『かもめ食堂』『めがね』『プール』『マザーウォーター』のキャストが再集合した「チーム」による最新作、映画『東京オアシス』が10月22日より公開される。舞台となるのはもちろん東京。チームの顔である小林聡美演じる女優トウコがコンビニ、映画館、動物園で出会った人々との交流を通して、ときに反発し、ときに共鳴しながら自らの心のよりどころを取り戻す姿がアンソロジー形式で描かれる作品だ。トウコがコンビニの駐車場で出会う野菜の配達員・ナガノを演じるのは、チームの「若旦那」加瀬亮。今や海外でも活躍する彼が、東京を舞台に顔なじみが揃った今作を通し、新たに得た感覚、気づいた感情を語ってくれた。
『東京オアシス』イントロダクション
深夜、コンビニの駐車場で買ったばかりのアイスを食べようとしていたナガノ。彼の目に飛び込んできたのは、国道を走るトラックに向かって駆け出す喪服の女・トウコだった。とっさに華麗な「回転レシーブ」で彼女を救うと、今度は「車に乗せてほしい」とせがまれる始末。見知らぬ2人の深夜ドライブ。物語は静かに、しかし何かが動き出す予感とともに幕を開ける。
東京オアシス
ナガノは「どこか心が止まっている」人物
―今回演じたナガノという人物をどのように捉えていますか?
加瀬:ナガノは、どこか「心が止まっている」感じのある人物です。今の人生をどう前進させたらいいのか分からない状況にいる人。もちろん、そういう心持ちは決して特別なものではなく、その点では役柄の気持ちをつかむのにそれほど時間はかからなかったです。突然現れたトウコに対しても、最初は「何だこの人」という疑いの目ではじまります。このチームで演じる青年は、すごくナイーブだったり、優しかったりするんですけど、今回は少しだけ違います。
―小林聡美さんとの再共演はいかがでしたか?
加瀬:ナガノとトウコは赤の他人として出会い、お互い向き合うこともないのに、そっちの方がより「向き合っている」感覚がありました。小林さんとは、いつも以上にストレートな演技や心の交わし合いがあった気がします。小林さんはいつものように軽やかに演じられているのですが、トウコは明らかに心に大きな問題を抱えていて、それはナガノも同じなんです。だからこそ、少しずつ共鳴し合うんですよね。『めがね』や『プール』に比べると、また違う印象のある作品だと思いますが、小林さんとの共演という点では、手応えを感じながら演じることができました。
『東京オアシス』より ©2011オアシス計画
場所ではなく「人」に焦点が合わされた作品
―フィンランドを舞台にした『かもめ食堂』をはじめ、『めがね』は与論島、『プール』はタイ、『マザーウォーター』は京都と「場所」に焦点が合わされてきました。今回は東京が舞台なので、改めて東京という場所を見つめ直す機会にもなったと思いますが?
加瀬:東京にはもちろんいい場所がたくさんあるんですけど、東京というものを改めてイメージすることで浮かぶのは、「人」の集合体だということです。舞台が東京になったとたん、人が主題の作品に自然となりました。この感覚はすごく面白いと思いましたね。撮影中、高速道路から光り輝く東京の街を眺めながら「きれいだな」と思っていたんですけど、その光の先には人がいて、その人の生活や人生がある。そんなことを思いました。
『東京オアシス』より ©2011オアシス計画
心地よいさみしさが流れている映画
―トウコはナガノと出会ったあと、元シナリオライターで今は小さな映画館で働くキクチ(原田知世)や、「私は運に見放されている」とつぶやく美大を目指す浪人生ヤスコ(黒木華)との交流を通し、自分にとってのシアワセとは何かを自問自答していきます。この作品に登場する人物は、一様に「孤独」ですよね。
加瀬:このチームが基本的に描いていることは、きっと「1人で生きている人」なんです。でも、それは決してネガティブな意味ではなくて、「心地よいさみしさ」が流れていると思います。今回はそんな感覚がより顕著に出てきた作品になったと思いますね。1人で生きている、だからこそ人と交流していくという姿勢は、このチームらしいです。
『東京オアシス』より ©2011オアシス計画
―加瀬さん自身は「さみしさ」という感情に、どう向き合っていますか?
