音楽系才女によるガールズトーク Rayons×Predawn対談

「Rayons」とは、フランス語で「光線」もしくは「半径」といった意味を表す言葉である。この2つの意味から連想されるのは、満月へと向けて徐々に光が満ちていく半月の様子。それは日の光に満たされる前の「Predawn」=「夜明け前」という言葉と、どこか通じるものがあるように思う。そんなそれぞれの名義を持つ2人の女性アーティスト、Rayonsこと中井雅子と、Predawnこと清水美和子が、ひとつの作品で出会いを果たした。それがRayonsのデビュー作『After the noise is gone』である。

音大でクラシック、現代音楽を学んだ中井と、インディロックをバックグラウンドに持つ清水は、これまでそれぞれの道を歩んできた。しかし、この作品に存在する薄明かりの中から光を見出すような澄んだ空気感は、スタイルの違いを超えて、2人が共有する感覚が音に表れたものに違いない。人生初のインタビューで緊張した面持ちだった中井と、天然のゆるキャラな清水という、2人のキャラクターの違いも面白い、音楽系才女によるガールズトークをどうぞ。

ヤマハって小さい頃から即興したり曲を作ったりする教育だったので、弾くこともそうですけど、作ることも自然にやってたんです。(Rayons)

―お2人は共通の知人を通じてお知り合いになったそうですね?

Rayons:大学のサークルの後輩が美和子ちゃんの高校の先輩で、その人がウェブで(Predawnを)紹介してたのを見て試聴したら、すごくよくて。

Predawn:(小声で)恐縮です…。

―どこに魅力を感じました?

Rayons:私はハンネ・ヒュッケルバーグっていうシンガー・ソングライターのことが大好きなんですけど、ああいう雰囲気の声を持ってる日本人ってあんまりいないと思うんです。でも美和子ちゃんの声はすごく近くて。

―実際初めて会ったのはいつ頃なんですか?

Rayons:2年前ぐらいかな…その後に自分の作品を作り始めて、誰かに歌ってもらいたいと思った時に、「そういえばあの子がいいかも」みたいな。

Predawn:その先輩に「紹介したい人がいる」って言われて、1回カレー食べに行きましたよね? そのときにデモの音源をいただいて…

Rayons:「できれば歌ってもらいたいので、とりあえず音源聴いてみてください」って渡したんです。それからしばらくしてお返事をいただいて、「やりましょう」と。

―なるほど。そこから2年の月日を経て、遂に作品が完成したわけですね。Rayonsとしてはデビュー作になるので、まずはプロフィール的な部分をお伺いしたいのですが、音楽はいつ頃から始められたのですか?

Rayons:年長さんぐらいからずっとピアノを習ってました。ヤマハの音楽教室に行ってたんですけど、ヤマハって小さい頃から即興したり曲を作ったりする教育だったので、弾くこともそうですけど、作ることも自然にやってたんです。

―清水さんは今でこそアコギがトレードマークですけど、元々はピアノもやられてたんですよね?

Predawn:そうです。私も4歳ぐらいから(教室に)通ってました。

―お2人ともその年代からやってたっていうのは、親の勧めだったんですか?

Predawn:姉が先に習ってて、真似して弾いてたら、入れられました(笑)。

Rayons:私も姉がやってて、教室にお母さんと一緒について行ってたんです。そうしたら、お姉ちゃんを差し置いて踊ったりしてたみたいで…私も入れられました(笑)。

―「この子にはやらせるべきだ」って思ったんでしょうね(笑)。でも、清水さんは徐々にピアノからアコギに移ったわけですよね?

Predawn:ギターも兄姉がやってたんですけど、そっちは中学ぐらいから自己流で弾き出しました。スッと手に取れて、音が鳴るっていうのがよかったんだと思います。

―ちなみに、中井さんはギターの経験は?

Rayons:ギターはもう2回ぐらい挫折してます(笑)。すっごい痛いんですよ、左手が。そこを乗り越えろって言われるんですけど…

Predawn:はい、慣れれば…

Rayons:うーん…難しい(笑)。でも、ホント弾けたらいいなって思います。全然発想が違うから。

Predawn:そうですね。出てくるフレーズとか曲は、ホントにそれぞれだなって思いますね。

バンドもクラシックの作曲も全部含めて、自分が何をしたいのかわからなくなっちゃったんです。(Rayons)

―中井さんは音大のご出身だそうですが、音楽の道に進もうと思ったきっかけはあったんですか?

