まるで、男たちの取っ組み合いの現場に立ち会ってしまったかのようなcontact Gonzoのパフォーマンス。2006年に活動を開始し、ダンス / アートの境界を越境しながら日本を代表するパフォーマンスとして、現在では国内外で多数の公演が行われている。
彼らが8月、山口情報芸術センター[YCAM]の企画で行う作品が『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』という作品。通常の公演の形態とは異なり、観客が山の中に分け入り、斜面を滑り降りたり、かくれんぼやバーベキューパーティーを行うという参加型のツアーパフォーマンスだ。都市での殴り合いから森の中の暮らしへと進化(?)を遂げるcontact Gonzo。その視線の先には、いったい何が見えているのか? 山口で準備を行うメンバーの塚原悠也、松見拓也に話を聞いた。
違う街に行くことは、自分たちにとっても新鮮な体験です。そういった経験が、新しいアイデアのソースになっている部分もあります。(塚原)
―CINRA.NETの単独インタビューとしては3年ぶりになるのですが、この3年間の間にcontact Gonzoは、作品内容も活動範囲もさまざまな面で進化を遂げているように感じます。特に、近年は海外での公演をさらに活発に行なっていますね。この中で変化したことや、得られたものはありますか?
塚原:僕らのパフォーマンスの内容は、国内でも海外でもあまり変わりません。海外に持って行くと、文化的な背景や文脈が異なるので、それを乗り越える必要はあるのですが、基本的なことは一緒です。どちらかといえば、違う文化に触れ、地元の料理をいろいろ食べたり、各国のアーティストの作品を見たり、若いキュレーターの人と知り合いながら、世界中では今どんなことが進んでいるのか? ということをより早く知れる。そういった体験による経験値が、自分たちを広げてくれているのを実感しますね。
―公演そのものというよりも、その周辺から得られる経験値からの影響のほうが大きい。
塚原:そうですね。違う街に行くことは、自分たちにとっても新鮮な体験です。そういった経験が、新しいアイデアのソースになっている部分もあります。
―特に今年はニューヨーク近代美術館(MoMA)から招聘され、公演を行いましたよね。MoMAからは、どのような経緯で依頼があったのでしょうか?
塚原:初めは、森美術館『六本木クロッシング2010展』(2010年)での展示を、MoMAのキュレーターが見に来てくれていたんです。日本のコンテンポラリーアートをリサーチしていて、僕らをピックアップしてくれたんです。そのときは大阪の事務所まで来てくれて、いろいろと話しました。僕らの作品は、ニューヨークで発達した「ハプニング」と呼ばれる美術のムーブメントや、ポストモダンダンスといった文脈に影響を受けていて、コンタクト・インプロビゼーション(2人以上で動く即興パフォーマンス)という方法もニューヨークで始まったものなんです。そういった歴史があるので、ニューヨークで公演を行ったらどういう反応があるのか知りたいということと、その歴史に無理矢理自分たちを接続したらどう見えるのかを見てみたいと思い、いいスペースがないか尋ねてみたところ、「じゃあMoMAでやってみたら?」という流れになりました。
―YouTubeにアップされたMoMA公演の映像を見ると、かなりたくさんの人がじっと引き込まれるようにパフォーマンスを見ていましたね。
塚原:4回の公演で合計600人以上のお客さんに見てもらうことができました。イベントにもよりますが、日本で上演するよりもかなり人数的には多いです。場所もMoMAのエントランスだったので、座って熱心に見ている人から、たまたま目にして「なんだこれは!」と足を止める人などまちまちでしたね。
―海外で作品の受け入れられ方はいかがでしょうか? Gonzoのパフォーマンスは、殴る、取っ組み合いをするという、世界中の誰が見てもわかるような普遍的な動きですよね。
塚原:アジアやヨーロッパでは、日本とそこまでの違いを大きくは感じないですが、アメリカでは、初めて受け入れられ方の違いを一部のお客さんに感じました。暴力に対するアレルギーのようなものを感じたんです。昔アメリカに住んでいたことがあるんですが、おそらく宗教や教育上の理由から、人が人を殴るということに対する拒否感があるのでしょう。人間と動物をはっきりと分けて考えているというか。そういう人がMoMAまで芸術を鑑賞しに来たら、人がボコボコと殴り合っていた。悪い意味で非人間的なものを感じて、あまり「認めたくない」という気持ちになったのではないかと思います。まぁ、一部の方だけですが。
