摩訶不思議かつポップなバンド名、まつきょんこと松岡恭子のキュートなキャラクター、ダンサブルかつキャッチーな曲調など、関西出身の新星・ユナイテッドモンモンサンの活動から伝わってくるのは「とにかく面白いことをしよう」という姿勢だ。しかし、これは松岡がバンドのために腹を括ったことの裏返しでもあった。彼女は太宰治『人間失格』の主人公に自分を重ねるような、人間の影の部分に寄り添う感性の持ち主だが、そんな人間の孤独を前提とした上で、楽しむことを「選び取った」のが、今のユナイテッドモンモンサンなのだ。そして、そんな松岡の覚悟を支えているのが、2012年4月に現ラインナップに落ち着いたメンバーたち。演奏技術より、人柄より、もっと本質的な部分において、このバンドに必要なメンバーが揃ったからこそ、松岡は「やるからにはやれるところまでやりたい」と言い切れるのだろう。デビュー作『脱。』から1年と2か月、レーベルを移籍して発表する新作『フォスフォレッセンス』で、彼女たちは新たなスタートを切る。
「かっこいいと思ってたけど……これじゃないわ」って気づいたんです。
―ユナイテッドモンモンサン(以下、ユナモン)の前身はもともと大水(辰吾 / Vo,Gt)さんが中心のバンドで、松岡さんは後から加入されたそうですが、それまでは別のバンドをやられていたのですか?
松岡:そうです。前は歌ものじゃない、インストの曲もあるようなよくわからないバンドをしてて(笑)、そのときはギターとキーボードを弾いたりしてました。なんか、そういう音楽をやりたくなる年頃ってあるじゃないですか?
―難解なポストロックみたいな?
松岡:そうです、そうです。でも、やってるうちにどんどんつまらなくなってしまって(笑)。
―それは、音楽的につまらなくなったっていうことですか?
松岡:いや、音楽というよりバンド自体かな。バンドってメンバーがすごく大事だと思うんですけど、メンバーのことがあんまり好きじゃなくなってきちゃったんですよ。それで、大水さんのやってるバンドがなんか楽しそうだったから、「楽器は何でもいいから入れて」ってお願いして。
―好きじゃなくなったって、すごい正直な理由ですね(笑)。
松岡:前のバンドは自分でイニシアチブを取ってたわけでもないし、そこまでちゃんと考えてなくて……何も考えずに生きてきてた感があって(笑)。でも、音楽やるんだったらちゃんとお金も欲しいし、バイトとかしながら音楽をやり続けていくのは嫌じゃないですか(笑)。だから、ちゃんとやるかやらないか、二択しかないなって思って。
松岡恭子
―「バンドをやる」っていうことに対する意識が、そこで大きく変わったと。
松岡:20代前半くらいって、暗い時期があるじゃないですか? バンドが変わるまでは、そういう時期だったんですよね。15時ぐらいにライブハウスに出勤して、夜中の2時に帰るっていうのが、そのときはかっこいいと思ってやってたんですけど、だんだん「これじゃないぞ、かっこいいのは」って思うようになってきて。
―そういう世界に憧れる時期はあっても、実際にやってみると色んな現実も知っちゃいますしね。しかもバンドマンとしても前に進めてなくて、葛藤していた時期だった。
松岡:そうですね。その辺りで考え方が大きく変わってきて、音楽でメシ食うとか言うと、世の中的にも、ライブハウス界隈でも「何寝ぼけたこと言ってんの?」って感じじゃないですか? 以前は私もそう思ってたんですけど、「何言ってんの?」とか、もうええかなって。むしろ、いさぎよく「メシ食うために音楽やってる」って言い切る方がかっこいいんじゃないかと思って、それでライブハウスを辞めたんです。
―20代前半の悶々とした時期を抜けて、このバンドが始まったと。
松岡:なんかもう、死ぬしね(笑)。いつか死ぬし、どうせだったらやりたいことやった方がいいって、「今さらながら」みたいな感じで気づいたんですよね。やりたいことをやってるつもりだったけど、「ホントにやりたいことって何だ?」って考えたときに、「かっこいいと思ってたけど……これじゃないわ」って気づいたんです。
「辞めろ」とは言ってはないですけど、そういう空気を出してるときはあるんだろうなって。
―そうしてユナモンに加入した当初はベースを弾いていたそうですね。ボーカルになったのは途中から?
松岡:最初はホンマに何でも良かったんですけど、ベースってやっぱ難しいんですよ(笑)。それで「うーん」ってなってきて、「歌わせろ」と(笑)。
―本当は初めから歌いたかった?
