次世代ガールズバンド 虚弱。インタビュー

00年代中盤から後半にブームを迎えたインストロックがすっかり1ジャンルとして定着を果たした今、まったく新しい感覚を持ったインストバンドが登場した。デビューアルバム『孤高の画壇』を発表する平均年齢21歳のガールズ4ピース、その名も「虚弱。」である。まず彼女たちが、ポストロック以降のマナーをしっかりと消化し、技術的にも確かなものを持ったバンドであるということは、音源を聴いてもらえれば異論はないはず。楽曲の背景には確かな想いがあることも、このインタビューで確認することができた。しかし、彼女たちはインストバンドの枠にとどまることを良しとせず、デビュー作で早速ボーカロイドを取り入れるようなバンドでもあるのだ。つまり、彼女たちが第一に思い描いているのは、「面白いことをやりたい」「かっこいいことをやりたい」とうことであり、極端に言ってしまえば、たまたまインストを選んだバンドなのである。だからこそ彼女たちは、ここからどこにだって行くことができる。この感覚は、はっきりと新しい。

女子高の浮いた者同士が、プロフサイトをきっかけに意気投合

虚弱。という一風変わった名前のバンドが女子高の軽音部で結成されたのは2007年、当初は壷内佳奈(Gt)を中心とした3ピースのコピーバンドだった。周りにはJ-POPやビジュアル系のバンドが多い中、NUMBER GIRLやZAZEN BOYSをコピーする虚弱。は浮いた存在だったという。そして、彼女たちがオリジナル曲を志向する中で、バンドは自然とインストバンドへと変化して行った。

壷内佳奈
壷内佳奈

壷内:まず最初の3人でオリジナル曲を作ろうっていう話になって、それまでは私がボーカルも担当してたんですけど、元々ボーカルとしての表現力にはあんまり自信がなくて、歌を入れるのには抵抗があったんです。それで、当時はインストをやってる人って珍しかったから、「作ってみよう」と思って。ただ、作ってる中で何か物足りなさを感じて、後輩の海野(稀美/Key)に声をかけたんです。


2007年と言えば、すでにtoeやLITEといったインストバンドが活躍していた時期だが、壷内は当時そういったバンドは知らなかったそう。海野に至っては、それまでJanne Da Arcのコピーバンドに所属していたのだという。そして、大学進学と同時にリズム隊が脱退し、まずは元々知り合いだった新井美雪(Ba)が加入。最後に加入したまにょ(Dr)と壷内が知り合ったのは、プロフサイトを通じてだった。

壷内:2人の出会いは「前略プロフィール」(プロフサイトの先駆け的存在)なんです(笑)。当時同世代のバンドがどんな楽曲をやってるかに興味があって、高校生のバンドのサイトを巡回してたんです。プロフィールを見て、どんな音楽を聴いてるのかメンバーそれぞれの趣味チェックしてたら、コアというか、あんまり周りが聴かないような音楽をバーッと並べてる子がいて、趣味が合いそうだと思って。それで、ストーカーっぽいんですけど、その子をmixiで探して、「突然すみません。バンドをやってる者なんですけど、趣味が合うと思って」ってメッセージを送って、マイミクになりました(笑)。

まにょ:そのとき私も女子高でコピーとオリジナル半々みたいなバンドをやってたんですけど、虚弱。のライブを見て「めっちゃかっこいい!」と思って。私は壷内のギターにすごく惚れてて、虚弱。じゃなくてもいいから、「この子といつか一緒にバンドを組みたい」って思ってたんです。

こうして女子高の中では浮いていた趣味の者同士が出会い、バンドは本格的なスタートを切る。メンバーは変わったが、虚弱。という名はそのままに。

Directed by 篠田利隆

壷内:今のメンバーも強くはないと思うんですけど、当時のメンバーはしょっちゅうどこか具合が悪くて、物理的にも、精神的な意味でも弱かったので、この名前をつけたんです。いい意味でも悪い意味でも目に留まる、インパクトのある名前にしたかったっていうのもあって、当時は漢字のバンドもあんまりいなかったし、面白いかなって。

「草食系男子」という言葉が一般化し、女性の方が強いという風潮が強まるなか、「虚弱。」という名前でデビューを果たす彼女たちは、ある意味カウンター的な存在だと言ってもいいかもしれない。とはいえ「虚弱。」という字面だけを見ればハードコア的な強さもあるし…さて、彼女たちは実際どんなキャラクターを持っているのだろう?

