浅草は花やしき。閉演後の遊園地を会場に、ジャンルレスのアートイベント『CE QUI ARRIVE –これから起きるかもしれないこと–』が行なわれる。うっすらと不穏な気配を漂わせた意味深なタイトルを前に、観客は何を予感するのだろうか? このたび、イベントを主催する日本パフォーマンス/アート研究所のプロデューサー・小沢康夫と、出演者から悪魔のしるしの危口統之、サンガツの小泉篤宏に登場していただき、本イベントについて語ってもらった。話は「震災以後で東京で表現すること」などにまで及び、アーティストがこれから表現活動をしていくこととはどういうことかを自らに問いかけるような興味深い鼎談となった。パフォーマンス界に風穴を開ける彼らの、意気軒昂とした鼎談をお楽しみ頂きたい。
それぞれの芸術ジャンルからはみ出した出演者たち
小沢:今回の『CE QUI ARRIVE –これから起きるかもしれないこと–』という企画は1年以上前から、つまり3.11以前からずっと考えていて、浅草の老舗遊園地「花やしき」という場所も参加してもらいたいアーティストも、ずっと僕の中で想定して準備してきました。今回7組のアーティストが集い、閉園後の夜の遊園地のなかを回遊しながら観客はひとつひとつのパフォーマンスに「遭遇する」。当日は何が起こるのか、何に遭遇するか、すべてが未知数です。そういう未知数のアーティストたちが何をしでかしてくれるか、僕自身も大いに楽しみなんです。今日来てもらった危口さんと小泉さんともこの企画のことはずっと話をしてきましたよね。まず鼎談を始めるにあたって、2人の紹介をしましょうか。
僕が最初に悪魔のしるしを見たのは、宮沢賢治『注文の多い料理店』の悪魔のしるし版で、『注文の夥しい料理店』(2008年)という作品です。シアタープロダクツの金森香さんに「ぜひ」と誘われて見ました。その後、『搬入プロジェクト』や、『煙草の害について』を見るなど、活動を追いかけさせてもらっています。一緒に仕事したのは、今年の韓国ナム・ジュン・パイク アートセンターで行なった『搬入プロジェクト』です。悪魔のしるしは、これまでもさまざまなことを行なってきたわけですが、主宰である危口さんは自分たちをどのような集団として位置づけているんですか?
危口統之(悪魔のしるし)
危口:これまでの経歴から話しますと、学生時代から演劇を始めて、卒業後もしばらくはサークル仲間とやっていたんですが、結局それも長続きせず、何もしない期間がありました。しばらくしてシアタープロダクツの金森さんと知り合い、イベント設営のお手伝いなんかをしていたんです。そして一緒に飲んだりしているうちに、「またなんかやれば?」っていうふうに持ちかけられた形で、悪魔のしるしが始まりました。最初は友達どうしでバンドを組むようなノリでしたね。『搬入プロジェクト』のような作品も、ただモノを搬入するだけですから、子どもの思いつきのようなものだと言えますし、そんなに人様からお褒めの言葉を頂けるような作品ではないという自覚はしております(笑)。
小沢:とすると、悪魔のしるしは演劇集団ではない?
危口:わかりません。一番近いのは、「アウトドア好きで、月に1回くらい山に行くような同好会」ですかね(笑)。メンバーはデザイナーさんだったり、建築家だったりと、それぞれ手に職があります。演劇っていろんな要素が必要で、どんなところに力を入れるのかで作品の個性が出てきますから、偏った人間が集まっているのはいいことだと思ってます。
小沢:サンガツの小泉さんと最初に仕事をしたのは、チェルフィッチュの『三月の5日間』という芝居のときですね。2006年の再演時に、作品タイトルの元になったサンガツにライブをしてもらいたいということになり、当時僕が代表をしていたプリコグという会社から依頼をした。小泉さんのバンドはどんな音楽を制作しているのか、改めてお聞きできますか?
小泉:バンドではありますが、「音を使って工作している」といった活動だと言える気がします。あまり「音楽」っぽくないかもしれないですね。
小沢:それは去年出した『5つのコンポジション』という作品以降の特徴ですよね。その前はいわゆるポストロックという範疇に属する楽曲を発表していたように思います。小泉さんとよく話すのは、演劇やダンスの人はたくさん稽古をするのにバンドはあんまりしない、それってどうなんだろうっていうことなんですが。サンガツは直近でライブがなくても、ずっとスタジオで練習をしていますよね。バンドとしてはなかなか珍しいことだと思うんですけど。
小泉:結成からずっと、毎週1回は必ず集まって練習をしていますね。そのせいか、メンバーの入れ替わりが激しいんです。
小沢:ミュージシャンの中には、いつも同じ曲を練習するのは必ずしも良くないって言う人もいるわけですよね。ライブで合わせる緊張感のほうが重要だと。だから小泉さんのような考え方は、珍しいんだと思いますが、どうですか?
