ミニアルバム『Synesthesia』を発表したばかりのIVORY7 CHORDのこれまでの歩みは、決して順風満帆だったわけではない。2009年、インディーズシーンで人気を誇っていたWRONG SCALEが10年にわたる活動に終止符を打ち、そのメンバーだった野田剛史と大西俊也を中心にスタートしたIVORY7 CHORD(当時はivory7 chord)。自主レーベルでの活動を選択し、2010年には早くも最初のアルバム『leaves』を発表するも、その後に野田が脱退を表明。代わりに入ったメンバーも翌年には脱退するなど、なかなかラインナップが定着しない時期が続いたが、それでもバンドは歩みを止めず、2012年には現所属レーベルであるmagnifiqueから、2枚目のアルバム『Pentagram』を発表した。バンド名を大文字表記に変更し、新たなスタートを切ったものの、自主で培ってきた自らの方法論と、会社の方法論をすり合わせ、最善のやり方を見つけるまでには、やはり苦労も多かったようだ。
それから1年と4か月、IVORY7 CHORDとしては最長のブランクを経て、『Synesthesia』は完成した。今回の制作でも、ギターの三谷和弘が活動を休止するなど、またしてもバンドにはアクシデントが降りかかってきてはいた。しかし、バンドを動かし続けることで数々の困難を乗り切ってきた現メンバーの大西と吉田昇吾は、そのアクシデントにも動じない、強い精神力を身につけていた。大西にとっては、近年映画主題歌やCM曲を手掛けるなど、作家としての活動が増えてきたことも、バンドに対するより開かれた視点を獲得することにつながったようだ。本当の意味でのスタートを遂に切ることができたバンドの現在地について、大西に訊いた。
メンバーが抜ける度に大変な思いはしたんですけど、それが苦ではなかったというか。
―WRONG SCALEの解散後、IVORY7 CHORDは自主レーベルを立ち上げてのスタートでしたよね。意識的に自主を選んだのだと思うのですが、どういった意図があったのでしょうか?
大西:当時は、どこかに所属するか自主でやるかということに対して、何か強い想いがあったというわけではないんです。ただ、それまでWRONG SCALEをただがむしゃらにやってきた中で、わりと流れに任せる部分もあって。それが一区切りついたときに、自分たちだけで何ができるかを追求したいと思って、自主でやり始めました。
―ただ、なかなかメンバーが定着しない期間が続きましたよね。特に野田さんが脱退されたときっていうのは、考えることも多かったかと思います。
大西:もちろん、メンバーが抜ける度に大変な思いはしたんですけど、それが苦ではなかったというか。「じゃあ、新しいことを考えよう」って思えたんですよね。ただ順調に進んだ場合よりも、得るものが多かったなって、今は思ってます。
―自主でやってたときは、大西さんか野田さんか、どちらかがイニシアチブを取っていたのですか?
大西:そもそも「二人でやる」っていう感覚で始めてたんで、二人で分担してましたね。内部的なことは自分がやって、外の動きは野田がやってっていうのが最初は多かったです。
―でも、野田さんの脱退によって、外の動きも大西さんが担うことになるわけですよね。
大西:そうですね。今までやってこなかったことをやるっていうのが単純に一番大変だったんですけど……。正直、その辺りのことってあんまり覚えてないんですよ。結構バーッてやってきちゃった部分があって……。
―「とにかく進まなきゃ」っていう心境だった?
大西:やっぱり脱退っていうのは外見的にはアクシデントだったというか、マイナスに見えていたと思うので、それを上手くプラスに持って行くっていうことにパワーを使っていた部分はありましたね。
―昨年発表の前作『Pentagram』から今のレーベルに所属して、バンド名も大文字表記となり、新たなスタートを切ったわけですが、そのときの心境というのは?
大西:それまで自主でやってた分、最初はレーベルのやり方とうまくかみ合わない部分もありました。新人バンドだったら流れに任せてたと思うんですけど、もうそうではないので、意見をぶつけ合いながら制作を進めて、お互いに歩み寄ったというか、結果的にはいい方向に行けたと思います。
―よく言われるように、今はやり方次第では自主でも十分活動ができる時代で、実際大西さんも自主で活動してみてその手応えもあったかと思います。それでも、改めてレーベルに所属するという選択肢を選んだのは、何が一番の理由でしたか?