松岡:前の前のバンドではギターボーカルをやってたんで、歌いたい子ではあったんです。幼稚園のときも「アイドルになるのが将来の夢です」って書いてましたから(笑)。でもライブハウスで働くようになって、インストみたいなこともやったりしましたけど、結局「歌いたいんやな」って思いました。それから、徐々にバンドのイニシアチブを私が取るようになっていって、そうなると「辞める」って人も出てきて、メンバーチェンジを繰り返してました。
―メンバーの入れ替わりが激しかったんですか?
松岡:はい、自分が辞めさせてるんだろうと思うんですけど。
―「辞めてくれ」って言ってるわけではなく?
松岡:「辞めろ」とは言ってはないですけど、そういう空気を出してるときはあるんだろうなって。でもバンドって、別に誰がいてもいいと思ってるんですよ。このバンドにいる必要がある人がいたらいいわけで、私も必要がなくなったらいなくなるもんだと思うんです。このバンドに必要な人だったらおらなあかんし、必要じゃなかったらおらんくなっていい、私の中でバンドってそういうもんなんです。
―演奏の技術があるとか、音楽の知識が豊富とかっていうことの前に、そのバンドにとって必要であるかどうかだと。
松岡:そうです。別に何もしてなくても、必要だと思ったら必要だし。例えば、会社のマスコットキャラクターとかね、なくてもいいじゃないですか?
―電気グルーヴのピエール瀧とかね(笑)。
松岡:でも、いないとダメじゃないですか? そういう感じで、存在意義があればいないといけないし、意義がなかったらいなくていい。ただそれだけっていう風にうちは捉えてます。
大水さんはAKB48でいう高橋みなみなんですよ。
―徐々に松岡さんがバンドのイニシアチブを取るようになっていったのは、自然な流れだったんですか?
松岡:私はもっとTHE BEATLESみたいに、メンバー全員が曲を作るぐらいの感じでやりたくて、もっとメンバーと音楽バトルしたいんですけど(笑)、それがなかなか難しくて。大水さんと喧嘩はよくするんですけどね。
―それはバンドの音楽性とか方向性のことでケンカするんですか?
松岡:方向性というか……人間的なことで(笑)。私の言い方がきついのもいけないんですけど、大水さんはプライドがすごく高いから、「そこ?」ってとこで怒りはるんですよ。まあ、昔に比べたら大人にならはったとは思うんですけど……。
―それでも一緒にずっとやってるのは、さっきの話の通り「必要性がある」ってことですよね?
松岡:それが不思議なんですよ。大水さんと一緒にやることで、むしろ進みにくくなってるんじゃないかとも思ってて(笑)。でも、これ最近よく言ってるんですけど、大水さんはAKB48でいう高橋みなみなんですよ。
―総監督だ(笑)。
松岡:そうです。秋元康が「AKB48は高橋みなみのためにある」って言ってるように、ユナイテッドモンモンサンは大水辰吾さんの将来のためにあるバンドだと思ってるんです。
―例えば、アレンジ面に関しては大水さんの貢献が大きかったりとか?
松岡:そうでもないですね(笑)。大水さんがこのアルバムに大きく貢献したのは、曲順です。
―総監督なだけあって、バンドを客観視する、バンドの中のプロデューサーみたいな?
松岡:いや、そういうわけでもなくて……。よく「松岡のバンド」みたいに見られがちなんですけど、そうじゃなくて、大水さんと喧嘩したりしながら作られているのが面白い。例えば演奏のクオリティーを上げたかったら、上手な人を入れればいいだけかもしれないけど、そうじゃなくて、このメンバーが集まって、一つの音楽ができましたっていう、きちゃない形をしてても、それが面白いと思うんですよね。だからもう、そこに大水さんがいてくれるだけでいいんです。
暗い話ばっかりしてる奴よりは、なんかわからかんけど楽しそうに話してる奴といる方が楽しいみたいな、そういう感じで音楽も捉えてますね。
―ここまで話を訊いてきて、ユナモンの音楽、特にメロディーがすごいキャッチーな理由がわかりました。
松岡:そもそも音楽性を最重要視するタイプのバンドとは違うというか、何か面白いことをやりたいし、面白いと思ってもらえることをやりたいので、「聴きやすい曲」っていうのが前提なんです。キャッチーなメロディーって、嫌いな曲であったとしてもすぐに覚えるじゃないですか?
