現在日本全国のミニシアターで、熱狂的に迎えられながら順次公開中のインディーズ映画『SRサイタマノラッパーロードサイドの逃亡者』。入江悠監督もキャストらとともに、全国の公開館を舞台挨拶行脚し、映画館を劇中さながらのライブ空間に変え、連日話題を振りまいている。一方、男性のみ学ラン姿でコンテンポラリーダンスの世界に颯爽と登場し、ダンス、映像、コント、さらには音楽活動まで表現の幅を広げながら世界的に活動するコンドルズ。リーダーである近藤良平は、テレビ番組を始め、氣志團やYUKIなど振付家としても引っ張りだこである。そんな型破りな2人のコラボレーションが、このたび意外なところで実現! 三井ダイレクト損保のキャンペーン『MUJICOLOGY!』でのムジコロジー体操PVを、監督を入江悠が、ダンスの振り付けを近藤良平がそれぞれ担当したのである。作品内ではサイタマノラッパーからSHO-GUNGと征夷大将軍が友情出演、近藤らしい遊び心満載の振り付けによるミュージカル風の作品に仕上がっている。この作品で初めての顔合わせとなったお2人にそれぞれの活動のこと、コラボの感想などを含めて伺った。あくまで自分の実感をベースに活動し、手渡しの表現を貫く2人がいま考えることとは?
外の世界に打って出ることが難しい世代
―近藤さんは先日『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』をご覧になったそうですね。
近藤:むちゃくちゃ面白かった! 前2作も評判は聞いていて、でもまだ観られていなかったのでほぼ予備知識なしだったんですけど。もう……なにも言えないぐらいよかった(笑)。
入江:ありがとうございます。
近藤:最後のほうで長回しのシーンがあるじゃないですか。あれ、すごかったですね。
入江:長回し撮影はシリーズを通してのこだわりで、毎回、挑戦しているんです。
近藤:そうなんだ。かなり新鮮でした。僕の中では、アンジェイ・ワイダ監督の『灰とダイアモンド』のラストを彷彿とさせるものがありましたね。撮影現場に行きたかったですよ。入江さんはおいくつですか?
入江:32歳です。SRシリーズを撮り始めたときは20代だったんですけど。
近藤:その前はどんなことをされてたんですか?
入江:映像の仕事はしていたんですけど、わりと「他の人でもできるだろう」っていう仕事が多くて……。でも、30代を前に、そろそろ自分にしかできないこと、人がやっていないことをやらないとダメだと思って、SRの1作目を撮ったんです。
近藤:今ってバクチって言ったら言葉がワルいけど、若い人があまり自分をなにかに賭けたりしないよね。
入江:外の世界に打って出ることがどんどん難しくなっている気はしますね。
近藤:最近、大学生の授業を持ったりすることがあるんだけど、いろいろリサーチした上で、まず守りから考える人が多い。もちろん、ときどきムチャするヤツもいて面白いんだけど。
入江:それはどういうことなんだろうってことは僕も思っていて、SRシリーズでも、自分の世界から移動したり、しなかったりする同世代を主人公にしたんです。
入江悠
―『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』の主人公マイティは、東京に出て夢破れるわけですけど、海外で育った近藤さんの目にはどんなふうに映りましたか
近藤:埼玉と東京って電車に乗っちゃえば隣街みたいなものだよね(笑)。でも、そこに心理的なボーダーがあるのはわかる。たしかに僕は、親父の仕事で子供の頃、南米に住んでいたんですよ。そんなこともあって、そういう場所でボーダーを感じることはあまりないんですけど、でも中学校以降は日本に戻ってきて、いま住んでるのは東京だし、拠点っていう意味では「日本、東京」っていう意識はあるんですよね。
入江:ダンスだと海外留学も盛んですよね?
近藤:ダンスって、文化としてヨーロッパとかアメリカのほうが盛んだから、留学とかは多いですね。でも僕は「留学しない」って決めたんです。べつに日本とか東京が僕の中で特別いい場所ってわけではないんだけど、たまたまいるこの場所から発信をして、それをむしろ海外に見せるほうが意義があると思ったんです。
近藤良平
―SRシリーズも、何度か海外の映画祭で上映されていますよね。
入江:ええ、北米、ドイツ、韓国などいくつか回ってます。
近藤:海外で喜ばれるでしょ?
