ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー

これは前回のROVOのインタビューでも書いたことだが、ROVOのこれまでの歩みは野外フェスの隆盛とシンクロし、ダンスミュージックを演奏するバンドが市民権を獲得していく流れとも見事に合致していた。しかし、00年代のダンスミュージックを演奏するバンドにとって、楽曲をクラブ仕様にしたリミックスがもはやセットであるのに対し、意外にもROVOはこれまで一度もリミックスを発表したことがない。これには、はっきりとした理由があり、昨年リリースの傑作『RAVO』を再構築した新作『RAVO DUB』の「DUB」というワードに、その理由がはっきりと反映されているのだ。今年はZAZEN BOYSと七尾旅人を迎えて開催される、恒例の『MDT Festival 2011』の開催を控えたROVOから、今回は勝井祐二と共に、シンセサイザーの演奏から、ミックス・マスタリングまでを手がける益子樹を迎え、スタジオワークに対するこだわりをじっくりと語ってもらった。

裏メニューとして「こういうのもありますよ」っていうことじゃなくて、これは本来僕らにあった側面なんです。

―まずは、今回ダブアルバムを作ろうと思った経緯から教えてください。

勝井:こういう作品を作りたかったんですよ。『imago』とか『PICO!』とか、すごい初期の作品ではやってたんですけど、あの作り方は今だとなかなかやりづらいんです。ていうのは、ライブをやってるとライブでどんどん新しい曲ができてきて、どうしてもそれを形にする作業が幹になるので。それで『RAVO』でスタジオワークを色々試みたんですけど、今回はもっと極端なことをしたかったんです。

―ライブの再現性とかってことはまったく考えずに?

勝井:うん、それでダブアルバムを作ろうと。オリジナルのテキストがあって、それを違った読み方をするっていうのが面白いんじゃないかって。

―じゃあ、元々やりたいと思ってたことが、今回やっとやれたわけですね。

勝井:でも、思いついたのは『RAVO』を出してからなんですよ。『RAVO』っていうオリジナルテキストが納得のいく出来だったというか、強い作品ができたので。元がはっきりしてないと、再構築するにも迷いが出ちゃうんだけど、今回はすごく自然に発想できて。

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー
勝井祐二

―「DUB」っていう言葉は意識的に用いてるわけですよね?

勝井:僕らでダブっていうと、レゲエのダブじゃなくて、例えば、1978年ぐらいのイギリスのポストパンクの流れで、レゲエとロックが出会った中で生まれた作品とかからのインスパイアがすごくあるんですね。

―インスパイアされた作品やアーティストを具体的に言うと、どんな名前が挙がりますか?

勝井:アンディ・パートリッジの『Take Away』とか、スリッツの『Cut』、ポップグループの『Y』とか、ああいう異化作用っていうか、普通の次元と違った音楽の成り立ち方ですね。そういう志向って実は1番最初からあって、元々そういう作品を作るっていうことが(ROVOの)出発点だったんだけど、ライブバンドっていう側面がすごく大きなものになっていってたんです。

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー

―ライブバンドっていうイメージがつき過ぎちゃっていた?

勝井:いや、自分たちのライブバンドっていうイメージに対して、何か違う表現をしようっていうことではなくて、スタジオワークで作品を作ることが元々好きだったんです。ライブバンドはライブバンドなんですよ。紛れもなくライブバンドだし、ダンスミュージックを演奏してるバンドなんです。ただ一方でスタジオワークっていうのを極端な形で表現する作品がしばらくなかったので、すごくやりたかったんです。

―元々内包していたものが出てきたわけですね。

勝井:そう、裏メニューとして「こういうのもありますよ」っていうことじゃなくて、これは本来僕らにあった側面なんです。

2/4ページ:僕ら今まで人にリミックスをしてもらいたいと思ったことは一度もないですからね。

1回モノトーンにしてみて、その白黒の世界にどういう色をつけていこうか考えるって感じですね。

―では、実際の制作はどのように進められたのですか?

