デザインが、「色と形の組み合わせ」という時代は、もうはるか昔。「デザインとは、コミュニケーションです!」なんていうのも、最近ではどこか使い古された感がある。じゃあ、デザインってなんだろう? その問いかけに、常に新たな答えを提示し続けるトップクリエイター、佐藤可士和と中村勇吾。一方は、企業から幼稚園までを手がける日本を代表するクリエイティブディレクター。もう一方は、数々の国内外の広告賞を受賞し、ウェブ業界ではもはや知らない者はいないデザイナー。ユニクロプロジェクトでの初タッグから、この2人の信頼関係はどのようにして生まれたのか? そして今、彼らが考える日本のものづくりの「強み」とは? 東京ミッドタウンの芝生広場で開催されるイベント『Cofesta PAO』で新作を発表する直前の2人に話を聞いた。
※『Cofesta PAO』は、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響によりPAO WEEK全プログラムの中止が発表されました。今回のインタビューは、3月10日に行われたものです。
最小限のエッセンスから生まれたユニクロのクリエイティブ
―お2人はユニクロのお仕事でご一緒されていますが、そもそもどういったきっかけで出会われたんですか?
佐藤:実はユニクロよりも前に、僕のサイトを勇吾さんに頼んだのがきっかけだったんです。5、6年前に香港で行われたデザインカンファレンスに一緒に行った時にはじめて知り合ったんですが、そこですごく盛り上がって。前から自分のウェブサイトをつくりたいと思っていたので、その場で勇吾さんにお願いしました。それから2年くらい経って「まだ完成していない」と(笑)
中村:蕎麦屋の出前みたいなものですね。「今やってます」といつも答えてます(笑)
佐藤:その後、ユニクロのプロジェクトが始まって「一緒にやりましょう」って誘ったら、「じゃあ可士和さんのサイトは後回しでいいですか」って(笑)
―ユニクロでは、どのようにして勇吾さんが参加されたのでしょう?
佐藤可士和
佐藤:もともとはユニクロがニューヨークにグローバル旗艦店をオープンするにあたってウェブをつくってもらうということだったんですが、はじめから勇吾さんにはもっと全体に関わってほしいと思っていたんです。そこで、「グローバルブランドとしてのトータルプロデュースをウェブでもやっていきましょう」と、柳井社長に提案しました。そうしたら勇吾さんはユニクロエクスプローラーの提案や、ティザーサイト(予告的に断片的な情報のみを公開したプレサイト)で僕のデザインしたロゴを動かすなど、想像以上に期待に応えてくれて。柳井社長も勇吾さんのプレゼンテーションには、けっこう驚かれたと思うんですよね。
―お2人が関わってから、特にウェブを起点にして、ユニクロのイメージが「安い服」から「お手軽だけどきちんとしているブランド」という風に変わりはじめたと思います。
佐藤:そうですね。ちょうどその頃から、ブランドイメージを変えていくのに、グローバル戦略としてウェブを活用するのはすごく効果的だなって思ったんです。当時2006年だったから、今以上にずっとウェブが新鮮だった。
―勇吾さんは可士和さんからお話があってから「こういう風にしていきたい」というイメージはあったんですか?
中村:可士和さんからは、本当にコアなエッセンスだけ頂きました。「美意識ある超合理性」というコンセプトと、それに関する簡単なテキスト。「こんな感じでやりたい」っていうのだけ送られてきたんです。あまり具体的なディレクションはなかったんですが、その言葉がスッと入ってきたんですね。
佐藤:なんかすごく乱暴そうだけど、すごくよく考えてるんですよ(笑)。考えた上で、最小限の言葉にして伝えるんです。クリエイターには色んなタイプやレベルがあると思いますが、勇吾さんは本当にコアな部分だけを伝えれば応えてくれる人なんです。コンセプトだけ見てわからなかったらもうダメで、具体的なデザインの指示をするようでは失敗なんですよね。
お互いが考える、「これだけはマネできない!」
―お互いに「これはマネできないな」というところがあれば教えてください。
中村:可士和さんは全体を見ていて、大づかみしながら本質をピュッと引き出せる人なんです。職業柄、デザイナーってディテールを見がちなんですけど、その対極にいる。それでいて勘どころを絶対逃さないんです。それはもう、絶対に真似できないですね。
中村勇吾
佐藤:勇吾さんは、構造を考える建築家っぽくもあるし、ビジュアルを考えるグラフィックデザイナーでもある。ちょうどその中間にいるような人で、このバランスが絶妙なんです。勇吾さんのことを初めて知った時、「プログラムを絵具みたいに使う人が初めて出てきた」と思いました。ウェブがこれだけ広まっても、そういう人は意外といそうでいないですよね。
―そんなお2人が新たにタッグを組んで、『CoFesta PAO』に出される作品はどのようなものなんですか?
