古くはマイルス・デイヴィスやジョン・レノン、最近ではBeckやカール・ハイド、そして日本人ではCoccoなどなど。古今東西、ミュージシャンながら絵の表現にも卓越した才能を持つ人物は多い。天は二物を与えた的な運命論はさておき、表現のアウトプットが多元的な人の思考ってどうなっているのか、単純に興味があるところだ。
今回その1つのケースとして登場してくれたのは、バンド結成10周年を迎え、6月にニューアルバム『Reach to Mars』をリリースしたFoZZtoneのボーカル&ギターにして、全ての作詞と数多くの作曲を担当する渡會将士(わたらいまさし)。子どもの頃から本気で漫画家を目指していた渡會は、いつしか自身のバンドでメジャーデビューを果たし、音楽家として評価を集める存在になった。しかし成功を手にした後も渡會は絵を描き続け、今ではCDジャケットのアートワークを手がけるまでになっている。音楽だけでも、絵だけでも計りきれないこの特異な才能は、どのように育ってきたのだろう。最後のページには渡會画伯の絵も展示させてもらっているので、ぜひご覧いただきたい。
漫画って、個人でできる表現の中で一番ポップで、一番浸透性がある気がします。
―突然ですが、渡會さんのブログ、面白いですね。
渡會:ありがとうございます(笑)。
―ちょっとしたエッセイのような濃さで、しっかり書かれていますよね。絵も描けるし、本当に多才だなと思いました。
渡會:どうなんでしょうね。音楽にせよ絵にせよ文章にせよ、自分らしい表現方法が見つかっただけだと思うんですよね。
―音楽とそれ以外を分けているわけではないんでしょうか?
渡會:もともと中学生の頃は、曲を作ったり歌うことより、絵を描く方が得意だったんです。それが音楽でプロになってから逆転していったんですけど、表現としてそんなに分けてるつもりはないんです。だから、気軽に「なんかちょっと描いて下さい」って言われると凄いイヤですね。
―遊びで描いてるわけじゃない、と?
渡會:はい。その場でサッと描いたりできないし、似顔絵とかも全然描けないですし。あと、テーマを与えられて描くのも苦手です。テーマに合わせて器用に気分を変えたりできないので。
―今日は渡會さんの絵についてゆっくりお話を伺いたいのですが、最初はどんなものを描いていたんですか?
渡會:小学生の頃は漫画家になろうと思ってました。4コマ漫画みたいなものを描くのがクラスで流行ってて、授業中にカリカリ描いてたんですけど、みんなだんだん飽きていくんです。でも、僕だけ飽きずにずっと描き続けてて。
―それが高校生の頃までずっと続いて?
渡會:そうですね。投稿もしたくらい本気でした。
―でも、夢は叶わなかった?
渡會:そのときはいい結果にならなかったですけど、別にそれで諦めるつもりはなかったんですよ。ただ、その頃やってたバンドが楽しくて、そっちがどんどん忙しくなって、すっかり描かなくなっちゃったんです。でも、もしも長期休暇をもらえたら、漫画を描いて投稿したいって、今でも思いますよ。
―それくらい渡會さんを魅了した漫画の面白さって、どんなところにあるんでしょう。
渡會:たとえば漫画と映画を比べたときに、映画って作る上での制約が多いと思うんです。単純に映画は一人で作ることはできないし、撮影するためにはいろいろな準備が必要じゃないですか。そういうことも含めて、漫画の2Dの表現能力って、3Dの現実世界で実写撮影されるものよりも優秀だと思います。漫画を実写化したものって大体ダメじゃないですか?
―漫画には、絵の中だからこそ生まれ得る、現実とは全く違う世界観がありますね。
渡會:そう、普通に文化として凄いんだなぁって。自分で描くようになってから、コマ割りとか、ストーリーの展開のさせ方とかを作り手の目線で見るようにもなって、本当に漫画って面白いと思いました。一人で映画は作れないけど、一人で漫画は描ける。たぶん個人でできる表現の中で一番ポップで、一番浸透性がある気がします。だから、凄いと同時に、怖いものだなぁとも感じるんですよね。
―確かに、たとえば倫理的に実写では撮れないような画も、漫画だったら描けたりしますし。
渡會:だからある意味で日本人は、そういう倫理的な規制をうまくすり抜けて怖いものをいっぱい作ってきたと思うし、そういうところはどの国の人より抜け目ないなって。日本人は2次元の中で表現することに関して、圧倒的に能力が長けてるんじゃないかと思うんですよね。
ロマンチックであることは凄く大事だなって最近思うんですよ。
―渡會さんが絵を描くのは、実写では表現できないし、簡単に歌詞や言葉にもできないものを描いているといえるのでしょうか?
