お金は使えない。「出演者」が存在しない。参加する人全員が主人公となり、自由に表現やパフォーマンスを行う。食べ物をはじめ、生活に必要なものは全て持ち寄り、与え合う。そんな、常識破りの野外フェスティバル『BURNING JAPAN』が、9月21日から23日までの3日間、千葉・根本マリンキャンプ場で開催される。
アメリカ・ネバダ州の荒野で毎年8月末に行われ、何もない広大な砂漠に毎年5万人以上が集まる世界最大規模の野外イベント『Burning Man』公認の日本版イベントとして行われるこの『BURNING JAPAN』。「第0回」として試験的に行われた昨年に続き、今年は海岸沿いのキャンプ場を舞台に、独自のフリーダムな世界観を体現する3日間のフェスとして本格的にスタート。アートテーマを「Phoenix Switch」に設定し、最終日は不死鳥をモチーフにしたオブジェを燃やすプログラムも予定されている。
とは言うものの、そもそも金銭使用不可、出演者もいない野外イベントとはどういうものなのか? 何をしたらいいのか? そして、そこにはどんな文化が生まれるのか? 主催者の三人にインタビューを敢行し、イベントの主旨と目指すところを訊いた。
もしお金が存在しない社会があったら、あなたは何をしますか?(afromance)
―まずは知らない人も多いと思うので、そもそも『BURNING JAPAN』とは何なのか? というところから話を訊ければと思うんですけれども。
afromance:これが、一言で説明するのは非常に難しいんですよ(笑)。まずアメリカのネバダ州で行われている『Burning Man』公認の日本版という位置付けのイベントではあって。
―本家の『Burning Man』には行かれたんですか?
afromance:行きました。実際に行くと、いろんなことがわかるんです。『Burning Man』に対して、たとえばニュースサイトや現地の写真だけ見て、すごい格好の人たちがたくさんいて巨大なアートのオブジェがある「ぶっ飛んだ奇祭」みたいなイメージを持つ人もいるんですけれども、実は全然そんなことはなくて。写真から感じる雰囲気は表層的なものでしかないんです。
―実際の現場はどのような感じなのでしょう?
afromance:ハイテンションに騒いでるというよりも、独自の世界をピースフルに楽しんでいる感覚がある。なぜ何もないような砂漠に5万人以上が集まっているかというと、そこで独特のルールとシステムが上手く機能しているからなんですね。まず大きな特徴は、お金が使えないこと。そこで、ビールとか食料とか、みんなが持ち寄ったものを振る舞うんです。物々交換というより、ギフティングの感覚ですね。また「傍観者であるな」というルールもあって、そういう考え方のもとに全員が過ごしています。
―ルールやシステムが特徴的ですよね。
afromance:ルールと言っても、別にお金を使ったことで誰かに怒られるわけじゃないですけどね。椅子に座ってぼんやり何かを眺めていても咎められることもないですし。ただ、その方がクールだというガイドライン、心意気のようなものだけがあるというか。そういういくつかの仕組みがあることで、普段の生活とは違う行動が生まれるんですよね。普段は銀行に勤めているようなエリートサラリーマンが、一升瓶を持って踊り出したりする。本家の『Burning Man』は20数年続いているので、規模もすごいんです。ハリウッドの大道具の人が自費で巨大なオブジェを作っていたり、NIKEのデザイナーが車を作っていたりする(笑)。そういう風に参加者一人ひとりがやっていることがエンターテイメントになっていて、そこにすごくカオスなパワーがある。それがとにかくすごいと思いました。
―本家の『Burning Man』はそれが1週間続くわけですよね。
afromance:そう。だからイベントというより生活するのに近い感覚ですね。そこで誰かと一緒にご飯を食べたり、演奏したり、アートを作ったり、パフォーマンスをしたりする。喋りかけてイヤな顔をする人はいないし、オープンな空気がある。この取り組みは、「もしお金が存在しない社会があったら、あなたは何をしますか?」という問いかけでもあるんです。『Burning Man』はそういう風に自分を見つめ直す場所でもあって。違う世界がそこに作られていくような感覚なんです。
―『BURNING JAPAN』にもそのルールは共通している。
mine:そうですね。だから『BURNING JAPAN』も「架空の街を作ろう」というコンセプトを掲げていて。独自のルールの中で、3日間の理想郷を作り上げようという。
afromance:とは言っても、ホームページやこういうインタビューで考え方を聞いただけでは、このイベントの半分くらいしかわからないんです。実際に体験して初めてわかることがたくさんある。一度行くと「次は何をしようか?」と考えて、来年が楽しみになる。そういうイベントですね。
―体験して人生観が変わるようなことはありました?