入江:反応はいいですね。ただ、やっぱり日本や日本映画に興味ある人しかなかなか来てくれないっていうのはあって……。字幕が難しいんですよ。そもそも字幕で映画を観る習慣がない国が多いので。その点では、ダンスのほうが国境を越えやすいかもしれないですね。
近藤:でも、僕らも「海外でもいけるだろう」っていうわりと軽い気持ちで、2000年の初めぐらいから海外公演に行ってるんですけど、行ってみてわかったこともあって。……けっこうメンドくさいことも多いんです。
入江:あっ、そうなんですか?
近藤:うん、細かく言うといっぱいあるんですけど、例えば、文化人が難しい顔で来ちゃうとか。腕組んで「日本人がなにを見せてくれるの?」って。一方で、アメリカの避暑地みたいなところで、おじいちゃんとおばあちゃんしか来ないようなホールで、「みんなトイレが近いので、間に必ず休憩を入れてください」とか(笑)。ちゃんと現地の事情に通じているプロデューサーとかがいる場合は、いいんですけどね。「香港ならあそこに君たち向きの劇場がある。東京で言うとシアターコクーンみたいな劇場だよ」みたいな(笑)。
テレビメディアとのうまい付き合い方
入江:そういえば、2年ぐらい前にSRの主演でもあるSHO-GUNGクルーのイックとトムがシアターコクーンでやってた中村勘三郎さんのコクーン歌舞伎に、ラッパーのキャラクターのまま出たことがあるんですよ。
近藤:それ面白いなぁ(笑)。カッコもあのまま?
入江:いちおう百姓役なんですけど、セリフはラップなんです(笑)。いとうせいこうさんが歌詞を書いてくれて。
近藤:聞いたんだけど、SRって地方の劇場で上映するときにも、キャストの人たちがライブしたりもするんでしょ?
入江:そうなんですよ。上映自体は普通なんですけど、上映後に劇中のままの衣裳で出てきて、みんなでライブするみたいなことをかなりやっています。
近藤:スクリーンの前の狭いスペースで?
入江:はい。場合によっては客席にも回ったりして。
近藤:それはお客さんも喜ぶでしょう? 映画を観て、その場で劇中のキャストがその恰好のまま現れたら感動するもんね。
入江:特に地方のお客さんの反応をダイレクトに感じられるのは面白いですね。
―それってスタッフとキャストの結束がかなり強くないとできないことではありますよね。
入江:ええ。ただ、所帯じみてなくて、ある目的のために集まっているカンパニー的な結びつきではありますね。
近藤:ベタベタしてないってこと?
入江:そうです。コンドルズさんにもそういうイメージがあるんですが。
近藤:いろんな時期があったけど、そうでないと、こんなにずっとやれてなかったと思います(笑)。
入江:結成から何年ぐらいになるんですか?
近藤:16年。こんなに続けるつもりもなかったんだけどね。今は家族持ちも増えて、やれ「アイツが離婚した」とかいろいろメンドくさいこともあるけど(笑)、それぞれ生活があって、その上で家族に「ちょっとコンドルズ、行ってくるわ」みたいな。飲みにいくアリバイにしたりしてね(笑)。
入江:でも、そういうふうに続けられるのはいいですよね。
近藤:まあ、続けてみて初めて価値が生まれてきたっていうか。不思議な感じですね。
―コンドルズはテレビとの付き合い方も、絶妙ですよね。
近藤:もともと僕が映画は好きだけど、テレビはほとんど見ないし、よく知らないっていうのが大きいんですよ。だから、結果的に向こうに合わせるってことがまったくないんです。『サラリーマンNEO』って番組で「サラリーマン体操」をやったときも、「コンドルズさんなら、こういうこともできると思いまして……」って相談されたんだけど、前から自分たちでも似たようなことをやったんです。「そりゃ、できるよ! やってるもん」って。でも、すぐには言わないで、ちょっともったいぶって悩んでるフリをしたりしてね(笑)。入江さんも、いまテレビで連続ドラマをやってるんですよね?