渡會:そうだと思います。たとえばこの渦巻の絵も、実写では100%不可能な絵だし、そういうものを表現するツールっていう感じですかね。だからなんか、実写的な全体図が頭にあって描いてるわけじゃなくて、描いているうちに渦巻っぽくなってきて、それをそのまま渦巻にしていった感じで、連想ゲームのように描きながら遊んでる感覚が強いですね。
―さきほど、人から与えられたテーマに合わせて描くのは嫌いという話がありましたが、ご自身でテーマを設定して描くことはあるんですか?
渡會:そんなに多くはないですけど、そういうときもありますね。たとえば『GO WAY GO WAY』のジャケットは、たまたま去年のバンドのスローガンが「YES」と「GO」だったっていうところからスタートしてます。世の中に原発反対っていう主張が溢れていると思うんですけど、大人が一生懸命「NO! NO!」って叫んでるのは、かっこ悪いと思って。
―それは原発肯定ということではなくて、単純に「反対!」という負の方向にエネルギーが向かうのはよくない、ということですか?
渡會:そうです。だからもっと、「新しいことを始めよう」っていうニュアンスにしていきたくて、そのときに描いた絵は、デモ行進をしてるんですけど、主張の内容が恐ろしく肯定的なものっていう。
―ユーモアもあって素敵ですね。渡會さんの絵は人物の描き方も上手だし、緻密だと思うんですけど、モチーフや構図はちょっとファンタジーな感じもありますね。
渡會:はい。
―「こうであったらいい」という希望とか、現実ではない空想を描くっていう意識はありますか?
渡會:現実をきれいに模写するんだったら写真でいいと思っちゃいますし、音楽もそうですけど、ロマンチックであることは凄く大事だなって最近思うんですよ。新しいアルバムも火星がテーマになってるんですけど、このところのロックンロールって、凄くテーマが消極的だったり、「あの子」のことしか歌ってないものが多いんですよね。
―もうちょっと夢を語る必要がある?
渡會:そう思うんですけど、夢を語るようなロックンロールが減ってるのは、そういうことを歌っても説得力がないからだと思うんですよ。だから今回、説得力のあるロマンチックなテーマを探していて、たまたま火星になったんですけど。
―火星に焦点をあてながらも、一つひとつファンタジーをロックンロールに乗せたアルバムになっていますよね。悲惨な現実よりも、フィクションが人を救うことってあると思いますし、ロマンって、そういうことなのかなって。
渡會:物語を作り上げること自体が、すでにロマンチックなのかなって気もしますしね。僕は、何かが出来上がるまでの過程を想像するのが好きで、そういう想像の中にもロマンって生まれてくるんですよね。だから僕のこの絵も「これ全部描いたのか〜。バッカじゃねぇの?」って思いながらでもいいから、隅々まで見て、その過程を想像してもらえたら嬉しいですね。それって楽しいことだと思うので。
どうでもいいことが沢山あるから人生は充実しているし、そこでみんなが共感できるっていうことが、凄く大事な気がするんです。
―渡會さんがここまで表現者として歩んできた中で、その「過程を楽しむ」という姿勢は、やはりとても重要なものだったのでしょうか?
渡會:僕は小説を読むのも好きなんですけど、小説って、始まりと終わりが凄く大事だと思うんです。でもその小説を一番面白くしてるのは、その間にある、どうでもいい過程な気がしてるんですよ。いかに寄り道するかとか、いかにどうでもいいことを書くかということが、作家さんの一番チャーミングなところかなと思うんで。
―なるほど。ハッピーエンドだとかバッドエンドだとか、そういう結論が大切なわけではない?
