「伝える」ための試行錯誤 MASTERLINKインタビュー

昨年メジャーデビューを果たし、「エレクトロの新星」と呼ばれるMASTERLINKが、早くも大きな分岐点を迎えている。焦点はズバリ「MASTERLINK=エレクトロでいいのか?」。そもそも、MASTERLINKはラップやラウドロック、UKロックなど様々な音楽的変遷を経て、エレクトロへとたどり着いたタイミングでデビューを飾ったバンドである。よってエレクトロ以外の音楽性にも興味があるのは当然であり、さらに大事なのは、彼らが音楽を作る上で重視しているのが「人の心を動かすこと」「気持ちを伝えること」だということだ。その手法として、はたしてエレクトロは適しているのか? それが今の彼らの最大の課題なのである。第三者の視点を取り入れることで、自らのイメージを再確認した新作『Confusion E.P』のリリース、3年ぶりに再開されるライブ活動を経て、彼らがどんな決断を下すのか? 初のメンバー全員インタビューで、バンドの現在地を語ってもらった。

エレクトロなのか、ロックなのか、大きな選択を迫られることになる。(NARU)

―昨年、念願だったメジャーデビューを果たして、これまでの集大成とも言うべきアルバムを発表しました。それによって、周囲の状況であったり、自分たちの中でのモチベーションであったりに変化はありましたか?

NARU(Vo):やっとひとつ区切りがついてすっきりした部分はあって、「今後こうすればいいかな」っていうビジョンが見えてきましたね。アルバムにはエレクトロ寄りな曲がいっぱいあって、ロックな曲も何曲かあって、バリエーションに富んでることがいい風に転がればいいなって思ってたんですけど、逆にひとつを突き詰めていきたいというか、「うちらはこういう音楽をやってる」っていう代名詞的なものがひとつ見つけられたらもっといいなっていうのがあって。

―今のところはエレクトロが代名詞になってると思うけど?

NARU:エレクトロなのか、ロックなのか、大きな選択を迫られることになると思うんですけど、それはライブをやりつつ、お客さんの反応だったり、ライブで表現するにはどういった曲がいいのかっていうところを突き詰めていったら、答えが出るのかもしれない。アルバムを出して感じたのはそれですね。ひとつの部分に絞って追求したいなって。

―でも、新作の『Confusion E.P』は、アルバム同様に曲のバリエーションがありますよね?

NARU:そうですね。今回は“20110110”以外は過去の曲のリアレンジだったりして、“INSIDE MY HEART”なんて、曲作りやり始めて何曲目かっていうぐらい前の曲だったりするんです。アルバムで一通りやりたいことができたといっても、まだ過去の曲でリアレンジして出したい曲があったんで。



―“Confusion”のサウンド・プロデューサーには★STAR GUiTARを迎えてますね。

NARU:第三者がうちらをどういう風に見て、どういうアレンジをするかっていうのを聴いてみたかったんですよね。だから今回は、デザインワークにも自分は口を挟まずに、第三者がMASTERLINKの曲を聴いてイメージするグラフィックがどんなものか見てみたくて、すべてお任せしたんです。そうすることで、第三者から見た自分たちのイメージを確認したくて。

2/4ページ:どうしたらもっと人にこの気持ちが伝わるんだろうっていう、それを考えて作っていきたい。(NARU)

どうしたらもっと人にこの気持ちが伝わるんだろうっていう、それを考えて作っていきたい。(NARU)

―アルバムを出して、「こうなって欲しい、こうなるかも」っていう自分たちの想像と、実際のリアクションに差はありましたか?

NARU:どっちかって言うと、自分たちが思っていたのとは違うことが、良くも悪くも起きたかなって。自分たちのイメージが、自分たちが想像していたものと若干違うのかなって感じたのは大きいかもしれない。「MASTERLINK=エレクトロ」になりつつあって、そこは自分たちの思惑とはちょっと違って。

―シングルではそういうイメージを打ち出しつつも、アルバムは「それだけじゃない」っていう全体像を打ち出した作品だったと思うんですよね。でもシングルでついたイメージは予想以上に強かった?