2/3ページ:マイナスの感情を芸術に昇華させる

ターニングポイントになった『閃光ライオット』

インストバンドというと、一般的にまずその音楽性が先に立ち、メンバー個々のキャラクターというのは見えにくいものだが、虚弱。の4人はそれぞれが実に個性的であり、紹介しないのが勿体ないぐらいのキャラクターの持ち主だ。バンドの名付け親である壷内は、文字通り体の弱い「おばあちゃんキャラ」。メンバーの中で唯一の年下であり、ライブの衣装もフリフリのワンピースが多い海野が「萌え担当」。メンバーの中で最も感覚で生きていて、ライブでの激しいアクションから年下の女の子に人気の新井は「ロックスター」。そして、高校時代は金髪でグリングリンに巻いていたというまにょは「パギャル」、もしくは「イタギャル」だという(以上、すべてメンバーの自己分析です。あしからず)。

左から:新井深雪(ベース)、海野稀美(キーボード)、壷内佳奈(ギター)、まにょ(ドラム)
左から:新井深雪(ベース)、海野稀美(キーボード)、壷内佳奈(ギター)、まにょ(ドラム)

壷内:まにょはいい意味でも悪意味でも発言が痛いんで(笑)、それが逆に影響力を持っていて、Twitterのフォロワー数もダントツに多いんです。すごいはっちゃけたつぶやきを連投するんで、逃げる人もいるんですけど、その倍以上の人がつくというか、すごい面白い子っていう印象だと思います。

まにょ:面白いのが好きな人だけついてきてくれればいいかなって感じです(笑)。

このように、まるで最近のアイドルのように1人1人が自己紹介フレーズを持っていそうなキャラクターの分かれ具合だが、一時期は「女の子のインストバンド」という色眼鏡で見られることに抵抗を感じ、女の子らしさをあえて出さないようにした時期もあったという。しかし、活動を続ける中で、それを自分たちの強みとして捉えられるようになり、前述のように衣装などにまで細かく気を使うようになっていく。なかでも、これまでで最大のターニングポイントとなったのが、3次審査まで進んだ『閃光ライオット』での経験だ。

壷内:それまであんまり多くの人に聴いてもらう機会がなかったので、どうしても内輪で完結してしまいがちだったんですけど、『閃光ライオット』に出たことで着うたになったり、ラジオでかかったりして、全国の色んな人から反応が来るようになったんです。それで「聴かれてる」っていう実感が湧きましたし、リスナーの層が広がった感覚がありました。

まにょ:それまでって、年上の人との絡みが多かったんですよ。インスト系の対バンが多くて、インストやってる若い人ってそんなにいなかったから、20代後半とか30代の人との絡みが多くて。でも、『閃光』に出たことで同年代の子と絡んだり、お客さんも10代の子が来てくれるようになって、そういう意味でも広がったなって。

Directed by 小林大祐

実は壷内はこの前年、以前のメンバー時代にも『閃光』に応募していたのだが、そのときはもっと早い段階で落とされたそうだ。そこからメンバーが変わり、練習を重ね、見事にリベンジを達成した。

壷内:評価してもらえたことで、自覚みたいなものは生まれてきたかな。

まにょ:結局うちらから内に籠ってたというか、意外と認めてもらえるんだなってわかって、「じゃあ、もっと外に出て行ってもいいかな」って思えたんですよね。

まにょ
まにょ

マイナスの感情を芸術に昇華させる

インストバンドというのは、ものすごく大雑把に分けると、音そのものから楽曲を構築していくタイプと、イメージを変換して楽曲に仕上げるタイプに分かれるように思う。彼女たちのデビューアルバム『孤高の画壇』には、決して長いとは言わないものの、これまで彼女たちが歩んできた中で産み落とされた代表曲とも言うべき9曲が収録されているが、当初は音先行だった作り方が、徐々にイメージ先行へと変わっていったという。

