Yun*chiの周りにクリエイターが集まる理由

ブロードバンドの普及以降、時代は「感性の時代」に突入している。ロックもアイドルもクラブミュージックもクラシックも「好きだから聴く」し、デザインも写真もイラストも文章書きも「興味があるからやってみる」のが当たり前。壁を作るなんていうのはナンセンスだし、だからこそダイナミックなうねりが生まれ、きゃりーぱみゅぱみゅのようなアイコンが誕生したりもするのだ。Yun*chiもまた、そんな「感性の時代」のアイコンである。

彼女の周りにはkz(livetune)、吉田ユニ、浜根玲奈といったジャンルを超えた気鋭のクリエイターが集結し、セカンドミニアルバム『Shake you*』でも、スタイリッシュでありながらも可愛らしい独自の世界観が形作られている。そんな中でYun*chiの明確な特徴として言えるのは、Yun*chiの人生の中心にはいつだって「歌」が存在していたということだ。自身の声にコンプレックスを抱えながらも、いろんな場所に出向き、いろんな人と出会い、それらをすべて「歌」に還元させてたどり着いたデビュー。そう、これがYun*chiの生きる道。

周りにたまたま年上の子が多くて、いろいろ教えてもらったりする機会が多かったんですね。今とまったく変わってないなって思うんですけど(笑)。

―Yun*chiさんは小さい頃から親の影響で音楽が好きだったそうですね。ただ、CharaとかNOKKOが好きなのはわかるんですけど、矢沢永吉とか尾崎豊っていう名前も挙がってたのにびっくりしました(笑)。

Yun*chi:土日とか家に父親がいる日は、F1を見るか、矢沢永吉さんのライブDVDを見るかって感じでしたね。ソファの上で永ちゃんごっこをするっていう(笑)。でも、家にあるCDは基本全部聴いてて、徳永英明さん、岡村靖幸さん、小室ファミリー、モーニング娘。さんとか、何でも好きでした。でも、一番最初に行ったコンサートは美川憲一さんだったりして。

Yun*chi
Yun*chi

―ホントにバラバラですね(笑)。Yun*chiさんって、kzさんをはじめとしたクリエイターの人に自分からコンタクトを取って曲を提供してもらってきたそうですが、やっぱり小さい頃から社交的で、友達がたくさんいるタイプだったんですか?

Yun*chi:私長女なんですけど、親の友達の子供とか、周りにたまたま年上の子が多くて、いろいろ教えてもらったりする機会が多かったんですね。今とまったく変わってないなって思うんですけど(笑)。

―今もいろんなクリエイターの人に教えてもらったり、一緒に作品を作ったりしてると。

Yun*chi:はい、昔から環境には恵まれてて、それはホントに感謝しなくちゃいけないなって思います。その分冒険だったり、チャレンジもいろいろできるので、そうやって頑張っていけたらいいと思いますね。

―でも、それは偶然だけじゃなくて、Yun*chiさん自身が引き寄せた部分もあるんじゃないかな?

Yun*chi:どうでしょう……そうだといいなって感じです(笑)。

高校を卒業するときは現実的に考えて、歌手になるっていう夢は1回あきらめたんです。

―Yun*chiさんといえばやっぱり声が特徴だと思うんですけど、自分の声を意識するようになったのは高校生のときだったそうですね。

Yun*chi:高校生から20歳にかけて、女の子って声が低くなるんですよね。そうやって大人の女性の声に変わっていくんだと思うんですけど、周りがそうやって変わっていく中で、自分の声が特徴的だということに気がついたんです。

―どんな出来事があったんですか?

Yun*chi:そもそも私は小さい頃からませていて、周りに比べて自分は大人だと思ってたんです。だから学校で演技の授業があったときも、女子大生の役を選んだんですけど、その演技を録画した見てたら、ピーヒャラピーヒャラした声でシュールな台詞を言ってる人がいて……。それが自分だったっていう(笑)。

―ちょっとショックですね(笑)。

Yun*chi:だから、その後はしゃべるときもできるだけ低くしゃべろうって心がけてました(笑)。声が高いとチンチクリン感が増すし、説得力に欠けるんですよ。真面目な話をしてるのに笑われることもあって、それが嫌だったんですよね。

―声がコンプレックスだったんですね。じゃあ、どうして歌いたいって思ったんですか?

Yun*chi:歌い始めるきっかけとしてありがちなんですけど、カラオケに行ってバラードを歌ったりすると、友達が泣いてくれたりして、私はやっぱり歌が好きなんだなって思ったんです。でも、高校を卒業するときは現実的に考えて、歌手になるっていう夢は1回あきらめたんですけど。

―その後は何をしていたんですか?

