「音楽と地域の関係性」というのは、アメリカやイギリスの音楽シーンを語るときによく出てくるトピックだが、言うまでもなく、日本の音楽シーンにおいても非常に重要なトピックである。札幌、名古屋、大阪、福岡にはそれぞれ歴史のある独自の音楽シーンが存在し、最近では青森、仙台、神戸なども注目を浴びている。そして、その中でも京都の存在が常に際立っていることは誰もが認めるところだろう。京都大学西部講堂は「関西音楽シーンの聖地」と呼ばれ、『ボロフェスタ』『みやこ音楽祭』『京都音楽博覧会』『京都大作戦』と、他の地域にはない独自性を持ったフェスが多いことも、京都ならではである。そして、OUTATBEROはそんな京都の中で、アンダーグラウンド・シーンの先輩の背中を見て成長してきたバンドであり、シーンに対する愛着があるからこそ、現状に満足せず、その先を目指そうとするバンドである。カテゴライズ不能の音楽性を持った新作『ARM』同様、その意志の強さやイマジネーションの豊かさもまた、とてもひとつの枠に収めることはできない、稀有な存在である。
周りのバンドが解散とかで少しずついなくなっていって、それが嫌だったんですよ。好きな音楽がなくなっていくような感じがして。
―OUTATBEROの結成は2007年で、2009年から現在のメンバーになってるわけですが、結成当初のバンドのビジョンはどういったものだったんですか?
BINGO:1番最初からのメンバーはもう僕だけなんですけど、もともとはニューウェイブがすごく好きで、「DEVOみたいな音を使って、オルタナやろうぜ」みたいな。単純にそんな感じでしたね。
―現在の他の3人のメンバーはどう集まったんですか?
BINGO:ドラムのGとは前から知り合いだったんですけど、僕らの周りにいたバンドってもっと年上ばっかりだったんですよ。10代だったのが僕とGぐらいで。
―その時はまだGさんとバンドは一緒にやってなかったんですね。
BINGO:「お前ら一緒にやればいいんちゃう?」ってよく言われてたんですけど、その当時は仲良くやれる気がしなくて(笑)。そんな中、周りのバンドが解散とかで少しずついなくなっていって、それが嫌だったんですよ。好きな音楽がなくなっていくような感じがして。そのとき、当時のOUTATBEROのメンバーも一斉に「やめようか」って話になって。
―一斉にやめたんですか。
BINGO:シンセサイザーを担当してたメンバーがサウンド面の中心だったので、その人が「やめる」と言った瞬間に、「じゃあ、無理だろう」って思ったんです。でも、その時点で今のギターのCはいて、彼は「続けようよ」と。そんなときにGの顔が浮かんで、「仕方ねえな」と思って声をかけて(笑)。
BINGO
―仕方なく(笑)。
BINGO:変な使命感じゃないですけど、「このままだとみんないなくなっちゃうね」って思ったんですよね。それで、Gを誘って、Cの大学の同級生だったUがベースで入ってきて、だから今のメンバーで始めてそんなに時間が経ったわけじゃないんですけど、すごくよくやれてるとは思いますね。
―そんなに周りのバンドがいなくなっちゃってたんですか? 京都の音楽シーンには厚い層があるっていうイメージがあるんですけど。
BINGO:京都のアンダーグラウンド・シーンが好きな人はもちろん多いんですけど、僕らがホントにかっこいいと思ってた音楽って、周りにいたバンドたちなんです。それがどんどんいなくなっていっちゃって、しかもその音楽は僕らにはできなかったんですよ。単純に「すげえ」ってなるだけで。
―その「できる」「できない」の差はどこにあったんでしょう?
BINGO:Gと僕が直接的に上のバンドと関わったのが大きかったんだと思います。京都にTORICOっていうバンドがいたんですけど、うちのメンバーみんな大好きで、今でも「どうやったら勝てるんだろう? もういねえけど」って言ったり(笑)、未だにコンプレックスなんです。
―TORICOはどこがそんなにすごかったんですか?
