最小編成で完璧なフォーマット J.A.Mインタビュー

パソコンを開いて検索をすればあらゆる音楽が聴ける時代に、ジャンルで音楽を語ることはもはやナンセンスだろう。しかし、ジャズ畑出身のミュージシャンに取材をしたときに感じる独特の空気感、視点や切り口の面白さというのは、やはり特別なものがあるように思う。野外フェスの常連ジャズバンドSOIL& "PIMP" SESSIONSの丈青(Piano)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)によるピアノトリオJ.A.Mもまたしかりで、特にバンドの中心人物であり、菊地成孔のDCPRGにも参加する丈青は、いかにもジャズマンらしい、強い個性の持ち主だった。トランペットの巨匠・日野皓正をゲストに迎えた“HE KNOWS”を含み、ジャズに留まらない様々な音楽性が内包された3作目『Jazz Acoustic Machine』で、これまで以上に自らのコアを見せ始めた三人に、バンドの歴史と現在地について、じっくりと語ってもらった。

ピアノトリオは完璧なフォーマット

―J.A.Mのスタートはどのような経緯だったのですか?

丈青:これは自発的ではない形で始まっていてですね。Alfieという老舗のジャズクラブがあって、ソイルでそこに出演したときに、オーナーが「トリオでの演奏も聴いてみたい」という言葉をくれたのがきっかけです。それでやってみたら意外と面白かったということですね。そういうわけで、特に目的とか意図があったわけではないんです。

―ソイルとは異なる、トリオならではの面白味っていうのは、特にどういう部分で感じられていますか?

丈青:ピアノトリオっていうのは元々やりたいと思ってて、ただこの三人でやるっていうのは、オーナーの言葉によって決まったわけなんです。ピアノトリオという編成は、世間一般にはそんなにメジャーではないと思うんですけど、形としてはすごく完璧な形だと思うんですよね。あとはメンバーの組み合わせがマッチするかどうかっていうのが大事で、ソイルが上手く行ってるからJ.A.Mも上手く行くとは限らない。そこはあくまで三人のバランスなんです。

J.A.M

―三人のバランスが良かったから、ここまでやり続けてきているわけですね。では秋田さんは、トリオの魅力をどう感じていますか?

秋田:人数が少ないからより自由ですよね。それが楽しいし、醍醐味なんじゃないかと思います。ただ、それぞれの役割が増えるから、それはすごい大変でもあるんですけど。

―先日大橋トリオさんに取材をしたときも、やっぱり「小編成だと負担は増えるけど、演奏家としては楽しい」ということをおっしゃっていました。

丈青:メンバー以外のジャズマンの方と仕事をするときもありますけど、基本的にトリオ・フォーマットが好きな人は多いですね。

―「役割が増える分楽しい」っていうことなんですか?

丈青:そういう感じは正直ないですね。当然ピアノトリオの場合、ジャッジしたり進行する上でピアノの支配度が高いかもしれないですけど、実際のところたとえばリズムでは、ピアノとドラムがリズミカルに進んでて、ベースがその間にいたり、逆にベースとピアノがリズミカルで、ドラムがステイしたり、みんなで一緒にどっか行っちゃったり、みんなでステイブルにやったり、いろいろ組みやすいんですよね。

秋田:全員どっか行っちゃったときに、戻って来やすいとかもあるかもしれない。

丈青:まあ、ホントにどっか行っちゃうってことはないんだけどね(笑)。ただ、すごく離れたり、すごく近づいたりはあります。あとは2人になったり、1人になったり、とにかく自由度が高いのは確かで、その辺のことも含めて、フォーマットとしては完璧なフォーマットだと思います。

―みどりんさん、ドラマーからの視点ではいかがですか?

みどりん:聞かれると思ってさっきからずっと考えてました(笑)。ドラムって普通、ベースとかピアノみたいな音の伸びっていうか、曲をカラフルにするような音階まではなかなか作れないんです。ただ、ピアノトリオは「ここでこういう伸びをしたい」とか「いろんな音色をもっとやりたい」っていうドラマーの欲求に、すごく合ってるんじゃないかって思います。

丈青:彼の場合歌も歌えるし、絶対音感もあるので、特にメロディーが好きなんでしょうね。

みどりん:あとベース、ピアノ、ドラムっていうのは、室内楽にでもできるし、ロックバンドにもなるっていう、ダイナミクスがたくさん出せるところも魅力なんじゃないかって思います。

J.A.Mが自然体で生み出す、日本人らしいジャズとは?

―これまでの作品を振り返った上で、新作の話も聞かせていただければと思うのですが、まず1枚目の『Just A Maestro』は、今振り返るとどんな作品でしたか?

丈青:1枚目はホント等身大っていうか、一言で言うと、「みんなこっちにおいでよ」みたいな。初めて出すタイミングだったので、そういう趣のアルバムではあると思います。

―それはつまり、間口の広い作品ということでしょうか?

