2000年代の初頭に海外で起こった、いわゆる「ロックンロール・リバイバル」とは、単に音楽的な揺り戻しではなく、思想やファッションなども含んだ、ユースカルチャーとしてのロックンロールの復権だった。その影響が日本でも表れはじめたのは2000年代後半、近年ではTHE BAWDIES、毛皮のマリーズらが相次いでメジャーデビューを果たし、ロックンロールを取り巻く状況は間違いなく盛り上がりを見せている。そんな状況をさらに押し進めるであろう期待の新人が、山形出身の5人組THE BOHEMIANSだ。
UKのロックンロールバンドの系譜を受け継ぎながらも、THE HIGH−LOWSやスピッツといった日本のバンドも愛する彼らは、ユースカルチャーとしてのロックンロールをより日本に広める可能性を持っている。特に、メジャーデビュー作のタイトル『憧れられたい』が示すように、自らをアイドルと認識し、お茶の間へと入っていく覚悟を持っていることは、他のロックンロールバンドとの大きな違いと言えよう。そんなバンドの姿には、最高のロックンロールバンドであり、最強のアイドルでもあった、かつてのチェッカーズを重ねずにはいられないのだ。それでは、山形のミック&キース、ヒロト&マーシー、いや、あえてフミヤ&尚之と呼びたいTHE BOHEMIANSのフロントマン、平田ぱんだとビートりょうの第一声に耳を傾けてみよう。
平田くんと出会ってバンドやることになったとき、「俺キースで、お前ミックな」って…一瞬言ったよね。
―今の時期はいろんなところで聞かれてるとは思うんだけど、まずは結成の経緯から教えてください。
平田:…(りょうに)どれでいこっか?
―いろいろあるんだ(笑)。
平田:いろいろ用意はしてて、インタビューによって使い分けようと思ってたんですけど…結局ホントのことしか言ってないです。嘘がつけない(笑)。
―プロフィールによると、美大で平田くんとりょうくんが出会ったんだよね?
平田:この人(りょう)が学校の自己紹介で「古いロックが好きです」って言ってたんですよ。それでこの人の家に行ったら、雑誌でしか見たことのないCDがいっぱいあったし、あとブルースギターを弾ける人に出会ったのが初めてだったんで、それが鬼のようにかっこよくて。それで「バンドやろうぜ」って言ったんですけど、それから3年ぐらい何もやれなかった。周りに、この人と俺しかまともな人がいなくて。
平田ぱんだ
―実際にTHE BOHEMIANSを結成したのはいつなんですか?
平田:学祭のステージに立ちたくて、かろうじて趣味が合いそうなガレージ好きと1回だけライブをやってるんですけど、それが21歳とかで、THE BOHEMIANSを組んだのが22歳かな。
―りょうくんはいつから音楽に興味を持ってたの?
ビートりょう
りょう:元々は中学から吹奏楽をやってました。バンドはコピーバンドぐらいしかやってなかったんですけど、高校のときにMTRにドラムとかベースを録音して、それを持って1人でステージに立ったことはあります。しかも、やったのがSex Pistolsの“ANARCHY IN THE UK”で(笑)。
―それを1人で(笑)。ギターリストになったのは?
りょう:平田くんと出会ってバンドやることになったとき、「俺キースで、お前ミックな」って…一瞬言ったよね。
平田:俺は恥ずかしくって「ボーカルやる」って言えなくて、「ベースやる」って言いましたけどね。俺がボーカルとかありえないと思って。
―意外にですね。自分は花形じゃないと思ってたんですか?
平田:「スターになってやる」みたいな気持ちは、その頃はまったくなくて。
りょう:逆に、自分は小学校でスピッツを聴いてから音楽にのめりこんだんですけど、その頃からミュージシャンになりたいってぼんやり思ってて、草野マサムネさんみたいにアコギ持って歌いたいと思ってました。
平田:バンドメンバー5人ともスピッツが音楽の目覚めなんですよ。
―もっとUKロック原理主義的な人たちかと思ってたけど、そうでもないんですね。
平田:俺はスピッツが音楽の目覚めで、ロックンロールを教えてくれたのがTHE HIGH-LOWSですね。
りょう:僕はスピッツ以降は古い音楽しかダメでした。THE STORKESとかを平田くんから教えてもらったんですけど、好きになるまでにはブランクがあって。最近この人に言われて思い出したんですけど、「ギターにブルース色のないこんな音楽はクソだ」って言ってたみたいです(笑)。
何でもロックンロールって言ったらロックンロールの一部になるじゃないですか? それはロックンロール自体に意味がないからですよ。
―平田くんは昔は「俺がスターになってやる」とは思っていなかったという話ですが、それが切り替わったのはいつなんですか?