まにょ:“terra”は去年の震災が起きた前後に作り始めた曲なんですけど、地震の前からメンバーの身内や友達が亡くなってしまったりして、それと地震の混乱が重なっちゃって、みんな精神的に参ってて、落ち込んでたんです。それで、この曲の前半にはそういう暗い気持ちを込めてて、後半からはそれでもやっぱり頑張っていこうっていう、ポジティブな雰囲気にガラッと変わるようにしていて。

壷内:“terra”って「地球」っていう意味で、人の死とか地震とか、悲しいことも大きく見ると母なる大地の中で行われていることで、森羅万象の一部なんだなって。それを受け止めた上で、自分たちは前向きに歩いていこうっていう。

曲作りの中心は壷内であり、曲のイメージを提示するのも壷内の役目なのだが、面白いのはイメージを絵として共有するというよりも、感情や感覚を共有することによって、それを楽曲へと変換しているという部分だ。例えば、“egoist”はこんな感情から生まれている。

壷内佳奈

壷内:Twitterでエゴサーチをしてる人って多いと思うんですけど、当然いい意見も悪い意見もあるじゃないですか? その悪い意見を逐一リツイートしてる人がいて、それも勉強になるとか参考になるとかじゃなくて、その意見を否定して馬鹿にするようなリツイートで。そういうものを見て、「エゴだな」と。それに対して、すごくモヤモヤした感じがあって、その感じを曲に昇華していくつもりで“egoist”を作ったんです。


この感情に対して、「わかる!」という共感が生まれると、それぞれのパートが加わっていき、徐々に楽曲が成立していくわけである。そして、「嬉しい、楽しい」といったプラスな感情よりも、困難にぶつかったときのマイナスな感情から曲が生まれることが多いのだという。

壷内:“egoist”みたいに、自分の中で上手く納得させられなかったり、感情を消化できなかったりしたときは、ギターを引っ張り出して、「うーん」ってやってるうちに曲ができてくるんです。自分がそのとき考えていたことと、曲のイメージが、自分の中でイコールになっていくっていうか。ただ、解釈は聴く人の自由でよくて、それぞれが意味を補完して、想像してもらって、その人の中で曲が膨らんでいくといいですね。

まにょ:私は精神病理と芸術の関係に興味があって勉強してるので、身近にいい研究材料がいるっていうことなんですよね(笑)。マイナスの感情をいい作品に昇華できるっていうことはすごくいいことだと思っていて、私自身悲しい気持ちとか辛い気持ちを曲に込めたりすることがあるので、自分がそうだからこそ、興味があるんです。

人間の「虚弱」な感情を芸術に昇華するバンド。そう、当初はノリで付けた名前だったのかもしれないが、実は彼女たちは、見事に名が体を表すバンドだったのである。

3/3ページ:メディアミックス型インストバンド?

メディアミックス型インストバンド?

ここまで「インストバンド」としての虚弱。を追ってきたが、彼女たちの世界は、「インストバンド」の枠にとどまらず、大きく広がりを見せようとしている。その象徴が、『孤高の画壇』の最後に収められた“affection”。この曲では、なんとボーカロイドを取り入れているのだ。

壷内:元々ボーカルを入れた曲が1曲は必要だと思ってて、それとは別にいつかボーカロイドの曲を作りたいと思ってたんです。ボーカロイドの良さって、無機質な感じの声にあると思うんですね。人間の歌の良さって、感情がこもってることじゃないですか? 初音ミクの場合は感情がこもってない、無機質な歌い方をするので、私たちが元々やってるインストバンドの色を消さずに、上手く調和できる要素になるかなって。

まにょ:面白いことをやりたいねって話はいつもしてるんです。インストっていう枠組みにもいたくないし、あんまりアングラなところにもいたくない、もっと人の目に届くために何をしようかっていうときにミクの話が出たんです。

虚弱。

このあたりが、元々インストバンドに憧れてインストバンドを始めたバンドと彼女たちの大きな違いだ。つまり、彼女たちはたまたまインストバンドである時期にデビューが決まったバンドなのであり、あと1年デビューが遅ければ、どうなっていたかはわからない。逆に言えば、それだけインストバンドという存在が市民権を獲得し、ある意味ではカジュアルになったとも言えそうだが、では今現在インストバンドでいることの意味はどういった部分が大きいのだろう?

