起業してまで成し遂げたいこと 森大地インタビュー

CDのあり方やライブの意味、SNSとの関わり方など、今まさに変化の真っただ中にあると言われる音楽シーンの中で、度々ピックアップされるのがプレーイングマネージャーの存在である。PIZZA OF DEATHの横山健、ROSE RECORDSの曽我部恵一、残響recordの河野章宏など、自ら音楽活動をしながら、レーベル運営も行う彼らは、リスナーとミュージシャンの双方から高い信頼を獲得している。そして、今インディシーンで最も注目を集めているプレーイングマネージャーの一人が、森大地である。自らのバンドAureoleを率いつつ、2010年に立ち上げたkilk recordsは、独自の審美眼を持ったアーティストセレクトで、虚弱。やbronbabaといった日本人のバンドを輩出し、また海外アーティストの作品も数多く発表するなど、精力的な活動を展開している。メンバーの急病という困難を乗り越えたAureoleの3作目『Reincarnation』を完成させた森に、バンドとレーベルの理念について、じっくりと語ってもらった。

日本の音楽史を変えたいぐらいの思いもあって。そのためには自分でやっちゃうしかない、そういう感じですね。

―森さんの中で、アーティストとしての自分とレーベルの代表としての自分っていうのは、どういうバランスになっているのですか?

森大地
森大地

:まず言えるのは、僕はkilk recordsを始める前は普通の仕事をしながらバンドをやっていて、みんなと同じように夜遅くまで仕事をして、その後の時間とか、休みの日を利用してバンドをやってたんです。それが今は、普通の仕事をしてた時間にレーベルをやってる感じなので、そういう意味では、働きながらバンドをやってる人と変わらないんじゃないかって気はするんですよね。


―ちなみに、レーベルを始める前はどんな仕事をしていらしたんですか?

:結構色々やってました。楽器屋の店員もやりましたし、普通の営業職もやったし、コンビニ店員のバイト、トラックの運転手もやりましたしね。でも、その当時から自分の生活の中心はバンドだと思っていたので、働いてる時間も「早くバンドの時間になんないかな」って考えていました。もちろん、仕事は仕事で一生懸命やってたつもりなんですけど(笑)。

―それが今や、株式会社としてkilk recordsを運営しているわけですよね。レーベルを始めたきっかけはなんだったのですか?

:日本には、自分の好きな音楽が根付く土壌がないと思ったんですよね。たとえばポストロックとかエレクトロニカと呼ばれる音楽の中でも、ごく一部は有名になったりしますけど、もうちょっと内向的で、精神的な音楽を作っている人たちがビッグヒットするような土壌はないと思うんです。

―森さんは、そういった状況を変えていきたいと思っているんですね。

:「自分の好きなものを、少人数にでも聴いてもらえればいい」みたいな考え方もいいと思いますが、僕はもっと大勢の人に広めていきたくて、大げさに言えば、日本の音楽史を変えたいぐらいの思いもあって。そのためには自分でやっちゃうしかない、そういう感じですね。

―kilk recordsはコンセプトとして「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」というのを掲げられてるじゃないですか? 森さんがそれほどの熱量を持って音楽に接しているのも、きっと人生を変えてしまうほどの音楽との出会いが実際にあったからなんじゃないかと思うんですけど、いかがですか?

:そうですね……僕はわりとロマンチックなところがあると思ってて (笑)、何かがあって悲しかったり、キュンとしたり、そういうときに音楽を聴くとホントにたまらないんですよね。何度も音楽に助けられてきたし、喜びを盛り上げてくれたこともあるし、単純にドライブを楽しく演出してくれたりもするし、軽いのから重いのまで色々あって……ホントにNO MUSIC,NO LIFEで(笑)。

―何かひとつとの出会いが大きかったというより、常に何かしら音楽が近くにあったと。

:中学のときは普通にみんなが聴いてるようなものを聴いてたし、音楽をやろうと思ったきっかけもBOØWYだったりしますからね。ただ、昔はインターネットとかなかったから、雑誌とかで情報を調べて、自分でどんどん開拓していくタイプではありました。誰かから聞いて知るっていうよりも、自分が教えてあげる側でしたね。

―自分で見つけてきて紹介するっていうのは、まさに今のレーベル業に通じる部分ですね。

:確かに、そうかもしれないですね。

わざわざ自分もそこでやるからには、自分が存在したことによって世の中の流れが変わったという痕跡を残したかったんですね。

―kilk recordsを始めるにあたって、こだわったのはどんな部分でしたか?

