日本の音楽が、自由をくれた スコット&リバースインタビュー

最近目にする機会の増えた「洋楽不況」という言葉が事実であるなら、それは由々しき問題だ。なぜなら、「洋楽を聴く」という行為は、異文化を理解しようとする行為であり、それは結果的に自分自身を理解することにもつながる、とても大切な行為だからだ(少なくとも、僕自身にとってはそうだった)。自然災害や近隣諸国との軋轢によって、国内に目が向きがちな状況ではあるだろうが、そんなときだからこそ、外側に対する開かれた目線を決して忘れてはいけないと思う。

言わずと知れた世界的ロックバンド、WEEZERのフロントマンであるリバース・クオモと、ALLiSTERのフロントマンであり、J-POPをカバーした『GUILTY PLEASURES』シリーズでも知られるスコット・マーフィーがユニットを結成し、なんと全曲日本語のオリジナルアルバム『スコットとリバース』を完成させた。日本に対する深い愛情を持った二人は、声を大にして「邦楽になりたい」とさえ言っている。この日の取材では、流暢な日本語を話すスコットのみならず、リバースも片言の日本語を駆使して、通訳なしでの対応をしてくれた。ミュージシャンとして世界中を飛び回っている二人は、異文化を理解しようとすることの重要性を、身をもって体現してくれているのだ。

アメリカの音楽は、ちょっとつまらない。日本の音楽が、私に自由をくれます。(リバース)

―先日の渋谷タワーレコードでのインストアライブを見て、二人はすごくいいコンビなんだなって思いました。ただ日本が好きな二人のミュージシャンが一緒にやってるっていうだけではなくて、それぞれにキャラクターがあって、この二人であることにちゃんと意味があるんだなって。

リバース:ボケです。

スコット:漫才もできるよね(笑)。

―それ、すっごく見たいです(笑)。ステージでもスコットが言ってましたが、このプロジェクトは3年前ぐらいから始まっていたそうですね。

リバース:2006年に結婚した後で、たくさん日本の音楽を聴いていました(リバースの奥さんは日本人)。ちょっと羨ましかったです。日本の音楽を作りたかったです。でも、日本語と日本の音楽ビジネスは難しいから、(日本の音楽をやるために)いい先輩を探していました。それで、私の友達が、スコットのCDを私にくれました。たぶん、いいパートナーになると思いました。

スコット:それで二人で会ってみて、すごく気が合ったから、ユニットを組んだら面白いと思って。

左から:スコット・マーフィー、リバース・クオモ
左から:スコット・マーフィー、リバース・クオモ

―日本っていうキーワードはもちろん、WEEZERとALLiSTERは音楽的な共通点も多いですもんね。実際、二人で会ってどんな話をしたんですか?

スコット:二人とも日本語を勉強してるし、日本の話も、音楽の話もいっぱいしました。

リバース:What's 「実際」?

スコット:「実際」は……「Actuality」。

リバース:(メモをする)カンペです(笑)。

リバースのカンニングペーパー

―そうやっていつも勉強してるんですね(笑)。リバースはどういう部分で日本の音楽に惹かれたんですか?

リバース:日本の音楽はアメリカの音楽より、もっとすごくコンプレックス(複雑)です。インプレッシブ(印象的)なメロディーと、コードチェンジ、キーチェンジ、たくさんアイデアがある。アメリカの音楽は少しシンプル、繰り返す、ちょっとつまらない。日本の音楽が、私に自由をくれます。

―具体的にはどんな日本の音楽を聴いてるんですか?

リバース:最近は、マキシマム ザ ホルモン。

―確かに、すごくコンプレックスですね。

リバース:ヘビーギター、メロディーフックス、すごく面白い。アメリカで売りたいです。

スコット:アメリカでも結構受けると思う。面白いから、聴いたら受けるんじゃないかな。

リバース:YouTubeで、マキシマム ザ ホルモンのビデオ、たくさん英語のコメントがあります。「I love this!」「This is Awesome!」とか。

―Perfumeとか、中田ヤスタカ関連の曲もお好きなんですよね?

リバース:同じ理由。すごくコンプレックス、繰り返すだけじゃなくて、すごく面白い。

―スコットにとっては日本の音楽のどんな部分が魅力的ですか?

スコット:最初は日本語の響き。あとは沖縄の曲、“島唄”とか、喜納昌吉の“花”とかを聴いて、今まで聴いた音楽と全然違って、すごく面白くて、いっぱいCDを買って帰ったんです。歌詞だけじゃなくて、日本らしいメロディーがあるってことに気づいて、もっともっと面白くなりました。

左から:スコット・マーフィー、リバース・クオモ

―日本人の好きなメロディーって、やっぱり「泣きメロ」だと思うんですよね。ライブではWEEZERの“Say It Ain't So”もプレイしてましたけど、あの曲が日本ですごく人気があるのは、あのメロディーがすごく日本人にフィットするからだと思うんです。

スコット:(リバースに)「切ない」を説明しようとしたんだけど、英語では上手く説明できなくて。

リバース:EMO?