まにょ:インストバンドの良さって、ボーカルのいるバンドと違って、みんなの立ち位置が平等にあるっていうことだと思うんです。私は他のバンドでサポートもやってるんですけど、他のメンバーも色々活動してほしいと思ってて。海ちゃんがピアノでソロアルバムを出すとか、壷内が他で作曲してもいいと思うし、自由にやった方がいいと思うんです。

デビューアルバムを発表するタイミングのバンドとしては珍しい、このユニット的とも言える自由なスタンス。前述したようにメンバーそれぞれがはっきりとした個性も持っているだけに、このスタンスは間違いなく彼女たちの大きな武器になるだろう。ボーカロイドをはじめ、ニコ動も大好きだというし、メンバーの中には萌え担当もいる。さらに「虚弱。」のマルで思い出すのはやっぱり「モーニング娘。」ということで、インストバンドとアキバ文化を繋ぐ存在に…なんていう期待をも抱かせるのは、彼女たち以外にはいない。最後に、2人に今後やりたいことを聞いてみたのだが、この姿勢を持ち続けていれば、やがて思いもよらない展開が彼女たちを待ち受けているかもしれない。

まにょ:アニソンやりたいです! ただ流石にインストでアニソンは無理だと思うので、誰か歌う人がいて、バックバンド的にやれたらいいな。昨日も「BiSのバック・バンドやりたい!」ってつぶやいたんですけど(笑)。アニメに限らず、映画の主題歌とか、ファッションショーのBGM、舞台の音楽とか、そういう他の分野とのコラボレーションはやっていきたいです。

壷内:曲が自分たちの手を離れていろんな人に使ってもらったり、色んな人とコラボしたりして、新たな価値みたいなものが付け加えられていったらいいですね。自分たちが「これがかっこいい」と思えるものであれば、インストじゃなかったとしても、いろいろ作り上げていきたいと思ってます。

リリース情報
虚弱。
『孤高の画壇』

2012年3月7日発売
価格:2,200円(税込)
KLK-2016/ kilk records

1. 哲学者の論破
2. egoist
3. コスモナウト
4. terra
5. 網膜における抽象画
6. nennen
7. saying his prayers
8. nil -piano version-
9. affection

イベント情報
虚弱。
『孤高の画壇』リリースツアー

2012年3月9日(金)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:宮城県 仙台LIVE HOUSE enn 2nd
出演:
虚弱。
Aureole
hydrant house purport rife on sleepy
dinner
under the yaku cedar
料金:前売2,300円 当日2,500円(共にドリンク別)

2012年3月17日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 Live&Lounge VIO
出演:
虚弱。
Aureole
NINGEN OK
nemlino
Devecly Bitte(DJ)
料金:前売2,300円 当日2,500円(共にドリンク別)

2012年3月18日(日)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:大阪府 北堀江 club vijon
出演:
Aureole
虚弱。
kacica
ゆれる
Sister Ray
UNDER NINE
料金:前売2,000円 当日2,500円(共にドリンク別)

2012年4月1日(日)
会場:東京都 新代田FEVER
出演:
虚弱。
Bis
Aureole
aquarifa
料金:前売2,200円 当日2,500円(共にドリンク別)

プロフィール
虚弱。

平成生まれの女子達による、病的且つどポップなインストゥルメンタルバンド。メンバーは壷内佳奈(ギター)、新井深雪(ベース)、まにょ(ドラム)、海野稀美(キーボード)の四人組。2007年、壷内、海野と同高校のメンバーで虚弱。を結成。2008年秋、幾度かのメンバーチェンジを経て新井、まにょが加入。本格的に活動を始める。2009年に1st demo『kabetosogy』をリリース。同年、閃光ライオット関東決勝大会に進出。2010年には2nd demo『donguribouya』を発表。ポストロックを基調としながらも、その概念を打ち破るほどポップな楽曲を特長としている。デビュー前から既にライブでの支持層が非常に厚く、2011年にはZAZEN BOYS、the telephones、NATSUMEN、unkie、LOSTAGEらとの対バンを果たした。



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