Rayons:中学生ぐらいから映画を見出して、映画の音楽を作ってみたいと思ったんです。それで音楽を勉強してみようと思って、私は作曲科に行きました。

―「自分の作品を作りたい」というより、映画音楽だったんですね。

Rayons:そうは言っても趣味もコロコロ変わるので、最初は映画音楽だったのが、段々ヒップホップとかR&Bにはまったり…フラフラしてました(笑)。

―音大でクラシックをやってたというと、やっぱりアカデミックなイメージがしますけど、中井さんのようにいろんなジャンルを聴く人って他にもいました?

Rayons:全然いなかったですね。なので、他でバンド・サークルに入って、70年代のソウル、マーヴィン・ゲイとかスティーヴィー・ワンダーとかをやってました。

―ロックは聴きますか? Predawnの音楽のベースには海外のインディロックがあったりすると思うんですけど。

Rayons:例えば、どんなのが好き?

Predawn:Sparklehorseとか好きなんですけど…

Rayons:わかんないです…あんまりロックは聴かないですね。キャロル・キングとか、70年代のやわらかいロックとかは結構聴きましたけど。

―逆に、清水さんはピアノもやってたわけで、クラシックとか現代音楽も通ってます?

Predawn:ちょこっとは聴いてて…ピアノの順番みたいのあるじゃないですか? ソルフェージュとか、ソナタとか、ソナチネとか。

Rayons:進み具合のこと?

Predawn:はい、でもそういうのを無視しても許してくれる先生だったので、印象派とか、私が好きそうなのを教えてくれて、そこからさらに「ジャズが弾きたい」とか「サティが弾きたい」とか言い出して…「勝手にやってろ!」って(笑)。

―(笑)。僕がこの作品を聴いて連想したのは、アメリカのチェンバー・ポップなんですね。クラシックの要素が入ったポップスが近年インディロック・シーンから盛り上がってきてるんですけど、そういうのとかって聴かれます?

Rayons:あ、それはまさに。「自分の作品を作ろう」って思ったときに、自分の好きなものがごった煮だから、最初はどこをどう出していいかわからなかったんです。それで自分の好きだったものをもう1回聴き出してみたり、色々調べてたときに、そういうネオ・クラシックとかのシーンがあるのを知ったんです。こういうアプローチは自分にも合ってるかなって思って、結構聴きました。

―そもそも「自分の作品を作ろう」と思ったのは、どういうきっかけだったんですか?

Rayons:バンドもクラシックの作曲も全部含めて、自分が何をしたいのかわからなくなっちゃったんです。何をやっても楽しくなくて、このままやるよりは、1回どうしたいのか考えてみた方がいいと思って。それで、さっき言ったようなスタイルだったらできるかもって思えたのもあって、「じゃあ、やってみよう」ってなりましたね。

半径がだんだん大きくなって、円になったらいいなって(Rayons)

―Rayons、Predawnとお互い音楽活動をする際の名義があるっていうのは共通点ですよね。

Rayons:…本名が結構硬いんで(笑)。

―そういう理由ですか(笑)。

Predawn:私も本名は全然ポップじゃないんです(笑)。なんかバンドっぽいパッケージっていうか、プロジェクトみたいにやりたかったんです。嫌になったら、「Predawn解散!」って言って違うことをやるみたいな(笑)、そういうのがいいなって。

―Rayonsっていう名前はどこから出てきたんですか?

Rayons:ホント名前とかって…悩まなかったですか?

Predawn:悩みました(笑)。

Rayons:超悩んで…でも、「半径」みたいな言葉が最初に浮かんだんです。それがだんだん大きくなって、円になったらいいなっていうのがあったんで、そういう雰囲気の言葉を探して…フランス語で、「光線」とかって意味でもあるんですけど。

―光が射してくるようなイメージは、Predawnっていう言葉にも通じるものがありますよね。清水さんはこの名前を作家の小川未明さんから取ってるんですよね?