入江:『クローバー』っていう深夜ドラマの監督をやってます。やってみて、ホント、カンパニーじゃないんですけど、SRをホームだなぁって思うんですよ。SRから出張して、また戻ってくるみたいな感覚があるんですよね。SRに出演していた面白い俳優に声をかけて、ドラマにも出てもらったりとか。ただ、テレビとなると、やっぱり観客のキャパが一気に広がるのが面白いですね。
近藤:それはあるよね。いままで劇場で50人ぐらいを相手に伝えていたことが、内容は同じなのに、思いもよらぬ大勢の人たちにまで伝わるからね。僕もテレビに出てみて、初めてわかったことでしたね。
「見てもらえれば、イケる!」だからその一歩手前が気になる
―お2人は、観客のキャパが50人でも、それこそテレビを通じた何百万人でも、表現の軸があまりブレない印象があります。
近藤:ただね、冒頭でもちょっと言ったように、最近、大学で授業を持ってるんだけど、今の大学生ってクールで、なにに興味があるのかわからないところもあるんですよ。もちろん、それはこっちの責任でもあるのかもしれないけど。それにしても、情報が多すぎて、実際に目に触れたり、足を運んだりする前に、お腹いっぱいになっちゃってるんじゃないかなってことを思ったりもしますよ。
入江:ちょうど僕もこのあいだ大学で講義をしてきたんですけど、映画学科の人でも、相米慎二やテオ・アンゲロプロスを観てないどころか、名前すら知らなかったりして、さて、彼らになにを伝えよう? っていうのはありましたね。
近藤:たぶん温度差もあって、彼らは彼らで燃えているものもあるんだろうけど、外側からはそれがあまり見えないんです。籠もっているっていうか。とはいっても、例えばコンドルズだって観に来てもらえれば、そこは「イケる!」っていう自信はあるんですね。ま、だから悩むようなことではないのかもしれないけど……。
入江:「見てもらえれば、イケる」っていうのは、ホントその通りですね。僕もそこには自信を持ってやっているので。じゃあ、その観てもらうためにっていう……。
近藤:そう、その作品の1個手前の部分なんだよね。どうすればこの面白さが伝わるのかなっていう。
―今回、『MUJICOLOGY!(ムジコロジー)』というテーマでコラボレーションをしたわけですけど、その「伝える」という部分では、どんなことを考えられました?
近藤:これに関しては、そんなに難しくなかった(笑)。「無事故」っていうメッセージがはっきりしていて、歌詞も強いので、振り付けはそれに逆らわずマッチする感じでつくりましたね。
入江:自動車の衝突事故のアルゴリズムみたいなものを意識したダンスを考えてくれたんですよね。
近藤:そう、2つの対立する関係性をつくって、それが押したり引いたりしながら、徐々に融合していくっていう。
―『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』のSHO-GUNGと征夷大将軍のラップバトルをちょっと思い出しますね(笑)。
入江:『ウエストサイドストーリー』じゃないですけど、ああいう対立構造はすごく好きなんですよ。また、「誰が踊ったら、面白いか」ってこともあるじゃないですか? いかにも踊りそうな人が踊っても、どこかで見たことがある感じになってしまうし。
近藤:その点、サイタマノラッパーと女子吹奏楽部もそうだけど、ありえない感じがいいよね。ダンスを勝手にモノにしてくれている感じもよかったです。
入江:ヘンな非日常感が出てましたね(笑)。
近藤:それでいて、映像もメッセージもきちんと真顔で、真面目にやってるから、より面白くなってる(笑)。
―僕はコンドルズも入江監督の作品も大好きなんですけど、近藤さんと入江さんのコラボレーションっていうのはちょっと意外だったというか。でも、今回お話を聞いてとてもいい出会いだなと思いました。
入江:近藤さんと『MUJICOLOGY!』をつくることを通じてお会いできたのは、スリリングだし、すごく面白いことでした。
近藤:そうだよね。僕なんて一緒にできたことで『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を観たし、それがまた、いたくよかったからね。いい意味で、舞台とか映画とか音楽とか広告とか、その辺の同じ嗅覚を持ってる人たちが繋がってきているよね。すぐに壁をまたげるというか。
入江:これを機会にコンドルズの公演も今度観にいかせてもらいますね!
近藤:ぜひお待ちしてます! 楽しんでもらえるといいな!