大西:それはやっぱり、曲を作ってる最中は違うことを考えられない部分があるので、曲のことだけを100%考えたいなっていうのが一番ですかね。それってバンドをやり始めたときの感覚だと思うんです。ただ「いい曲を作る」ってところに戻りたいっていうのが大きかったですね。
―一通り経験して、再びそこに戻ってきたと。
大西:一回自主でやって、今また会社とやらせてもらって、PVやバンドの見せ方のような戦略の部分と、核になる音楽の部分と、自分の考え方の幅がすごく広くなったと思います。ようやくいろんなことがつながった感じがあるので、これからがホントに楽しみなんですよね。
「ここをなんでこうしたのか」っていうのを、聴いたときにわかってもらえないとダメだと思ったんですよね。
―新作『Synesthesia』はバンドが始まって以来初めて前作から1年以上のブランクが空いた作品で、バンドのことを改めて考える時間も長かったようですね。
大西:曲を作る人って、曲ができた瞬間に「すげえかっこいいものができた」って思える人と、いくらやっても納得できないというか、不安な感じのままの人と、二通りに分かれると思ってて、僕は後者の方なんですね。発売日になっても「ホントにこれでよかったのかな?」って思っちゃうタイプで、後で反応を得ることができて、やっとよかったんだと思えるんです。納得してないものを出してる感覚はないんですけど、ただホントに限界までやりたいというか、逆にそうじゃなくなったらダメだよなっていうのもあって。
―現在はギターの三谷さんが一時的にお休みされていて、今回のレコーディングにも参加されていません。その決定に関しては、どんなことを考えましたか?
大西:最初の脱退があった頃から、メンバーに対する考え方も変わってきて。曲作りに関しては、まずはある程度自分で形を作るっていうのが、IVORYの主流になっていったんです。そこからどう派生させていくか、進化させていくかっていうことをバンドで追求している感じなので、メンバーがいなくても、自分自身が変わるってことはないんです。ちょっと語弊があるかもしれないですけど、まずは自分の中で完結できるように作って、メンバーにはその100%を120%、150%にしてくれって気持ちでやってますね。
―それって、大西さんの中で音楽家としての意識が高まったことの表れなのかなと思います。「音楽に集中したい」という理由でレーベルに所属することを決めたのも、同じ理由かと思いますし。
大西:「音楽家として」と言えるほど自分でやれてるとは思ってないんですけど、バンド以外の曲を書かせてもらえるようになって、全部を曲で表現しないといけないというか、「ここをなんでこうしたのか」っていうのを、聴いたときにわかってもらえないとダメだと思ったんですよね。バンドとは違って、「無駄がないように」っていう部分が追及されるので、そういう中で意識が高まったっていうのはすごくあります。
―昔から自分の中で1つの世界観を完結させる、ある種の作家志向みたいなものをお持ちだったのでしょうか? メンバーから思いもよらぬ反応が返ってきて、自分の曲が変化していくのがバンドの醍醐味だと考える人も多いと思うんですけど。
大西:バンドを続けて行く中で、徐々に変化していきましたね。確かに、最初はメンバーの持ってる要素が混ざり合って、1個の曲になるっていうのがバンドのメリットだと思ってました。でも、今はバンドの曲を作るときに、各パートの人格を自分一人でやってるような感覚ですかね。ドラムを作ってるときは、吉田の叩くドラムを想像してるし、一人でいろんな角度から見て曲を作ってる感じです。
―さきほどもおっしゃってたように、まずは自分で100%のものを作ると。
大西:ただ、それがそのまま曲になるかっていうと、やっぱりそうではないんですよね。それを聴いた上で、メンバーには何かインスピレーションを受け取ってほしいと思って提示してるし、吉田にしても100%を120%、150%にする感覚を持ってるメンバーなので、それが今は嬉しいですね。
WRONG SCALEが解散したときに、お客さんから言われたんです。「次は絶対やめないでください」って。
―作品全体の印象としては、迷いや葛藤といった影の部分を感じさせつつ、最終的には光の方向へと向かう作品になっていて、特に言葉は今までになくストレートになっていますよね。
大西:シンプルな言葉を使うのって、結構抵抗があったんです。でも、他のミュージシャンのインタビューを読んで、自分の考え方も1回考え直すことができて。
―具体的には、誰のどんな言葉が大きかったですか?