丈青:そうです。さっきも言ったように、ピアノトリオはあまりメジャーな編成ではないと思うので、「こういう形でもこれだけいろんなことができるよ」ということを伝えるための初作でした。そこから今回の3枚目のアルバムに向けて少しずつ、自分たちの中にあるコアな部分に近づけていってる感じかな。

―2枚目の『Just Another Mind』はその途中段階?

丈青:2枚目の時期は、今思うと三人の音楽性が少し偏ってたかなって思います。ジャズヒップホップ寄りだったというか。

―一般的なジャズだけではなくて、幅広い音楽性を取り入れていくというのは基本スタンスとしてあったわけですよね?

丈青:特にジャンルで音楽を捉えてはいないので、ジャズに他のジャンルを持ち込んでくる、という意識ではないんです。たとえば僕は子供の頃からStingが好きだったんですけど、そのバックですごくいいジャズミュージシャンが演奏しているなんて全く知らなかった。単純に、それがいい音楽なら何でも好きっていう感じなんです。ただ、今回のアルバムでジェームズ・ウィリアムズのカバーをしてて、その曲の入ったアルバムってアートとして完成された素晴らしいアルバムだと思うんですけど、廃盤になっちゃってるんですね。そういうものが廃れていっちゃう、誰も知らなくってしまうのはよくないという想いはあって、そういう意味ではもちろんジャズの魅力を伝えていきたいとは考えていますね。

J.A.M

―言うまでもなくジャズは好きだけど、基本的にジャンルで音楽は捉えていないと。

丈青:ハービー・ハンコックとミシェル・ンデゲオチェロ(黒人女性シンガーで、卓越したベーシストでもある)が一緒にやってる音源とかが好きで、それってジャンルで分ければ違う人がやってますけど、そういうことがやりたいってずっと思っているんです。すごく手練れのジャズマンと、違うジャンルの人がセンスのいいセッションをしてレコーディングされたものが、一番しっくり来たというか。センスがいいものの中にスキルがくるまれているような、そういうイメージが素敵だなって思いますね。

―その感覚は、秋田さんやみどりんさんも共有してる感覚ですか?

秋田:ジャズは好きですけど、ジャズって言っても年代によって全然違うし、いろんなものを混ぜてるとは特に思ってないんです。単に僕たちが自然にやったらそういうものになるのかもしれないですね。

みどりん:自分も便宜上ロックだとか細かいジャンルの名前を出したりはしますけど。やっぱり二人と一緒で、別に「それだから」聴いてるわけではないですね。

J.A.M

―今のこの時代に、この三人が作ったら、自然とこうなるっていうことなんですね。

丈青:そう、ジャズをやるにも僕らは黒人じゃないし、もちろんリスペクトはあるけど、黒人のプレイヤーと同じように自分達の先達をリスペクトしてるわけではないから。人種も違うし、差別のこともあるしね……。

―あくまで、日本人が作る音楽だと。

丈青:それはあると思います。整理をするのが得意とか、そういう日本人としての個性はあると思いますね。それって自分たちが俯瞰して見るのは難しいですけど、おそらく外から見ればすごい明確にあると思うんです。

秋田:日本人にどういう特徴があるかっていうと、例えば機械を作るにしても、いろんな国の技術を上手い具合に取り入れて、新しい、いいものを作ったりしますよね。それがJ.A.Mの作るジャズの音なのかなって。日本人だから日本人らしくやろうっていう意識はないですし、いい意味で考え過ぎず、自然に出てきた音だとは思うんですけどね。

人間がそこの場所に立って、どういう風に感じて、どんな音を出すか。決まり切っていない、有機的な音楽。

―途中までの話の流れで言うと、新作はこれまで以上に自分たちのコアに近づいた作品ということになりますよね。

丈青:これ(アー写)も少し顔が……今までよりちょっと見えてるっていう……これは説明しない方がいいのかも(笑)。

J.A.M

―これ以上触れないでおきます(笑)。

丈青:アートって、説明できないものだと思うんですよね。なんかいい、なんか見ちゃう、なんか聴いちゃう、そこに秘密みたいなエッセンスを残しておかないと、有機的にならないんですよ。「これを計画通りガッチリやろう」って作った曲でも、もちろんいいものはできますけど、「これをやっておけばいい」っていうプレイだと、たとえクオリティーは高くても、繰り返し聴きたい作品になるかっていうと、そうじゃないと思うので。

秋田:レコーディングの仕方の話ですけど、全員が「この曲がどうなるか」っていうのをわからないで録ってる曲もあるんです。ひとつのモチーフだけあって、そのモチーフから有機的にできた曲とか。