BINGO:一概にアンダーグラウンドの音楽とは言えないっていうか、アンダーグラウンドに存在する音楽だとは思うんですけど、そこだけに収まらない圧倒的なオリジナリティがあったんですよね。何とも比較することができないっていう。あと、僕やGは、その独自性みたいなものがすごく構築的に作られてると思ってたんですけど、実際に関わってみたら、ただのロックバンドだったというか。感覚的に音を決定していて、すげえ「いい加減」だったんです。どっちの意味でも(笑)。
―でも、少なくとも「圧倒的にオリジナリティがあって、何とも比較することができない」っていうのは、OUTATBEROにちゃんと引き継がれてますよね。
BINGO:ありがとうございます(笑)。
2/3ページ:自分たちの場所を作るのって、意志とか願望とか、そういうものが強くないとダメなんじゃないかって思うんですよね。
自分たちの場所を作るのって、意志とか願望とか、そういうものが強くないとダメなんじゃないかって思うんですよね。
―ということは、OUTATBEROも構築的に見えて「いい加減」なんですか?
BINGO:自分ではすごく「いい加減」だと思うんですけど(笑)、でも難しいですよね。ファースト(『CUPRUNOID』)を出した時は、曲を「さあ、作ろう」っていう時点で考えが先行してたというか、予想が立ってからやっていて。それはそれで面白いと思うんですけど、それ以上のことを探すことにはならなかったですよね。
―ゴールが設定されちゃっていた?
BINGO:そうですね。設定して、その範囲内であれば何をやっても大丈夫だろうって。そういう意味で「いい加減」だったんですけど、でも「(TORICOは)もうちょっとすごくなかった?」って思って(笑)。そこから、ライブの中で模索を始めて…
―ああ、僕の中でOUTATBEROは音源とライブは別物のイメージがありました。
BINGO:それを意図してるわけじゃないんですけど、単純に、僕らが聴いたことのない自分たちの曲を聴いてみたいんです。その方が驚きがあって楽しいし、作る過程も面白いんですよね。「実際にはやらねえけど」って言いながら、変な音を入れてみたり(笑)。それってすごく自己中心的というか、自分が感動するためにやってるんですけど、でもそれをたくさんの人が聴いて、共有できたら、それはすごくいいなって。
―自分たちが楽しむだけじゃなくて、その先のことも考えてると。
BINGO:そうですね。僕らが憧れていたバンドがいなくなって、一番嫌だなって思ったのが、「もっと『すげえ』って思う人がいっぱいいたはずなのに』ってことなんですよ。それを「惜しいな」ってずっと思ってるし、そのバンドが好きだった人たちは今の僕らを見て、「今度はもっといろんな人が聴いてくれたらいいのに」って言ったりする。だから、うちのバンドに限らず、「シーンとして広めてこう」っていうのがあって、そこを担いたいとすごく思ってます。それに固執するわけじゃないんですけど、放っておくわけにはいかないというか。
―歯がゆい思いをした分、自分たちは広めようと思ってるんですね。
BINGO:「聴けよ」っていうつもりはないんです。…「聴けよ」って言われたら、僕は聴かないんで(笑)。でもなんか、聴いてもらえるようにしようとは思ってるっていうか。
―途中でちょっと言ってましたけど、ある種の使命感がある?
BINGO:京都っていう小さな町で、「使命感が…」とかいうのは大げさな気もするんですけど、ただその方が面白いんですよね。そういうバンドって今は僕たちだけだって、それは100%そうだって言えるし。自信があるわけじゃないですけど、自分たちの場所を作るのって、意志とか願望とか、そういうものが強くないとダメなんじゃないかって思うんですよね。
KISSを燃えるように好きな精神性って、僕らの年代にはいないから、それを大切にします(笑)。
―京都の先輩バンド以外で言うと、どんな音楽に影響されてるんですか?
BINGO:結構古いロックが好きなんですよ。バカなやつ、KISSとかAEROSMITHとか、僕とGはそのあたりが大好きですね。
―それは意外(笑)。新しいものは?