お客さんを巻き込むにはどうすればいいかを常に考えていました。理想的には100人の観客がいたら、100人で殴り合うとか(笑)。(塚原)
―海外での活躍とは別に、昨年神奈川芸術劇場(KAAT)や伊丹アイホールで上演した『Abstract Life《世界の仕組み/肉体の条件》』は、これまでのGonzoの作品の中でも新しい試みにチャレンジした特殊な作品でした。パフォーマーは舞台に現れず、観客は真っ暗闇のなか、呼吸音や肉体のぶつかる音などを聴くことで、舞台が立ち上がる実験的な作品です。
塚原:『Abstract Life』も、僕らはパフォーマンスの作品として考えています。以前、京都芸術センター『ステラーク×コンタクト・ゴンゾ−BODY OVERDRIVE−』(2010年)という企画展に参加したんですが、そのときに発表した8チャンネルの音響作品が基になっています。もともと僕らのパフォーマンスは、視覚だけではなく僕らが発する音も重要な役割を果たしています。人は目隠しをすると音に敏感になったり、暗闇のなかではより気配を感じ取ろうとします。そういった観客の感性のレベルを操作して、感触に関する身体的な経験を作品化したかったんです。
―これまでと全く異なる実験的なアプローチではなく、あくまでもこれまでの延長線上にある、と。
塚原:そうです。僕らのパフォーマンスは観客が参加をしている訳ではないので、ある意味「対岸のもの」として見る人が多いんです。「やっている人が一番楽しそうだよね」という意見もたまにあります。だから、お客さんを巻き込むにはどうすればいいかを常に考えていました。理想的には100人の観客がいたら、100人で殴り合うとか(笑)。あるいは観客を引きずり倒したり、背中に乗ったりということができればいいんですが、そのアイデアはまだこれから先にとっておきます。
―ある意味、究極の参加型パフォーマンスですね(笑)。
塚原:ただ、音だけであれば、僕らは客席の中に入っていける。お客さんの真横でドスドスと音を鳴らすことができるんです。その方法で感触を操作することによって、作品に巻き込んでいけるんじゃないかというコンセプトのもとに創作しました。
―身体の接触音や呼吸音などは、聴いている側にも「体験」として生々しく響いてきます。ただ、その音が「パフォーマンス」として成立するのはなぜでしょうか? あるいは、パフォーマンスが成立する条件とはどのようなものだとお考えでしょうか?
塚原:パフォーマンスにとって、人がいるかいないかというのはかなり大きな要素です。ダンサーが間近で動いて、汗をかいて、呼吸の音が聞こえる。そうすると「存在感」が伝わってきますよね。同様に、暗闇の中で位相を合わせた音がサブウーファーで「ドン!」と鳴って、観客が人がいると思い振り返る。その音の「存在感」を観客が感じられるなら、人がいなくてもパフォーマンスの条件を満たせるんじゃないかと思ったんです。パフォーマンスとは何かという「問いかけ」という意味も強い作品ですね。
contact Gonzo + YCAM "hey you, ask the animals. / studies on territories and movements." Teaser from YCAM on Vimeo.
―なるほど。確かにもの凄く生々しいリアルな感触がありました。人間は視覚を一切使わなくても、ここまでリアルに感じることができるんだ……という。
塚原:例えば、ロボット演劇はすでに上演されています。近い未来にはクローンだけで構成されたダンスカンパニーも生まれるかもしれない。ステラーク(アーティスト)や石黒さん(石黒浩 / 大阪大学教授、ロボット工学者)はもっとすごいことを考えているでしょうね。技術的特異点の話だけでなく、10年後、20年後のテクノロジーは、今の感覚ではパフォーマンスと呼べないものをパフォーマンスと呼んでいるはず。そう考えると、僕らのやっていることはまだまだ序の口ですが、未来のパフォーマンスに接続する準備にはなるのではないでしょうか。
勘がいいというのは、最強の知性だと思っています。そういった「勘=知性」も学問体系と同等に扱われていいのではないかと思うんです。(塚原)
―『アートと環境の未来・山口 10周年記念祭』で上演される新作『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』も、「山」をテーマに、通常の上演形式ではなく、ツアー参加型のパフォーマンスとなっていますね。これもGonzo流パフォーマンスの進化系の1つといえるのではないでしょうか?
