ダブって知ってる? Tam Tamインタビュー

「ダブは、レゲエから発祥した音楽手法、および音楽ジャンル。ダブワイズとも呼ぶ」。これはウィキペディアからの引用だが、もちろん、これはあくまでダブの一側面を切り取ったに過ぎない。どんなジャンルでもそうだが、音楽は一面的なものではなく、重層的なのものである。ルーツを探っていくことによって新しいものが生まれ、新しいものを生み出そうとすればルーツにぶつかる。そうやって音楽を知っていく喜びは、何物にも代えがたい。

あらかじめ決められた恋人たちのダブPAとしても知られ、音楽レーベルmaoを主宰する石本聡の秘蔵っ子、平均年齢20代前半の新世代ダブバンドTam Tamは、そんな音楽の喜びをよく知っているバンドだ。Little TempoのHAKASE-SUNをプロデューサーに迎え、ダイナミズムを増した初の全国流通盤『meteorite』は、ルーツに対する愛情も、自分たちの音楽を探求するチャレンジ精神も、どちらも自然体で織り込まれた、現在進行形のダブアルバムである。「ダブってよくわからない…」というあなたにも、このアルバムがきっと新たな扉を開いてくれるに違いない。

タワレコもスペシャもない片田舎だったんで、HMVとかのオンラインを使って、なけなしの小遣いでCDを集めてました(笑)。(黒田)

―Tam Tamは大学生のときに結成されたそうですが、音楽サークルの出身ですか?

小林:そうですね。大学の音楽サークルで、いわゆる中南米の音楽ばっかりやる集団で出会って。最初はカバーをやってたんですけど、段々オリジナルをやるようになりました。実は、このバンドができる前に、僕はダブバンドのオーディションとか受けに行ってて。

黒田:へー!

小林:これ、今初めて言ったんですけど(笑)、落とされたんですよ。それが悔しくて、じゃあ自分でバンドを作ろうと思ったんです。

小林樹音
小林樹音

―黒田さんも、もともとダブが好きだったんですか?

黒田:そうなんですよ。出身が北海道なんですけど、ローカルのFM局でブラックミュージック専門の番組みたいのがあって、よく聴いてたんです。そこで自分は結構昔の音源が好きだって気づいて、ソウルとかファンクを掘るようになって。レゲエは高校生のときにショーン・ポールが流行って、その流れで、アルトン・エリスとかを聴くようになりました。

―ちゃんと掘り下げていったんですね。

黒田:タワレコもスペシャもない片田舎だったんで、HMVとかのオンラインを使って、なけなしの小遣いでCDを集めてました(笑)。で、何だかんだで、ジャマイカの音楽が一番好きだなって。

―シンガーとしての経験はあったんですか?

黒田:カラオケで歌ってたくらいで、ちゃんとシンガーとして活動したことはなかったんです。

小林:もともとサークルではトランペット吹いてたもんね(笑)。

―そうだったんですか! それでこの歌声を持っていたというのは、みんな驚いたでしょうね。

黒田:ルーツダブっておじさんのシンガーが多いので、最初はそういうドスの効いた感じをイメージしてたんですけど、私の声だとそういうのが出ないんで、あんまりそこにはこだわらないようにして、自分で歌い方を考えるようになった感じです。

黒田さとみ
黒田さとみ

―じゃあ小林さんは、どんな風にダブに出会ったんですか?

小林:高校生になった頃から兄の影響で音楽を聴くようになって、わりとすぐにヒップホップとテクノに行ったんです。その流れでAUDIO ACTIVE(日本のダブバンドで、イギリス最大のロックフェス『グラストンベリー』にも出演している)に出会ったことでダブを知って、そこからボブ・マーリーとかも聴くようになった感じです。そのサークルに入るまではベースも弾いたことなかったんですけど、たまたま友達からもらったベースがあったんで、「僕ベース弾きます」って。

―楽器は大学からなんですね。じゃあ、そこから必死に練習して?