小泉:でも、ほんとにインプロヴァイズ(即興演奏)できる人って、ごくわずかだと思うんですよね。それなのに、大概は1回合わせてみて、なんとなくイメージしたものができると「ライブやろっか」っていう感じになる。それが僕はすごくイヤなんですよ。
必要以上の「当事者意識」は要らない
小沢:『CE QUI ARRIVE –これから起きるかもしれないこと–』の話に戻りますが、この企画タイトルはポール・ヴィリリオというフランスの思想家による著作からインスピレーションを受けてつけたんですが、これも3.11以前から考えていたことです。このタイトルに込めた意味でもあるとおり、震災は現在進行中で、これからも何が起こるか分からない。特に原発関連のことはまったくもって終わってはいません。ただ、まだ今は事故そのものを直視すること、情報を開示したり冷静に見極めることのほうが重要で、芸術なり表現がそれを描くということは時期尚早な気がするんです。だから僕としては、今回出ていただくアーティストには、基本的には以前からやっていることをそのままやってもらう予定でいます。とはいえ、やはりアーティストが震災とのかかわりや距離の取り方について何かを考えるのは避けられないことだとも思うんです。皆さんの考えはそれぞれ違うと思うので、その辺ちょっと聞きたいところではあるんですが。
右:小沢康夫
危口:今までの活動をそのままやる、とのことですが、『搬入プロジェクト』は上演環境に依存するところが非常に大きいので、回ごとにかなり違ってくるんです。特に今回は外側と内側を区切る場所があまりないので、「運び入れる」ということにはならないかもしれず、花やしきバージョンのために工夫が必要です。会場が都内なので仕事仲間であるプロの荷揚げ屋さんを呼べるチャンスでもありますね。
小沢:危口さんが今この時期にパフォーマンスをやることについて、どういうことを考えていますか? 震災の影響とかあるんですか?
危口:表現の内容というよりは、上演する環境について考えますね。会場のムードや、お客さんがどういう気持ちでいるのかとか。ただ、いやらしい言い方をあえてすると、ちょっと震災についてエクスキューズしていれば「自分も震災のことを心配している」という当事者になれる風潮に関しては、違和感を覚えます。
―当事者になりたがることに違和感を感じるのはなぜなんでしょう?
危口:より正確にいえば、すでに国レベルのことが起こったので、当事者ではないことなんてあり得ないんですよ。ただ、「鮮やかな」当事者になりたがるというか、より深刻な立場になりたがるのには違和感がやはりあります。
小泉篤宏(サンガツ)
小泉:僕は、その人がやむにやまれずそうしているならば、当事者意識を持つことについては、それはそれでしょうがないんじゃないかと思いますね。そこは誰も責められない。それよりも、最近は、「誰がどうしたこうした」っていうふうな相互監視が強まっている気がするので、そちらの方がすごくイヤですね。震災以降に最も変わったのは、作品の内容ではなくて「強さ」だと思います。作品を見るにしてもやるにしても、その人が「本当にやりたい」と思っていることを見たいし、自分もやりたい。
これからも、東京で表現をしていくために
小沢:原発の問題は大変深刻で、政府や大企業が全く信用できないことが明らかになってしまった。日本の海岸沿いには未だ50以上の原発があり、これだけ余震もあるんだから、次に同じことが起こったらどうなるのか、それが心配です。そうした問題は今まさに起こっていることだし、起こりつつある。表現することとは別に、そのこと自体はずっと考え続けなくてはいけないと思います。僕はむしろ、震災以降、東京に腰をすえて活動しようと思い始めているんですが、だからといって直接的な震災のチャリティイベントは自分ではやらないと思います。チャリティは、募金をしたい人が個別にやればいいと思います。実際自分もそのようにしてきました。表現活動が慈善とかチャリティとか何かのために目的化してしまうことは大変危ういことだと思っています。しかも、本人がそうと考えていなくともまったく逆の意味にとらえられてしまう可能性もある。見る人によっては「震災を彷彿とさせる」と感じられてしまうかもしれません。
―小泉さんと危口さんは、小沢さんのように今後も東京で表現活動をされるつもりですか?
