思わずギョッとするアルバムタイトルだが、そこに偽りやてらいは一切ない。地元札幌を拠点とする3ピース、THE★米騒動の2作目『十九歳でぜんぶ終わる』は、その10代という若さ故の衝動で突っ切った、いわば2枚目のファーストアルバムであり、同時にそうした時期と一刻も早く決別して、すぐにでも次のフェーズに向かいたいという葛藤をそのまま無軌道に爆発させたような作品だ。実際、この1年で迎えたバンドを取り巻く状況の変化にメインソングライターの石田愛実が敏感に反応したことが、アルバムの制作に大きな影響を与えたことは間違いないようで、本作における、まるで3人編成の限界に挑むような徹底してマキシマムな演奏を踏まえて、彼女はどうやらすでに次のステップを見据えてもいるようだ。前作『どうでもいい芸術』のリリースを経たことで手にした作家・演奏家として急激な成長と、それをまだ整理しきれていないところから生まれた、とぐろを巻くように混沌としたグルーヴ。そこに散りばめられた厭世観と共に、彼女達は10代という季節にここで別れを告げる。
理論とかテクニックは関係なしに初期衝動だけで作れるのは10代までだろうなって。(石田)
―なんと今日は偶然にも石田さんの誕生日なんだそうですね。まずは20歳を迎えた率直なお気持ちを聞かせてもらえますか。
石田(Vo,Gt):今のところは、特に感慨深さもなにもないかな。とりあえず今は、このあとのライブのことで頭がいっぱいですね。
―『十九歳でぜんぶ終わる』というアルバムタイトルと照らし合わせてみると、やっぱりいろいろと考えるところもあるんじゃないかと思ったんですが。
石田:これから先にこういうアルバムはもう作れないだろうな、とは思っています。音楽を作る上で、理論とかテクニックは関係なしに初期衝動だけで作れるのは10代までだろうなって。自分たちがその時に思っていたり、感じていたりすることをそのまま素直に音にしていって、それをひとつのアルバムに詰め込んでいくような作り方は、これが最後になるとははっきりと思ってます。
―つまり初期衝動的なエネルギーで押し切れるのは今回が最後だろうということですね。
石田:そうですね。最近は曲を作っている時もいろんな雑念が入ってくるようになってきていて。今回のアルバムを作るにあたっても、自分は作品としてどういうものを形にしたいかっていうことはものすごく考えたんです。1枚目に入っているような曲だってもう今は作れないし。特に最初の頃はかなり悩みながら作っていましたね。盤を出すために曲を作るっていうのも初めてだったから。
―その悩ましい気持ちはメンバー間でも共有していたものなんでしょうか。
坂本(Dr):いや、僕は全然ですね(笑)。
沖田(Ba):曲を用意してくるのは石田なので。メンバー全員がそんなに焦ったり思いつめたりしていたわけではないです。
坂本:いろいろ考えているのはわかってましたよ。これまでと同じように曲ができてくるのを待ってました。
―1枚目を出したことで聴き手の存在をより意識するようになったということも、いくらかは影響したのでは?
石田:それはやっぱりあります。ファーストからライブのセットリストに残っていった曲を振り返ると、お客さんの反応を意識して、自分たちに求められているものを実感したこともやっぱり関係はあって。もちろん自分たちがかっこいいと思うものをやるっていうことはこれまでと変わらないんですけど、1枚目のアルバムを聴いて私たちの存在を知った人も少なからずいるわけで、そこから次にどういうものを作るかということは、やっぱり考えましたね。それと個人的にはもっとメロディが強いものを作りたくなってたし、同時に今回みたいなミニアルバムは疲れるくらいのものがいいなとも思って。ファーストは足し算で作った感じですけど、今回は出るところはしっかり出ているような構成というか。いろいろ考えました。
石田愛実 撮影:谷口雄太
―じゃあ、作りはしたものの収録に至らなかった楽曲もけっこうあるんですか。
石田:それはもう、いっぱいありましたね。
―その収録するかしないかを決めるなにかしらの大まかな基準があれば教えていただけますか。
坂本:その曲がかっこいいかダサいかってだけだよね。
石田:でも、それぞれの好みが同じってわけでもなくて。これってどう言葉にしていいかわからないんですけど、3人がみんなしっくりくる感じっていうのがあるんですよね。誰か1人が「これはちょっとビミョーだよね」と思ったものは他の2人もだいたい同じように感じてたり。で、私が迷いながら無理やり形にしたような曲はだいたいそんな感じでしたね。
みんなが普段目をそらしてしまっているようなことに対して、いろいろと疑問が湧いてきたんです。(石田)
―今回のような作品がこれで最後ということは、これからはまったく違うモードで制作に臨むということになりますよね。
石田:曲に関することから、演奏方法に至るまで、とにかく今は自分の振り幅を広げていきたいんです。それこそ今は打ち込みも勉強したりしながら、自分たちの手数を増やしているところで。今までのやり方も踏まえつつ、もっと洗練されたやり方もできるようになりたくて。
―歌詞についてはどうでしょう。THE★米騒動の楽曲はどれもテーマに具体性があるようにも感じていたんですが、今回のアルバムでは主にどんな気分が反映されたんでしょうか。
石田:歌詞はそのときどきによく考えることや疑問、伝えたいことを具象化しているので、それこそ前作とはまったく違うものになっていると思います。いろんなことにムカついてましたね(笑)。
―どんなことに?(笑)
石田:みんなが普段目をそらしてしまっているようなことに対して、いろいろと疑問が湧いてきたんです。なんで正しくないと思っていることをそのままにしてしまうんだろう? って。それこそ、高校を卒業してからは環境も変わったし、人付き合いも増えて、18歳の時と19歳の時では交友関係がかなり変わったんですよね。こうしてライブをやるために東京に出てきたりするようにもなって、それまで以上にいろんな人と会うようになったし。特に年上の人たちですね。そうすると、自分からしたらとても思いもしなかったような考え方が今まで以上にたくさんあったんです。
―それで、ムカついたんですか?