渡會:音楽でも小説でも、みんな一生懸命いろんなことを考えて、大きな話を表現したいと思うし、結論が大きくて、素晴らしくて、感動するものになるのはいいと思うんです。でも、「人間はいつかは死んでしまうから、今を大事に生きよう」みたいな考え方は凄く嫌いで、「死」を引き合いに出されたら誰も抗えない。「はい、感動してください」っていう、感動の押し売りだし、脅迫だなと思うんです。
―はい、わかります。
渡會:「死」という結論じゃなくて、そこまでの過程が凄く大事だと思うから、「いや、いつかは死んじゃうかも知れない。でも、僕は絶対、IPS細胞を研究して200歳ぐらいまでは生きるから大丈夫」とか、「君のために万能細胞を研究する、絶対二人で永遠に生きよう」って歌う方がいいと思うんですよね(笑)。
―そういう部分が、凄く渡會さんらしい表現ですね。
渡會:そうやっても僕は、その過程の中にある、どうでもいいことをなるべく表現に取り入れたいんです。カイワレとか、柔軟剤とかいう単語を歌詞に使ってるのもそういうことだし、絵にしても、なるべくテーマと関係ないものとか、場違いなものを入れていったりします。そういうどうでもいいことが沢山あるから人生は充実しているし、そこでみんなが共感できるっていうことが、凄く大事な気がするんです。
いくら僕が挿絵を描いたところで、結局は誰の印象も固定できないと思う。
―今回のアルバムのブックレットは、渡會さんが1曲ごとに挿絵を描いているじゃないですか。音楽を作ってるご本人による挿絵って、やはり表現として凄く強いですよね。
渡會:アルバムに自分の絵を入れることで、逆に音楽のイメージを限定してしまう危険性もあるから、昔は入れない方がいいのかなって思ってたんです。ただこのところ、音楽がどんどんデジタル化して、ものとして手に取れなくなってきているので、逆にCDっていう形で発売するものに関しては、パッケージとしてガツンとくるイメージが入っててもいいなって。わざわざブックレットまで見てくれる人に対して、「こんなイメージをしなさい」って強制的な感じで挿絵を見せるっていう。
―それをアーティスト本人が描いているわけですから、一般的なCDのブックレットに比べて、アートワークに特別な価値が出てきますね。
渡會:まあでも、いくら僕が挿絵を描いたところで、結局は誰の印象も固定できないと思うんですよね。シャッフルとかで聴いて、なんの映像もなしにこのアルバムの中の曲が出てきたら、印象はまた変わってきちゃうと思いますし。
明朝体が好きなんです。しょうもないことを明朝体で書くと、もの凄くシュールな雰囲気になったりして。
―歌詞カードのフォントは、渡會さんがTwitterのプロフィ―ルでも好きだと触れている明朝体ですね(笑)。
渡會:明朝、大好きなんです(笑)。
―何故なんですか(笑)。
渡會:自分で文章をパソコンに書き起こすときに、全部Illustratorでやってたんですけど、そのときにフォントを選んでて、「あ〜、教科書体だと、俺すげぇいいこと言ってるっぽい」みたいな。
―フォントによって、文章の見え方が変わりますよね(笑)。
渡會:明朝体は堅苦しい感じもあるんですけど、しょうもないことを明朝体で書くと、もの凄くシュールな雰囲気になったりして、いいなと思って。
―確かに。そういうシュールな雰囲気がお好きなんですか?