勝井:聴いてもらえればわかると思うんですけど、ギターとバイオリンがほとんど使われてないんですよ。オリジナルテキストである『RAVO』の曲を成立させてるそういった要素を1回外してみて、それ以外で聴いてみる。ドラムだけ、ベースだけ、そういうところから始めますね。

―例えば、1曲目の“TANGER DUB”は、すごくリズムの展開が多い曲ですよね。

勝井:“TANGER”みたいに、すごく展開の多い、リズムの変化が多い曲を、オリジナルの時間軸に沿ってダブ・バージョンを作るのって、結構難しいんです。なぜかっていうと、ギターとかバイオリンっていう、曲の変化を成立させてる楽器を省いて作ろうとしてるわけだから、変化する必然性がわかんなくなってくるんですよ。「あれ? 俺たちなんでこんなことしてんの?」って(笑)。

―(笑)。

益子:色彩で言ったら、1回モノトーンにしてみて、その白黒の世界にどういう色をつけていこうか考えるって感じですね。もちろん、ドラムもベースもパーカッションも、それはそれで色彩豊かなんですけど、全体の色合いからいくつか色を抜いていって、どんな色で見せるのが面白いかをもう1回考えるっていう作業だと思うんです。

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー
益子樹

―なるほど。

益子:あとはさっき言った時間軸に沿った状態で作業をするのが有効な曲か、それとも、ある一部を抜粋するか。つまりは、ダブミックスじゃなくて、リミックス的な作業が向いてる曲かどうかの判断から始めるって感じです。

勝井:リミックスとダブはベクトルが全然違うと思うんですね。リミックスは、音を素材として扱って再構築するわけで、もちろんリミックス的な手法で作ってる曲もあるんだけど、今回は元々ある曲を違う読み方をするっていう意識の方が強い。どっちかって言うとレゲエのダブに近くて、もっと言うと、さっき言ったようなポストパンクの発想に近い。

―異化作用ということですよね。

勝井:あれらはもう30年以上前の作品ですけど、聴いたときの衝撃は今でもすごくあって、僕と山本さんはそれをすごく共有してると思うんです。ダブアルバムを作るっていうのを僕が考えて、「じゃあ、振り分けてやりましょう」って山本さんに言ったら、「僕はこういう作業はプロだから任せてくれ。むしろ本職だ」って言ってて(笑)。

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー

僕ら今まで人にリミックスをしてもらいたいと思ったことは一度もないですからね。

―リミックスとダブを、かなり明確に線引きしていらっしゃるんですね。

勝井:リミックスって、元々はロックとかポップスの曲を、クラブでかけるようなダンスビートの曲にするために、元々の素材にビートを追加する、みたいのが多かったじゃないですか? そうじゃなくて、素材の読み解き方の立脚点を変える、違う次元の表現をするっていうことを僕らは意識してるんですよね。

―ロックの曲にただ四つ打ちを合わせて、「リミックス」って言ってるようなのも未だにありますからね。それとは大きく異なりますよね。

勝井:リミックスのCDとかほとんど興味ないし、聴かないですね。僕ら今まで人にリミックスをしてもらいたいと思ったことは一度もないですからね。

―ああ、そう言われると、確かにROVOのリミックスってないですよね。意外ですけど、話を聞いて納得です。じゃあ、さらにお聞きすると、レゲエのダブと今回のダブの違いっていうのを、リミックスとの違い同様に説明していただけませんか?