石田:いろんなことにムカついたりすること自体は前からよくあって。それよりも、そういう自分が理解できない考え方でも、歳を重ねていくうちに容認できるようになっていったり「まあ、そういう考え方もあるよね」で片付けられるようになってきているところがちょっと気にかかるというか。
―良くも悪くも自分が大人になって、世の中に飲み込まれてきている感じがするってこと?
石田:そうなのかもしれないですね。最近は東京にも話せる友達が少しずつ増えてきたんですけど、やっぱり札幌の友達とは雰囲気が違うんですよね。単純に話すスピード感がぜんぜん違う。歩く速さとか会話のテンポとか、もうまったく違うんですよ(笑)。
―それは僕も東北出身なのでよくわかります(笑)。東京に拠点を移そうとは今のところ考えてないんでしょうか。
石田:いまのところは自分達の置かれている状況をそこまで変えたいとは思っていないですね。こっちにきたら曲作りもいまのペースではやれなくなると思うし。
撮影:谷口雄太
私たちを「北海道のバンド」として関心を持ってくれる人が多いのは、そう思われるくらい強烈な「北海道のバンド」が上の世代にいるからで。(石田)
―では、みなさんがこのバンドをやるにあたって、札幌とはどういう環境なのかを教えてもらえますか。
坂本:同世代でちゃんとやっているバンドはみんなそれぞれリリースもしているし、けっこうがっつりと活動している印象はあります。数は少ないと思うんだけど、実は俺らが知らないだけで本当はいろんなバンドがいるのかもしれないよね。
石田:バンドもそうだし、ライブハウスの数も東京みたいには多くないですけど、その分個々のつながりが強くて、活動しやすい環境だとは思っています。自分たちと同世代ってなると、思い浮かぶ名前は限られてくるけど、それ以上に上の世代で尊敬できるバンドが北海道にはたくさんいるし。実際に私たちを「北海道のバンド」として関心を持ってくれる人が多いのは、そう思われるくらい強烈な「北海道のバンド」が上の世代にいるからで。
坂本:それこそキウイロールとか、あんなキテレツな音楽なのに本当にかっこいいし。あとは旭川のミスコーナー(MISCORNER/C+LLOOQTORTION)とかもそうだよね。そこで自分たちに札幌のバンドっぽいなにかがあるのかどうかは、自分ではよくわかってないんですけど。
坂本タイキ 撮影:谷口雄太
―今挙げてくれたバンドの音楽には、なにかしら曲調にエクストリームな側面がありますよね。そこはTHE★米騒動の音楽にも共通しているんじゃないかなと思ったんですが。しかもそこってさっきのダサいかかっこいいかの基準にも関わってくるのかなって。
石田:まわりからの影響は少なからずあると思います。それこそbloodthirsty butchersとかeastern youthみたいなバンドが札幌からでていたり、SPIRAL CHORD、Discharming manみたいなバンドが自分たちと同じライブハウスで演奏しているような状況であれば、それは無意識にでも影響を受けると思う。特に今はいろんなものから受けた影響を自分たちのフィルターでしっかりと濾過した上でモノにしていきたいっていう気持ちがものすごく強いから。
これから先にもっとすごいものが作れるはずだから。(石田)
―自分たちもそういう地元の先人達の系譜にこれから連なっていきたいっていう気持ちはありますか。
石田:それはやっぱり、そうなれるものならなっていきたいよね。もちろん地元出身のバンドに限定した話じゃないですけど。
沖田:そうだね。
―さっき自分たちの振れ幅を広げていきたいとお話していましたが、つまり現在の石田さんは意識的に楽曲作りのためのインプットを増やしている状況ということですよね。最近でなにかこれまでに気づかなかったような発見はありましたか。
石田:最近はテレビとかを観ていて普通に耳に入ってくるような、いわゆる売れている音楽にも気にかかるものが出てきて。そういうものを注意深く聴いてみると、なかには聴き手にひっかかるようなメロディーだったり、耳あたりのよい歌を備えているものがやっぱりけっこうあるんですよね。自分でもメロディーへの意識は強く持っているつもりではあったんですけど、自分が考えているような際立ったメロディーを書いていくためには、もっとそこの意識を高めていかなきゃいけないなと思ってて。
―なにかバンドとして他に強化したいと思ったところはありますか。
坂本:そうですねぇ…。最近はちょっとバンドのことを石田に任せすぎていた感じはあるかもしれません(笑)。
沖田:私は、面白いことがやれたらそれがいいなって。
石田:(笑)。どっちにしても、私はなにをやるにも徹底的にこだわってしまうタイプなので、そこで大して考えずにどうこう言われるよりは、待っていてくれた方が嬉しいですね。それに今は個々で引き出しを増やしていくことも大事だと思っているので。