平田:THE HIGH-LOWSが解散したときに、「これは俺が代わりをやらなくちゃって意味だ」って勘違いしたっていう…インタビュー用のエピソードがあるんですけど(笑)。
―インタビュー用って(笑)。
平田:多分そう思ったんです。正確にどう思ってたかはぶっちゃけ覚えてないんですけど、「そうだった」ってことにしたんです、最近。過去ってそうやって改ざんしていくべきだと思って。
りょう:でも、すごいショック受けてたよね、解散したとき。
平田:めっちゃショックだった。叫んじゃったもん。
―それぐらいTHE HIGH-LOWSの存在はでかかったんだ。
平田:でかかったです。あれがロックンロールですよ。世界最高のバンドです。
―そもそもロックンロールっていうものにここまで魅せられたのは何でなんだろうね?
平田:意味がないからじゃないですか? 何でもロックンロールって言ったらロックンロールの一部になるじゃないですか? それはロックンロール自体に意味がないからですよ。衝撃とか加速でしかない。ロックンロールって単語として最強の言葉ですよ。
人が先行してない音楽は、音楽であってもロックンロールではないですね。
―確かに。そういう意味でもTHE HIGH-LOWSって「ミサイル」とか意味のないことしか言ってなかったもんね。
平田:俺、スーパーソニックジェットボーイのまんまですよ。“スーパーソニックジェットボーイ”を聴いた人は、スーパーソニックジェットボーイになるんですよ。だから精神が成長しなくてやばいんですよ。
―“スーパーソニックジェットボーイ”を聴いたのはいつ頃?
平田:10代の…17歳とかですかね。
―じゃあ、永遠の17歳だ。
平田:全然いいことじゃないっすね。
―(笑)。まあ、社会規範を外れなければいいんじゃない?
平田:あ、ロックンロールってそれだと思うんですよ。THE BLUE HEARTSの歌みたいに「ルール破ってもマナーは守るぜ」っていう。
―じゃあ、りょうくんはロックンロールの何に惹かれたんだと思う?
りょう:自分は吹奏楽をやってて、毎日のように楽器の練習をしてたんですけど、THE ROLLING STONESを聴いたときに、演奏してるけど演奏じゃないっていうか、「こういう世界もあるんだ」って思ったのがきっかけですね。ベスト盤に入ってる“HEART OF STONE”のタンバリンが、リズムに対してめちゃくちゃずれてるんですよ。でも、それがレコードになって、売ってるわけじゃないですか? 自分が今まで一生懸命楽器の練習したり、和音がどうのって言ってたのとは全然関係ない世界があるんだなって。
―その衝撃が、今のTHE BOHEMIANSにも通じてる?
りょう:わりかし僕らは演奏がんばろうとしちゃう癖があるんですけど、ホントはそんなこと関係ないはずで…
平田:関係なくやりたいよね。
―平田くんは楽器はやらないの?
平田:やらないです。俺ミュージシャンじゃないですから。この人はミュージシャンだけど。
―じゃあ、名前をつけるとしたら?
平田:何にしようかなって最近考えてるんですよ…アイドルとかでいいんじゃないですかね?
―アーティストとかじゃないってことだよね?
平田:アーティストにだけはなりたくない。
りょう:アーティストは自分的にもかっこいい言葉ではないですね。だって「何も作ってねえし」っていう。
―「何も作ってねえ」っていうのは?
りょう:僕も作詞作曲はしますけど、それって何かを作ってる感じではないと思うんですよ。たとえば歌って踊れるアイドルって、自分らでは作ってないじゃないですか? それが自分にとっては最高の形なんです。どんなものを作るかよりも、どういう人なのかっていう…
平田:ロックンロールは立ってりゃすべてだっていう。
―どんなものを作るかよりも、その人がそこにどれだけ反映されてるかが重要?
りょう:そうですね、結局はその人が好きなんで。
平田:人が先行してない音楽は、音楽であってもロックンロールではないですね。
俺、高校受験で一浪してるんですよ。一人だけ取り残されたあの経験がめちゃめちゃでかいと思います。
―じゃあ今の話を受けて、2人の人物像にもう少し迫ってみましょう。途中で言ってたミックとキースとか、THE HIGH-LOWSだったらヒロトとマーシーとか、2人も伝統的なボーカルとギタリストのコンビの系譜にあると思うので、2人の関係性を聞きたいんだけど。
平田:どっから話そうか…あの夜のこととか(ニヤニヤ)…
りょう:どの夜(笑)? でも、自分はそういう、THE LIBERTINESのカールとピートもそうだし、2人っていうのが結構好きなんで、「じゃあ、それにのっとっておくか」ぐらいのテンションですね。
―美大時代の2人はどんな感じだったの?