スコット:EMOの一種かもね(笑)。

―リバースも日本の「切ない」曲が好き?

リバース:大好きです。感動する。カラオケにいいです(笑)。

ライブでリバースを見てると、例えば、“HOMELY GIRL”の<君の笑顔は 太陽のようで>っていうところでお客さんの顔を指さしたりしてるから、ホントに理解して歌ってるんだなってわかりますね。(スコット)

―実際には、今回の曲はどのように作り始めたんですか?

リバース:はじめは、いろいろ日本の作曲者に連絡しました。一緒に音楽を作りました。すごくびっくりしました。はじめのセッションは、4コードだけ。繰り返すと思った。でも、すぐにキーが変わりました。もう一度キーチェンジ、キーチェンジ、すごくびっくりした。怖かったです。でも、BメロでWEEZERらしいコーラス、メロディー、全部つなげられました。“朝は近い”という曲です。すごく大好きです。このアルバムは、たくさん日本の影響入ってます。でも、歌詞はできなかった。だから、先輩を探して。

リバース・クオモ

―日本語に関しては、スコットは大先輩ですもんね。

スコット:リバースさんの英語の歌詞を見て、そこから想像して日本語の歌詞を書きました。

リバース:はじめは、ロスで私の日本語の先生に頼みました。でも、頭はちょっと違う、おじいちゃんな感じだから、WEEZERの世界がわかる人を探しました。スコットさんは架け橋です。

スコット:でも、日本語はまだ完璧じゃないから、伝えたいことをどうやって伝えたらいいのかは迷いました。今まではほとんどカバーだったから、オリジナルに自分の歌詞を乗せるのって迷いますね。

―変な言い方になっちゃいますけど、普通に聴けたんですよね。日本語で歌詞を書いて、歌って、それが普通に聴けちゃうって、実はすごいことだなって。

スコット:日本のバンドの歌詞に比べたら、シンプルでわかりやすいと思うけど、それはそれでいいんじゃないかなって。

リバース:シンプルに日本語を使ったら、西洋のファンも日本語習います。「カワイイ」とか、「ボク」「ワタシ」「ダイスキ」とか。

―リバースにとっては日本語で歌うこと自体難しかったんじゃないですか?

リバース:発音がちょっと難しい。速いセクション、“はじける”の1A、私は自然に言えません。だから、スコットにあげます。私は1Bのコーラスだけ。でも、もっと遅いメロディーは自然に歌います。あとは、ライブで歌詞を覚えるのがすごく難しい。たぶん、英語の歌詞より5倍難しい。練習しなければいけません。それに、インタビューももっと難しい(笑)。

―普段日本でWEEZERのインタビューを受けるときは、通訳の方がいるわけですよね?

リバース:はい。

―でも、今回は日本語のアルバムだし、頼りになる先輩もいるし(笑)、日本語で取材を受けていると。

リバース:楽しい。いいチャレンジ。

左から:スコット・マーフィー、リバース・クオモ

―でも、やっぱり日本語と英語って言葉の持つ響きやリズム自体が全然違うから、話すことはもちろん、歌うことってすごく難しいでしょうね。

スコット:リバースの英語の歌詞を見て、それを日本語にしようとすると、倍ぐらいの量になっちゃったりとか、日本語の音節をメロディーに入れるのが難しかったりはしたかな。

リバース:でも、本当は同じです。ライブで同じ感情が起きます。

スコット:ライブでリバースを見てると、例えば、“HOMELY GIRL”の<君の笑顔は 太陽のようで>っていうところでお客さんの顔を指さしたりしてるから、ホントに理解して歌ってるんだなってわかりますね。

リバース:アクセル鳴らしながら〜♪(アクセルを踏むマネ)


―“FREAKIN' LOVE MY LIFE”ですね(笑)。文字として日本語を歌うのと、意味を理解して歌うのは全然違いますよね。

スコット:タワーレコードでのライブで面白かったのが、“君と二人で”で<暗く閉ざされた>っていう歌詞が出てきたら、照明の人が場内を暗くしてくれて。(リバースに)気づいた?

リバース:気づかなかった。

スコット:年末にZepp DiverCityでやったときも、ユニコーンの“雪が降る町”をやり始めたら、上から雪が客席に降ってきて、全然知らなかったから、すごく感動しました。

このプロジェクトをいろんな人が聴いて、日本の音楽もいいかもしれないって思ってもらえるような発信ができればいいなって思いますね。(スコット)

―先日のライブで「洋楽と邦楽」っていう話をちょっとしてましたけど、アメリカにはそういう概念ってないわけですよね?