佐藤:映像をつくるという話しだったんですが、普通にフィルムを回すような「映画的な映像」ではない作品をつくりたいと思って、勇吾さんをお誘いしました。
中村:(取材時は)今絶賛制作中ですが(笑)、LEDを使って、動く光の面のようなものをつくりたいと思っています。映像っていうよりも照明デザインと言えるような作品です。
―見に来た人が参加できるような仕組みなんでしょうか?
中村:そうですね、写真を素材にして「動くテクスチャー」を生成する作品です。ユーザーが写真を貼り付けて、あるアドレスにメールを送ると、自動的にその写真が素材になって照明になっていく、というものなんです。
佐藤:そういうアイデアを勇吾さんに投げたら、今度は「音楽をつくってくれ」と投げ返されました(笑)。
中村:あれこれ考えているうちに、音楽が大事だなと思って、「クリエイティブディレクター兼ギターってことでどうですか?」って言ってみたら、「お、じゃあスタジオいつ借りる?」という返答がすんなりもらえて(笑)。そうしたらさらに可士和さんのお子さんも飛び入り参加してくださって。
佐藤:そうなんです、うちの子がバイオリンとチェロで参加しました。
中村:2、3時間、楽器で思い思い遊んでみましたっていう音をサンプリングして音楽にしていきました。これがかなりかっこいいんですよ。
佐藤:そう、なかなかいけてるんですよ、これが。って自分で言うのもなんですけど(笑)
日本人は、ドカン! じゃなくて、ピシーっ!
―最後に、日本のものづくりのユニークな部分はどんなところにあるとお考えですか?
中村:日本人は、コンテンツそれ自体というよりは、文脈のつけ方が独特で面白いな、と思います。コンテンツの置き場所や、置き方を考えるという意味でのデザインがすごく上手いと思いますね。
佐藤:やっぱり日本人って、驚くほど繊細です。それは海外で仕事をすると特に強く感じるんです。「茶の湯」にしても強烈にデリケートなことを美意識の核にしていますし、味に対してもそうです。グラフィックデザインもやっぱり上手いですよ。ヨーロッパですら、もっと構図や色が大づかみですから。
中村:逆に言えば、大づかみできる力は海外の方が強いんですよね。
佐藤:そう、でもそれはごくごく限られた人たちなんです。日本は中間が厚いんですよ。アベレージ部分が強い。だから、そういう繊細さをもっと強みにできればいいなと思いますね。
―そういう繊細さは、なかなかアピールしにくいところなのかもしれませんね。
佐藤:この前、猪瀬直樹東京都副知事に聞いたんですけど、今日本の水道システムを世界に売り出しているんですよね。漏水率(ダムから蛇口に至るまでに水が漏れる確率)が日本は2〜3%だそうなんです。ヨーロッパでさえ30%、中東の方では70%とかなのに(笑)。それってもう、数字だけ見ても驚異的なことですよね。そうやって、ピシーっ! とできる国はあんまりないですよ。
中村:「iPhoneを開発する」みたいに、単体でドカン! としたものはつくれないけど、1つのメーカーで20種類の携帯をつくれる、みたいなことですかね。
佐藤:でも、アメリカ人全員がスティーブ・ジョブスなわけじゃない。日本はピシーっ! な人がめちゃくちゃ多いでしょう。そこがよくないっていう見方もあるけど、逆にそこが素晴らしいという文脈を見つけて、すごく強くて、ユニークな流れをつくっていきたいですね。
- プロフィール
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- 佐藤可士和
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1965年東京生。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年クリエイティブスタジオ「サムライ」設立。主な仕事は、ホンダステップワゴンなどのTVCF、スマップなどミュージシャンのアートワーク、「キリンラガービール」のパッケージデザインから広告キャンペーン、ユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクション、国立新美術館のシンボルマークとサイン計画、明治学院大学やふじようちえんのリニューアルプロジェクトなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリ、朝日広告賞、亀倉雄策賞、日本パッケージ大賞金賞ほか多数受賞。明治学院大学、多摩美術大学客員教授、東京ADC、東京TDC、JAGDA会員。
- 中村勇吾
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1970年奈良県生まれ。ウェブデザイナー/インターフェースデザイナー/映像ディレクター。東京大学大学院工学部卒業。多摩美術大学客員教授。1998年よりインタラクティブデザインの分野に携わる。2004年にデザインスタジオ「tha ltd.」を設立。以後、数多くのウェブサイトや映像のアートディレクション・デザイン・プログラミングの分野で横断/縦断的に活動を続けている。主な受賞に、カンヌ国際広告賞グランプリ、東京インタラクティブアワードグランプリ、TDC賞グランプリ、毎日デザイン賞など。
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