大西:[Champagne]の(川上)洋平が「自分一人でも俺はやっていく」って言ってて、順調に進んでるバンドはなかなかこうは言えないなって思ったんですよね。たぶん、彼らは一人ひとりがそう思っていて、それが素晴らしいなって。僕は「バンドはこうじゃないといけない」っていう固定観念が強い方だったんですけど、その言葉にすごく助けられました。「絶対やめる気はない」って、聴いてるお客さんからしても嬉しいことだと思うんですよ。WRONG SCALEが解散したときに、お客さんから言われたんです。「次は絶対やめないでください」って。それはまだIVORYを始める前だったんですけど、それがすごく頭に残ってて。
―それで歌詞にも変化が出てきた?
大西:歌詞に関しては自分でも変化を感じています。今までは獏然とやってきた部分もあって、ただ耳触りがよければいいっていう感覚が大きかったんですけど、今回は「何かを感じてほしい」「伝わってほしい」っていう部分が強いですね。
―その「伝わってほしい」というのは、具体的なメッセージ性のようなものがあるのでしょうか?
大西:何かコンセプトがあって作っているわけではなくて、作ってる中で汲み上げていくことが多いので、「これを聴いて、こう思ってほしい」っていうのがあるわけじゃないんですけど……。ただ1つ言えることは、過去を振り返ってばかりいるんじゃなくて、前に進んでいくっていうことを表現していきたいとは思います。明日のことを考えるというか、今日をつなげていく、今をつなげていくっていう部分を、みんなにもちょっとでも考えてもらって、一緒に進んでいけたらなって。
自分たちがしっかりしてさえいれば、ちゃんと立っていられるんじゃないかと思うんです。
―これまではWRONG SCALEのイメージを気にする部分がどこかにあったのかなって思うんですね。でも、今はその枠みたいなものが取り払われて、自由に大西さん自身を、IVORYらしいものを追求できるようになったっていうことなのかなって。
大西:「WRONG SCALEっぽい」っていうのには反抗してましたね。作ろうと思えばそういう曲も作れますけど、じゃあそれをやるかっていうと何か違うなって。もちろん、それを自分がいいって思ったらやるし、それも含めて、「こうあるべき」みたいな枠はなくなった気がしますね。
―今回の作品で最も心情がストレートに表現されているのは、やはり“KIOQ”ですよね。ちなみに、“KIOQ”の歌詞は、自宅で長年飼っていた犬が亡くなってしまったことが背景にあるそうですね。
大西:それ暗くなっちゃうからあんまり言わないようにしてるんですよね……大好きだったんです、犬が(笑)。
―人間味のある、いい話だなって思います(笑)。“KIOQ”の前にインストの小品である“Town That Nobody”が入ってるじゃないですか? これって、“KIOQ”につなぐためのクッションの意味合いがあると思うんですけど、タイトルに何か意味があるんじゃないかと思ったんですよね。「Nobody」のあとに続く単語があるんじゃないかって。
大西:なるほど……実は、この2曲で“KIOQ”だというか、“Town That Nobody”はその前の“YesNo”の激しいテンポから、バラードの“KIOQ”へのつながりをよくするためでもあるんですけど、さっき言った愛犬のこともあって、“Town That Nobody”は全部自宅で録った音を使ってるんです。自分の部屋から聴こえる自動車の音、鳥の鳴き声、風の音。一緒に過ごしたところで何か作りたいと思って作った曲なので、こんなシンプルなフレーズを作ったことは今までないですね(笑)。
―僕の予想では「Town That Nobody lives」なのかなって思ったんですよね。犬が亡くなってしまった、その空っぽな、誰もいないようなイメージというか。
大西:そこは正直深く考えてませんでした(笑)。でも、そう思ってもらえたのは嬉しいですね。
―アルバムには「共感覚」を意味する『Synesthesia』というタイトルがついていますが、大西さんの中で楽曲と映像のリンクっていうのは大きいのかなと思ったのですが、いかがですか?
