GWの京都で開催するアートフェア『ART KYOTO 2012』

国際的な文化観光都市として、国内外から年中大勢の観光客を集める京都で、一昨年から始まった『アートフェア京都』が、今年は『ART KYOTO 2012』と名称を変え、ゴールデンウィークシーズンに開催されることになった。今年は昨年までのホテル型アートフェアのスタイルだけでなく、重要な国際会議が行われることで知られる国立京都国際会館を使い、一気に大規模なアートフェアへと変貌を遂げている。さらに関連企画として、映像芸術祭『MOVING 2012』や、アート界隈で話題の新スポット「HOTEL ANTEROOM KYOTO」での、名和晃平(SANDWICH)と京都造形芸術大学との共同展示企画など、ゴールデンウィークの京都の街全体が、アートに包まれそうな雰囲気だ。まだ3年目のアートフェアであるにも関わらず、日本屈指の規模での開催となったこの『ART KYOTO 2012』について、企画運営の中心人物の1人であるギャラリーニュートロン代表の石橋圭吾さんにお話を伺った。話はアートフェアの内容だけでなく、次第に熱気を帯びながら、日本とアートマーケット、京都や日本の持つ可能性へと大きく広がった。

『アートフェア東京』と同じことをやっても意味がない

―昨年までの『アートフェア京都』から、今年は『ART KYOTO 2012』に名称が変わり、会場の規模や関連企画の充実など、全体のスケールも大きくなっていますね。まずはアートフェアとしての今年の特徴からお伺いできればと。

石橋:今年は、約100のギャラリー・出展者にご協力頂きまして、ホテルモントレの2フロアと国立京都国際会館アネックスホールを同時に使用した、国内でもかなり大規模なアートフェアとなりました。海外からは韓国のギャラリーに13軒参加して頂いています。

国立京都国際会館 梅と外観
国立京都国際会館 梅と外観

ホテルモントレ京都外観
ホテルモントレ京都外観

―1年目の参加ギャラリーが35軒でしたから、3年目にして約3倍の規模ですね。確かに国内でもなかなかここまで沢山のギャラリーが一同に揃う機会は限られています。その一方で、関連企画の充実など、アートイベントとしての側面も意識的にアプローチされているように感じます。

石橋:そうです。今回はあえてフェアという言葉を外したところからも分かるように、昨年までの純粋なアートフェアだけ、とは違う方向性、可能性を目指している。というのは確かです。

coppers早川「サーカス団がやって来た!!R233」<br>19×18×39H(cm) / 銅・真鍮(Gallery Seek 出展/国立京都国際会館会場)
coppers早川「サーカス団がやって来た!!R233」
19×18×39H(cm) / 銅・真鍮
(Gallery Seek 出展/国立京都国際会館会場)

―特に映像芸術祭『MOVING 2012』は、石田尚志、トーチカ、八木良太など、現代日本の新進作家がたくさん参加して、メルツバウらのライブイベントがあるという、かなりコアで豪華なラインナップですね。

石橋:『MOVING 2012』とは去年から色々話をしながら、お互いに合わせてやるという気持ちで来ていますから、もう完全に同時進行ですよね。たまたま映像作家というくくりになっていますけど、同じ実行委員会くらいの気持ちでいます。せっかく京都に人がこれだけ集まるタイミングなんだから、こういうプロジェクトを見せたいと。だからもっとこういう動きがあっても良いと思うんですよね。

―話題の新しいアートスポットである「HOTEL ANTEROOM KYOTO」での、名和晃平(SANDWICH)と京都造形芸術大学との共同展示企画や、京都市立芸術大学ギャラリーでの展覧会、デパート藤井大丸とコラボレーションした、若手アーティストの展示企画など、京都の企業や教育機関との連携が目立ちますね。

石橋:今回は特に僕らの方から呼びかけた事もありますし、しっかりした内容が揃ったと思います。日本で大規模なアートフェアをやろうといっても、ただ『アートフェア東京』と同じことをやっても仕方がないですから、関連企画を含めてとにかく京都の街ぐるみで、アートに注目が集まるようなイメージを目指しました。今回はあえてゴールデンウィークシーズンにやるわけですから、とにかく沢山の人に来ていただいて、アートを知って頂きたい。アートを好きになる何かのきっかけになればという気持ちがあります。