塚原:YCAMのスタッフとの話し合いの中で、スタッフからの提案もありツアー参加型のパフォーマンスとなりました。僕らとしても「ホントにお客さん連れてっていいんですね!?」と、前のめりになりましたね(笑)。山をテーマとするとき、僕らが山に行って、その体験を翻訳して舞台作品を作るという方法もあったかもしれません。けれども、それだったらいっそのことお客さんが山に来たらいいんじゃないかと思ったんです。山に行けば、木の揺れる音や風の音を実際に聞くことができます。そのルートや場所を僕らが選んでいけば、その過程のすべてがパフォーマンスとしての体験になるんじゃないでしょうか。
『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』制作風景
―今回の作品では、参加者とともに5時間にわたって山に入り、「山サーフィン」から、本気のかくれんぼ(という名の気配を消す試み)、さらに最後はバーベキューパーティーまであるそうですね。ところで予告編映像に映っている山サーフィンは、素人が挑戦するには危険ではないでしょうか……?
塚原:映像に写っている杉の斜面は余裕ですよ。直線だし、下も土がふかふかなので、普通に滑るだけなら危なくはないです。ただ、滑っているうちに段々と「俺の滑り方を見とけよ!」という感じで、仲間内での勝負になってエスカレートしてくるんです(笑)。
―前作の『Abstract Life』もそうですが、Gonzoのメンバーは常に山に行っている、というイメージがありますよね。
塚原:そうですね(笑)。もともとGonzoでは普段から、みんなで日帰りや一泊程度で近場の山に行くことが多いんです。街の中にいると忘れがちな感覚があるので、リハーサルのつもりで山に行く。自分たちの感覚を街と山の間くらいに置いておきたいんですね。
『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』山中風景
―オフィシャルウェブサイトには「ゴンゾ流の知性の獲得」という言葉が使われていました。それは、塚原さんの言う「街で忘れがちな感覚」と同様のものを指しているのでしょうか?
塚原:はい。もっと端的にいうと「勘」です。僕は、勘がいいと言うのは、最強の知性だと思っています。動物も勘で動いている部分がありますよね。天気予報が、いろいろな状況をサンプリングして、その中から傾向を見つけて未来を予測するように、ある種の学問やテクノロジーは、体系的な知識を使って未来を予測します。ただ、そういった知識を抜きに「勘」を働かせることはできないかと考えたんです。もちろん、経験から来る判断もあると思いますが「これは食べれるかもしれない」「今日は楽しいかもしれない」「右か左か」、そういった「勘=知性」も学問体系と同等に扱われていいのではないかと思うんです。逆に言うとプログラムが経験を蓄積して予見する未来と、人間の勘の精密さの分かれ目はすぐそこにあるのではないでしょうか。もしくはプログラムが勘を獲得するときがくるのかもしれません。
『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』展示風景
―Gonzoのパフォーマンスも、明確な振り付けがあるわけではなく、メンバー全員がある種の勘を研ぎ澄ますことによって成立している部分がありますよね。
塚原:いいパフォーマーはみんな優れた勘を持っています。今動くべきか、今は待つべきか、そういった判断を舞台上で一瞬でやっています。さらに、それを何百人のお客さんと共有し、素晴らしいと感じられる結果になるというのは、高度な知的な行為だと思います。
―今回、YCAMで同時期に開催されている『国際グループ展 art and collective intelligence』でも、ツアーパフォーマンスと同名の展示が行われています。展示とツアーパフォーマンスはどのような関係になるのでしょうか?