Predawn
Predawn

Predawn:その前に名乗ってた名前が他と被ってたんです(笑)。その頃ちょうど小川未明の童話集を読んでて、新潟出身っていうのも同じだし、いろいろ重なって「いいなあ」と思って。でも周りには「でっかいプリンみたいのを想像する」って言われて…

―ん? あ、「プリン、ドーン!」ってことね(笑)。

Predawn:ちょっと前にコンビニにでっかいプリン置いてませんでした? それを見た人が、「Predawnって聞くと、あれを想像する」って(笑)。

―そう思う人そんなにいないと思うけどな…

Predawn:そうですか? 言わなきゃよかった…

―(笑)。Predawnとしての活動はいつから始まってるんですか?

Predawn:大学のときだったんですけど、すでに友達とバンドを組んだりとか、音源を作ったりはしていて、その上で、いろんな人に「作りなよ」って背中を押してもらって。

―バンドではなく1人でやることにしたのはなぜ?

Predawn:バンドは…体力がなくてですね(笑)。一緒に練習するとすぐ疲れて床に座っちゃう人なので(笑)。

―自分と同じペースでやれる人がいなかったと(笑)。

Predawn:そうなんですよ。あと人に(曲を)伝えるのも苦手で、「それでいいよ」って言っちゃうんで…

―中井さん、大きく頷かれてますが?

Rayons:伝えるのは難しいですよね、ホントに。でも、私は色んな人に弾いてもらうのはすごく好きなんです。いい人に弾いてもらえたときは、作曲家冥利に尽きるって感じですね。

音だけど見える感じとか、匂う感じとか、絵にしても音が聴こえる感じとか、そういう感覚を超えたところに美しさがあるなって思います。(Predawn)

―では、作品自体の話に行きましょう。中井さんの中で青写真のようなものはあったんですか?

Rayons:もうホントに手探りだったんですけど…でもやっぱり、さっき言ったチェンバー・ポップの流れが大きいですね。クラシカルな技法だけど、違和感なくというか、クラシックじゃなく聴けるものにしたいなって。

―「広い意味でのポップ・ミュージックを作ろうとした」という言い方もできます?

Rayons:いや、それはなかったですね。作る動機が、「自分のやりたいことを確認する」っていう個人的な動機なので、形にするにあたって色々参考にはしましたけど、最終的には、自分のやりたいことを選んでいくっていう感じでした。音楽でも、映画とか違うジャンルでも、自分がいいなって思うフィーリングって結構似てるんです。

―そのフィーリングって、言葉にできます?

Rayons:すごく難しいです(笑)。例えば、『ポンヌフの恋人』の感じとか…あと、どうしても子供とかのかわいらしさだったり、懐かしい感じにさせられるものに結構惹かれるところがあって…と言ってもそこに浸ってるわけではなく、現実的でもあるんですけど…っていう言い方しかできないです(苦笑)。

Predawn:私がわりと思うのは、音だけど見える感じとか、匂う感じとか、絵にしても音が聴こえる感じとか、そういう感覚を超えたところに美しさがあるなって思います。

―さきほど中井さんから「自分を確認するために作品を作った」という話がありましたが、清水さんにもそういう感覚ってあります?

Predawn:やっぱり、自分のためですね。自分の中の子供っていうか、「伝えたい!」まで行かないけど、「こういうの!」っていうのを作りたいなって。

―作ることで、自分の中の何かが消化される感じ?

Predawn:軽くなるというか、「はぁ」って。

Rayons:うん、すごくわかる気がします。

―ある種、自分にとってのセラピーのような意味もあるんでしょうね。

Predawn:それも若干はあると思います。

Rayons:(曲を作ると)落ち着きますね。

自分の作品を作るのって、すごく面白いんですけど、すごく孤独なんです。(Rayons)

―『After the noise is gone』というタイトルにはどんな意味があるのですか?

Rayons:ノイズがなくなった後みたいな…そのままなんですけど(笑)。曲が全部揃った後に、そういうタイトルにしたらいいと思って、結構すぐ決まりました。

―意味よりも、ムードとかフィーリングが重視されているのでしょうか?

Rayons:自分の場所を確保したいというか、そういう気持ちがすごくあって、周りのことを忘れて、自分がニュートラルな気持ちになれたらっていうことで、このタイトルにしました。

Predawn:自分の詞にも1ヶ所、“Halfway”に「Waiting for the noise to go」っていうのがあって、「あ、つながった」って。

―歌詞に関してはやり取りがあったんですか?

