「恋愛至上主義」を掲げる音楽集団、THEラブ人間。今年メジャー進出を果たした彼らの勢いはとどまるところを知らず、このたびリリースされるメジャー1stシングルの『大人と子供(初夏のテーマ)』も大いに話題を呼びそうだ。CINRAでは8月にも、その中心人物である金田康平にインタビューを敢行したわけだが、この首謀者にはまだまだ底知れぬ魅力がありそうだということで、再度その濃厚な人間性や秘めた野心を暴いてみようと試みた。
そこで今回は、父の自殺未遂現場を収めた鮮烈なデビュー作『目のまえのつづき』でも知られる写真家の大橋仁を招き、お互いの作品や人柄にスポットを当ててみた。そこから見えてきたのは、2人の表現に対する強いこだわり。すなわち、リアリティの追求だった。そして最終的には、意外な共通点から今後の新たなキーワードまで飛び出す爆笑の放談に。飾らない2人の言葉は革新的なものばかりです。必見!
『目のまえのつづき』を見て、「写真でもかっこいい人いるんだ!」って思いました。(金田)
―金田さんは以前から大橋さんのファンなんだそうですね?
金田:俺は音楽以外で誰か有名な人と会えるんだったら、「大橋仁に会ってみたい!」ってずっと言い続けてきたんです。僕らの曲がJACCSカードのCMに使われた時に、その撮影で偶然初めてお会いできたんですけど、写真しか見たことがなかったから大橋さんの顔を全然知らなかったんですよ。その場では名前も知らないまま喋ってた人が帰り際にくれた名刺を見て驚きました。「……!? うわっ、大橋仁だ!」って。
大橋:あはははは! いいこと言ってくれるね! 初めて会ったのは今年の4月だったよね。
写真左から:金田康平、大橋仁
―金田さんはいつ頃から大橋さんの写真が好きになったんですか?
金田:2005年ですね、19歳の時。当時、京王線沿いに住んでる恋人がいて、その子は写真を撮ってたんですよ。その彼女に「音楽にしか興味がないの?」って言われたことがあって、俺は「ない」って答えたんですよね。「面白い人がいないのが悪いんじゃない?」とまで言ったくらい(笑)、画や写真を見ても魅力がわからなかったんだけど、「あなたの曲を聴いてると、この人の写真集なんていいかもよ」って彼女が言ってくれて、薦めてくれたのが大橋さんの『目のまえのつづき』なんです。もう1冊の『いま』も今日持ってきました。
大橋:偉い彼女だね(笑)。しかも、持ってきてくれたんだ。嬉しいなあ!
―ホントに好きなことが伝わってきますね。
金田:僕は、それまでは芸術なら音楽以外に格好いいものはないって思い込んでた人間なんですけど、『目のまえのつづき』を見て、「写真でもかっこいい人いるんだ!」って思いましたね。あ、ちなみに『目のまえのつづき』はその子と別れたきっかけにもなったんですよ。
大橋さんで写真を知れて良かった。そこがきっかけでアラーキーにも行けましたから(金田)
―それは聞いてみたい話です。
金田:俺は音楽を作る上で、自分に起きた出来事をそのまま曲にするんですよ。彼女とのセックスとかケンカとかも歌に綴るわけです。そしたら「あなたはプライバシーも何もないじゃない! 共通の友達もいて、その人があなたの歌を知ってると、私が言いたくないことや知られたくないこともわかっちゃうじゃない!」って言われちゃって。「……そうだね」って。
大橋:あはははは! そりゃそうだ!
金田:別れる、別れないってやり取りをしてる中で、「もし私と別れたら、そのことを歌にできるんでしょ?」って彼女が言ったんですよ。それで「うん」って答えたらフラれました。「こういう出来事も歌に消化できるんだったら、私はいらないじゃない」って。その時に『目のまえのつづき』を2人で見てたんですけど、「大橋さんは瞬発力の人間で、目の前にあったものを撮るか撮らないかっていう状況になったら、パッと撮る。あなたも歌うか歌わないかってなったら、やっぱり歌う」みたいなことを最後に言われましたね。
大橋:惜しい彼女を失くしたねー(笑)。いい彼女だね、ホントに。
―大橋さんの写真を初めて見たときに、金田さんはどんなところに惹かれたんですか?