スコット:そうですね。このアルバムは全曲日本語で歌ってるけど、CDショップで予約するのは洋楽のフロアになってるから、それはちょっと「何でかな?」って二人とも思ってる。アメリカでそういう分け方は……とりあえず、アメリカではCDショップがあんまりない(笑)。

―ああ、それは日本も同じような状況になりつつあります。

スコット:でも、まだ日本は(CDが)売れてるんじゃないですかね。

―アメリカってそんなにCDショップがなくなってるんですか?

スコット:僕シカゴ出身なんですけど、タワーレコードとかバージンとか、全部なくなりました。

スコット・マーフィー

―CDを売ってるのは、ウォルマート(スーパーマーケット)とかそういうところが中心なんですよね?

リバース:ベストバイ(家電量販店)とか。

スコット:タワーレコードのライブ写真を僕のFacebookにアップしたら、アメリカ人のファンから「え! タワーレコードまだあるの!」ってコメントが来てました。

―そっかあ、そんな状況なんですね。日本でも、渋谷だとHMVがなくなりましたね。

スコット:でかいHMVあったよね。去年? 2年前?

―2010年かな。よくご存じで(笑)。やっぱりリバースも洋楽とか邦楽って分けることは不思議に感じますか?

リバース:あまりわかりません。BoAは邦楽、日本のバンドが英語で歌っても邦楽、ちょっとずるい。邦楽になりたいです。

スコット:頑張って日本語の歌詞を書いて、日本語で歌ってるから、それなのに洋楽のセクションで、ちょっとがっかりするよね。

―確かに、それはそうですね。でも、きっとわかってくれるところは邦楽のセクションに置いてくれると思いますよ。それこそ、アジカンの隣とかに。

リバース:5階は遠いですね。

スコット:結構登らないとだからね。

左から:スコット・マーフィー、リバース・クオモ

―前はもうちょっと近かったんですけどね(渋谷タワーレコードの洋楽売り場は、店舗のリニューアルによって3階から5階に移動)。でも、二人が日本の文化を理解して、日本語で歌ってくれることで、日本のリスナーが「邦楽も洋楽も関係ない、いいものはいいんだ」って思ってくれたら、それはとても素敵なことだと思います。

スコット:アメリカで流行ってる日本のミュージシャンはいないけど、日本にはいいミュージシャンがいっぱいいると思うんです。WEEZERやALLiSTERのファンはアメリカにもヨーロッパにもいるし、このプロジェクトをいろんな人が聴いて、日本語で歌ってるけど、メロディーがすごくいいから、日本の音楽もいいかもしれないって、そう思ってもらえるような発信ができればいいなって思いますね。

リリース情報
Scott & Rivers
『スコットとリバース』初回限定盤(CD+DVD)

2013年3月20日発売
価格:3,500円(税込)
UICV-9028

1. BREAK FREE
2. HOMELY GIRL
3. FREAKIN' LOVE MY LIFE
4. おかしいやつ
5. 朝は近い
6. 終わりのないこの詩
7. 遠く離れても
8. I NEED SOMEBODY
9. はじける
10. ほどけていたんだ
11. Butterfly
12. 君と二人で
[DVD収録内容]
・『Scott & Riversの ゆく年 くる年』
・“HOMELY GIRL”PV
・“HOMELY GIRL”リリックビデオ

Scott & Rivers
『スコットとリバース』通常盤(CD)

2013年3月20日発売
価格:2,500円(税込)
UICV-1026

1. BREAK FREE
2. HOMELY GIRL
3. FREAKIN' LOVE MY LIFE
4. おかしいやつ
5. 朝は近い
6. 終わりのないこの詩
7. 遠く離れても
8. I NEED SOMEBODY
9. はじける
10. ほどけていたんだ
11. Butterfly
12. 君と二人で

イベント情報
『スコットとリバースと仲間たち』

2013年4月4日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
出演:
Scott & Rivers
モーモールルギャバン

2013年4月5日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 心斎橋 Music Club JANUS
Scott & Rivers
つじあやの

料金:各公演 前売4,500円(ドリンク別)

プロフィール
Scott & Rivers

LAのオルタナティブ・ロックバンドweezerのG,Voのリバース・クオモとシカゴのポップなパンクバンドのB,Voのスコット・マーフィーが共通の友人であるエンジニアを介して意気投合! 大好きな日本でオリジナル日本語楽曲デビューを果たす。そして2012年末の大型ロックフェスで初お披露目だ。



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