Yun*chi:よくファッションイベントに遊びに行ったりしていたんですけど、3人組のユニットをやってた友達に、「今度歌を録りたいから、どこどこに来てくれ」って声をかけられて。そうしたら、実はその人たちが某レコード会社の新人開発に関わってて、ちゃんとしたレコーディングスタジオのブースに入れられて歌うことになったんです。

―すごい運命ですね(笑)。

Yun*chi:めちゃめちゃ緊張したんですけど、初めて自分の声をヘッドフォンで聴いたときに、ちょっとした息づかいとか、力の入れ方次第で、みんなが感じ取ってくれる気持ちが変わるんだって気づいて。歌を歌うことって、今まで思ってたよりもっともっと奥深くて、私でも何か伝えることができるんじゃないかって、そのときに感じたんです。

―その経験によって、声に対するコンプレックスは消えた?

Yun*chi:いや、消えてはないですね。今も友達と話しながら街を歩いてると、おじさんとかに「え?」って振り返られたりして(笑)。でも、そういうことをずっとネガティブに考えててもしょうがないし、持って生まれたものだから、楽しまなくちゃって思ってます。最近いいなって思うのは、ファミレスとかガヤガヤしているところで注文するときに、声がすごく通るので、「便利!」って思いますね(笑)。

Yun*chi

お仕事で私を昔から見ててくれた人たちがよりつながっていくことが私の恩返しだと思っていて。

―活動の転機になったのは、やっぱりkzさんとの出会いですか?

Yun*chi:そうですね。友達のイベントで初めてライブをしたんですけど、そこにkzさんがいたんです。私もネットでkzさんの音楽は聴いてたんですけど、本人を見てもわからなくて、紹介していただいたときに、「知ってる!」と思って。その場では言わなかったんですけど(笑)。

―心の中で「再生回数多い人だ!」みたいな(笑)。

Yun*chi:初めてのライブで右も左もわからない中、kzさんが手伝ってくださって、ライブも見ていただいて。それでライブが終わった後に、持ち歩いてたデモをお渡しして、連絡先を交換したんです。

―事務所(ASOBISYSTEM)に入るのはそれより後ですよね?

Yun*chi:全然後ですね。まだ事務所には入って1年半ぐらいなんですけど、周りにずっといて、仲良くさせてもらってたのが今の事務所の社長だったりして、私がこれまでやってきた過程も見ててくださってたんですね。それで、「Yun*chiもCD出したり、モデルやったり、一人で頑張ってるみたいだから、何かお手伝いできれば」って言っていただいて。

―Yun*chiさんってホントにいろんな人とのつながりがあると思うんですけど、今の事務所周りの人とかクリエイターさんたちとつながるようになった最初のきっかけって何だったんですか?

Yun*chi:最初は『5iVESTAR』っていうASOBISYSTEMのイベントに遊びに行って、そこにcapsuleさんが出ていらっしゃって。それからcapsuleさんのイベントにも遊びに行って、そこで友達ができていく中で、最初に言った3人組の中の1人がいて、そこからどんどん繋がっていきましたね。

―じゃあ、最初はホントにたまたまで、そこから広がっていったんですね。

Yun*chi:そういうことが今までちょっとずつ散りばめられてきたというか。以前から仮歌を歌う仕事をさせてもらったりしてたんですけど、震災の影響でみんな仕事がお休みになったりしてたと思うんですね。でも、そういうときも私は仕事をもらえてたりして、「やっぱり歌を歌いなさいってことなのかな」とか、運命的なこともちょっと思ったり。音楽好きの親に育ててもらったのもそうだし、小さなことから大きなことまでいろいろあって、やっぱり歌を歌っていけたらいいなって思いながら生活してましたね。

―でも、やっぱりYun*chiさんが動いてたからこそ引き寄せたっていう部分もありますよね。ちゃんとデモを持っていて、しっかり渡したりとかもそうだし。

Yun*chi:CDもらっても、聴かずに捨てちゃう人とかもいると思うんですけど、たまたま周りにいい人がいっぱいいたのかもしれない(笑)。最初はライブハウスとかクラブとか「芸能界怖い」とか思ってたんですけど(笑)。

―じゃあ、今はステージが上がって、当然そういう人たちと仕事で関わることも増えたけど、今も友達というか、そういう感覚もあります?

