年2月25日(金)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:東京都 下北沢 GARDEN
出演:SEBASTIAN X
料金:前売2,500円 当日2,800円(共にドリンク別)
SEBASTIAN X 2月-3月で全国ツアー『光のたてがみ』ツアー開催!
詳しくはオフィシャルウェブサイトまで
SEBASTIAN X
- 『光のたてがみ』リリース記念SEBASTIAN Xワンマンライブ
- リリース情報
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- SEBASTIAN X
『光のたてがみ』 -
2011年1月26日から配信限定発売
価格:
PC配信200円
モバイル配信 着うた105円 着うたフル210円 RBT105円1. 光のたてがみ
- SEBASTIAN X
- プロフィール
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- SEBASTIAN X
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08年2月結成の男女4人組。08年8月に完全自主制作盤『LIFE VS LIFE』リリース。その後、09年11月6日に初の全国流通盤となる『ワンダフル・ワールド』をリリース。新世代的な独特の切り口と文学性が魅力のVo.永原真夏の歌詞と、ギターレスとは思えないどこか懐かしいけど新しい楽曲の世界観が話題に。そして、10年8月に2nd Mini Album『僕らのファンタジー』をリリース。
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