小林:そうですね。何でも飽きっぽい子だったんですけど、周りの人たちがみんな音楽も楽器も詳しくて、なんかすっげえ悔しかったんです。だから、先輩の飲みの誘いも無視して、ひたすら練習して…愛想悪かったと思います(笑)。

2/3ページ:『KAIKOO』に行ったらすごい感動しちゃって、そのときに「あ、俺やっぱり音楽したいんだな」って気づいたんです。(小林)

『KAIKOO』に行ったらすごい感動しちゃって、そのときに「あ、俺やっぱり音楽したいんだな」って気づいたんです。(小林)

―大学のサークルからスタートすると、卒業のタイミングが1つの岐路になると思うんですが、その頃はどうでしたか?

小林樹音

小林:僕はちょっと事情があって、就活が出遅れちゃったんですよ。留年すると勝手に勘違いしてて、実は留年しないことに3年の1月とかに気づいて(笑)。その頃Tam Tamの最初の自主制作のCDを作り始めてたんですけど、4月に『KAIKOO POPWAVE FESTIVAL』があって、気晴らしに1人で行ったんですね。そしたら、すごい感動しちゃって、そのときに「あ、俺やっぱり音楽したいんだな」って気づいたんです。


―そこがターニングポイントだったんですね。

小林:それで就活は断念して、自主制作のCDを持って、自分が出たいイベントとかに片っ端から足を運んでたんです。その中で石本さんと出会って、僕らのライブを観にきてくれて。ライブ後に楽屋で話して、「ホントはダブやりたいんです」って言ったら、「俺にPAやらせてよ」って。

―そのときにいきなり?

小林:もうホントその場でです。そこから僕自身は生活が激変して、石本さんに色々怒られたりしつつも(笑)、「やってることは間違ってないな」って思えて、「このままひたすらやるしかねえ」って感じでしたね。

―Tam Tamって世代も若いし、新しさをすごく感じるんだけど、ちゃんと正統派の印象も同時にあって。それって、ちゃんとルーツへの愛情があった上で、今の感覚でダブを捉えてるからなんですね。

黒田:実際聴く人によって意見が分かれて、「ちゃんとしたルーツっぽいアルバムがいまどき出たね」って褒め方の人もいるし、「ルーツっぽくなくて新しくて面白い」っていう意見の人もいるんです。自分たちとしては、ルーツっぽいのを作ろうと思って作っても、完全にルーツのレジェンドみたいには作れないから、どういう曲を作っても、なんだかんだでTam Tamの曲になるんだなって。

小林:最初は本当にルーツっぽいものを作ろうと頑張ったんですけど、上手くいかなかったんです。それこそ声質も違うし、バックの音の出し方も違うし。それで試行錯誤の時期もあったんですけど、それぞれの好きなものがちゃんとアウトプットとして出てくるようになって、『Come Dung Basie』(2011年2月に発表された自主制作のミニアルバム)でルーツから一歩行くか行かないかぐらいの感じができたときに、「あ、これでいいんだな」ってみんなが思って。それを踏まえて新しく作った曲を凝縮したのが、今回の『meteorite』なんです。

黒田:これを聴いてルーツっぽいと思う人もいてほしいし、ロックっぽいと思う人もそれはそれでいいから、とにかく自分たちがグッとくるものをやって、「それがTam Tamのダブです」っていうスタンスでいようと思ってます。


(HAKASE-SUNは)アルバム1枚通して聴いたときの流れもすごく考えてくれて、緩急をつけるっていうか、流れをドラマチックに組み立ててくれました。(黒田)

―『meteorite』にはすごく幅の広い曲調が収められていますが、全体的なアグレッシブさ、ダイナミズムが際立っているように思いました。

小林:そこはHAKASE‐SUNの力がすごいなって。僕らはシーケンス世代というか、DTMが物心ついたときにはあったから、演奏も曲作りも結構かっちりしちゃうんですけど、HAKASE-SUNが生々しさとかアグレッシブさを教えてくれて。プロデューサーという名の、先生みたいな感じでしたね(笑)。

黒田さとみ

黒田:あとアルバム1枚通して聴いたときの流れもすごく考えてくれて、私たちにはそういう視点がなかったんですね。緩急をつけるっていうか、流れをドラマチックに組み立ててくれて、自分たちとしては結構意外な持ち曲が収録されてたりもするんですけど、結果オーライというか。

―例えば、どれが意外だったんですか?