:世の中に色々なレーベルがある中で、わざわざ自分もそこでやるからには、自分が存在したことによって世の中の流れが変わったという痕跡を残したかったんですね。だからこだわりがあるとしたら、「意味のないことはやらない」ですかね。もう売れてるバンドとか、すでに1〜2枚リリースがあって、評価が上がってるバンドっていうのは僕が出す必要はないと考えました。さっきも言ったような土壌がないせいで「売れない」と判断されてしまう、そういうバンドをリリースすることを、自分のレーベルの使命にしたいと思ったんです。

―実際に、最初はどうやってアーティストを探したんですか?

:自分のバンド「Aureole」もいい音楽をやってるつもりだったのに、「売れなさそう」って言われたり、悔しい思いをしてて、対バンの中にも同じような思いのバンドがたくさんいたんです。なので、最初は対バンしたバンドでいいバンドを集めようと思って、sundelayとこれから出すGlaschelim、urbansoleっていう3バンドが決まってたんですね。ただ、みんなまだ無名だったし、素人レーベルに見られても仕方ないと思って、洋楽も出そうと思ったんです。

Aureole
Aureole

―ある種、箔をつけようとした部分もあったと。

:そうですね。ただ、洋楽でも輸入盤に帯をつけただけの日本盤とか、あってもなくてもいいようなのはやりたくなくて、自分が出すからには、うちだけのオリジナル盤とか日本では手に入らないものとか、そういうものじゃないと意味がないですし、それは今でも守ってるんです。最初に出したのは、CD化されてなかった作品で、SIX BY SEVENのクリス・オリーのソロだったんですけど。

―SIX BY SEVENってものすごく有名なわけではないですけど、同世代の音楽好きの中では記憶してる人も多いですよね。“European Me”とか名曲だし。

:ですよね、たまんないですよね。彼のソロはそのときダウンロード限定で公開されてて、3曲入りのCD-Rをクリス本人が自分のサイトで売ってるぐらいだったので、これをまとめてうちで出そうと。この場合、作品自体はすでに出来上がっているものがあったから、すぐにリリースできたんです。

―でも、レーベルを始めて何の実績もない頃に、リリースなんてさせてもらえたんですか?

: 怪しまれたとは思います(笑)。MySpaceで「うちから出しませんか?」って連絡してみたんですけど、クリスもめちゃめちゃクセがある人で、短い質問が5個ぐらい返ってきただけだったんですよ。「CDが売れないことをどう思う?」「日本で出すことの意味は?」とか、ハローも何もなく、不愛想に短い質問が書いてあるだけで。

―かなり不愛想ですね(笑)。でも、最終的にはOKしてくれたわけですよね?

:とにかくこちらの気持ちを伝えたかったから、その5行の質問に対して何千文字も書いて返信したんです。そうしたら、返ってきたのが「オッケー、やろうか」の一言だけ (笑)。でも、そのお陰で「SIX BY SEVEN出してるんですね」って反応してくれる人が出てきたりして、少しずつレーベルの認知が広がっていったんです。

Aureoleは、自分があまり通って来ていない文脈、『攻殻機動隊』『ファイナルファンタジー』なんかの要素を感じるって言われるんです。

―現在はレーベルの知名度もかなり上がって、アーティストの数も増えて、なおかつAureoleとしてのリリースもあって、単純にかなりお忙しいんじゃないですか?

:いやあ、毎日終電で帰って始発で出社するブラック企業みたいのに比べれば全然時間の余裕はあるんで、大丈夫ですよ(笑)。今は月に1枚くらいのペースでリリースしていて、「調子いいね」って言われたりするんですけど、それぐらいのペースで出さないとやっていけないっていう現実もあるんです。

―でも、CINRAでも以前取材をさせていただいた虚弱。が先日渋谷WWWでワンマンをやったりとか、手応えも感じられてるんじゃないですか?