NARU:そうでしょうね。「ジャンル・エレクトロ」みたいなのができあがりつつあって、そこを突き詰めてもいいのかもしれないけど、イコールにされちゃうと逆に違うことをやりたくなっちゃうっていう反発精神もあったりして(笑)。

―僕もそれ、心配してたんですよ。これまでのMASTERLINKの音楽的な変遷を考えると、そろそろNARUさんが「エレクトロ飽きた」って言い出すんじゃないかって。

NARU:もう言ってますね(笑)。

KOJI(Ba):うちらは昔からジャンルにこだわるつもりはなかったしね。昔はもうちょっと自然に「こういう音がかっこいい」って思ったのをやってたんで…そこはちょっと迷ってるよね?

NARU:はたしてエレクトロは人の心を動かせるのか、エレクトロで泣けるのかっていう、そこがネックになってて。「かっこいい」って言われるのは褒め言葉だし、それで納得してもいいのかもしれないけど、何も伝わってない気もしちゃって。実際歌詞は生々しい歌詞で、思いを入れてたりするんですけど、それがエレクトロに乗ると途端にダンスで陽気だなって世界に行ってしまうっていうのが、若干寂しいなって。それで生々しさを突き詰めると、「やっぱりロックなんじゃねえか」って思ったり、そこに迷いはあるんですよね。

―もしかしたらエレクトロをもっと突き詰めれば人の心を動かせるかもしれないし、やっぱりロックの方がいいかもしれない。そこはまだ模索中だと。

NARU:ロックにしろ、エレクトロにしろ、その融合にしろ、どうしたらもっと人にこの気持ちが伝わるんだろうっていう、それを考えて作っていきたいなっていうのがあるんですよね。

「ダンスミュージックって何だ?」っていう、そこから入らないといけないですよね。(NARU)

―MASTERLINKのみなさんは出自はロック寄りだと思うんですけど、クラブに行ったりとかはするんですか?

NARU:クラブは1回しか行ったことないです。DJが何をやってるのかも知らないです(笑)。

―そういうのには興味ない?

NARU:うるさいのが嫌いなんで(笑)。特にずっと四つ打ちだと眠たくなってきちゃう…だから、「ダンスミュージックって何だ?」っていう、そこから入らないといけないですよね。ダンスとかエレクトロっていうのがカジュアルになり過ぎてて、ただかっこいいジャンルとして捉えられているだけで、人の心に届いてるわけではないのかなって思ったりもして。ロックってやっぱり気持ちが伝えやすいと思うんですよ。感情をヴェロシティ(=抑揚)に表しやすいっていう、ギターをガツンって弾けば、何かに怒ってるとか、気持ちが入ってるっていうのが、見た目でもサウンドでもわかるんですけど、エレクトロだと音を重ね合わせるしかないので、その人の顔が見えない…それがかっこいいのかもしれないけど(笑)。

―★STAR GUiTARがサウンドプロデュースした“Confusion”は現場感があるというか、フロア対応になってて、やっぱり低音と共にダンスミュージックを楽しむ良さはあると思うんですよ。それこそ、ハウスとかって感情むき出しで泣きながら踊るみたいなところもあるし、もっとロック寄りで、わかりやすく言っちゃうと、Underworldが“Born Slippy”かけたら泣けるじゃないですか?

NARU:そこは謎なんですよ。“Born Slippy”は泣けるんです。

―(笑)。何にしろ、MASTERLINKの音楽にとって「泣ける」っていうのは重要なファクターだと。

NARU:そうですね。せつなさがうちらの一番重要なパーツなので、手法がロックであろうとエレクトロであろうと、それを追及できるサウンドはどれなんだろうなって。

―ちなみに、まだ答えは出てないと思うんですけど、現時点ではどういう音楽が人の心を動かすと思ってますか?

NARU:OASISが泣けます。

―(笑)。KOJIさんは?

KOJI:OASISです。

NARU:最近一緒に曲作ってるんで(笑)。

―じゃあ、OASISは何で泣けるんでしょう?

KOJI:やっぱ歌詞と、せつないコード進行と、歌い方だと思います。

―でも、それだったらエレクトロでもいいんじゃないですか?