BINGO:ベースのUが一番今の音楽をたくさん知ってて、僕も聴くは聴くんですけど、なかなか覚えられなくて(笑)。僕はホントにKISSがめっちゃ好きで、DVDとか写真集も持ってるんですよ。それが自分らの音楽にフィードバックしてるかは全然わかんないですけど(笑)、ただ時代も違うし、年も違うし、住んでる世界も違うし、全部違うから比べるもんじゃないと思いつつ、単純に僕らでは全く想像つかないことをしているわけで、あえてそこと比べるようにしてるっていう。全部違うから比べ甲斐めっちゃあるし、違い過ぎてめっちゃ面白いんですよね。それで、あえて近寄ってみようと思ったり。ギターから花火出すとかはしないですけど(笑)。
―なるほど。でも確かに精神性だけを考えたら、例えば、ジーン・シモンズが2010年代の京都で育ってたら、OUTATBEROみたいなことをやってたとしてもおかしくはないかもしれないですね(笑)。
BINGO:精神性か…それすごくピンと来ますね(笑)。音楽には付き物の言葉かもしれないですけど、今改めていいなって思いました。KISSを燃えるように好きな精神性って、僕らの年代にはいないから、それを大切にします(笑)。
3/3ページ:僕らは京都で音楽をやりたい、ただこのままでは本当にやりたいようにはできない。そういう意味で、何かを台無しにしたいと思うんです。
「めっちゃいいのできそう」って思いながら、「でもまだこれやってるのか」ってギャップも常に感じてました。
―じゃあ、そんなKISSからも影響を受けてるかもしれない(笑)、新作の『ARM』について聞かせてください。作品としての青写真のようなものはあったんでしょうか?
BINGO:ファーストを作ってる段階で既に新曲がたくさんあって、すぐに音源にしたいって思ってたんですよ。あと、さっき「ライブの中で探すようになった」って言ったと思うんですけど、まさにそういう過渡期で、それをそのまま入れちゃおうと思って。きっとこれ以上放っておいても、また形が変わってよくわかんなくなるだろうと思ったんで、「じゃあ、もう録ろうよ」って(笑)。
―「早く出す」っていうのがひとつのポイントになってたんでしょうか?
BINGO:ファーストを出したときは、「続く」って感じだったというか、途中まで作ったものをボンッと出したところがあって。それ自体は上手く形にできたと思うんですけど、感覚的にはファースト作り始めたころからずっと制作が続いてる感じがして、「なんて長いんだろう」って(笑)。前に自分たちが作ったものからフィードバックするってサイクルを延々続けてたんですけど、その感覚も変わってきたし、「もう、いいっしょ」って思ったところはありますね。
―ファーストにも入ってた"national down"が形を変えて入ってるのも、「前回も入れて、今回も入れた」っていうよりは、同じ流れの中で形を変えたっていうことなんでしょうね。
BINGO:そういうことだと思います。どの曲もなんですけど、僕らの中ですごくいろんなパターンがあって、その中でライブでやるパターンを尊重してるんです。その流れが今回より強まってるとは思いますね。
―よりライブに近い形で音源になってると思いますか?
BINGO:ライブ感を求めたわけではないんですけど、単純にそのとき鳴らして「いいね」って思ったものを、1回このまま閉じてみようっていうところから始まってます。ただ、「いいな」を閉じ込めただけだと、あまりにも終わらない感じがあって、「めっちゃいいのできそう」って思いながら、「でもまだこれやってるのか」ってギャップも常に感じてました。それもあって、もう「はい、区切り!」って言っちゃえば区切りになる気がして。
―「できた」というより「区切った」?
BINGO:でも、すごく満足はしてるんです。聴きたい曲を録れたし、区切って初めてちゃんと僕たちもこの曲が聴けたというか。そういう意味では、ファーストの頃からやろうとしてたことができた気はしていて、ホントに良かったと思ってます。
僕らは京都で音楽をやりたい、ただこのままでは本当にやりたいようにはできない。そういう意味で、何かを台無しにしたいと思うんです。
―『ARM』というアルバムタイトルにはどんな意味があるんですか?
BINGO:タイトルは、マスタリングをやってくれたヒラヰって奴と一緒に考えました。「普通の単語で普通っぽくないやつ」とか、そういうひねくれたことを言う奴なんですけど(笑)、色々考えてて、思いつきで「『ARM』は?」って言ったら、「来た、それ!」って。お互いノリで決めたこともよくわかってて、「決めた!」と言いながら、「いいのかな?」って思ってるのもお互いわかってるんですけど(笑)。
―(笑)。でも、最終的に決めたのには理由もあるんじゃないですか?