mine:個人的には人生観が変わりましたね。『BURNING JAPAN』がやろうとしていることは、理想の場所作りなんです。善意で物事が動くし、それぞれがやりたいことに対して誰も否定しない。みんなで助け合う。それを実際にやってみたら、昨年山梨県・玉川キャンプ場で開いた「第0回目」もやっぱりすごく素敵な空間になりましたから。
いろんな人が交流して、自由に表現できる「場」が生まれたら成功。(mine)
―afromanceさんは、地中海のイビザ島の名物でもある、お客さんが泡まみれになるクラブイベント「泡パーティー」(=泡パ)を各地で開催しているオーガナイザーでもありますよね。そもそも、どういうところから『BURNING JAPAN』の試みは立ち上がったのでしょう?
Chako:そもそも僕と峯岸くんが高校からの友達で、クラブでDJをしていて。そこからafromanceと知り合って、面白い野外イベントをやろうと意気投合したのがきっかけです。最初は単純に何か野外イベントをやりたいね、という話から始まったんです。そこから、普通にやっても面白くないから、いろんな人を巻き込んで、非日常のイベントにしたいという話になって。そこで『Burning Man』というキーワードが出てきた。
―『BURNING JAPAN』が『Burning Man』公認のリージョナルイベントになったのは、どういう経緯だったんですか?
afromance:最初は「『Burning Man』みたいな非日常のイベントやりたいね」というアイデアだけの、ゼロからのスタートだったんです。でも、縁あって『Burning Man』の日本支部スタッフである「Japan Regional」のMakibeeさんという方と知り合うことができたんです。
―もともと日本支部があったんですか?
afromance:そうなんです。普段は日本から『Burning Man』に行く人の渡航の手伝いとか、逆に向こうのアーティストが日本に来るときの窓口をやっていて、そのMakibeeさんに本国とのやり取りをしていただいて、正式な手続きを踏んで「リージョナルイベント」として去年の山梨のイベントをやったんです。
―開催告知のニュースには大きな反響があったと思うんですが、『Burning Man』の日本版イベントが待たれていた感じはありました?
afromance:ありましたね。『Burning Man』にはコアなファンもいるんです。一生のうちに一度は行きたいという人も多い。でも、アメリカの砂漠に1週間も行くのは大変だし、なかなか参加するのは難しいんですよね。だから、名前は知ってるけど行ったことがないという人が多かったんだと思います。
mine:とは言っても、何人を動員したから成功、というタイプのイベントではないんですよね。非日常をキーワードにイベントを作ったので、そこでいろんな人が交流して、自由に表現できる「場」が生まれたら成功にしようと考えていました。
Chako:去年はたまたまキャンプ場に露天風呂があって、そこも借りきって無料で開放したりしたんです。それは好評でしたね。これは本家の『Burning Man』とは違う日本らしさだったかもしれない。
イベントの概念に世の中へのアンチテーゼはない。(Chako)
―通常の野外フェスティバルの常識とは全く異なるルールと価値観には、どのような想いがあるのでしょう?
『Burning Japan 2012』会場風景
Chako:まず大事なのは、イベントの概念に世の中へのアンチテーゼはない、ということなんです。僕らはこれを何かの対抗精神でやっているわけではない。「お金が使えない」というルールがあるからって、すなわちアンチ資本主義なわけでもないですし、他のフェスやイベントへのアンチでもない。僕ら自身、みんな社会人ですし、普通にお金を使ってフェスに遊びに行きますからね。それはそれで楽しいけれど、お金のやり取りがない空間、参加者自身が表現する空間を作ったら面白いんじゃないか? という発想からスタートしているんです。
afromance:ただ、音楽業界を見ていて気になることはありますね。いろんなフェスやイベントを見ても、結局ブッキングするアーティストのネームバリューが大事で、イベントの違いが見えにくかったりする。そういうものじゃない新しい体験の価値を作れないかということを考えていたことが、『BURNING JAPAN』の始まりとしては大きいです。
mine:『BURNING JAPAN』は、有名なアーティストを見に来る不特定多数のお客さんという構造ではないですからね。むしろ逆に、みんなが主役であり、道を歩いている全員がアーティスト。そうなると、別の楽しさが生まれるんじゃないかと思います。
―とはいえ、特に日本人はシャイなところもあるし、「傍観者になるな」とか「何でも表現していい」と言われても尻込みしそうな人も多いと思うんですが。
afromance:そうですね。でも、何をやったらいいかというガイドラインをこちらで作ろうとは思ってないんです。DJブースやスピーカーを持ち込む人もいるし、ファイヤーパフォーマンスをする人もいる。豚汁を振舞ったり、Wi-Fiスポットを作ったり、占いをしている人もいる。それを観て「こんな人もいるんだ」「自分も何かやってみようかな」と思ってほしいですね。
『Burning Japan 2012』会場風景
mine:「表現」というと、どうしても意味が重くなるし、ハードルが高くなっちゃう。「参加」でいいと思うんです。BBQをやってもいいし、とにかくみんなで素敵な空間を作り上げていく、という。
―ちなみに、去年は具体的にどういうパフォーマンスがありました?