平田:俺は純粋に映画・映像を作りたくて入ったんですけど、この人はただ入ってきただけなんですよ。大体そんな人しかいなかった(笑)。
りょう:そういう人が行くとこだったんですよ(笑)。
平田:それにびっくりして…だからバンドなんか始めちゃったんですよ。
―じゃあ、元々は映画・映像に興味があったんですね。
平田:そういうものにしか興味はないです。ロックンロールなんて語ること何もないですよ。でも、「映画の見方」みたいな授業は早く義務教育に取り入れるべきです。本の読み方の授業があるのに、なんでこれだけ普及してる映像の見方がないのかすごく不思議じゃないですか? ある程度知識が必要ですからね。
―なるほどね。じゃあ、そんな平田くんからりょうくんの人物像を紹介してください。
平田:この人は女みたいなやつなんですよ。すごいひねてるし、気分屋だし。そのときによって、いいやつか悪いやつかにすごい開きがある。いいやつのときは大好きなんだけど、嫌なやつのときは超嫌で…
りょう:平田くんも同じじゃない?
平田:俺はバランス取ってるもん。もっとみんなを元気にさせる努力をしたら? そっちの方に喜びを見出したら、君は最強だと思う。ライブとかさ、ステージでたまにくさるでしょ?
りょう:そんなことないよ。
平田:いや、くさる。
―(笑)。じゃあ、りょうくんから見た平田くんは?
りょう:大学のときからの付き合いなので、メンバーの中で一番長く一緒にいるんですけど…この人のことホントわかんないんですよ。平田くんが歌が上手いか下手かもわかんないぐらい。平田くんは俺の中で「平田くん」でしかないんです。大学で知り合ったときも、それまでにこんな人いなかったし…とにかく意味がわかんなくて(笑)。初めて見た平田くんの映像作品もアタマおかしいような作品で、「あ、この人には勝てないわ」って思った記憶があります。
平田:この世にある(自分が作った映像の)テープをすべて消去したい…俺昨日まで実家に帰ってたんですけど、昔の映画ノートとか見たらホント最悪だった。
―その頃に比べたら、バンドをやってる今の方が大人になった?
平田:より社会に適合できなくなりました。昔はこんな人間じゃなかったですもん。中学のときは人見知りなんて絶対しなかったし…1番でかかったのは、俺、高校受験で一浪してるんですよ。みんな高校行ってから遊び始めるじゃないですか? 1人だけ取り残されたあの経験がめちゃめちゃでかいと思います。
―なるほどね。
平田:1年後に入学しても、俺だけ1個上っていう感覚がすげえ嫌なんですよ。それで映画とか見出したんです。だから、そこで1回人生をあきらめ、でもTHE HIGH-LOWSで好きにやっていいってことがわかって、だから映画監督目指そうと思ったんですけど、大学入ったらバカみたいなやつしかいないからやめて、ロックンロールやっちゃおうかなって。「THE HIGH-LOWS解散したし、俺世界で一番ロックンロール好きなやつだから、大丈夫っしょ」って。今のとこまあ…時間はかかったけど、「順調、順調」って。
ロックンロール・バンドを組んでもいいって思わせるのが、ロックンロール・バンドですから。
―メジャーデビュー作のタイトル『憧れられたい』にも象徴的なTHE BOHEMIANSのアイドル性についても話をしたいんですけど。
平田:アイドルを見てるときって、絶対に「この人になりたい」って見てるから好きなんだと思うんですよ。実家帰ってSPEEDのビデオ見たんですけど、SPEEDになりたいって思いましたもん(笑)。観客を見ても、この人たち全員SPEEDになりたい人たちで、だからこんな熱狂するんだろうなって。
―そういう聴き手に対する意識もあるってこと?