加瀬亮
加瀬:「さみしい映画」は好きです。今はアッパーな映画もたくさんありますが、さみしい映画の方が自分に寄り添ってくれる感覚があります。それと、これまでいろんな役柄を演じさせてもらったことで「人はさみしい」という実感を得たのかもしれません。でも、人ってさみしいのが当たり前ともいえるんじゃないでしょうか。この映画も、ちょっとへこんだり、さみしい気分のときに観てほしいです。「すべてが満足で幸せ」という人には共感しにくいかもしれませんね(笑)。自分の存在に映画が寄り添ってくれるような時間が過ごせてもらえたら嬉しいです。
10年も続いているなんて、自分でも不思議です
―加瀬さんは2000年に『五条霊戦記』(石井聰亙監督)で映画デビューして以来、この10年強で60本以上の映画に出演されていますね。着実にキャリアを積み上げる加瀬さんには「映画俳優」というイメージがあります。
加瀬:基本的にすごく飽き症な性格なので、これまでの人生で10年も続いたことなんてひとつもないと思います(笑)。唯一続いているのがこの仕事で、自分でも「よく続いているな」とびっくりするし不思議ですね。役者を目指す過程で、失望も含めいろいろと体験しましたが、今でも映画に対する興味はあまり変わっていないです。人生において、そういうものに出会えたのは本当に良かったなと思っています。
―具体的に、変化や成長を感じる瞬間はありますか?
加瀬:昔に比べると、仕事面だけに限らずいろんなことが自由になってきている感じがして、特に30歳を過ぎてからそれを年々感じています。年下のキャストや監督さんと仕事することも増えているので、いつの間にか「おじさん」って呼ばれるようになりました(笑)。ただ、いざ共演すると年齢は関係ありません。子役さんだろうが、初めてオーディションに受かって現場に来た役者さんだろうが、現場では対等です。逆に教えられることも多いし、そういう意味では不思議な職業ですよね。
「日本」はまだまだ世界に伝わっていない
―近年ではクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』や、ミシェル・ゴンドリー監督とタッグを組んだ『TOKYO!』の一編「インテリア・デザイン」など国際派俳優としても活躍が著しいですね。ガス・ヴァン・サント監督の新作『永遠の僕たち』(原題:Restless)は今月開催される『第24回東京国際映画祭』の特別招待作品に選出されていますが、海外での活動を通して、俳優として気づくこと、感じることを教えてください。
加瀬:海外で仕事をすることで、より日本が独特なんだと感じます。国そのものもそうだし、文化や言語もそうです。ある意味、世界からするとマイノリティーで、世界に理解されている「日本」とはまだまだごく一部だと思うくらい伝わっていない気がします。
ただ、海外での仕事が増えたからといって、役柄への向き合い方みたいなものに変わりはないです。(役作りの)方法があるわけではなくて、そのとき、そのときの「自分」とまずは向き合って、そこから始めるしかないんだと思います。例えば25歳の自分と今の自分では、もちろん全然違うわけなので、ナガノならナガノという存在と今の自分自身を、どのように近づけていくかということに日々試行錯誤しながら演じていますね。
『東京オアシス』より ©2011オアシス計画
- 作品情報
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- 『東京オアシス』
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2011年10月22日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
監督:松本佳奈、中村佳代
脚本:白木朋子、松本佳奈、中村佳代
出演:
小林聡美
加瀬亮
黒木華
原田知世
配給:スールキートス
- プロフィール
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- 加瀬亮
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1974年11月9日生まれ。2000年に石井聰互監督の『五条霊戦記』でデビューを果たし、以後、ジャンルや役柄を問わない幅広い活躍で映画ファンを魅了。2007年には主演を務めた『それでもボクはやってない』(周防正行監督)で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第50回ブルーリボン賞、第32回報知映画賞など、数多くの賞を受賞した。また『硫黄島からの手紙』(クリント・イーストウッド監督)など、活躍の場を世界に広げている。
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