afromance:スモークマシーンと白熱球で火のオブジェを作った人もいました。音楽のパフォーマンスは多かったですね。フードもあったし、変な格好をしている人もいた。身体中に電飾をつけて、夜になると光っている人がいるんですよ。それが夢の世界みたいで楽しかった。光るモノを身に着けていくのはオススメです(笑)。
『Burning Japan 2012』会場風景
Chako:まあ、どんなパフォーマンスができるかは、やっぱり、実際に来てもらうのが一番ですね。去年参加した人も「来てみたらようやくノリがわかった」って言ってましたから。
『Burning Japan 2012』会場風景
afromance:それで、全員「来年は自分も何かしよう」って考えるようになるんです。
Googleのホリデーロゴ(Doodle)の第1回目は、1998年の『Burning Man』だった。(afromance)
―去年の試験的な開催を経て、今年は場所も日数も拡大した第1回になるわけですけれども。他にも去年と変わった点はありますか?
『Burning Japan 2012』会場風景
Chako:本家の『Burning Man』は、イベントを構成する要素が非常に多いので、『BURNING JAPAN』にもそれを少しずつ取り入れようと思っています。その中で、今年はテーマキャンプを設けました。音やファイヤーパフォーマンスだけじゃなく、絵を描いたり、天体観測をしたり、一人ひとりの表現する人を後押しする体制は去年より進歩したと思います。
afromance:あとは砂地という環境面が大きいです。しかも車も乗り入れできて、やりたいことの幅が広がる。さらに言えば、あんまりインフラがない。電気から自分で用意しなければいけない。そういう環境になっていて、去年よりもさらに『Burning Man』に近いテイストになっていると思います。
mine:特に今回のロケーションはすごくいいところなんです。規模も、立地も、ベストな環境だと思います。
afromance:海岸と言うより広大な荒野が広がってる感じ。行ったときに「ここでやりたい!」って思いましたね。
―今年も巨大なオブジェは制作するんでしょうか。
afromance:そうですね。『Burning Man』は毎年アートテーマがあるんですけれど、今年の『BURNING JAPAN』ではフェニックスをテーマにしていて。1万円札の裏に不死鳥が描かれているから、それを燃やすという意味があったり、日本が不死鳥のように蘇ってほしいという想いもあったり、いろんな意味を込めていて。その象徴になるオブジェを作って、最後に燃やそうと思っています。
『Burning Japan 2012』会場風景
―『Burning Man』は1986年にサンフランシスコのベーカービーチで始まって、当初は数十人のイベントでしたよね。その後ネバダ州の砂漠に場所を移して、20年以上をかけて巨大なアートと自己表現の祭典へと拡大してきたという歴史がありますが、『BURNING JAPAN』はそこからどういう精神性を受け継いだのでしょう?