月末よしみん(TSUKIZUE YOSHIMIN) 「心の中のムニュン」 2011年 / 455×455mm / カシュー漆、木パネル (Gallery Introart 出展/ホテルモントレ会場)
月末よしみん(TSUKIZUE YOSHIMIN) 「心の中のムニュン」 2011年 / 455×455mm / カシュー漆、木パネル (Gallery Introart 出展/ホテルモントレ会場)

―会場をみると、一昨年に続いて『へうげもの』のギャラリーが出展されていますね。

石橋:編集部の方とのお付き合いはもう長いんですが、『へうげもの』に関して言えば、メディアのスピンオフですよね。陶芸の漫画だからこそ陶芸をリアルに扱って、それを各地で売ろうとしている試みを見た時に、物凄く面白いなと思いました。やっぱり漫画の影響って大きいですよ。

―どういった作品が展示されるんですか?

石橋:『へうげもの』のムーブメントの中で、編集部の人たちが色々なきっかけで知り合った現代陶芸家作品を中心に出品して頂けるようです。「へうげる(ふざける、おどける)」ということが唯一のテーマなので、かなり斬新で面白い陶芸作品の展示になると思いますよ。


2/3ページ:自分たちの土俵を作って、日本なりのアートマーケットを根付かせたい。

自分たちの土俵を作って、日本なりのアートマーケットを根付かせたい。

―アートフェアというのは、沢山のギャラリーや作品と出会い、購入出来る場所であり、つまりマーケットそのものです。一方でイベントというのは、単純にアートを楽しもうという場所で、マーケットに関わる層とはまた違いますよね。なぜこのふたつの要素を同時にされようと思ったのでしょうか?

石橋:確かにこのふたつは一見矛盾した方向性ですよね。ご説明するには、そもそもの『アートフェア京都』のお話からさせて頂けたらと思うのですが、『アートフェア京都』は、僕自身が発起人となって企画・内容を考え、「とにかく10年間は京都でこのプロジェクトをやるんだ」という目標を立てて、2009年からスタートしています。でも実は、ただ単に「アートフェア」をやる、というのが本当の目的ではないんですよ。そもそもの目的というのは、新しいアートマーケットをひとつ「京都」という都市に打ち立てて、システムとして、今までに無かった日本のアートマーケットというものを築いていきたいというのが、何よりもまず一番にあるんです。

昨年の「アートフェア京都」開催風景 ©「アートフェア京都」実行委員会 / ホテルモントレ京都 / 2011-2012 撮影:表恒匡
昨年の「アートフェア京都」開催風景 ©「アートフェア京都」実行委員会 / ホテルモントレ京都 / 2011-2012 撮影:表恒匡

―アートマーケット不在の問題は、ほとんどの日本のアート関係者が直面している課題でもありますね。

石橋圭吾\
石橋圭吾

石橋:そうです。そしてそれは「売る」「売らない」の問題だけではなくて、現在のアートという文化のシステム自体が全て欧米中心で出来上がっているので、そこに風穴を開けて行かないと、とてもじゃないけど我々の住む国の文化とか、今の同世代の表現って、まともには伝わらないんですね。そういう出来上がったヒエラルキーにある種対抗する意味でも、まず自分たちの土俵を作っていかない事には、この先の未来が無いんじゃないかという危惧が根底にあるんですね。


―今では直接海外に活躍の場を求めるギャラリーやアーティストもかなり多いですよね。

石橋:よく海外に出ていかれる理由としては、「日本国内に市場が無いから」と断言されてしまう事があるんですけれども、確かに現状で「あるか?」といわれたら、僕も「無い」と言うほうが正解だと思うんです。でもそれは作られてこなかっただけの話であって。