平田:俺は単純に、こういうの好きな人が増えた方が、世の中楽しくなるだろうなって思いはありますね。俺らを聴いてロックバンドを組んだら、それはすげえ聴きたいし、みんなロックンロールが大好きになったら、スタジアムがパンパンになって、最高のライブがいっぱい生まれますよ。いいライブって、オーディエンスの熱狂が先ですから。
―うん、確かに。
平田:5曲目の“THE ROBELETS”も、誰か若い子がこのバンド名つけてくれないかなって。俺「THE~S」っていうのが一番かっこいいと思うから、特にタイトルのない曲はバンド名をつけて、いっぱいバンド名の候補を挙げといてあげようと思って(笑)。
―りょうくんはどう? アイドル性っていう部分に関して。
りょう:やっぱロックンロールバンドは憧れられるべきだと思うんですよね。特に最近そういうのがなくなってきてるんで、あえてそういう言葉を使ってるってところはあります。
―そういう意味では、途中の話にも出た毛皮のマリーズとかはそういう存在だよね。ちなみに僕がTHE BOHEMIANSに近い立ち位置の日本のバンドを考えて出てきたのは、チェッカーズなんですよね。
平田:あ、当たりです。チェッカーズって意外とちゃんと音楽やってたってすげえ最近知ったんですよ。
―そう、ちゃんとロックンロールバンドなんだよね。彼らのバンド名も「THE~S」で、オールディーズのバンドを参考にしてたりするし、あと福岡から出てきたっていうのも、山形から出てきたTHE BOHEMIANSに通じる部分だなって。
平田:アイドルって冠がつけられてるのも同じっすもんね。ただ…ボーカルが上手い下手っていう差がありますね。オールディーズを好きにカバーしてるのをYouTubeで見て、フミヤさんってホント上手いなって。
―そこは今後の課題?
平田:必ずしも上手い必要はないと思うんですね。俺の歌を聴いて、「俺の方が上手いじゃん」って歌い始めたらいいと思うし。俺もジョン・レノン聴いて、「こういう風に叫べばいいんだったら俺でもできる」と思って、昔は声がかれるような感じでやってたんですけど…今は模索しております。
りょう:この人は楽器は上手くないですけど、そういう人がロックスターになったらすげえかっこいいと思うんですよ。だから、歌がそんなに上手くなかったとしても、それでロックスターになったら、すげえことじゃないかなって。
平田:ロックンロールドリームっすよ。ロックンロールバンドを組んでもいいって思わせるのが、ロックンロールバンドですから。
―じゃあ、最後にTHE BOHEMIANSの野望を聞かせてもらえますか?
平田:家で寝てるだけでスターですね。東京ドームとかは、あくまで通過点です。ポール・マッカートニーとかって、日本に来てほしいって望まれ続けてるじゃないですか? それっすよね。何もしてない状態でもすさまじい、やるときは事件。だから、家で寝てるだけでスターが野望ですね。
- リリース情報
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- THE BOHEMIANS
『憧れられたい』 -
2011年8月31日発売
価格:2,500円(税込)
FLCF-43971. メイビリーン
2. 夢と理想のフェスティバルに行きたい
3. パーフェクト・ライフ
4. ガール女モーターサイクル
5. THE ROBELETS
6. Goodmusictime!!
7. 太陽ロールバンド
8. 私のシンフォニー
9. 王国の謎
10. 憧れられたい
11. FaFaFa(素敵じゃないか)
12. 五人の若者劇場『タイムマシーン秘話』
- THE BOHEMIANS
- プロフィール
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- THE BOHEMIANS
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ザ・ローリング・ストーンズの公式カメラマンである有賀幹夫氏が「久々に武道館が見えたバンドだ」と評し話題騒然の5人組ロックバンド。黒いハットと赤いジャケットにグラムメイクでステージ狭しと飛び跳ねる天才エンターティナーで作家性をも魅せるVo.平田ぱんだと、今世紀最高のメロディーメーカーであることをまもなく世界が知ることとなる1960年代から抜け出てきたかのようなヴィジュアルのGt.ビートりょうを中心に Dr.チバ・オライリーがチャーリー・ワッツのような微笑みのドラミング。対比的にBa.星川ドントレットミーダウンが、冷たいほどの視線でクールにグルーブ男。Key.本間ドミノ先生はニッキー・ホプキンス+スティーブ・ナイーブのような演奏スタイルで。そんな5人のオリジナルが融合されたスタイルで年間60本のライブをこなす。2010年5月Indies Album『I WAS JAPANESE KINKS』を発表し突如頭角を表し、2011年各メジャーレコード会社争奪戦を経て(株)フォーライフミュージックエンタテイメントと契約。8月31日リリースのメジャーデビューアルバム『憧れられたい』ではエンジニアにザ・イエロモンキー、ザ・ブルーハーツ、エレファント・カシマシなどの作品を手掛ける山口州冶氏を迎え、より強力な1960年代のブリティッシュビーツな世界を完成させた。ロックンロール・アイドル!THE BOHEMIANS。近年もっとも注目のバンドの1つである。
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