小泉:僕は東京生まれの東京育ちなんですが、震災後1ヶ月くらいは、生まれて初めて東京への郷土愛みたいなものが出てきたんです。でも今は、そういった感情は逆に目を曇らせてしまうと思っていて。かといってノマディズム(非定住)にも共感できないので、この先もフラットな気持ちで東京に居続けて、音楽をやっていくんだろうと思っています。
危口:企画ごとに考えていくと思います。この企画であればこの土地でやるというふうに、選び取っていくことになるのではないか。まだ妄想段階ですけど、自分の親父と一緒に何かできたらいいなと思っていたりするので、その場合は岡山の実家に帰ってやるだとか、本当に作品ごとに変わると思います。ただ舞台作品、特に上演に関して言えば、お客さんが多く来てくれるほうが嬉しいので、人口が多い東京でやることが多いでしょうね。
「作品を複製しやすい」インターネットの魅力
―今回のイベント『CE QUI ARRIVE』で、サンガツはどんな演目をされるんでしょうか?
小泉:僕らは新曲をやりますよ。『5つのコンポジション』を発展させたようなもので、曲というよりは、演奏する方法をプレゼンしたいと思っています。この方法を使えば誰でも作曲できますよ、といったことを提示するつもりなんです。
小沢:その方法は、演奏を見ている時はわからないんですよね?
小泉:はい。ただ、イベントの3日前くらいから、譜面をサンガツのウェブサイトで公開しようと思っています。それから演奏している動画と方法を、後日別のサイトに掲載します。だから、当日僕らが演奏する曲は、その方法からできるひとつのパターンだということになります。
危口:なるほど。僕も、『搬入プロジェクト』については同じことを考えていました。方法は公開するので、誰かがやってくれないかな、と。
小泉:インターネットって、「複製すること」と親和性が高いじゃないですか。だからどうしても著作権は守りにくい。でも逆に、方法は作るのでたくさん複製してくださいね、とやると、逆にインターネットを味方にできる。そこに僕は注目しているんです。
小沢:そういうオープンソースの発想には僕も共感します。あえて聞きますが、おふたりとも、アーティストの固有性とか、オリジナリティにはこだわらないんでしょうか?
危口:こだわりたいときは、そういう作品を作ればいいんだと思います。『搬入プロジェクト』は、海外での上演も持ちかけられますが、そういう場合に日本から行くのは1人か2人で大丈夫、現地に模型を作ったり設計図を引ける人がいればいい。僕はルールの提示と雰囲気を提供するだけという役割です。究極的には、僕もいらないかもしれない、ということまで考えるんですけど、行けば楽しいし、お金をもらえるので、行きます(笑)。
小沢:『搬入プロジェクト』を一緒にナム・ジュン・パイク アートセンターで上演したときは、運び手が素人で、子どもも一緒になってやるしで盛り上がりましたね。「物を移動させる」という行為は祭りなどで古くからあることだし、世界共通の行為でもある。また以前見た本物の荷揚げ屋さんが頭と体を使って慎重に運ぶ場合もスリリングで、パフォーマンスとして観ていて飽きないものだった。これまで目をつけられにくかったけど、非常にいいアイデアだと思うんですよ。
危口:素人参加型と本物の揚重工(荷揚げ屋)によるものとでは、方向性がかなり違いますね。前者は地域のお祭り的で、後者は模範演武なんかに近い。
「面白いものを観たい」という純粋な欲求に応えられるイベント
―改めてお伺いしますが、なぜ浅草の花やしきという会場を選ばれたのでしょうか?
小沢:もともと浅草には縁があったんです。20代の頃、浅草で開催していた演劇祭で下働きをしていました。それに花やしきではないけれど、この仕事だけでは食えなかった時、遊園地の企画の仕事なんかを掛け持ちしてやってたんですよ。だからこの企画はそんな自分に決着を付けるということでしょうか(笑)。今、原宿のファッションビルの仕事もやらせていただいていますが、遊園地もファッションビルもまさに大衆の欲望が渦巻く場所なんです。
そんな場所に身を置いてアートと向かい合うのは単純にシビレるんですよ。それが僕にとっての公共とのせめぎ合い。僕は公共の劇場とか文化施設にいるプロデユーサーではないので、彼らと同じことをやっていたのでは勝ち目がない。若い頃に見たテント芝居やアングラ芝居って、みんなイチから場所を立ち上げていたので、そうした精神を継承しているつもりもあるんです。それから芸術表現と遊園地の乗り物を同じ場所に並べてどっちがいいんだよ、おい? っていうこともやってみたかったんですね(笑)。アミューズメントの楽しさに俺たちは勝てるのか? って。しかし劇場で普通に公演をやるほうがいかに楽か、ということを毎日準備をしながら感じています(笑)。
小泉:出演者のラインナップを見てすごくいいなと思うのは、やりたいことをやっていたら、美術から出発したけど美術ではないもの、演劇から出発したけど演劇ではないもの、音楽から出発したけど音楽ではないものへと表現が逸脱していった人が集まっているところですね。「やりたいことをやる」、そういった強度こそ表現したいというのが小沢さんの裏メッセージなのかな、とも思いました。
小沢:アーティストであれば当たり前なんですけど、今回参加してくれるアーティストは似た人がほとんどいない。セレクトの基準としては、最終的な判断としては僕自身が面白い、一緒に仕事したいと思えたかどうかなんですが。僕がやるとつい男だらけで汗の臭いがムンムン、という内容になぜかなってしまう。今回、女性アーティストは一人もいないですしね(笑)。
―音楽ファン、あるいは演劇ファンといった方々だけではなく、「なにか面白そうなことをやっているんじゃないか」と思ってやってくるお客さんの期待に応えたい、という気持ちもありますか?