―まだ答えが出たわけじゃない、と。

石橋:そうです。もし今、日本のほとんどの人が他の産業のように、アートという文化や産業を認知して、その上で全く興味が持てないからお金も回しません、というのなら納得がいきますよ。でも、そうじゃない。そもそもアートを知らない人の方が圧倒的に多いわけだから、こんな状況が続いてしまっているということなんですよ。

―それでも美術館の特別企画展には大勢の観客が詰めかけていますよね。

石橋:でも、同時代のアーティストが同じ社会で何かを感じて、表現をして、作品を販売して、生きている、ということ。その出会いの場としてのギャラリーだったり、色んな物事があるということを、みんなまだ全然知らないんですよ。友達を見渡したってギャラリーに行っている人なんてほとんどいない。そういう人の方が圧倒的に多いですよね。

佐々木友恵「自己記憶改変の疑い」 2008年 / 1200×2400mm / 木製パネルに漆(同時代ギャラリー 出展/国立京都国際会館会場)
佐々木友恵「自己記憶改変の疑い」 2008年 / 1200×2400mm / 木製パネルに漆(同時代ギャラリー 出展/国立京都国際会館会場)

―産業としては、まだまだ小規模な世界ですね。

石橋:日本最大のアートフェアである『アートフェア東京』の入場者が、1番多い年で約5万人(2010年度)といわれていますが、プロ野球の試合で、スタジアムが満員になったら1試合だけで4〜5万人も入るんですよ。それが年間何百試合も日本中で行われている。だから、そんなアートの状況を変えるには、とにかく今までと違った試みをしていかなければならない。どれだけ大規模なアートフェアをやっても残念ながら伝わらない。だからあらゆる試みが必要なんですね。本当に興味を持ってもらえないものに対してお金は絶対に回って来ないですから。

―それは日本人の国民性というか、ある意味日本の文化を動かそうという試みとも思えますね。

石橋:例えば日本人の1割でもいいんですよ。文化的でクリエイティブな事に対して、まともに目を向けてくれたら、もの凄い市場が出来ますよ。僕は日本人全員にこっちを見てくれ、これが正しいなんて全く思っていません。興味を持つことは人それぞれだから。だけど全体の1割でもここに意識を向けたら全く違います。もの凄く莫大なお金が動くし、一気にアートの地盤が出来て、日本の文化立国だってあり得ると思うんです。


3/3ページ:「京都」という場所でアートフェアをやる意味

「京都」という場所でアートフェアをやる意味

―では何故そこで京都なのか、というところなんですが。人口も経済の規模も、東京とは全く比べものにならないくらい小さい都市です。

石橋:東京は、僕が何かをするまでもなく、ここ何百年か日本の文化発信の中心になってきましたよね。ただどうしても、あらゆるメディアや物事が集中しているので、アートだけを際立たせる事がやりにくい。実際先輩方が何十年もそういう取り組みをされてきているはずだけども、なかなか東京の中でも現在、アートが際立っているかというと、僕はまだまだそうとはいえないと思うんですよ。国際的な活動をされているギャラリーや作家は沢山いますけど、でも国内にそれが浸透しているか? というと浸透しきっていないんですよね、残念ながら。

―アートという産業が本当に根付いていないという状況は、東京であっても特別変わらないですね。

石橋:京都という街は非常に小さい規模ですけど、何百年も日本の中心だったので、大抵のものは揃ってるんですよ。歴史や風土に支えられてきた、脈々とした日本のものづくりの文化があり、さらには世界的な観光都市で、国内外を問わず年間に数千万人規模の人々が訪れるので、人の動きも活発です。そして街中に溢れかえっている芸術や文化、歴史の記憶、そして自然が東京との大きな違いです。

国立京都国際会館 空からの全景
国立京都国際会館 空からの全景

―日本美術史に刻まれている、国宝、重要文化財のほとんどのものは、京都・奈良を中心とした西日本に残っていますね。

石橋:京都は芸術・文化という切り口で見ると、ありとあらゆるものが既にあるんですよ。街全体がひとつのテーマパークなんですよね。だから京都でアートフェアをやるということは、ディズニーランドが「今シーズンはこういうイベントをやりますよ」といっているようなものなんですね。これは京都の圧倒的な強みだと思うんです。僕が何も用意しなくても既にそこにあるんです。僕はそこの一部としてアートフェアをやらせて頂くわけです。

