一般的に、バンドとは固定されたメンバーが、特定の音楽性に沿って活動をするものである。カゲロウに関しても「サックス、ピアノ、ベース、ドラムという編成で、パンキッシュかつフリーキーなジャズを鳴らすインストバンド」とレジュメすることは可能だが、メンバーが海外留学に行ってしまったり、そもそもの入口がジャズではなかったりと、固定概念では収まらないところが魅力のバンドとも言える。それもそのはず、「ボーカルの引き立て役に回ることにストレスを感じていた」という中心人物でベーシストの白水悠を筆頭とした、枠に捉われることを嫌うメンバーの集合体、それがカゲロウなのだから。新作『III』では、メロウなナンバーから実験的な長尺曲までを収録し、これまでの作品よりもグッと幅を広げた作風を提示しているが、「固まる前に叩き壊す」ことを前提としているかのような彼らにとって、今作の方向性は自然なものであったに違いない。アルバム発売後には「回数無制限のアウトストア・ライブ」という、これまた枠から外れまくったイベントを予定しているメンバー3人に、その活動原理を聞いた。
形に固執してやりたいことができないよりは、形はどうであれやりたいことをやるっていう方が心地いいんですよね。
―カゲロウはジャズを基調にしたインストバンドなので、リズム隊がすごく重要なバンドだと思いますが、ドラムの貴之さんはアメリカに留学中なんですよね? しかも2回目の。
白水(Ba):そう、ドラムの勉強をしに行ってましたね。いまは日本に帰ってきましたけど。
―メンバーがパッとアメリカに行ってしまうって、定期的な活動をしているバンドとしては珍しいケースだと思うんですけど、それに対して抵抗はありませんでしたか?
白水:確かに、他にあんまり聞かないですよね(笑)。でもまあ、サックスのるっぱさんにしてもピアノのチエちゃんにしても、もちろん僕もそうですけど、みんなそれぞれの人生があって、今は3人の人生が交わってるときなんだって思うんです。そういう考え方だから、貴之が場所を移してやりたいことがあるならそれはそれでありだと思ってて。
Ruppa:半年とか離れるんだったら、違うドラマーとやった作品をも作ってみようかなって。止めて待つよりは、動いて迎え入れる方が性に合ってたんでしょうね。
白水:もちろん貴之のファンの方は思い入れもあるだろうし、「貴之さんじゃないと」っていう声も耳に入らないわけじゃないんですけど、正直それは…「残念でした」って思うしかない。
―バンドのお客さんはそこを求めがちですけど、そればっかりはしょうがないですもんね。
白水悠
白水:うん、お客さんの言ってることがわからないとかじゃなくて、わかった上で「残念でした」っていう。今回のアルバムはドラマーが3人参加してて、それが一般的な「バンド像」と照らし合わせて変な具合になってるのはもちろんわかってるんです。でも、形に固執してやりたいことができないよりは、形はどうであれやりたいことをやるっていう方が心地いいんですよね。
―そういう型にはまらない姿勢って、カゲロウの音楽性にも反映されていますよね。ジャズだけど、すごいパンクな側面もあるっていう。
白水:もともと僕はパンクばっかやってたんすよ。それが大学の軽音楽部でジャズみたいなビートに出会って、「ズッタンズッタン(パンク)よりチーチッキチーチッキ(ジャズ)の方がクールじゃん!」と思って。
―それ、割と単純ですね!(笑)
白水:周りにジャズっぽいことなんてやってる人がいなかったんですよ(笑)。それに当時、EGO-WRAPPIN’が出てきたりとか、(元THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの)チバ(ユウスケ)さんがスカパラとやってたりして、ああいうのかっこいいじゃんって思ってたんです。それでサックスとピアノ入れたら、「こういう編成のバンドって他にいないんじゃね?(俺の周りでは)」って思って…(笑)。
―でも、そういう音楽を続けているうちに…
白水:そうそう、世の中にこんなにいっぱいいるとは思わんかったです(笑)。
結果的に、1個足りない感じじゃなくて、凝縮して放出できたなって。
―でも、カゲロウの音楽はその中でも特徴的ですよね。パンク畑の白水さんに対して、Ruppaさんはジャズを勉強されてたんですか?
佐々木“Ruppa”瑠
Ruppa:勉強してる人に比べたらかじってるともいいずらいですけどね。格ゲーで例えるなら波動拳の入力コマンドを知ってるみたいなもんですよ。昇竜拳も出せるけど、あまりに鉄板なことするのは小っ恥ずかしかったりして。きちんと外れるために基本的なことを知る必要があるって感じでしょうか。
―…つまり、ジャズのマナーは身についていたわけですね(笑)。若干畑が違う部分もあったと思いますが、バンドにはスムーズに溶け込めたんでしょうか?