金田:すごく簡単な言葉で言うなら、飾らないところ。音楽も飾った曲が好きじゃないんです。飾ると本質からどんどんズレちゃうんですよ。大橋さんに出会う前に見てた写真って、ちゃんとピントがあっててブレがないのがほとんどで、それが当たり前のラインだと思ってたんだけど、大橋さんのはそういうのを全部取っ払ってたんですよね。大橋さんで写真を知れて良かった。そこがきっかけでアラーキー(荒木経惟)にも行けましたから。
大橋:それは写真観がほぼ俺と一緒だ。俺も荒木さんしか知らないみたいなところがある。
場当たりなウソをついたって、最終的には意味がないんです(大橋)
―大橋さんは写真を撮る時、飾らないことを意識してますか?
大橋:いや、意識はしてないですね。逆にできない。結局、俺も反射神経で生きてるところがあるから、金田くんが言わんとしてることはすごくわかるなぁ。写真も歌も同じだもんね。
金田:思ったことはその日のうちに作らないとダメですね。次の日に昨日のことを歌うと、違う風に書けちゃう。
大橋:でもさ、変な話だけど、歌はウソつこうと思えばつけるわけじゃない? もちろん中身はウソじゃなくても、たとえばさっきの話だと、女の子への言い訳にもできちゃう。「なんでこんなに正直に書いちゃうの?」って言われても、「あんなのウソだよ~、想像の産物!」みたいにさ。金田くんはそう言わないのがすごいよね。
―確かに、そうですね。
金田:言っちゃったら、その歌を歌うときに1回誰かにウソついた感じがしちゃうじゃないですか。
大橋:金田くんは責任感が強い人なんだ。いや、覚悟って言った方がしっくりきそうだね。
金田:そうですね。その言葉や音、題材を扱って歌う覚悟。しかも、赤の他人の前でやることを背負ってるかどうかですよね。でも、自分ルールだけをわりとシンプルに敷いてるだけです。そこ以外はどうでもいいんですよ。
―金田さんの場合、本人の性格がそのまま作品に反映されてますが、大橋さんもそうですか?
大橋:結局そうだと思いますよ。そもそも写真って、真実が見えちゃって言い逃れができないから、ウソのつきようがない。場当たりなウソをついたって、最終的には意味がないんです。
もうライブなんて関係なしで、1番いいポジションに入りたくなっちゃうんですよ(大橋)
―その見解は一致してますね。大橋さんが初めてTHEラブ人間の曲を聴いた時の印象はいかがでしたか?
大橋:さっきも言ったJACCSカードのCMの撮影中だったんだけど、その時はファインダーに集中しちゃってたんですよ。だから、音を聴くよりも声の響きだったかな、そこがまず好きだった。あと、目の力強さとかね。あのCM撮影の時ってさ、「これから撮りますよ」って言う前にいきなりリハを撮ったじゃん。俺はあそこが実は1番良かったんだよね。「なんだコイツ? いきなり撮ってんじゃねえよ!」っていう気持ちが金田くんに満ち満ちてたわけ(笑)。
金田:そうそう、実際そう思ってた。入りの時間でやって来て、他にもカメラ隊がいる中でしたからね。「こっちはリハーサルしてんだよ!」みたいな(笑)。
大橋:その顔がめっちゃ良かったの! 俺もある意味そういう部分が撮りたかったから、わざと土足で上がっていって。
―面白いですね(笑)。
金田:すげえ近かったもん(笑)。あの日は結構バチバチきてました。俺以外のメンバーはみんな気さくな奴らなんですけどね。
大橋:ライブの撮影も昔からちょいちょい依頼されてきたんだけど、もうライブなんて関係なしで、1番いいポジションに入りたくなっちゃうんですよ。アーティストの真正面とか、すごく酷い位置に入るわけ(笑)。
―最前列のお客さんからは、大橋さんの背中しか見えないくらいの?
大橋:そうそう。そんなことが何度も起きちゃって、俺にライブ撮影を依頼する人はいなくなるよね。お客さんに対して、ミュージシャンがライブするっていう行為自体、すでにその場で表現が完結してしまっているんだよね、こういう言い方は語弊があるかも知れないけど、カメラマンの入れる部分はほとんど残っていないと思う。だって、できるだけライブの邪魔にならない様にしなくちゃいけない、だから好きな様には撮れない。撮影の為のライブ(PVやジャケ写等)であればミュージシャンとカメラマンが1対1になれるから別なんだけど、お客さんの入っているライブ会場での撮影は、その会場に来れなかった人達への単なる映像の中継役になってしまう場合が多い。だから自分の表現を求められ、ライブ会場に連れて行かれると、悪気は無いんだけど会場の完結したバランスを自分が壊さざるおえなくなってしまうんだよね。
金田くんは気持ちいいこと至上主義でしょ? 俺もまさにそうなんですよ(大橋)
―大橋さんも金田さんもお互い譲れないポイントがありますね。
金田:譲れないというレベルの話じゃないのかもしれないですね。すごく本能的で、やり始めちゃったら止まれない。申し訳ない気持ちはあるんだけど。
大橋:あるある! でも、ファインダー覗いちゃったらどうしようもなくなっちゃうんだよね。申し訳ないって思うんだけど、正直それは2、3秒くらい。
金田:曲を作る時は、他のことは完全シャットアウトですね。作り終わったあとに後ろめたさが残る時があるけど、しょうがないかって。8月に出したミニアルバム『これはもう青春じゃないか』の"どうせ、慰時代"はまさにそういう曲ですね。
―後ろめたくなっても、作品をボツにすることはないわけですよね?