小沢:それは、常に考えていることですね。
小泉:そういうお客さんのほうが、僕らのやっていることを分かってくれそうな気がします。サンガツって、いわゆる音楽好きなお客さんには評判が悪いんです(笑)。むしろそういったバイアスのかかっていないお客さんのほうが、作品の意図がスムーズに伝わっている感触がありますね。
小沢:「演劇とか音楽だけじゃない、もっともっと違うものを見たい」というお客さんも随分増えてきたんじゃないでしょうか? インディペンデントでありオルタナティブであろうとすると、必然的に他とは違うことをやることになるし、またそういう人は常にギリギリの場所に居ようとするので、震災があろうと何があろうと常に切羽詰まっている感がある。今回登場するアーティストはそんな方々ばかりです。とはいえ、今回の企画は間口が狭いようで意外と広く、いろんな楽しみ方ができると思います。単純に「すごいな」とか、「なんだこれ!」とか、さらにヴィヴィッドな発見もあるかもしれない。いろんな感じ方があるだろうし、そうあってほしいですね。そういう意味からしても、花やしきという上演場所は、他にはない「懐の深さ」があると感じています。そうそう、花やしきがこの夜だけ特別に遊具を3機動かしてくれることになったんですよ。前売りの予約は終了してしまいましたが、当日券は販売しますので是非ご来場ください。
- イベント情報
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- 『CE QUI ARRIVE -これから起きるかもしれないこと-』
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2011年11月26日(土)OPEN 18:30 / START 18:45
会場:東京都 浅草 花やしき
出演:
悪魔のしるし
足立喜一朗
伊東篤宏
contact Gonzo
久保田弘成
サンガツ
和田永
主催・企画制作:日本パフォーマンス/アート研究所
助成:アサヒビール芸術文化財団、平成23年度台東区芸術文化支援制度対象企画
料金:前売2,500円 当日3,000円
※前売券は完売
※屋外での公演になりますので防寒のご用意ください
※客席はありません、回遊型のイベントになります
- プロフィール
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- 悪魔のしるし
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演出家危口統之を中心に演劇などを企画・上演する集まり。デザイン、建築、編集、ファッションなど様々な分野の専門家をメンバーに持つが、演劇そのものに詳しい人材がいない。これまでの作品に、自主公演『禁煙の害について』(2010年6月、原宿vacant)、F/T公募プログラム『悪魔のしるしのグレートハンティング』(2010年11月、池袋シアターグリーン)、パフォーマンス『搬入プロジェクト』シリーズ(2009年より 東京、横浜、香川県豊島、韓国ナム・ジュン・パイク アートセンター等)など。
20世紀の終わりに東京で結成。これまでに4枚のアルバムを発表。近年は、表向きはバンドの形態をとりながらも、音を使った工作/音を使った組体操のような楽曲に取り組んでいる。また、最新プロジェクト「Catch & Throw」では、"曲ではなく、曲を作るためのプラットフォームを作ること"に焦点をあて、その全ての試みがweb上で公開されている。
プロデューサー、日本パフォーマンス/アート研究所代表。2003年、企画制作会社プリコグ設立。2008年に代表を退き、後進に譲る。同年、日本パフォーマンス/アート研究所を設立。コンテンポラリーダンス、現代美術、現代演劇、メディアアート、音楽など既存のジャンルにこだわることなく、独自の観点でプロデュースする。最近の主な活動として『NJP SUMMER FESTIVAL 21ROOMS』(韓国ナム・ジュン・パイク アートセンター)、『LAFORET SOUND MUSEUM 2011』(ラフォーレミュージアム原宿)、『HARAJUKU PERFORMANCE +×DOMMUNE 』(ラフォーレミュージアム原宿)など。
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