:虚弱。はkilkとしてもひとつのきっかけにはなってるんですけど、まだ虚弱。で止まってる部分もあるので、もっとこっち側に引き寄せたいんですよね。

―最初からおっしゃられているように、違う土壌を作って、それを広めて行きたいと。

:そうですね。自分だって昔はBOØWYが好きだったし、みんなが喜ぶ既存の音楽を否定するつもりは全くないんです。自分が中高生のときにAureoleを聴いても、もしかしたら反応しなかったかもしれないですし。でも、今は間違いなくこういう音楽が好きになってる。

―リアルタイムではわからなかったけど、聴き返したらすごくよく感じることってありますよね。僕はMOGWAIがそうだったんですけど、逆にそういうものの方が後々残ったりもしますし。

:そういうのを「メディアの煽りに乗っただけ」って批判する人もいますけど、聴く人が聴いて感動したのなら、何も問題ないと思うんです。今Aureoleが気に入らなくても、1〜2年後に好きになってくれる人はたくさんいるはず。今はまだその種をまいている時期ですね。

―では、森さんが考える「音楽の土壌作り」のポイントを教えていただけますか?

:Twitterなんかで反響を見ていると、自分が意識してなかったことに気づかされることがよくあって、Aureoleは、自分があまり通って来ていない文脈、『スカイ・クロラ』『攻殻機動隊』『ファイナルファンタジー』『ICO』なんかの要素を感じるって言われるんです。例えばそういう風に、自分では気づかないところと接続できたりすると、土壌もより豊かになっていくのかなって思うんです。

―実は自分たちでは気づかない捉えられ方をしていたり、気づかないものと親和性が生まれていて、それを上手く土壌作りのキッカケにするっていうことですね。

:そうですね。海外のファンページみたいのを見て面白いと思ったのが、Kilk recordsとかVirgin Babylon Records (world’s end girlfriendが主宰するレーベル)の音楽をYouTubeでドンドン貼ってるページがあって驚いたんです。例えば僕らが「シカゴ音響派」とか、「ブリストル系」とか言って海外の音楽を分類しているように、日本のこういった音楽が、洋楽とも、これまでのJ-POPとも違う、「妄想音楽」として見られてるのかなって。

森大地

絵画は美術館が先にあるし、映画も映画館が先にある。音楽だけが逆だから、そういった音楽の「場」についても、考えてみたいと思っています。

―ビジネス的な面において、今後について考えてることはありますか?

:やりたいと思ってることは、演劇って、基本的に新規公演の1週間とかのためだけに、何か月も一生懸命練習するわけじゃないですか? 要はそのパターンで、ライブをある公演期間だけに決めてやるっていうのは考えますね。今度スティーヴ・ライヒが来ますけど、なかなか来ないからみんな行く、まあ海外アーティストはみんなそうですけど、そうやって限られてるからこその強みってあるじゃないですか?

―それは間違いなくありますね。でも演劇は逆に、話題になっても再演がないから広がらない、という部分で苦しんでいたりもします。

:それはおっしゃる通りだと思います。さっき言ったアイデアも、上手く言葉を持って伝えないと、単なる新曲をやるライブで終わってしまう。バンドだって普通に考えたら、「その日のライブ以外でやっちゃダメなの?」って思うでしょうし(笑)。ただ、僕のレーベルの音楽と、こういうやり方っていうのは、親和性が特に高いんじゃないかとは思ってるんですよね。

―確かにそうかもしれません。アートや映像との親和性も高いですしね。

:そうですよね。あと美術館って、そんなに絵に精通してなくても観に行きますよね。絵画なんてモノによっては音楽よりよほど難解なのに、それでも観に行く。それは美術館という「場」に行くっていう文化が根付いてるからですよね。絵画は美術館が先にあるし、映画も映画館が先にある。音楽だけが逆だから、そういった音楽の「場」についても、考えてみたいと思っています。

なるべくアーティスト脳でいようと思っています。ビジネス脳になると、僕が「こうはなりたくない」と思ってる老害レコード会社と同じなっちゃうかもしれないので(笑)。

―Aureoleの新作『Reincarnation』についても聞かせてください。本作のレコーディング後に岡崎(竜太 / Ba)さんがくも膜下出血で倒れてしまい(現在は無事回復)、そのことも「Reincarnation (再生、輪廻)」というテーマにつながっているそうですね。