金田:ボツにしちゃうと作品がかわいそうだからなぁ。
大橋:そうなんだよね。金田くんの曲を聴いてると、やっぱり他人に思えないもん。
―特にどのあたりで強くそう思いますか?
大橋:人を歌ってるところですね。
金田:俺も写真集を見てて、同じことを思いました。大橋さんは人を撮ることにこだわってますよね?
大橋:うん。いろんな対象物があるけど、絶対的なプライオリティってやっぱり人だよね。
―人がそこにいると、見えてくるものが変わったりもしますよね。
金田:そう。最近よく思うのは、例えばティファニーのオープンハートだとかシャネルのなんたらとかより、友達と徹夜明けに行く松屋の朝定食の方が完全に美しいんですよ。俺が音楽を作りながら、人の欲望の根源みたいなものを探してますね。
大橋:金田くんは気持ちいいことが好きなんだよね。気持ちいいこと至上主義でしょ? 俺もまさにそうなんですよ。なんで歌うのか、なんで撮るのかっていうと、つまりは自分が気持ちよくなりたいからなんです。みんなが自分の気持ちいいツボを知ってれば、もっとすごいことが起きると思うんですよね。もう、毎日が(精神的な)大乱交パーティみたいなさ。でも、はっきり言って今は街中見渡してもそういう人がほとんどいないわけですよ。自分のツボを知らない人がとても多いように感じる。まず、気持ちいいこと至上主義の人に出会うことすらない状態。そう考えると、今日この場は、2人にとってセックスになるわけですよ。俺、頭おかしい人みたいなこと言ってるかな(笑)。
金田:いや、俺らは頭おかしいと思われがちだけど、これがあるべき姿なんじゃないかな。みんなは身体にめちゃくちゃでかいコンドームを付けてる感じ。膜を張りすぎてるから、気持ちいいツボを押しても気付かないんですよ。その膜を取っぱらうために、ライブをやったりCDを出したりしてるんです。
俺もずっと「性」のことを歌いたくて、いつかそのテーマだけでアルバムが録りたいんです(金田)
金田:あ、大橋さんにひとつ聞きたかったことがあるんですけど、(『目のまえのつづき』の写真を見て)この写真の女性とはどんな関係なのかを知りたくて……。俺はこれって「長く付き合った恋人と別れたあと」だと思ったんです。
大橋:うん、ドンピシャだよ!
金田:よかった……。そういうのって、たぶんネットで調べちゃうとすぐにわかっちゃうから、見ないようにしてたんですよ。2005年からずっと「大橋仁と会ったら聞こう」と思ってたことだったんです。そういう日の顔ですもんね。
大橋:嬉しいなぁ。これはね、15~21歳まで6年間付き合った女の子と別れた朝の写真です。19歳から写真撮ってたしさ、普通に日常的に撮ってたんだよね。
―写真を見てて、実情が汲み取れたんですね。
金田:うん。泣いてる女の子の写真っていくらでもありますけど、この表情と涙は絶対に何か大きな事件が起きたあとだろうなって。色々考えたけど、「やっぱり別れたかな、部屋の写真だしな~」と思ってたんです。
大橋:ありがたいね。実は3冊目の写真集を今作ってるんだけど、今回も、すでにかなり難航してるんだよね。
―それは内容的に問題があるということですか?