黒田:1曲目になった“Akkeshi Dub”が意外だったんですよ。アルバムに入るとも正直あんまり思ってなかったんですけど、1曲目にこれが来るインパクトっていうのはHAKASE-SUNのアイデアだったんです。

―この曲ってすごくユニークだけど、そもそもどうやってできた曲なの?

黒田:私の地元が北海道の厚岸(あっけし)町で、「厚岸音頭」っていうのがあるんですけど、その三味線のラインをベースラインにして、ダブステップの要素を入れて、みたいな。

小林:最初の骨組みのときはパッとしない曲だったんですけど、やってくうちにギターがロックっぽいギターを弾きだして、それが意外とはまって。さっきダブステップって言ったけど、これは「アッケシ」っていうジャンルなんじゃないかと思うぐらい、謎な曲になってる(笑)。いろんな要素が凝縮されてて、いつのまにか『meteorite』っていうアルバムを象徴するような曲になっちゃったのが、逆にびっくりですね。

3/3ページ:このアルバムをきっかけに「ダブって何だろう?」と思ってくれたり、「ダブってよくわからないけど、でもいいよね」っていう広がり方をしてくれると嬉しいですね。(小林)

このアルバムをきっかけに「ダブって何だろう?」と思ってくれたり、「ダブってよくわからないけど、でもいいよね」っていう広がり方をしてくれると嬉しいですね。(小林)

―HAKASE-SUNの助言がアルバム作りの大きな力になったことは間違いないしとして、自分たちとしてここは譲れなかった、大事にしたっていう部分を挙げるとするとどうですか?

小林:プレイとしては、今までカチッとDTM的だったものに、HAKASE-SUNがロックを入れたけど、ある意味その間を取る、そういう演奏は気を付けました。ロックなことを弾きつつも、ビートミュージックの一部ではあるので、特にベースとドラムは意識して演奏しましたね。

―演奏はホント上手ですよね。Tam Tamもそうだし、僕はロックバンドのライブを見ることも多いんだけど、若い人たちはホント上手い人が多いなって思う。

小林:でも、その代わり若い人のバンドは少ない気がしますね…ロックとかだといるんですかね? 僕らがロックじゃないところにいるから、いないように感じるのかな?

黒田:出会わないよね、同世代。

―確かに、最近ダブで勢いのある若手バンドっていなかったですよね。だからこそ、Tam Tamにかかる期待は大きいんだと思う。

小林:そっか…でも、若い人は確かに上手いかもしれないですね。バンドだけじゃなくて、DJとか、それこそカメラマンだったり、アートを作る人も。このアーティスト写真を撮ってくれた子も同い年ぐらいで、PVやジャケットのアートワークを作ってくれた子とか、ここ(アー写)のギャラリーを運営してる子もほぼ同い年で、クオリティの高い人多いなって。

―さっきのDTM世代って話もそうですが、ツールが昔に比べて整ってるから、やる気さえあれば色々できるっていうのはあるかもしれないですね。

黒田:その分、情報が多いのかもしれないですね。音情報も、視覚情報も。

―情報が多くて選択肢が多い分、その中で「これ!」っていうのを見つけたときは、そこに対する集中度はものすごいのかも。最初の小林くんのベースの話もそういうことかもしれないし、Tam Tamはその中でダブを選んだってことかもね。

黒田:ダブじゃなかったら私バンドやってないしね(笑)。

黒田さとみ

―周りに同世代がいないとなると、ダブの魅力をもっと広く伝えたいっていうのも目的意識として強い?