渡會:たとえば一昔前のキューピーマヨネーズのCMとか、不思議な空気感があるものは好きですね。別に明朝体が出てくるワケじゃないんですけど、ただキャベツだけをドーン! って映し続けるだけ、みたいなCMで(笑)。雰囲気的に笑わそうとしてるわけじゃないし、明確に「これはアートだ」って主張しているわけでもなく、ただシュールにしたいだけなんだろうなって。
―そういうシュールさや、ユーモアな部分って、もしかすると渡會さんの根幹を担っているのかもしれませんね。
渡會:分からないですけど、確かにシュールなものが好きだし、そのCMを企画した人が、どうやってシュールな企画にお金を出してもらったのか、凄く興味がありますね。だって、ずっとキャベツが映されて、ようやく最後にキューピーマヨネーズとマークが映るだけなんですよ?(笑) 確かに画期的なCMだけど……。
―それで本当にマヨネーズを買うか? って思いますよね(笑)。
渡會:でも、なんとかプレゼンを通したからCMになったわけですもんね。ただ「変わってるね」で終わらずに、それを価値として納得してもらうって、凄い。話が明朝体から大分飛躍しましたけど(笑)。
―ここまでお話を聞いてきて、音楽も絵も、表現スタイルこそ違えど、同じように渡會さんらしさがあるし、そこに渡會さんのイノセントなものを感じました。
渡會:今年で結成10周年を迎えて、幸いなことにこれだけやってても、大事なピュアな部分を失わずにやれてると思いますし、ようやくピュアなところを自分の中から引っ張り出してきて表現することもできるようになってきましたね。
―同一人物がやってることだから当然なんですけど、音楽も絵も渡會さんの表現は前向きな妄想と想像の産物なんだなって再認識しました。
渡會:なるべく前向きな妄想をしたいなぁと常々思ってますね。なんかそういうのって、自分を救うと思うので。
―曲を作って歌っているご本人がジャケットまで描くっていうのは珍しいと思いますが、これからその前向きな妄想を楽しみにしています(笑)。もちろん今後も、渡會さんの絵を使う予定ですよね?
渡會:ミュージシャン本人がジャケットを描いた方がパッケージとしても面白いと思うので、続けていけたらいいですね。一生懸命描いたけどダメだったなら、「じゃあ写真にしよう」でもいいと思うし。なので、今後も楽しみにしていてください。
- 次のページへ
渡會画伯の作品を一挙展示!
10th Annversaryのアートワーク(2013年)
渡會:以前リリースした『VERTIGO』というアルバムのジャケットが好評だったので、10周年だしあの渦の部分を描き直そうと思って、そこから派生していった感じですね。歌詞もそうなんですけど、感動する大きなことを歌うのはいいんですけど、それをいかに日常的なものに落としこんでみんなが共感できるかが大事だと思うんです。だからこの絵にも、僕の机の上にあるものとか、それに飽きるとテレビを見ながら人を沢山描いていったり、それも飽きると「やめた! 海にしよう」と思って描いたり、「点をいっぱい描きたいな」と思ったり。時間を空けながら描くことで、絵の中に日常のいろんな切り口が出てくるんです。今のところタイトルはないんですけど、つけるとしたら庶民的なキーワードになる気はしますね。
『平らな世界』(2007年)
地面の色が赤って、おしゃれでしょ?(笑) 実は僕、色を塗るのが凄く苦手なんですよ。たとえば顔を、とりあえず肌色で塗っておこうとか思いますけど、ファンデーションの色って、厳密には肌色じゃなかったりするじゃないですか。しかも光のあたり具合によっても、何に反射してるかによっても違うので、そのあたりが難しい。なので色の塗り方はもっと勉強したいですね。
『NEW WORLD』(2011年)
色を塗るのがイヤになって描いたのがこれですね。これは点画ですかね。鉛筆でなんとなくラインを下書きしたあと、点をガーっと打っていった。これもアルバムのための描き下ろしで、基本的にジャケットの絵は全部描き下ろしです。
『カントリークラブ』(2008年)
『黒点』(2007年)
『VERTIGO』(2006年)
- リリース情報
-
- FoZZtone
『Reach to Mars』(CD) -
2013年6月5日発売
価格:2,800円(税込)1. 世界の始まりに
2. 情熱は踵に咲く
3. Master of Tie Breaker
4. She said
5. Shangri-La
6. BABY CALL ME NOW
7. 1983
8. ニューオーリンズ殺人事件
9. 21st Century Rock'n'roll Star
10. Reach to Mars
- FoZZtone
- プロフィール
-
- FoZZtone (ふぉずとーん)
-
2001年に竹尾典明(Gt)と渡會将士(Vo&Gt)が出会い、2003年に菅野信昭(Ba)が加入しFoZZtoneを結成。2010年秋からはサポートドラマーの武並"J.J."俊明がライブ、レコーディングに参加している。同年、"購入者が選曲し曲順を選べる"という業界初の「オーダーメイド・アルバム企画」を実施し話題となる。2013年は結成10周年イヤーということで、様々な企画を計画・実行中。
- フィードバック 2
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-