Ruppa:青春パンクブームに乗ってたので畑は違わないんですが、この人(白水)ひどくて、同じことを4小節ぐらいしかやらないから、セッションしてて「あ、そういう感じでやりたいのね」って思ったころには、もうそれに飽きてたりしてて。
白水:「待つ」とかダメなんですよ。当時は歌の後ろでベースを弾くことにすごいストレスを覚えていて、「なんでお前の歌を俺が引き立てなきゃなんないんだ?」って苛立ってたから、カゲロウで弾くのが本当に楽しかったすね。
―それで、4小節毎に新しいフレーズを繰り出していたわけですね(笑)。曲の原型は白水さんが作っているとのことですが、今回のアルバムって、楽曲の幅がかなり広がりましたよね。何か理由があるんでしょうか?
白水:2枚目の『?』を作り終って、周りの中でカゲロウっていう変な枠ができちゃったんですよ。その枠を外したかったってのが大きいと思います。あと、大体どんなバンドでも、1stってそれまでの活動のベストで、2ndは「(1stに)これ入れたかったわ」って曲が半分、新曲が半分くらいの割合になってることが多いんじゃないかなー。だから3枚目のアルバムって、デビュー後に作った新曲ばかりで構成する初めてのアルバムなんですよ。そういうわけで、今回のヤツを作る上で結構危機感もあって。
―なるほど。ドラマーが3人参加してることも影響してそうですね。
白水:うん、その象徴が一曲目の“GAS”で、ああゆうビートはこれまでのカゲロウだったら発想として出なかったでしょうね。
―それってバンドにとってはなかなかの変化だと思いますが、変化に対する違和感はなかったんでしょうか。
白水:これまでの枠を外したくて作ったから、かなり苦戦すると思ってたんですけど、メンバーの理解がすごく早くて。これまでは僕が何かを提示して、まず「嫌だ」って言われるのが第一歩みたいなところもあったので(笑)。
―そうなんですか?
Ruppa:だいたい「じゃあ、(白水が)言ったようにやってみるよ」って言って、要望に応えた上ですげえ下手に吹いたりしてました(笑)。
―つぶし合いじゃないですか(笑)。
白水:今回は貴之がアメリカに行って3人になったから、2人の優しさなのかわからないけど、一丸となった感じはしましたね。結果的に、1個足りない感じじゃなくて、凝縮して放出できたなって。
―4人と3人って結構違うでしょうからね。
白水:4人だと発言しなくていいやつが出るんですよ。飲んでるときもそうじゃないすか? 4人で飲んでると1人携帯イジってても別にいいんすけど、3人で飲んでて誰かがイジりだすと、みんなイジるじゃないですか(笑)。
―わかります(笑)。
白水:あと2011年は4月から9月まで毎月自分たちでシングルを録って、映像も撮って、YouTubeにアップしてっていうのをやってたから、1年っていうスパンでまたアルバムを出せたのは、その影響も大きかったですね。
―そもそも、その企画のアイデアはどこから出てきたんですか?
白水:マネージャーとかと飲んでて、僕が発した言葉が確約なきままニュースサイトで流れちゃってて(笑)。
―「言ったことは言ったけど…」みたいな(笑)。
白水:言ったけど、そのときはまだ“GAS”しか作ってねーし(笑)。でも、すっごい楽しかったすけどね。ジャケットも自分で作って、PVも自分で色合い決めたりして、1stを出す前の感覚、自分たちだけでやってた頃の感覚を思い出すよね。
小賢しいことをやってもごまかせない曲が多いんですよ。だから音色一発だったり、生音の音量の感じとか、気持ち、感情が見える部分で見せていくべきだなって。
―『III』はカゲロウにとって変化の1枚だったわけですが、メンバーの優しさや、マネージャーの愛情(?)にも恵まれて、白水さんとしてはかなり順調な制作になったわけですね。
Ruppa:白水の言うことを酌まないとこのバンドは進まないってわかってきたんですよ。とりあえず乗せて、動かしてから考えようっていう。出鼻くじくとくじける子なんで。
白水:「じゃあ、もういいよ」ってその曲2度とやらなくなるし(笑)。でも本当に「白水に対する優しさ50%増し」だったお陰で、僕の中ではすごいクリアなアルバムになった。『?』のときって、変な言い方ですけど、レイプされてる感じだったんですよ。自分のイメージがメンバーのフィルターで変異した形で出てて、それはそれで超かっこよくて、でも自分の中で最初に生まれたものではなくて。今回はみんなの優しさにより、頭に浮かんだものがパッと出せたかなって。
―Ruppaさんは今回の制作にあたって、前作までとの違いはありましたか?
Ruppa:白水がリーダーだけど、あたしがメロディーを担当するわけで、今回の音源では引っ張らなきゃいけないポジションなのかなと。ライブのときだけじゃなくて、音源になったときにもフロントマンっぽい感じに、メンバーの演奏背負ってちゃんと音をリスナーに届ける役割をやろうっていうのはありました。だって…曲が単純じゃん?