小林:僕は結構強いですね。マニアックな音楽ではあると思うけど、ダブって広がりのある音楽で、実はみんなの身近にある音楽だと思うんです。だからこのアルバムをきっかけに「ダブって何だろう?」と思ってくれたり、「ダブってよくわからないけど、でもいいよね」っていう広がり方をしてくれると嬉しいですね。

―このアルバムが示している通り、ダブっていう要素自体は色んな所に拡散していけますもんね。

小林:そうですね。「ダブって一体何なの?」って聞かれたら、ダブはダブでしかないと思うんです。きっと個々で考え方が違って、僕らの中でも違うけど、みんなが思うダブっていうのをバランスを取ってやってるのかなって思いますね。

毎回のライブがディープインパクトじゃなきゃいけないですね(笑)。(小林)

―6月にはこのアルバムの全曲ダブバージョンも出るんですよね?

小林:そうです。石本さんがダブミックスをして。普段はダブとかそんなに聴かない人でも、もし『meteorite』を気に入ってくれたら、聴いてもらいたいなって。

黒田:高校1年のときに『SESSIONS』っていうコンピのダブアルバムを初めて聴いたんですけど、好きな曲が入ってると思って買ったらボーカルが入ってなくて、「何だこれは?」って思って(笑)。だから、最初はそう思う人もいるかもしれないけど、そこから転じて、私みたいに好きになる人もいるから、そういうきっかけになれば。

―僕もダブミックスってTHE BOOMのCDで知ったんだけど、当時はよくわかんなかったもんなあ…

小林:最初は歌がないことを衝撃的に思うかもしれないけど、ぜひ聴き比べて聴いてほしいですね。アルバムの中で1曲好きな曲があったら、iTunesで1曲落とすだけでもいいから。

小林樹音

―そうやって、未知の世界がどんどん広がっていくのが、音楽の楽しみのひとつですもんね。

小林:もっと言うと、高校生とか、自分たちよりももっと若い人にも届くと一番嬉しいですね。次の世代を担う…って僕らが言うのもなんだけど(笑)、もっと下の世代にも「こういう音楽どう?」って伝えたいですね。

―では、最後に『meteorite』というタイトルについて教えてください。

黒田:私も彼もSFが好きで、彼は宇宙とかハードSFの方で、私はソフトSFの方が好きです。「スコシフシギ」の方ですね。藤子不二雄とか。

―ってことは、『meteorite』を考えたのは小林君?

小林:いや、考えたのはこっち(黒田)で、バーッてタイトル候補のリストをメールで送ってくれたときに、俺が「『meteorite』いい、サイコー。あとは全部ボツだけど」って返信したのを覚えてます(笑)。

―なぜ、この言葉をタイトルにしようと思ったんですか?

黒田:一応「彗星」「隕石」とかって意味だから、「ヒュー、ボォン!」みたいなアルバムになるといいなって(笑)。

小林:ダブとか音楽シーンに隕石を落として爆発を起こしたいっていうことだよね、今の「ヒュー、ボォン!」を言葉にすると(笑)。だから、毎回のライブがディープインパクトじゃなきゃいけないですね(笑)。

リリース情報
Tam Tam
『meteorite』

2012年5月2日発売
価格:2,100円(税込)
mao / maocd-33

1. Akkeshi Dub
2. Dry Ride
3. Clay Dance
4. Elevator
5. Skit
6. Eyes Of Danger
7. Stop The Alarm
8. Space Debris
9. Inside The Walls
10. Train
11. Wasureta
12. Proof

イベント情報
Tam Tam 1st album『meteorite』 Release Party

2012年7月7日(土) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 青山 月見ル君想フ
出演:Tam Tam
スペシャルゲスト:
HAKASE-SUN
画家
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

プロフィール
Tam Tam

メンバーの平均年齢が20代前半となるヤング・ダブバンド。ダイナミクス溢れるソウルフルなボーカルを軸に、強力なリディムセクションがボトムを支え、ギター/キーボードが彩りを添えるバンドサウンドは、メンバーの年齢からは想像できない完成度をほこり、レゲエを土台にしつつそこにクラブミュージックの良質なエッセンスを注入した音楽性も相まって、ベース・ミュージックシーン、インストロック、ジャムバンド界隈からも厚い支持を得ている。



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