Yun*chi:昔から私を見ててくれてる人たちは、親戚の子が頑張って練習して一等賞取ったみたいな、「あらYun*chiよかったねー」みたいな感じなんです(笑)。その分、お仕事でそういった人たちがよりつながっていくことが私の恩返しだと思っていて、その想いはすごく強くあるんですよね。

渋谷も下北も三宿もアキバもいろんなところに行くし、いろんなものでできてるので、「私はコラージュみたいな人です」って言ってるんです。

―kzさんを昔から知ってたっていう話がありましたが、ネットを使った活動とかもしてたんですか?

Yun*chi:ニコ動は初音ミクさんがブームになる前からよく見てたんですけど、音楽に関してはYouTubeで、ニコ動はただ面白い動画を見るサイトだと思ってました(笑)。自分の活動としては、MySpace、サンクラ(SoundCloud)、ブログもそうですし、自分なりに簡単なサイトを作ってみたり、できるだけ聴いてもらう機会、自分の容姿を見てもらう機会は多い方がいいのかなって思ってました。

―すごく大事な部分ですよね。

Yun*chi:まあ、ネットサーフィンがすごく好きだったんです(笑)。暇さえあれば……というか、その頃は暇しかなかったので(笑)。でも、そういうときになるべく何かしようと思って、歌詞を書いてみたり、行き詰まったらイラストを描いて、そうしたらまたイメージが湧いて歌詞を書けたりとか、そういうサイクルはありましたね。

―アウトプットを変えてみるって作業をしてたわけだ。

Yun*chi:あとはもっと単純に、美術館に行ってみたり、アキバをぶらぶらしたり、それこそニュースサイトを見て「これに行ってみよう」とかって思ったり。普段の生活というか、人間として生きることが全部音楽につながってるのかなってすごく思いますね。

―やっぱり、その好奇心旺盛さが今の人脈につながってる気がするなあ。

Yun*chi:でも、東京に出てきて、イベントでたまたま知り合った友達がアクセサリーデザイナーだったりとか、美大生だったりとか、クリエイティブな人がたまたま多くて。そういう友達と美術館に行ったり、展示会に行ったりしてどんどんいろんな人とつながれたので、周りの人にはホントに恵まれてると思います。

―じゃあ、そういういろいろなつながりがある中で、Yun*chiさんにとっての「ホーム」っていうのはあるんでしょうか? 例えば、きゃりーちゃんだったら「原宿」だったり「ファッション」だろうし、kzさんだったら「ネット」ですよね。中田ヤスタカさんだったら「クラブ」とか。どう思いますか?

Yun*chi:なんだろう……でも、結局音楽につながるように生きてきたんだなっていうのは最近すごく実感してて、音楽をやるため、聴いてもらうためっていうのはいつも考えてたかもしれません。よく「Yun*chiを表す街は?」とか聞かれるんですけど、渋谷も下北も三宿もアキバもいろんなところに行くし、いろんなものでできてるので、「私はコラージュみたいな人です」って言ってるんです。

Yun*chi

―なるほど。

Yun*chi:性格も結構両極端だし、高くてコロコロした声なんだけど、大人っぽくも感じるって言ってくれる人もいたり、普段は焼き鳥が好きでおじさんっぽいところもあったり(笑)、ホントにいろんなもの、いろんな人、いろんなジャンルで自分が構成されてると思うんです。だから小学校のとき1つのグループにいられなかったんだなって思うんですけど。

―あ、それ僕もちょっとわかるなあ。

Yun*chi:同人誌を書いてコミケに持って行くような子も友達だったし、ダンスが好きなギャルとも遊んでたし、めっちゃ頭のいい子に勉強教えてもらったりもして、そういう感じで今も生きてるんで、ホントそのまま大人になったなって思います(笑)。

―「コラージュ」っていうのはすごくよくわかります。今って「個」が大きなものを動かせる時代でもあるし、Yun*chiさんみたいなコラージュ的な「個」は、そういう人たちをつなげて、より大きな流れを作れるとも思うんですよね。

Yun*chi:写真を撮ってくれてるJulie(Watai)さんも私と似ていて、計画的ではなく、自然と遊びに行ったところとかで人と出会ってきたそうなんです。そういう人って、知り合った若い女の子とかも普通に紹介してくれるんですよ。もったいぶるというか、それが自分のマイナスになるって考えちゃう人もいると思うんですけど、それって全体で高まることを抑えちゃいますよね。だから、私ももっと多くの人に聴いてもらえるようになって、私も誰かの架け橋になれたらいいなって思います。