昨年の「アートフェア京都」開催風景・会場受付 ©「アートフェア京都」実行委員会 / ホテルモントレ京都 / 2011-2012 撮影:表恒匡・石橋圭吾\
昨年の「アートフェア京都」開催風景・会場受付 ©「アートフェア京都」実行委員会 / ホテルモントレ京都 / 2011-2012 撮影:表恒匡・石橋圭吾

―アートという産業を目立たせて、育てることの出来る可能性があるということですね。

石橋:そうです。さらに僕の考え方としては、その「京都」と言う狭いフィールドの中で試して、もしなにか形にすることが出来た物事は、今度は「日本」と言うフィールドでも通用させることが出来ると思うんですね。

―京都発祥の大企業って多いんですよね。

石橋:「任天堂」しかり「ワコール」しかり、「京セラ」もありますよね。もともとは京都発祥だから小さい工場だとか、色々な発端があるでしょうけど、必ずといっていい程、まずそこで苦労するんですよね。だけどそこで宣伝されて、叩かれて、を繰り返しながら確固たるものが出来た時に、京都は人口も少ないし、経済としても乏しいんだけれども、その環境で自然にブラッシュアップされて、それが日本全国にワッと一気に展開出来る力に繋がるわけなんですね。

中西夏之 NAKANISHI Natsuyuki 「日射の中で」 1987年 / h61.0 × w73.0cm(F20号)/ 油彩 (gallery 21yo-j 出展/ホテルモントレ会場)
中西夏之 NAKANISHI Natsuyuki 「日射の中で」 1987年 / h61.0 × w73.0cm(F20号)/ 油彩 (gallery 21yo-j 出展/ホテルモントレ会場)

―街の規模は小さくても、基本的に全てが揃っているから、そこで通用したものは、他の大きな都市や世界に通用することにも繋がっていくと。

石橋:そうです。だから僕自身もそういうことはもちろん考えています。京都だけの為にやっているわけじゃなくて、ゆくゆくは日本の為に。そしていつか日本発の新しいアートシーンが生まれたら、今度は世界の中で堂々とシェアを広げて行きたいという考え方です。その為の10年間。まあ10年間で全て達成出来る訳ではないんですけど、とても重要な準備期間だと思っています。

―そんな大きな計画の流れの中での、今回はまだ3年目の試みだということですね。

石橋:NHKの『平清盛』見てます? あれ見た方が良いですよ。もう燃えちゃってしょうがないんですよ(笑)。

―どの辺りにですか?

石橋:当時の東アジア文化の最先端は宋(中国)で、当然日本にもその文化は西からもたらされて来るんですよね。平氏の一族はそんな貿易を勝手にやり始めたりして力を付けていくんですけど、そんな中で新しいもの、面白いものが持ち込まれたりするんですよ。それを「何で世の中の多くの人に行き渡らせないんだ」っていうのが、清盛の発想の根本なんですよ。その辺にね、単純ですけど、もう「ああ…」と思う訳です。

―その面白いものが、石橋さんにとっての「アート」なんですね。

石橋:「面白いものがある。でもそれを多くの人が知らなかったら意味が無いじゃん」っていうのが、僕の発想の根本なんですよ(笑)。

イベント情報
『ART KYOTO 2012』

2012年4月27日(金)、4月28日(土)、4月29日(日)
会場:京都府 国立京都国際会館(国際会議場) アネックスホール、ホテルモントレ京都
時間:27日(金)11:00〜19:00、28日(土)11:00〜20:00、29日(日)11:00〜18:00(ホテルモントレ京都は19:00まで)
料金:1,500円(両会場入場可能な3日間通し券)

プロフィール
石橋圭吾

1973年東京生まれ。同志社大学卒業。2001年7月ニュートロンをオープン。有限会社ニュートロン代表取締役。京都アートフェア実行委員会代表。アート京都実行委員。



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