NARU:人間味溢れる、そのバンドならではの抑揚と、ギターが「ここでこう来るよね」「気持ちが高ぶってソロ来た~!」みたいな、それはバンドをやってるからわかるんです。「泣きのギター来た! やられた!」っていう、「やられた感」が欲しいんです(笑)。

―じゃあ、YASUさんはどうですか? 人の心を動かす音楽というと。

YASU(Dr):まあ、OASISは大好物なんで…

―やっぱり(笑)。

YASU:でも、どんなジャンルでもNARUはホントにいい曲書くんで、それに対して自分はリズム・アプローチを常に考えるって感じですね。

3/4ページ:広い人に伝えるっていうよりは、身近な人に伝える歌詞が多いんですよね、実は。(KOJI)

日本にいるから逆にわかんなくなっちゃうんですよね。(NARU)

―「泣ける」「伝わる」っていう話をもう少し続けると、言語の問題もあると思うんですよね。MASTERLINKの歌詞は基本的に英語ですが、そこに関してはどうお考えですか?

NARU:もちろん、一般的に聴いてくれる人に伝えるのは日本語の方が100%いいと思うんですけど、自分が英語をわかってしまうから、英語で言って「何でわかんねえんだ?」っていう思いがあったりして。すごく簡単な英語を使ってても、なかなか伝わらないのが残念なんですよね。まあ今後の展開的に、日本で売れたらいいなっていうのはもちろんあるんですけど、海外の人が…っていうと欧米を思い出すんですけど、タイとか、アジアの方から結構Twitterでコメントもらったりするんですよ。そこに届けるためにも、共通言語は英語なので…

―ベーシックはあくまで英語だと。

NARU:世界的なヒットが欲しいって夢を見てるだけなんですけどね(笑)。日本にいると日本が中心で、それをスタンダードだと思いがちなんですけど、アメリカに行くと日本の位置も知らなければ、いまだにサムライがいると思われてるぐらいなので、確実に英語でやる必要性はあると思うんですよね。

―やっぱり目線が世界なんですね。アジアであり、欧米であり。

NARU:でも、そこを考えると、クラブミュージックに行かざるを得ないんじゃないかってジレンマもあるんですよ。

―あー、確かにクラブミュージックだったら、それこそヨーロッパでも日本人が活躍してるからね。

NARU:先鋭的な、最新のクラブミュージックをやるべきなのか、それとも日本で日本人に伝わるロックをやるべきなのかっていう。かっこいいものを突き詰めた方が広がりはでかいかもしれないけど、実際問題それだけだと日本では難しいと思うし。そうやって、日本にいるから逆にわかんなくなっちゃうんですよね。海外にでも行けば、また違ったビジョンが見えてくると思うんですけど。

広い人に伝えるっていうよりは、身近な人に伝える歌詞が多いんですよね、実は。(KOJI)

― 新作に入ってる“INSIDE MY HEART”は唯一の日本語詞で、女性のゲストボーカルが参加してますね。

NARU:KOJIと2人でラップをやってた頃から、2MCと女性ボーカルっていうスタイルでやりたかったんで、その頃作ってた曲でもあるし、最初にやりたかったことを何年かかけて作品として出したってだけなんで、全然違和感はなくて。

―自分が歌うことに対するこだわりはない?

NARU:そうですね。自分が歌いたいと思ってはじめたわけじゃなくて、作品として、CD屋に並びたかったっていう、その気持ちだけでやってきてて。何かしら自分の手が加わっていれば、誰が歌おうが、誰がプレイしようが、それは特に大きな問題ではないというか。

―この曲だけ日本語詞であることに、何か理由はありますか?

NARU:自分で日本語を歌うとすると、「こういう風には歌いたくない」っていうルールができてしまっていて、それを女性ボーカルに委ねれば、わりと自由に歌詞を組み立てられるっていうのがわかってるんです。今後日本語で気持ちを伝えるっていう部分では、女性ボーカルを迎えてやる手法はもっと出てくる機会があるかと。

―「こういう風には歌いたくない」っていうルールは、どんなルールなんですか?

NARU:感情をあやふやにするというか、そんなに生々しくもないけど、そんなに抽象的でもない、ちょうどいいバランスでしか歌いたくなくて。恋愛ともとれるし、人生ともとれるような、ぼかしちゃう傾向があるんですけど、女性ボーカルにすると、自分の素直な気持ちが反映できるんです。自分で歌わない分、照れがないんで。

―自分の経験を直接的に反映させてるからこそ、人にも伝わる音楽になるっていう部分はありますよね。

NARU:そうですね。全部歌詞は事実っていうか、リアルな歌詞になってると思います。素直な自分の気持ちを書いてはいるので。

―歌詞についてメンバー間で話したりしますか?