:いつも歌詞を書くのは楽器のレコーディングが終わった後なので、ちょうどタイミング的に重なったんです。ただ、「これは岡崎のアルバムにしよう」って思っていたわけではなくて、アートワークにしても、デザイナーに病気のことは伝えてなかったのに、生命を感じるようなものになっていたり、いろんなことが自然とつながっていって。

―曲タイトルを見ても、1曲目が“Live Again”で、ラストが“Leave”っていうのは、かなりコンセプチュアルなのかなとも思ったのですが。

:デモのファイルを保存するときに仮タイトルを付けて保存するんですけど、8割ぐらいそのままのタイトルなんです。だから、コンセプトも途中からは意識したんですけど、“Live Again”ってタイトルとかはホント偶然にフィットしたもので、音楽に限らずですけど、できるべくしてできるものってあるんだなって思いましたね。

―途中で「妄想音楽」という言い方をされていらっしゃいましたが、まさにそれってAureoleの音楽を表す言葉としてぴったりだと思います。そういったことも含め、森さんがAureoleとして表現したいことっていうのを改めて話していただけますか?

:『Mr.Nobody』っていう映画があって、時系列もストーリーも現実世界ではありえない設定なのに、映画の中では全然おかしくないんです。それと同じように、音楽だからこそできる表現がしたくて、例えば「あなたのことを愛してます」って伝えるのは、言葉で直接伝えるのが一番いいと思うし、「渋谷の街を表現する」だったら、渋谷の街に行くのが一番いいと思う。そうじゃなくて、子供の頃に広場で友達と遊んで、暗くなって家に帰るまでの道の途中の、楽しかった記憶と、そこに差し込む美しい光と、たまたま通りかかった車と……そういう言葉ではすぐに表せない、微妙な思いを伝えるために音楽を用いるっていうのが、僕の好きな表現なんです。

―アーティストとしてそういった繊細な音楽を生み出していくことと、レーベルオーナーとしてビジネスを考えていくこと、両立させるのが大変そうですね(笑)。

:でも、僕はどっちをやるときでも、なるべくアーティスト脳でいようと思っています。ビジネス脳になると、僕が「こうはなりたくない」と思ってる老害レコード会社と同じなっちゃうかもしれないので(笑)。初心を忘れないためにも、バンドを成功させるためにレーベルをやるんだっていうのは、常に思ってる部分ではありますね。

イベント情報
viBirth × CINRA presents
『exPoP!!!!! volume66』

2012年9月27日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 O-nest
出演:
Aureole
and more
料金:無料(2ドリンク別)

リリース情報
Aureole
『Reincarnation』(CD)

2012年9月12日発売
価格:2,200円(税込)
KLK-2022

1. Live Again
2. Spirit Wander Field
3. Dark Adaptation
4. Pass The Past
5. Tales
6. Dell
7. Suicide
8. Destination
9. Scare
10. Leave

プロフィール
Aureole

2007年結成。森大地(Vo,Gt&Prog)、岡崎竜太(B)、中村敬治(G)、中澤卓巳(Dr)、saiko(Syn&Flute)、佐藤香(Vibs&Glocken)の6人組バンド。ポストロック、エレクトロ、クラシカル、ミニマル、プログレ、サイケ、民族音楽などを通過した奥深いサウンドと「歌モノ」としての側面、この二つの要素が矛盾することなく融合を果たしている。2009年にNature Blissよりデビューアルバム『Nostaldom』をリリース。青木裕(downy,unkie)をゲストに迎えたこの作品は、各方面から多くの支持を得た。2010年にはVoの森大地が主宰するレーベル、kilk recordsより2ndアルバム『Imaginary Truth』を発表。「今後の日本の音楽シーンのキーマン」と称され、一層の注目を集めた。尚、両作品とも全国のTSUTAYAでレンタルCDとしても取扱いを行っている。ライブ活動も精力的に行っており、kilk records主催のフェス「DEEP MOAT FESTIVAL」や「skim kilk sounds」ではNATSUMEN、LOSTAGE、unkie、no.9 orchestra、sgt.らと共演。



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