―いつの間にか覚えていて、ついつい口ずさんじゃったりしますね。
松岡:そうそう、その図々しさがいいなって思うんです。売れてる音楽は嫌いだっていう人でも、何だかんだ言ってキャッチーなメロディーは好きだったりするし、『みんなのうた』とか小さい頃は見てたと思うんですよね。
―バンド名もそうだけど、モーモールルギャバンとか近い感じがします。変態的な要素も、プログレ的な要素もありつつ、でもメロディー自体は徹底的にキャッチーだっていう。
松岡:すごく好きですね。うちのメンバーって好きなバンドに統一感ないんですけど、モーモールルギャバンはみんな好きかもしれないです。ライブバンドで、エンターテイメントだし、もちろん曲もいいし、なんかすごい懐かしさがあるじゃないですか? 自分らが小学生のときとかに聴いてた音楽、90年代のJ-POPとかやっぱり好きなんで、そういうのは少なからず共通点としてあるのかもしれないですね。
―今って、そういう90年代的なポップさが許容されるようになってきた感じがありますよね。
松岡:暗い曲がまだまだ全然多いとは思うし、私も普段聴くのはそういう曲なんですけど、自分が暗い音楽をやってると嫌になってくるんです。疲れるじゃないですか? 元気なのも疲れるけど、暗いのは「免疫力下がってるな」みたいな感じの疲れ方(笑)。暗い話ばっかりしてる奴よりは、なんかわからかんけど楽しそうに話してる奴といる方が楽しいみたいな、そういう感じで音楽も捉えてますね。
夢見がち過ぎる人は捕まるでしょうし、現実的過ぎる人は死んでしまったりするかもしれんし、みんなその境目にいるのかなって。
―ただ、曲はすごくキャッチーなんですけど、歌詞はどの曲も暗いというか、ロンリーですよね(笑)。
松岡:そうですね、孤独ですからね。でも、「人間が孤独なのはわかってる……」とか今さら言うな! って思うんです。
―孤独を孤独に表現されても、そんなことはわかってるから、孤独を楽しく表現してる?
松岡:そうですね。メロディーは明るめのメロディーが多いし、その寒暖の差があるのが面白いかなって。暗いメロディーに暗い歌詞を乗せちゃうと……まあ、それはそれでいいんですけどね。そういうのも聴きますし。
―ちなみに『フォスフォレッセンス』っていうアルバムタイトルは太宰治の作品からの引用ですよね? 太宰に惹かれるのはどんな部分なのでしょう?
松岡:『人間失格』って作品があるじゃないですか? 人間は、あの主人公に自分を重ねる人と、まったく重ならない人の2種類らしくて、うちは重なるタイプなんですね。別に自殺を試みるとかじゃないですけど、道化の部分があるというか。暗い自分を晒さずに、面白おかしくするっていう、私もそっちだなって。
―だから歌詞はちょっと暗いけど、メロディーはキャッチーになると。
松岡:暗い部分に共感して、「自分だけが孤独じゃないんだ」って思うのもいいんですけど、私は「そんなん、もうええやん」ってなりたい。暗いの忘れて「エヘヘ」ってなってる方が面白いかなって。
―『フォスフォレッセンス』っていう言葉を選んだのはなぜですか?
松岡:この作品って、夢と現実は別ものですけど、夢の中で起こってることも、自分が体感してるようなものだから、夢と現実の違いなんてないようなものだっていう話なんですね。今回の曲の歌詞だと、“少女漫画シンドローム”とか“干物 woman no cry”とかがそうなんですけど、やっぱり女の人って夢見がちなんですよね。なんだかんだ言って、「少女漫画の押し倒される感が好き」みたいのあるじゃないですか(笑)。現実ではそうならないのもわかってるけど、でも求めてしまうがゆえに、恋愛ドラマばっかり見て、韓流に走ったり、ジャニーズを追っかけたりする。その気持ちと、『フォスフォレッセンス』の話と、リンクするものがあるかなって。
―松岡さん自身にも、夢見がちな部分があると思いますか?
松岡:やっぱり空想とか妄想って、考えてると楽しいじゃないですか?(笑) 「今月給料こんだけか」とか考えるより、「松潤が会いに来たら」とか考えるときの方が絶対楽しいから(笑)。現実が苦しいのはわかってると。だから、ダークサイドじゃなくて、ドリーミーサイドを見てもいいんじゃないかっていう。
―ただ能天気に夢見がちなわけじゃなくて、現実をわかった上で夢を見るってことですよね。
松岡:みんなそうやって生きてると思うんです。夢見がち過ぎる人は捕まるでしょうし、現実的過ぎる人は死んでしまったりするかもしれんし、みんなその境目にいるのかなって。やっぱり私は、リアルなもの、人間味があるものが好きなんです。悲しいだけも違うし、きれいなだけも違うし、どんなに可愛い顔しててもウンコするしっていう、そういうのが私は面白いと思うんですよね。
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私らはCDのままやるようなバンドじゃないし。
私らはCDのままやるようなバンドじゃないし。
―ちなみに、前作と今作でレーベルが変わってるじゃないですか? インディーズのバンドで、1枚だけリリースしてすぐにレーベルが変わるのってわりと珍しいと思うんですけど、何か理由があったんですか?