丈青:毎回そういう曲が1〜2曲まぎれてますね。

―ちなみに、今回だと……あ、それは秘密の方がいいですかね。

丈青:そうですね、僕が今ここで言わなければ、わからないと思うので……言わないです(笑)。

秋田:レコーディングのときに丈青が言っててすごく覚えてるのが、「今日はこの曲をやるっていう風に決めたくない」っていうことで、そういう意味でも、有機的に始めたいんだろうなって。

丈青:子供の頃から「あれをやりなさい」って言われたことが全くできなかったんです。今はもう大人になりましたけど(笑)。

秋田:でも、それはすごいいいことっていうか、例えばライブでも、ショーとして「これをやらなければ」っていうのも悪いとは言わないけど、そのとき人間がそこの場所に立って、どういう風に感じて、どんな音を出すか、嫌だったら帰るでもいいしっていう、そういう状態の音楽って、生き生きしてていいんじゃないかと思うんです。

丈青:帰るって、ステージから降りるってこと?(笑)

秋田:それは言い過ぎですけど(笑)、でもそれぐらいの気持ちでできるっていうのは、J.A.Mのいいところじゃないかなって。より人間的というか、動物的というか……今回のアルバムで言うと、日野さんは完全に動物的だったよね(笑)。

―(笑)。実際、日野さんとのレコーディングはいかがでした?

みどりん:むちゃくちゃ緊張しましたね。トランペットの音なんだけど、出してくる音に対してこっちの役割が明確に変わるっていうか、「これは何の音だろう?」っていうときもあれば、リードのメロディーを取ってるときもあるし、演奏がアブストラクトな方向に行くのも、日野さんの一発の音からだったりするんです。

―その凄さを肌で感じたわけですね。

みどりん:それで演奏が終わった後に「めっちゃ緊張しました」って話をしたら、「人間なんてそもそもダメなんだから、心はニュートラルにしておきなさい」って言われて。しかも、自分が音を出してるんじゃなくて、たとえば、ご先祖様とか、神様とかが、自分を通して音を出してるんだって。

丈青:すごい優しい言葉だよね。自分もそうだから、大丈夫だよってことだもんね。

みどりん:演奏が終わった後だったんだけどね(笑)。

秋田:そのニュートラルって話に通じると思うんですけど、僕は最近なるべくフラットな状態でステージに立つようにしてるんです。丈青がいつも同じように始めることって絶対にないんで、最初に決めてかかっちゃうと、その瞬間に崩れちゃうんですよ。だから、なるべくフラットにして、いつもと同じイントロでも、そうじゃなくても、丈青がどんなテンションでも(笑)、とにかくフラットにしておいて、その日一日が楽しく終われるようにって思ってるんです。

―音源にしろ、ライブにしろ、より密に、より有機的になってきているんですね。

丈青:より密にっていうのは、確かにそういう風に感じるかも。やっぱり、進化してないとね。

秋田:今はまだ進化の過程かもしれないし、またこれからどういう風に変わるかわからないけど、今自分たちができる最高の作品は作れたと思います。

―これからまた進化して、よりコアに近づいて、アー写の顔ももっと見えるようになるかもしれませんね。

秋田:また隠れていくかもしれないですけどね(笑)。

丈青:一人だけ見えなくなってたりね(笑)。

リリース情報
J.A.M
『Jazz Acoustic Machine』(CD)

2012年9月19日発売
価格:2,500円(税込)
VICL-63916

1. JAZZ ACOUSTIC MACHINE(Opening)
2. MINMIN
3. MINMIN(Reprise)
4. REAL
5. BLUE IN GREEN
6. QUIET WAVE
7. HE KNOWS feat. Terumasa Hino
8. GAD(Interlude)
9. ALIOSO
10. BACK FROM DARK SIDE
11. LIQUID STREET
12. BACKRUSH(Interlude)
13. JUSTICE

プロフィール
J.A.M

SOIL&"PIMP"SESSIONS(以下SOIL)のピアノの丈青、ベースの秋田ゴールドマン、ドラムのみどりんの3人によるピアノ・トリオ。都内のジャズ・クラブなどで神出鬼没的に出演、’07年&'08年とFUJI ROCK FESTIVALのField of Heavenに連続出演するなど、SOILと並行して活動中。ノン・ストップで繰り出されるビートの洪水の中を、鍵盤の旋律がめくるめく変化、フィジカルなパワーとトルクの上に、斬新な閃きの連続とダンス・ミュージックとしての高揚感が満ち溢れたパフォーマンスは、ジャズの捉え方に一石を投じる。'08年発売の1stアルバム『Just A Maestro』がロングセラーを記録。続く'10年には2ndアルバム『Just Another Mind』をリリースし、Billboard Japan Music Award 2010で"優秀ジャズアーティスト賞"を受賞。そして'12年3rdアルバムとなる『Jazz Acoustic Machine』を発表した。



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