KOJI:思ったことがあれば言うんですけど、結構そのときの感情を歌ってることが多いから、「歌詞できたよ」って見せてもらったら、「ああ、こういうことね」ってわかるんですよね。別にそれに対して、ああだこうだ言いたくはないし。だから、広い人に伝えるっていうよりは、身近な人に伝える歌詞が多いんですよ、実は。それをその人がわかってるかどうかはわかんないですけど。

4/4ページ:目標を決めて、そこに向かって進んでるっていう実感は大事ですね。(NARU)

目標を決めて、そこに向かって進んでるっていう実感は大事ですね。(NARU)

―いよいよ7月末からライブ活動再開ですね。何年ぶりですか?

NARU:MASTERLINKとしてやるのは3年ぶりですね。

―人に伝わる音楽を模索するにあたって、ライブからのフィードバックっていうのは大きいでしょうね。

NARU:ライブだと直に伝わってるか伝わってないかわかりますからね。今回はエレクトロを中心にするので伝わりきらない部分があるかもしれないけど、VJも入れたりして、まずは音楽を楽しんでもらうっていうのが一番です。MASTERLINKはこんな音楽をやってて、こういう表現をしてますっていう、名刺代わりのライブだと思うんで、そこはしっかりやっていきたいなって。

―YASUさん、ひさびさのライブに向けていかがですか?

YASU:超楽しみ! 「ライブやらないの?」って周りからも言われてたんで、「待ってろ!」と…まあ、緊張もしてますけどね(笑)。

―3年ぶりですもんね(笑)。『Confusion E.P』は古めの曲が中心でしたが、今後はライブのフィードバックも取り入れつつ、新曲を作っていく感じですか?

NARU:そうですね。予想だとライブ感の強い作品になると思うんですけど、ライブ感がありつつ、全然違った曲調でやると思います。「エレクトロは?」って思われちゃう曲もあるかもしれないけど、それでもいいかなって。

―じゃあ、最後にお聞きすると、今日何度も話に出てきてる「人に伝わる音楽を作りたい」っていう考えは、これまで自分がそういう音楽の力で助けられてきたからなのでしょうか?

NARU:助けられたことはないんですけど…逃げ道ではあったんです。山あり谷ありある中で、爆音で音楽を聴いてると嫌なこと忘れられたりしますよね。

―「弱ってるときにこれ聴いちゃう」とかあります?

NARU:GReeeeNですかね(笑)。聴くっていうか、流れてるのが聴こえてきちゃって、「いいこと言ってんなあ」って(笑)。

KOJI:自分が落ち込んでるときとかって、普通は元気がいい曲を聴いたりするかもしれないけど、僕って逆に暗い曲聴いたりしちゃうんですよね。wyolicaが好きなんですけど、ああいう曲ばっかり聴いてます。

―ああ、でもそれもわかります。YASUさんは?

YASU:自分は中学生のころ引きこもってて、その頃にSKID ROWとか、L.A.Gunsに出会って、そこから音楽にどっぷり入って行きましたね。音楽は…素晴らしいものです(笑)。

―ですよね(笑)。MASTERLINKはちゃんと自分たちの将来像を考えてて、そこに向けて着実に動いてるバンドだなって今日話して改めて思いました。

NARU:ありがとうございます。そこを見てないと不安でね、やってられないですからね(笑)。目標を決めて、そこに向かって進んでるっていう実感は大事ですね。

リリース情報
MASTERLINK
『Confusion E.P』

2011年8月3日発売
価格:1,260円(税込)
JBCP-4006

1. Confusion
2. Always wanna be
3. INSIDE MY HEART
4. 20110110

プロフィール
MASTERLINK

2002年結成、NARU(Vo,Gt,Pr.)、KOJI(Ba)、YASU(Dr)からなる3ピースバンド。2010年6月、デビュー。ロックという枠にとらわれず、PUNK、HIP HOP、ELECTRO、CLASSIC等、幅広いサウンドルーツを持ち、打ち込みを取り入れた先鋭的なサウンド、UK、USから影響を受けた洋楽テイスト溢れるメロディ、海外在住経験のあるNARUの英語と日本語で歌う親近感のあるリリックが特徴。デジタルとアナログが融合した人肌を感じるエレクトロサウンドが独自の音楽世界を創る。



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