勝井:俺レゲエの人じゃないからレゲエのことは簡単には言えないけど…レゲエのダブって元々シングルのB面じゃないですか? シングルのB面のカラオケを、どう面白く聴かせるかっていう発想ですよね。

益子:あったもの(歌)がない状態から始めるっていうのが、ダブ的な発想だと思うんです。レゲエのシングルにしても、カラオケっていうのはメインのメロディっていう主軸がないわけですから、それをどう面白くするかっていう発想は、今回僕らがやったことに近いと思うんですよね。

3/4ページ:優劣はなくて、あるとしたら、誰と一緒にやるか。

極端なことを言えば、ステージに上がらなくてもいいし。どこで誰が何をやってるかは関係なくて、音だけ出てればいいと俺は思ってて。

―では、ちょっと話題を変えて、益子さんは砂原良徳さんの新作のミックスとマスタリングを手がけられてますよね。先日砂原さんに取材させていただいて印象的だったのが、昔は音楽のトレンドに対するリアクションで音楽を作っていたけど、今は現実の世界で起きていることに対するリアクションで音楽を作っているっていう話だったんですね。この話をROVOに当てはめるといかがですか?

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー

勝井:どうして自分が音を出すのか、どうしてこれをやるのかっていうのは、目の前のことすべてが影響しますよね。特に僕らは野外で演奏することが多いから感じることですけど、会場によって、天気も空気も温度も湿度も毎回違うんですね。それはすごく僕らに影響を与えてますね。

益子:「場」っていうか、曲を作って、演奏するっていうのは、自分の中の出来事を発表するっていうことに変わりはないのかもしれないけど、でも、その場で上手く機能するかっていうのを大きな要素として考えてるっていうか、独りよがりじゃないっていうか(笑)。

勝井:ただ「自分を見てくれ」って、こっちから発信するだけじゃないっていう。

益子:極端なことを言えば、ステージに上がらなくてもいいんです。どこで誰が何をやってるかは関係なくて、音だけ出てればいいと俺は思ってて。

勝井:だからROVOの最初のライブのときに、「俺たちに照明なんか当てなくてもいい」、「見えなくてもいい」って言ってやったら、真っ暗で、すごく演奏しづらくて(笑)。

―(笑)。それが今は映像や照明を見事に使っているわけですよね。

勝井:映像の演出を積極的にやろうと思ったのも、要はそういうことなんです。「俺を見てくれ」みたいなことじゃないわけ。でも、ステージに出て演奏するっていうことになってるから、どういう風にステージだけじゃなくて、全体を使ってそこにいる人たちと空間を共有するかって考えたときに、映像表現と一緒にステージを作っていくっていうことを考えたんです。

―なるほど。

勝井:バンドを結成して15年経つけど、やってることはホント変わんないんですよ。もちろん、曲は新しいものをやるけど、基本線はほとんど変わってないんです。照明なんて要らないって言ったら真っ暗で演奏しづらかった、じゃあ次はもうちょっと考えないとっていうのの延長で今の映像演出が成り立ってるんです。

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー

優劣はなくて、あるとしたら、誰と一緒にやるか。

―これは益子さんにお聞きしたくて、前回の取材で勝井さんと山本さんにもお聞きしたことなんですけど、ROVOっていわゆる運命共同体的なバンドではなくて、メンバーそれぞれが多彩な活動をされてますよね? 益子さんも色々な活動をされていますが、その中でROVOというバンドが益子さんにとってどういった意味を持つバンドなのかを教えていただきたいのですが。

益子:難しい質問ですね…あんまりそういう考え方でバンドに接してないかもしれないですね。演奏するっていうことは日常生活とはちょっと違うかもしれないけど、演奏することに対する自分の中での必然性はあるので、ROVOだからどうっていう特殊な意識は全然なくて。ROVOに限らず何でもそうなんですけど、その場でできることをやるっていう。そのうちのひとつっていうと軽く聞こえるかもしれないですけど、もちろん大切な場所ではあるんです。ただ15年もやってるからかもしれないですけど、特別な意識はないんですよね。

―もちろん、優劣もないと。

益子:優劣はなくて、あるとしたら、誰と一緒にやるか。ROVOっていうバンドが場においてどう機能するかを考えてるっていうのと似てて、自分がやりたいことを人に合わせるとか、譲るとかって意味じゃなくて、その人たちとどうすればいい状態で共存できるかっていうことを考えて音を出す、その感覚が1番通じやすい場所ではあると思います。そういう意味では特殊かもしれないですね。