松岡:前のCDは、インディーズバンドなのにまるでメジャーのような作り方で作ったCDなんです。うちらは意外と柔軟な部分もあると思ってて、例えばレーベルからディレクションが入って「こうした方がいい」って言われたら、「それもいいね」って言えるし、前のはそういう流れで作った感があります。
―「まず、やってみた」みたいな意識が強かったと。
松岡:そうですね。今回はホンマに自分らがやりたいように、私の意志がかなり強いとは思うんですけど、そこが色濃く反映されてると思いますね。別に、誰かから怒られることはないですから。
―「ここを通りなさい」っていうレールがあったわけでもなく。
松岡:ないですね。だから、むしろ怒られたいぐらいの感じでやってた部分もあるんで(笑)。
―じゃあ、ただレーベルが変わったっていうだけじゃなくて、意識的な部分でも仕切り直しっていう感じが強いんですね。
松岡:1枚出しただけだと、「この路線で行ったから、これだけ売れた」のか、「この路線で行ったから、これだけしか売れなかった」のか、その違いが結局わからないですよね。そう考えたときに、前の路線じゃない、自分たちらしい路線でやりたいって思ったんです。あとは、前の担当の人と全然合わなかったんです。だんだん嫌いになっていって(笑)。
―前のバンドのときと似たような感じだ(笑)。
松岡:ディレクションが入って、プロデューサーの方と一緒にやったのはすごく勉強になったんですけど、その担当とやる必然性がなかったんですよね。ホント、バンドメンバーと一緒ですね。
―では最後に、2月28日に開催する無料イベント『exPoP!!!!!』にご出演していただくわけですが、お客さんにとって、自分たちがどういう存在でありたいと考えていますか?
松岡:やっぱり「面白いな」って思ってもらいたいですね。「いい曲やな」とも思ってもらいたいけど、耳で聴くのだけが音楽じゃないから、「ライブに行ってみたい」って思われるバンドでありたいんです。音を聴いて「こういう感じか」と思ってたのが、ライブ見て、「こういうバンドだったんだ!」って面白がられる。そういうのがいいですね。
―よくわかります。実際に見ないとわからないことってたくさんありますよね。
松岡:だから、CDだけで判断されるのは嫌なんですよね。「いや、でもCDだけで判断されるんだよ」とか言われることもありますけど、「何勝手に判断してんねん」って思うんで。私らはCDのままやるようなバンドじゃないし、そのちょっとずつ変わっていく感じを楽しんでもらえたらなって思いますね。
―となると、やっぱり『exPoP!!!!!』に来てもらわないとですね(笑)。
松岡:見に来てから判断してほしいですね。しかも、1回見ただけで判断せんでほしい。調子悪いかもしれんやん(笑)。一年通して見てほしいぐらいですね(笑)。
- リリース情報
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- ユナイテッドモンモンサン
『フォスフォレッセンス』(CD) -
2013年2月27日発売
価格:1,785円(税込)
HIP LAND MUSIC / RDCA-10271. ロンリーナイト HYPER
2. 少女漫画シンドローム
3. 恋のファンタジー
4. Zoo ZZZ Zoo
5. 星屑のパレード
6. 干物 woman no cry
7. KISS/KISS/KISS
- ユナイテッドモンモンサン
- イベント情報
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- CINRA presents
『exPoP!!!!! volume70』 -
2013年2月28日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 O-nest
出演:
うみのて
ユナイテッドモンモンサン
惑星アブノーマル
フクザワ×石井ナルト(Qomolangma Tomato)
料金:無料(2ドリンク別)■チケットのご予約は以下のページで承っています
※ご予約の無い方は入場できない場合があります。ご了承下さい。
- CINRA presents
- プロフィール
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- ユナイテッドモンモンサン
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ユナイテッドモンモンサン
浪速が生んだトキメキミーハーパンクバンド!一聴したPOP感とは裏腹の熱苦しく泥臭いあばずれでロックなライブパフォーマンスと真面目に不真面目なMCを引っさげケンカしたりしなかったりしながら関西を中心に素敵にRide on中!2012年リリース『脱』がロングセールスを続ける中、FM 802 MINAMI WHEELはFUNJ twiceを入場規制、11月の自主企画イベント(十三ファンダンゴ)もソールドアウトと破竹の勢い。2013年はいよいよ全国的に大爆発する予定に決定!!!
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