塚原:両方とも、ツアーを行なう森での2週間の滞在から生まれた作品です。同じソースを用いて作られた、違うメディアの作品。展示バージョンとツアーパフォーマンスバージョン、2つで1つの作品という意味合いです。展示では僕らが山に篭った14日間の日記、メモ、ドローイングなどの生活の細部を記録したものや、山の中で撮影した動物の姿と、僕らが生活している様子をミックスした映像作品も展示されています。また、今回の映像作品では、YCAMのスタッフやプログラマーの神田君とコラボレーションさせていただき、映像をリアルタイムで解析しながら大きな矢印が画面内に表示されるようになっているんです。以前から、僕らのパフォーマンスの動きをベクトルの矢印で表せたら面白いと思っていて、相談したところ、僕らの考えがドンピシャでビジュアル化できるプログラムを組んでくれました。今回の展示作品は素材を加えながら常にリミックスを行っているので、ツアーとは全く違う体験を得られると思います。
『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』展示風景
―テクノロジーの部分でいえば、ツアーパフォーマンスでも装置が重要な役割を果たすようですね。
松見:「トレイルカム」という装置を使っていて、動物が通るとカメラが作動して動画をとることができます。また、Inafactくん(プログラマー / アーティスト)やyang02くん(TYMOTE)に協力してもらって、インスタントカメラバージョンやiPhoneアプリの「トレイルカム」も作っていて、例えばインスタントカメラを改造したものは、カメラの前を人が通ったらストロボ付きで反応して自動で巻き上げてくれるんです。
―観客にはこの作品を通じて、どういう体験をしてほしいと思いますか?
松見:普段山に入らない人でも、いざ足を踏み入れてしまうと、意外と大丈夫なんです。危なそうに見えても、気をつけていればちゃんと歩けます。このツアーでの経験を踏まえて、家に帰ってからも近場の山に行ってみたいと思ってくれればいいですね。
塚原:これ言うと怒られるかもしれないけど、あわよくば少しくらいの怪我をして帰ってほしい(笑)。怪我をすると、そのことを身体的経験として忘れないし、二度と同じ怪我をしないよう、その後すごく意識しますよね。だから、怪我という経験は知的なトリガーとして有効だと思います。
―今後も山をテーマにした作品制作は継続されるのでしょうか?
塚原:少なくとも、僕ら自身が山に行かなくなることはないので、いろいろとやってみたいと思います。今回の作品に関して言えば、根本的には誰でもできることです。だから、僕らがやらなくても、「自分でできるやん」と思う人はいるはず。2、3人で勝手に山に入って、こんなすごいことやったとか、YouTubeにアップしてほしいですね。そうすると、僕らも煽られるのでさらに進化するかもしれません(笑)。そういう勝負をしてみたいです。
- イベント情報
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- 『hey you, ask the animals. /テリトリー、気配、そして動作についての考察』
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2013年8月24日(土)〜8月26日(月)各日15:30〜
会場:山口県 山口情報芸術センター、元・山口県21世紀の森
※YCAM1階チケットインフォメーション前集合
出演:contact Gonzo
料金:3,000円(各回25名、要予約申込、先着順)
対象年齢:中学生以上
※15歳未満の方は保護者同伴でご参加ください
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- 『国際グループ展 art and collective intelligence』
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2013年7月6日(土)〜9月29日(日)
会場:山口県 山口情報芸術センター(YCAMスタジオB、YCAM2階ギャラリー)、道場門前大駐車場屋上特設スペース
時間:火曜除く10:00〜19:00
出展作家:
タレク・アトウィ
コンタクト・ゴンゾ
ハックデザイン+リサーチ
平川紀道
ダフィット・リンク
ムン・キョンウォン
料金:無料
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- 同時開催
『YCAM爆音上映会』 -
2013年8月23日(金)〜8月25日(日)
会場:山口県 山口情報芸術センター(YCAMスタジオA)
上映作品:
『ジャンゴ』
『ブンミおじさんの森』
『右側に気をつけろ』
『We Can't Go Home Again』
『ゾンビ』
『コンボイ』
『国道20号線』
『RAP IN TONDO 空族トークイベント』『牧野貴×ジム・オルークライブ上映』
2013年8月23日(金)19:30〜
『Hair Stylistics(中原昌也)無声映画ライブあり』
2013年8月24日(土)13:30〜料金:一般1,300円 any 会員・25歳以下・特別割引800円(全席自由)
※回数券3回分:一般3,000円 any 会員・25歳以下・特別割引2,100円
- 同時開催
- プロフィール
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- contact Gonzo(こんたくと ごんぞ)
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