4/4ページ:野音の対バンをお願いする人は1年中考えてますからね。

野音の対バンをお願いする人は1年中考えてますからね。

―恒例の日比谷野音での『MDT Festival 2011』が近づいてきました。今年もZAZEN BOYSと七尾旅人という非常に面白い組み合わせになりましたね。

勝井:ひとつ決めてるのは、そのアクトのライブを自分で見て、この人とやりたいって思った人にしか声をかけないっていうこと。決めてるっていうか、そうしかできないですよね。ライブを見てない人と一緒にやろうとは思えないから。七尾旅人とZAZEN BOYSはもちろん前から知ってますけど、僕は去年の『ライジングサン』で両方のアクトを見れて、一緒にやりたいと思いました。

―それぞれに選んだポイントとかってあるんですか?

勝井:…かっこいい音楽だからじゃないですかね(笑)。説明しづらいんだけど、組み合わせのタイミングってあって、「旅人、ザゼン、ROVO…あ、バッチリだな」って思ったんですよ。

益子:ザゼンも旅人も手法は違うかもしれないけど、時間の流れっていうか、そういうのをすごく大事にしてる人たちだと思って、そこは共通してると思いますね。ただ曲をやる、ただ音を出すってことじゃなくて、すごく流れを大事にしてる。その意味を考えて音を出してる人たちだと思うんで、それがあるとないとはセレクトする中で大きいかもしれないですね。

勝井:野音の対バンをお願いする人は1年中考えてますからね。去年はキセルとenvyとやってホントに最高だったんですけど、打ち上げでもう「来年どうしようか?」って話してましたからね(笑)。

ROVO(勝井祐二・益子樹) インタビュー

―早いですねえ(笑)。

勝井:いや、本番前の楽屋で話してたかも。今年の花見する前に来年の花見を心配するみたいな(笑)。でも、もちろん、ずっといろんなことを考えてて、野音は1年の中でアクションとしては1番大きいですけど、それだけじゃないですからね。今年もアルバム1枚分くらいの新曲を作ってて、「さあ、新曲まとめてやろう」と思った日が、3月11日の横浜THUMBS UPだったんで、震災の影響でできなかったんですよ。それは5月のツアーから試していこうと思ってます。あとは秋に大きな計画があって、それは野音で発表できると思うので、楽しみにしていてください。

リリース情報
ROVO
『RAVO DUB』

2011年4月27日タワーレコード限定発売
価格:2,415円(税込)
WRCD-49

1. TANGER DUB
2. ECLIPSE DUB
3. BAAL DUB
4. RMDUB
5. SINO+DUB

イベント情報
ROVO presents
『MDT FESTIVAL 2011』

2011年5月22日(日)
会場:東京都 日比谷野外音楽堂

出演:
ROVO
ZAZEN BOYS
七尾旅人

料金:前売4,500円


『ROVO TOUR 2011』

2011年5月13日(金)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:愛知県 名古屋 TOKUZO
出演:ROVO
VJ:迫田悠
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

2011年5月14日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪府 梅田 Shangri-La
出演:
ROVO
sgt.
Nabowa
料金:前売3,800円 当日4,300円(ドリンク別)

2011年5月15日(日)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 磔磔
出演:ROVO
VJ:迫田悠
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

プロフィール
ROVO

勝井祐二(Vln)、山本精一(Gt)、芳垣安洋 (Dr,Per)、岡部洋一(Dr,Per)、原田仁(Ba)、益子樹(Syn)。「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と、勝井祐二と山本精一を中心に結成。バンドサウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた。『フジロック・フェスティバル』『ライジングサン・ロックフェスティバル』『メタモルフォーゼ』『朝霧JAM』など、大型フェス/野外パーティーにヘッドライナーとして連続出演。国内外で幅広い音楽ファンから絶大な信頼と熱狂的な人気を集める、唯一無二のダンスミュージックバンド。



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