白水:単純だよ(笑)。パンク上がりだもん。
Ruppa:小賢しいことをやってもごまかせない曲が多いんですよ。だから音色一発だったり、生音の音量の感じとか、気持ち、感情が見える部分で見せていくべきだなって。
―菊池さんは今作での変化ということに関してはいかがですか?
菊池:前作は私が入る前にできてた曲もあったけど、今回は全部一緒に作ったから…だから、自分で曲のメモも書きました。
菊池智恵子
白水:そりゃ当たり前だろ(笑)。途中までいい話っぽかったのに…。
―(笑)。でも、全曲一緒に作ったことによって、バンドに対する意識はより高まったんじゃないですか?
菊池:…それは前から変わらん。
白水:チエちゃんはもともとカゲロウのことが好きで加入してくれたんですよ。そういうこともあって、最初はチエちゃんの中にあるカゲロウ像に染まろうと頑張ってて、『?』でチエちゃんならではの感じが出てきたけど、まだ「これでいいのかな?」って感じがあったっぽくて。でも、今回は僕がフレーズを指定するようなこともあんまなくなってきて、チエちゃんの中でもカゲロウが自然になったんじゃないっすかね。
変化をすることが目的ではなくて、目的に届かせるために選ぶ手段が変化なんだと思います。
―途中で「今回は枠を外した」という話がありましたけど、もともと4小節しか同じことをやらない人が中心のバンドだし(笑)、カゲロウはそうやってどんどん変わり続けていくバンドなんでしょうね。
白水:飽きちゃうんすよね。自分のやりたいことがあって、まだそこまで行けてないのに、変に安定したトコに落ち着いてもなって。アルバムをコンスタントに出したり、こうやってインタビューをされることですら、昔から考えるとすごく嬉しいことなんですけど、もっと高いところに行けるんじゃないかって。そのためにどうするかって言ったら、「固まってきたときに1回ゼロにして考える」っていう。
―そうやって、少しずつ高みに近づいていくと。
白水:そうだといいですよね。昔だったらカゲロウに他の人をいれるのも抵抗があったと思うんだけど、今回はタブさんにも参加してもらったし、ライブで対バンの人に参加してもらうのも楽しいし。変に固まらなかったお陰で、いろんなオッケーがあることを知れたというか。
―いい意味で、こだわりが抜けてきたのかもしれないですね。
白水:「これしかやんないよ」っていうスタイルもあるかもしんないけど…僕はやっぱり飽きちゃう。ロックンロール・バンドは好きですけど、「新曲作りました」って言って、「またベースラインこれかい…」っていうのは性に合わないんですよ。変化をすることが目的ではなくて、目的に届かせるために選ぶ手段が変化なんだと思います。
―アルバムリリース後の2月にはアウトストア・ライブが行われるそうですね。
白水:うん、タワレコで買ってくれたひとはみんな入れるんだけど、やるハコも全然でかいわけじゃないんで、パンパンになったら入れ替えで、何回かやろっかなって。
―何回やることになるのか楽しみですね。
白水:たくさんやる事になればといいけどね(笑)。ただ、ライブに来るにせよ、来ないにせよ、カゲロウの音が誰かの人生の一部分にでもくいこめたら、それはホント嬉しいことでして。特に、カゲロウの曲をライブのSEで使ってくれたり、大学でコピーしてくれたりとかって話を聞くことがあって、僕らも軽音とかでコピーバンドいっぱいやってたからホント嬉しいんすよ。思わず「飲みに行こう! おごるぜ!」って言いたくなるくらい(笑)。なのでとにかく、まずはこのアルバムを聴いてもらえたら嬉しいですね。
- リリース情報
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- カゲロウ
『KAGEROIII』 -
2012年1月11日発売
価格:2,520円(税込)
RAGGED JAM RECORDS / MEDIA FACTORY / RAGC-0041. GAS
2. LIBERTINE SPECIAL
3. sheepless, but feel alright
4. HYSTERIA
5. YELLOW
6. ONE DAY
7. PAINKILLER
8. MIST
9. BLACK MIG
10. a bird in the cage
11. FRISBY AND THE MAD DOG
12. DRILL LINER
- カゲロウ
- イベント情報
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- 『KAGEROIII Release Tour「HYSTERIC GAS」』
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2012年1月28日(土)
会場:東京都 渋谷 PLUG2012年2月4日(土)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET2012年2月18日(土)
会場:宮城県 仙台 JUNK BOX2012年2月25日(土)
会場:東京都 恵比寿 Batica(タワーレコード購入者特典ライブ)
- プロフィール
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- カゲロウ
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白水悠(Ba)、佐々木“Ruppa”瑠(Sax)、菊池智恵子(Piano)Drummer:鈴木貴之/野中隼人(The end roll)/松下マサナオ(YASEI COLLECTIVE)。ジャズカルテット編成の常識を覆す攻撃的な轟音とパンクスピリット溢れるライブパフォーマンスを武器に、活動当初から都内アンダーグラウンドシーンを席巻。ジャズ、パンク、ハードコアシーンを股にかける異端児として、国内外問わず注目を集めている。
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