- イベント情報
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- コンドルズ日本縦断大開放ツアー2012
『Knockin' On Heaven's Door』(ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア) -
構成・映像・振付:近藤良平
出演:
青田潤一
石渕聡
オクダサトシ
勝山康晴
鎌倉道彦
ぎたろー(新人)
古賀剛
小林顕作(映像出演)
スズキ拓朗
田中たつろう
橋爪利博
平原慎太郎
藤田善宏
安田有吾(NewFace)
山本光二郎
近藤良平東京公演 シャングリラ・スペシャル
2012年8月23日(木)〜8月26日(日)
会場:東京都 新宿 東京グローブ座
時間:8月23日(木)19:30開演、24日(金)19:30開演、25日(土)13:00/18:00開演、26日(日)17:00開演
料金:前売一般4,500円 当日一般5,000円
※大学生、高校生以下割引なども用意静岡焼津公演 ザナドゥ・スペシャル
2012年8月31日(金)
会場:静岡県 焼津 焼津文化会館・小ホール
時間:19:00開演
料金:前売一般4,000円 当日4,500円
※未就学児童入場不可富山高岡公演 ニューアトランティス・スペシャル
2012年9月2日(日)
会場:富山県 高岡 高岡市民会館
時間:14:00開演
料金:一般4,000円
※3歳以上入場可新潟公演 アガルタ・スペシャル
2012年9月7日(金)
会場:新潟県 新潟 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
時間:19:00開演
料金:一般5,000円埼玉越谷公演 パライゾ・スペシャル
2012年9月9日(日)
会場:埼玉県 越谷 サンシティ越谷市民ホール
時間:15:00開演
料金:一般:4,000円 学生2,000円
※団体割引あり、未就学児童入場不可広島公演 ティル・ナ・ノーグ・スペシャル アステールプラザ芸術劇場シリーズ
2012年9月13日(木)
会場:広島県 広島 アステールプラザ中ホール
時間:19:30開演
料金:一般6,000円福岡公演 ニライカナイ・スペシャル
イムズパフォーミングアーツシリーズ2012 vol.62012年9月15日(土)、9月16日(日)
会場:福岡県 天神 イムズホール
時間:9月15日(土)14:00/19:00開演、16日(日)15:00開演
料金:前売一般4,500円 当日一般5,000円
※未就学児童入場不可大阪公演 アヴァロン・スペシャル
2012年9月22日(土)、9月23日(日)
会場:大阪府 城見 松下IMPホール
時間:9月22日(土)15:00開演、23日(日)13:00/17:00開演
料金:一般5,000円
※3歳以上有料、3歳未満のお子様のご入場はご遠慮ください
- コンドルズ日本縦断大開放ツアー2012
- リリース情報
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- 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』
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渋谷シネクイントほか全国順次公開中
監督・脚本・編集:入江悠
出演:
奥野瑛太
駒木根隆介
水澤紳吾
斉藤めぐみ
北村昭博
永澤俊矢
ガンビーノ小林
美保純
ほか
配給:SPOTTED PRODUCTION
- プロフィール
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- 入江悠
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1979年神奈川県横浜市生まれ、埼玉県深谷市出身。日本大学藝術学部映画学科卒業。映画監督・映像作家。長編作品『SR サイタマノラッパー』では、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門グランプリ」、「第13回 富川国際ファンタスティック映画祭 NETPAC AWARD(最優秀アジア映画賞)」、「第50回日本映画監督協会新人賞」など、受賞多数。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』では、「第26回高崎映画祭 若手監督グランプリ」を受賞した他、「第10回ニューヨーク・アジアン・フィルムフェスティバル/ ジャパンカッツ・フィルムフェスティバル」、「第31回ハワイ国際映画祭」招待上映、『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』「香港国際映画祭」正式招待上映など、海外にもその作品の評価を広げている。
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- 近藤良平
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振付家、ダンサー。1968年生まれ。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。20ヶ国以上で公演、ニューヨークタイムズ紙絶賛、渋谷公会堂公演も即完満員にした男性学ランダンスカンパニー・コンドルズ主宰。第四回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。NHK連続TV小説『てっぱん』オープニング振付、NHK総合『サラリーマンneo』内「サラリーマン体操」、NHK教育『からだであそぼ』内「こんどうさんちのたいそう」、「かもしれないたいそう」に振付出演。三池崇史監督映画『YATTAMAN』振付。TBS系列『情熱大陸』出演。NODA・MAPの『THE BEE』で鮮烈役者デビュー。バンドプロジェクト『THE CONDORS』ではベースを担当する。
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Special Feature
Crossing??
CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?