BINGO:尖った字ばっかじゃないですか? 「OUTATBERO」って僕はすごく丸いと感じてて、どうやら僕は丸いものが好きらしいんですね。だから「ARM」って書いたときに、「ドキドキするな」って(笑)。その自分じゃないような違和感に可能性を感じたというか…
―すごく新鮮な体験だったと。
BINGO:まだ違うことをしようとしてるんだって思えたというか、アルバムのタイトルなんですけど、このタイトルをつけたおかげで本当に次へ行こうと思えたし、そういう意味では感慨深いものがあるんですよね。
―なるほどなあ。やっぱり取材とかで「京都らしさ」みたいな話ってよくなると思うんですけど、僕が思う京都らしさってある種のアカデミズムで、バンドで言えばレーベルメイトのnuitoの音楽はまさにそうだと思うし、空中ループみたいなポップな歌もののバンドでも、やっぱりアカデミズムを感じる。で、さっきの「普通の単語で普通っぽくないやつ」っていう会話も、「ああ、京都っぽい」とか思っちゃいました。
BINGO:京都っぽいバンドだなって僕も思います。始めた頃は「京都っぽい」って言われてもよくわかんなかったし、「みんなと一緒ってことか!?」みたいのもあったと思うんですけど(笑)。あの土壌でずっとやってきてるし、いろんなバンドが認知し合ってるし、やってることは違うけど、みんな通ってる学校は一緒とか、ホント狭いんで。どんどんみんなでみんなのために京都にインプットしていくような状態というか、みんな取り入れるのが好きなんでしょうね。そこがアカデミックにつながるのかな? 何かを取り入れて、しっかり考えるのが好きなのかもしれないです。
―それが各バンドでも行われてるし、全体としても行われているんですね。
BINGO:僕らも本質的にはそうなんですけど、でもそれだけじゃダメなんだろうなって。欲しいものにはたどり着けないと思うんで、さっき言った精神性みたいなのを少し捻じ曲げて行ってみようと。
―ああ、TORICOへの憧れっていうのはそれこそ京都的なものだけど、それをより広めるには京都的じゃない発想も必要だと。
BINGO:傲慢でいることが楽しいっていうか…あ、いい奴が多いんですよ、京都は。ちょっと捻くれてるぐらいじゃ、「でもやっぱあいつ、いい奴だし」「俺、好きだし」みたいな(笑)。本気で「あいつちょっと苦手」って奴もあんまりいないんで、バンドとしてそうなろうとは全く考えてないですけど、僕個人として、1回めちゃめちゃ嫌われてみたら、何か変わるんちゃうかって(笑)。何か裏切ってみたいという感覚がありつつ、その一方でどのバンドよりも聴かれてる、そういうギャップを生み出したいなって。
―なるほど。その発想は面白いなあ。
BINGO:僕が好きなオルタナの人はそうだったんですよ。「なんてひどい人だ」ってホントに思ったし(笑)。ただ、めちゃめちゃかっこよかったんですよね。結局みんな人だから、そいつの持つ人柄が「このバンドいいな」って思わせたりもするじゃないですか? ただ、それも音楽と言えるかもしれないけど、少しフィルターを通してしまった感じがするというか。
―悪く言うと、馴れ合いになっちゃうってことですか?
BINGO:馴れ合いは大好きなんです。僕個人はエモと馴れ合いが大好物なんですけど(笑)、それはもう十分にあるから、OUTATBEROに関しては違う道を行きたいというか。人柄でつながってしまったら、つながった人たちの中から誰かが圧倒的になるのって難しい気がして。
―ああ、それはわかる気がします。
BINGO:僕らは京都で音楽をやりたい、ただこのままでは本当にやりたいようにはできない。そういう意味で、何かを台無しにしたいと思うんです。
―好きだからこそ1回台無しにして、その先にあるものを見つけたい?
BINGO:そうですね。僕らも何かに気付くかもしれないし、周りの人も気付くかもしれない。僕らのことを昔から知ってる人は、僕らにそれを期待してると思うし、きっと今の考えは間違ってないって僕らは信じてるんです。
- リリース情報
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- OUTATBERO
『ARM』 -
2011年12月7日発売
価格:1,890円(税込)
STNO-2261. the sleeper
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- OUTATBERO
- プロフィール
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- OUTATBERO
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2007年京都にて結成。2010年春に現編成に。同年9月、1stアルバム"CUPRUNOID"リリース。iTunesオルタナティブチャート1位獲得。 2011年11月初のEUツアー。そして12月7日、2ndアルバム"ARM"リリース。シューゲイズ/エレクトロニカ/フリーフォーク/ダブステップ等の要素を取り入れた緻密かつ幽玄でダイナミックなサウンドは世界基準とも評され、今作でOUTATBEROという一つのバンドサウンドを確立した。
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