大橋:まあ国内だと修正入れなくちゃいけないものが写っているってことだけなんだけど。出版社の方で国内の印刷屋をかなりくまなく当たったんだけど、現状ではかなり難しい。でも、もちろん、なんとかしますけどね。
金田:これまでに「死」と「生」の作品を出されてて、次は何なんだろうって思ってたんですよ。大橋仁の撮る「性」は見たいなぁ。俺もずっと「性」のことを歌いたくて、いつかそのテーマでアルバムが録りたいんです。30歳すぎたくらいだったら、すごくいいのが録れる気がするんですよね。
―今後のビジョンも重なる部分がありますね。
大橋:次の写真集は撮影に関しては終わっていて、自分の中で30代のうちに出したい気持ちがあるんですよ。40代で出す本ではないというか。今月(11月)39歳になるので、もう危ないんですけど。
ジャケット、アーティスト写真を水中で撮れたらなって考えてて、大橋さんに撮ってもらいたい(金田)
―年齢が14も違うお2人ですけど、こうやって意気投合できるのはいいですね。
大橋:歳とかは関係ないですね。感覚でしょ。ピカソが80歳くらいのときに18歳の子と付き合ってたっていう話があるじゃないですか。あれも、ちゃんと付き合えてたと思うんですよ。つながるものは一瞬にしてつながりますね。
―逆に、お2人の違いを挙げるとすればなんでしょうか?
大橋:うーん……年齢? 精神的には一緒だけど、肉体的な年齢だよね。そこには凄まじい価値があると思う。理屈を超えてるっていうか。射精の仕方も違うわけですよ。飛距離も破壊力も(笑)。
金田:あははは! 俺はパーン!って感じですよ。
大橋:俺はグーンだね(笑)。その時によっていろいろあるけど。
金田:あとは違いを言うなら、説得力かな。続けることで得られるものはすごいですよね。単体での重みがもう違う。それをまじまじと見せつけられることはありますよ。
―金田さんも大橋さんもできるだけ長く活動してほしいです。
大橋:極端なことを言えば、表現者は自分のやりたい表現のために手段を選んではいけないと思う事があります。やりたいことをやり切る、生き切ると言う事。そりゃ人を騙したり、泥棒や犯罪はダメに決まってるけど、たった1回の人生で自分の命なんだから、我々の気持ちいいこと至上主義をどうやって貫くのか? そして、貫く時に必要なことは何か? 必死で理論武装するのではなく、素っ裸で飛びこんでしまうような、 気持ちと、覚悟が大事だよね。
金田:その段階で巻き添えにした人たちを背負う覚悟もですよね。メンバーをはじめ、レコード会社の人たちやこうして取材をしてくれる人たちが巻き添えになっていくのは、ホントに気持ちがいいんですよ。
大橋:うん。そういう覚悟を俺は金田くんに感じてる。この人はそうやって生き切ってくれる気がしてさ。
金田:生き切ることを考えるから、人を歌いたくなるのかもしれないです。
―最後に、金田さんが大橋さんと一緒にやってみたいことはありますか?
金田:まだ仮なんですけど、『青の時代』っていうフルアルバムを作ってみたいんです。その時にジャケット写真やアーティスト写真を水中で撮れたらなって考えてて、ぜひ大橋さんに撮ってもらいたいですね。Nirvanaの『ネバーマインド』の大人ヴァージョンというか、俺らは青い服を着てぼーっとしてるイメージ。ちゃんとした青のスーツを(洋服の)並木で仕立てて。
大橋:あー、その方がいいよ。ツナギとかだとピタってくっついてレオタードみたいになっちゃう。あと、真っ白なスーツでもいいかもね。プールの中って基本的に全部青で塗られてて、その反射で全部が青く見えるんですよ。白だと自然な青になるはず。
金田:あ、それ面白い! その時はよろしくお願いします。
大橋:うん、よろしく~!!
- リリース情報
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- THEラブ人間
『大人と子供(初夏のテーマ)』(CD+DVD) -
2011年11月23日発売
価格:1,000円(税込)
VIZB-181. 大人と子供(初夏のテーマ)
2. レイプ・ミー
3. 抱きしめて
[DVD収録内容]
1. 砂男
2. 東京
3. これはもう青春じゃないか
4. 抱きしめて
5. 砂男
- THEラブ人間
- プロフィール
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- THEラブ人間
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2009年1月に金田康平を中心に突如現れた音楽集団。「恋愛至上主義」を掲げ、今日も他人と解り合うことを願って血まみれの恋愛と青春の焦げ臭さを高らかに歌っている。
- 大橋仁
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1972年神奈川県相模原市生まれ。1992年第8回キャノン写真新世紀/荒木経惟選・優秀賞受賞。個人作品集に写真集「目のまえのつづき」(青幻舎)刊行(1999年)、写真集「いま」(青幻舎)刊行(2005年)などがある。雑誌、広告などでスチル、ムービーを問わず印象的なイメージを発信し続けている。
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