やっぱり私はシンガーだと思うんですけど、成長するためにはいろいろなものが必要なので、できることがあれば何でも挑戦してみたい。

―「コラージュ」っていう話は、CDにも通じるものがありそうですね。

Yun*chi:そうですね。前回も今回も「このジャンルだよね」って言い切れない5曲が入ってると思うので、それもコラージュだと思うし、私としては歌うことが楽しいのはもちろん、「こういう音楽かっこいいよね」ってCDを貸すみたいな感覚があるんです。例えば、歌もののオケに民族音楽が入ってたり、そういうところから段々広げていろいろ聴いてきたりもしたので、そういう発見ができる音楽を私も作れたらなって。

―自分のリスナーとしての経験を、今度はシンガーの側で提供したいと。確かに、今回の5曲も幅広いですよね。

Yun*chi:“dual*”とかすごく不規則なリズムのトラップミュージックだったりして、これを作ってくれたAvec Avecのことは去年知ったんですけど、大阪の方なので、東京のイベントに出たときに会いに行って、直接デモをお渡しして。

―ほら、やっぱりそういうところだと思うな、大事なのは(笑)。

Yun*chi:みんなでいいものを作って広めて行けたらいいなって思うんですよね。Yun*chiの一人勝ちとかは絶対嫌で、みんなで楽しいことをするっていうのがいいなって思ってます。みんな幸せになった方がいいから(笑)。

―バラードの“Shooting star*”は特に新鮮でした。

Yun*chi:“Shooting star*”は初めて昔からの知り合いじゃないHUMさんにお願いしたので、それはすごくチャレンジでしたね。

―ああ、今までは関係性を作ってからだったわけですもんね。

Yun*chi

Yun*chi:例えば、kzさんだったらプライベートの私のこともよく知ってるので、勝手に察知して作ってくれるんですけど(笑)、そういうのが一切ない段階からのスタートで、バラード自体挑戦だったし、歌詞を全部書いてもらうのも挑戦で。でも、できた曲を聴いてみたら、すごくYun*chiっぽいなって思ったし、自分の知らない部分を引き出してもらったので、これからもこういうことはやっていきたいですね。


―ジャケットデザインの吉田ユニさんとは以前からお知り合いだったんですか?

Yun*chi:前作のときに初めてお会いしました。今回は「声で彼の気持ちを揺り動かしたい」っていう気持ちを込めた“Shake you*”っていうタイトルなので、その「揺れる」っていうのを汲んでくださって、奇跡的なものを表現できたらなって。

―これCG合成じゃなくて、全部リアルに作られてるんですよね。

Yun*chi:そうなんです。あと私は最近青が好きで、そういうのも普通に話をしてる中からすくってくれて、すごくかわいくてよかったです。撮影に6時間かかったんですけど(笑)。

Yun*chi『Shake you*』ジャケット
Yun*chi『Shake you*』ジャケット

―じゃあ、最後にもうひとつだけ聞かせてもらうと、Yun*chiさんっていろんなものが組み合わさってる、まさに「コラージュ」でありつつ、でも「シンガー」っていう意識は当然すごく強いと思うんですね。今後の活動を考えたときに、自分はあくまでシンガーなのか、そこを基本としつつ、もっといろんなことをやっていきたいか、どちらのイメージが近いですか?

Yun*chi:やっぱり私はシンガーだと思うんですけど、成長するためにはいろいろなものが必要なので、できることがあれば何でも挑戦してみたいし、経験してみたいとも思ってます。つまり、歌が大好きだけど、他のことも大好きです(笑)。

―途中でも言ってたように、いろいろなことをやりながら、でも最終的には音楽につながるんですね。

Yun*chi:オシャレもイラストも好きだけど、そこまですごく詳しいわけでもないし、何がしたかったのかっていうと、歌を歌いたかったんだなっていうのが今一番わかってることなんです。「シンガー」と言えるかは正直まだわからない部分もありますけど、「歌を歌いたいっていう人なんだな」っていうのは、すごく思ってますね。

リリース情報
Yun*chi
『Shake you*』(CD)

2013年4月17日発売
価格:1,800円(税込)
CRCP-40338

1. Shake you*
2. dual*
3. Road*
4. VOYAGER*
5. Shooting star*

プロフィール
Yun*chi

デビュー前からlivetuneをはじめ様々なアーティストのコンピレーションアルバム等にボーカリストとして参加。アーティスト活動と同じくJulieWatai の作品集をはじめ様々な雑誌、ミュージックビデオ等のモデルを経験。2012年11月のメジャーデビュー発表時にYahoo!急上昇アクセスランキング2位(9/14)、ナタリーの2012年ニュース年間アクセスランキング3位になるなど注目を浴びる。唯一無二の存在感、天然の倍音を含む透き通った印象的な歌声を武器に、エレクトロニックなビートと淡い光彩を放つメロディで、この世界を染めていく!!!



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