沖田笙子 撮影:谷口雄太
―そういえば石田さんは美術系の学校にも通われているんですよね。他のアートフォームからの影響が音楽に及ぶこともあるんじゃないかと思うんですが。
石田:それはもちろんあります。美術は前からずっとやっていることなので。建築と広告デザインを専攻していて、特に広告デザインには関心があるんですけど、やっぱりバンドをやっていくうちにそっちがどんどん楽しくなっちゃって、だから学校はいま休学中なんです。両立するのは思ったより大変だった(笑)。でも、絵を描くのはやっぱり好きだし、こうしてアルバムのアートワークもやれるから。
―アルバムには「ストランゲーゼ30番地」という曲がありますね。このタイトルはデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハンマースホイから引用したものと解釈して間違いないですか。
石田:そうですね。これはもう単純に、ハンマースホイの世界観に魅力を感じたというだけなんですが。あの無機質なのにどこか生っぽくて、なにかが潜んでいそうな感じを曲にしたいと思ったんです。この曲に限らず、私が作った曲は、自分の好きなものや日常で気になったものの集大成みたいな感じなので。テーマっていうほどのものじゃないですけど。
―若さで作れるのが今回で最後ということは、逆に言うとこれからは若さだけでは作れない音楽を形にしていくということにもなりますよね。そこでみなさんがそれぞれこの先のTHE★米騒動にどんな展望を抱いているのかを聞かせてください。
沖田:変におとなしくなったり、丸くなるのは嫌だと思ってて。爆発力だけはなくしたくないです。
石田:なにか具体的なことを言うとすれば、フルアルバムを作りたいとは思っています。それに30〜40代になっても爆発的な音楽をやっている人たちってたくさんいるから、自分たちもいつかそこに到達したいです。
坂本:自分たちがこれからどういうものを作っていけるのかはまだ全然わからないんですけど、どういう方向に行ったとしても、フラストレーションがこもったものにはなるんじゃないかなと思ってます。みんな溜めるタイプなので(笑)。
石田:どちらにしても自分がこうやって盤を作ったことで満足するっていうことはまずなくて。そうなりたくもないんです。今回のアルバムにしたって、100パーセント満足できるものができたなんてちっとも思ってないし、これから先にもっとすごいものが作れるはずだから。
- イベント情報
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- 『THE★米騒動「脱法ツアー」』
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2012年9月16日(日)
会場:大阪府 心斎橋 Music Club JANUS2012年9月18日(火)
会場:愛知県 新栄 CLUB ROCK'N'ROLL2012年9月26日(水)
会場:北海道 札幌 SPRITUAL LOUNGE2012年10月4日(木)
会場:東京都 下北沢 SHELTER
- リリース情報
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- THE★米騒動
『十九歳でぜんぶ終わる』 -
2012年7月11日発売
価格:1,890円(税込)
WhiteRiot / UK.PROJECT / WRT-0021. 十九歳
2. DOSYAKUZURE
3. 女の娘
4. ストランゲーゼ30番地
5. 家政婦はなにも見ていない
6. 男ってこれだからさぁ
7. S.S.A.
- THE★米騒動
- プロフィール
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- THE★米騒動
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石田愛実(Gt,Vo)、坂本タイキ(Dr)、沖田笙子(Ba,Vo)。北海道札幌市平岸高等学校軽音部にて結成。1992年生まれの3ピースバンド。2010年8月、10代限定夏フェス「閃光ライオット」にてグランプリを獲得。注目を浴びる。2011年1月、SCHOOL OF LOCK! presents「くるりと対バンライオット」にて、くるりと共演を果たす。2011年6月、1stミニアルバム「どうでもいい芸術」をリリース。現在札幌、東京を拠点に活動中。
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