afromance:『Burning Man』の精神性については、先ほども話した「Japan Regional」のmakibeeさんから教えてもらったことが大きいですね。印象的だったのは、代表の人が「ヒッピーじゃない」ということを言っていたこと。お客さんとして参加している人は、普段はしっかりと社会にコミットしている人が多い。企業に属して経済を回している人、特にGoogleの上層部とか、シリコンバレーの人たちが来ていたりする。
―先ほども仰っていただいたように、『Burning Man』は既存の社会体制のアンチとか、お金が介在しない新しい社会を作り上げようとか、そういうことが目的にあるわけではない。
Chako:そうですね。独立国家を作るわけじゃないですから。
『Burning Japan 2012』会場風景
afromance:今の世の中に不満があるというよりも、1つのライフスタイルの提案なんです。反骨精神というよりも、そこに来れば普段の生活では出せない自分を出せる世界を作ろうという。そういう意味ではネット掲示板がかつて持っていた雰囲気に近いのかもしれないですね。ちなみに、Googleのホリデーロゴ(Doodle)の第1回目って、1998年の『Burning Man』だったらしいんです。つまり、『Burning Man』の期間はGoogle社員が砂漠に行っちゃうから連絡がとれない。そういう夏期休業のお休みマークとして『Burning Man』仕様になったのがきっかけだったらしい。
―最近僕は1960年代の研究をしてるんですけど、ヒッピーカルチャーって、実はいろんなものに影響を与えていると思うんです。当時のヒッピーカルチャーが盛り上がっていたサンフランシスコのヘイト・アシュベリーとシリコンバレーって、すごく近くて。Googleのエリック・シュミットとか、アップルのスティーブ・ジョブスとか、今のネット社会を作り上げた人って、かなりの数がヒッピーに憧れて育っているんですよね。
afromance:なるほど。
―野外ロックフェスの発祥も67年にサンフランシスコ近郊で行われた『モンタレー・ポップ・フェスティバル』で、そう考えると、60年代のヒッピーカルチャーって、いろんなものの先駆けになっている。ふらふらして仕事してなさそうとか、小汚さそうとか、日本でネガティブなイメージがつきまとうのは、あくまで「ヒッピーの残党」で。実は60年代のオリジナルなヒッピーカルチャーって、すごい影響力があったんだと思うんです。
afromance:そうなんですよね。それで言うと『Burning Man』は源流のところに近いのかもしれないですね。
―とはいえ、『Burning Man』はヒッピーじゃない、っていう意味もわかります。カウンターカルチャーとかコミューンとか、そういうところにありがちな選民意識があるわけじゃない。アンチとか逃避主義じゃなくて、「こういうことをやったら面白いんじゃない?」というアイデアが膨らんで、それが巨大化したらああいう世界が生まれたという。
afromance:そうですね。日本でもそうなったら面白いと思います。
―第1回だけで終わらず、今後も『BURNING JAPAN』は非日常を体感できるイベントとして続けていく予定なんですよね。どういうところを目指していくんでしょうか。
mine:やっぱり、規模や見た目よりも、内面的な交流とか、ピースフルな空気感を作り上げることができたらいいなと思っていますね。
afromance:去年すごく印象的だったのが、参加した人が、僕らの予想より楽しんでくれたし、感動してくれたことだったんです。帰り際にたくさんの人が「すごく楽しかった、来年も絶対来る」と言ってくれた。そういうお客さんの声を聞いて、自分たちがやりたかったことが少しでも形になって、他にはない一夜ができたという実感が生まれた。今年も規模を拡大しつつ、そういう体験を来年につなげていくようになればいいなと思っています。
- イベント情報
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- 『BURNING JAPAN』
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2013年9月21日(土)〜9月23日(月・祝)
会場:千葉県 南房総 根本マリンキャンプ場
料金:前売8,000円 当日10,000円 駐車券2,000円テーマキャンプも募集中。詳細はオフィシャルサイトから。
Burning Japan | バーニングジャパン
- プロフィール
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- Chako(ちゃこ)
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{インテリア業界で働きながら、業界一の音楽好きとしてDJやイベントオーガナイザーとして活動。『Burning Man』のJapan RegionalイベントBurningJapanの運営、代官山Airで開催されているJAZZTRONIK presents LOVE TRIBEのラウンジフロアのオーガナイズ、IRMA Recordsと音楽付きポストカードを共同開発するなど、日々、優秀な友人・知人を巻き込んで多岐に渡って活動中。
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- afromance(あふろまんす)
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アイディアで新しい体験を創りだす、パーティーオーガナイザー。都内初の"原宿 泡パーティー"を主催。250人キャパに対し、3,000名以上の応募を集め話題になる。さらに、逗子のクラブ仕様の海の家「BEACH SAIKO!!」のプロデュースや、国内初の「HOOTERS」とのビーチコラボイベント、都心型キャンプ場 豊洲WILDMAGICでの『泡フェス』の開催、DJイベントの世界記録に挑む『BIGJOINT TOKYO』の主催など、活動は多岐に渡る。今後も「今」もっとも求められているコンテンツを創りだすべく、日々精進中。
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- mine(みね)
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プロジェクトクリエイター。自身の会社を経営しながら数多くの新規事業プロジェクトの経営に参画。ウェブサービスをはじめ、地域活性化プロジェクトからファッション、音楽、インテリア領域のプロジェクトまでその活動は多岐にわたる。コンセプト至上主義のもと継続かつ発展可能なスキームを量産したいと願うぽっちゃり系男子。
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