Rayons:“Halfway”に関しては自分の中でイメージがあったので、「こういう感じで」っていうのは言いました。自分の作品を作るのって、すごく面白いんですけど、すごく孤独なんです。まさか、そんな気持ちになるとは思ってなかったんですけど。そのときに、個人的に作るんだけど、きっとそれをわかってくれる人がいるって信じてやりたいっていうのがすごくあって、そういう感じのことを言いました。

Predawn:すごくわかります。孤独ですよね(笑)。でも(歌詞を書くのは)ホント悩んで、移動中ずっと聴きながら、「何だろう? 何だろう?」って思ってました(笑)。

―中井さんは実際に清水さんのボーカルと歌詞が乗ったものを聴いて、どんな風に感じました?

Rayons:声の感じはホントにイメージしてた通りなんで、「来た、これだ」って感じだったんですけど、詞もすごくよくてびっくりしました。自分の作品を何倍にも膨らませてくれるような詞を書いてくれたので、すごくよかったなって。

Predawn:(照れながら)ありがとうございます。

―1枚作品を形にしたことで、中井さんは今後進む道が見えてきましたか?

Rayons:作らないよりは見えました(笑)。もっと自由になれたらいいなって思います。

―Rayonsとしての活動にしろ、途中おっしゃっていたような映画音楽にしろ、具体的に「こんなことをやりたい」っていう展望はありますか?

Rayons:やっぱり人と一緒に何かをやるっていうのがすごくいいなって思ってて、美和子ちゃんみたいに音楽の人に一緒にやってもらうのもいいし、全然違う、アートだったり映画の人ともやってみたいです。

―アレンジャーとかどうですか? それこそ、Predawnの作品にストリングスのアレンジで参加するとか絶対いいんじゃないかなって、勝手に思っちゃいました(笑)。

Rayons:そんなことをしていいのなら、是非やらせてもらいたいです(笑)。

Predawn:いつかやれたらいいですね。今回のを聴いて、ストリングスの魅力や可能性にすごく気づかされたので。

Rayons:ホントに、弦ってすごく素敵ですよね。

Predawn:4人それぞれの息遣いというか、そういうのがすごい反映される楽器ですよね?

Rayons:4人のカルテットをすごく近いマイクで録るっていうのが音色的にツボなんです。そこに関してはすごくフェチだと思う(笑)。音響派の人とか、マイクの位置にすごくこだわって録っていて、遠くで聴くのとは聴こえ方が全然違うんですよね。

Predawn:これ、映像とか見てみたいです。サウンドトラックとして。

―ああ、いいですよね。映像作家さんとのコラボとか。

Rayons:お互い広げられるような形のコラボレーションは是非やってみたいです。他の人とやるのって、自分の作品を作るのとは全然違う思考回路だと思うので。今回自分がこういう音源を個人的に作ってみて、今度また誰かと一緒にやってみたときに、どう変化してるんだろうっていうのもすごく楽しみなんですよね。

リリース情報
Rayons
『After the noise is gone』

2012年1月18日発売
価格:1,600円(税込)
Pokhara Records RDCA-1021

1. Ivy
2. Damn it, Shut it, Release it
3. Go over
4. Halfway
5. Love is a personal thing
6. Take me to the fairyland

イベント情報
『Rayons "After the noise is gone" release party Sylvain Chauveau Japan Tour 2012』

2012年4月14日(土)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:東京都 下北沢 富士見丘教会
出演:
Rayons(with Predawn)
Sylvain Chauveau
and more
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンクチャージなし)

プロフィール
Rayons (レイヨン)

現代音楽家・中井雅子のソロプロジェクト。 音大にて現代音楽、クラッシック等、さまざまな作曲を学び、卒業後、音源製作を中心に据えた活動を開始。 本作品では、作曲 / ストリングスアレンジ / ピアノ演奏等を担当している。 彼女が紡ぎ織りなす世界は、ファンタジーとダークネスな感情が重なり共鳴し、特有の美しさとノイズを生み出している。

Predawn

Predawn (プリドーン=夜明け前)を名乗る、女性ソロシンガーソングライター。かわいらしくも凛としたたたずまいと、天性の声に魅了されるリスナーが続出している。UKロック、オルタナティブロック、ルーツミュージックを独自に昇華し、少々ひねくれつつもドリーミングかつヒーリング的な聴き心地が融合した音楽は、国内のおいて類を見ない。2010年6月に1stミニアルバム『手のなかの鳥』をリリースし、日本全国でロングセールスを記録中。



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