大西:すごく大事ですね。それが見えないと曲が完成しないというか、わかりやすく言うと、1曲ごとにPVを作るとしたらどういう感じかっていうのを考えながら作ってる感じですね。曲のセクションのつながりも、「ここに1小節あったら、こういう映像をはめられるな」とか、曲だけ聴いてる分にはいらないようなパートでも、映像になったときに必要だからって入れたりもしてます。
―今回の収録曲の中で、映像のイメージが一番はっきりしていた曲を挙げるとすれば?
大西:“Paradox”ですね。今までの曲で、一番セクションが多いんですよ。Eメロぐらいまであるし、サビの前で1回落としたこともこれまでなくて、Bメロで盛り上げてそのまま行くっていうパターンが多かったんですよね。
―“Holography”や“ONE”はスケールの大きな楽曲ですが、これもやはりイメージは映像から来てるんですか?
大西:そういう部分もありますけど、単純に壮大なのが好きで、そうしたかったっていうのもありますね。過去の作品を聴いて、平たいイメージを感じる部分もあったので、どう立体的にしていくかっていう音楽的な部分と、映像の部分とを、上手くつなげられるようになってきたということかもしれません。
―今回の作品って、メンバーのギュッと引き締まった、密度の濃い演奏の感じもありつつ、今話したようなスケール感、バーッと開けるようなイメージっていうのも、一枚に同居してるなって思ったんですよね。
大西:そこはもっと追究したい部分のひとつですね。まだ自分としては硬い部分が多いかなって思っていて、もうちょっと柔らかい、フワフワした曲も今後やってみたいですね(笑)。“KIOQ”はそういう曲ではあるんですけど、まだ自分では硬いっていうか、完璧に作ろうとしちゃってる部分があって、それはメリットでもあり、デメリットでもあるなって。
―では、それは次のフルアルバムのお楽しみですかね。
大西:今すごくやりたいことが明確なんですよ。今までは、1枚作ると「次どうしようか?」っていつも思ってたんですけど、今回は「次はこれやりたい、あれやりたい」っていうのが、すごく多いです。
―一通りいろいろな経験をして、バンドの原初的な部分に戻ってきたっていうことなんでしょうね。最後に、今回正式なメンバーとして作品に参加されてるのって、大西さんと吉田さんの二人だけなわけじゃないですか? それこそ、吉田さんはUNCHAINのメンバーとしてもいろいろな経験をされていて、お互いバンドについて話すことも多かったかと思うのですが、今回の制作にあたって、吉田さんとはどんなことを話されましたか?
大西:そんなによくしゃべるってわけでもないんですけど、あいつも結構はっきりしてて、シビアな考えも持ってるんですよね。UNCHAINをやってきた経験の中から生まれた考えっていうのは、自分も共感できる部分が多いし、逆に、吉田が俺の考えに共感してくれる場合も多いです。やっぱり、これだけメンバーの入れ替わりがあると、いい意味でそこに対して何も思わなくなるというか、途中でも言ったように、自分たちがしっかりしてさえいれば、ちゃんと立っていられるんじゃないかと思うんです。そういう話はずっとしてますね。
- イベント情報
-
- HaKU wonderland TOUR 2013『hacking your mind』
-
2013年9月20日(金) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:茨城県 水戸 LIGHT HOUSE
料金:2,500円(ドリンク別)
-
- IVORY7 CHORD presents『Synesthesium』
-
2013年10月4日(金) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 WWW
料金:2,800円(ドリンク別)
-
- 『MINAMI WHEEL 2013』
-
2013年10月12日(土)
会場:大阪府 21会場
- リリース情報
-
- IVORY7 CHORD
『Synesthesia』(CD) -
2013年8月28日発売
価格:1,800円(税込)1. Earth Does Move
2. Paradox
3. Holography
4. PARADE
5. ONE
6. YesNo
7. Town That Nobody
8. KIOQ
- IVORY7 CHORD
- プロフィール
-
- IVORY7 CHORD(あいぼりーせぶんす・こーど)
-
2010年結成。元WRONG SCALEの大西俊也(Vo / Gt / Programming)を中心に、吉田昇吾(UNCHAIN)を始め、ロック・シーンで影響力のあるメンバーで構成された。洗練されたメロディーと、幅広い緻密な楽曲アレンジが特徴であり、これまでの作品は自主制作にも関わらず、オリコンインディーズチャート上位に入るなど、高い爆発性を秘めている。大西は映画『バイオハザード ダムネーション』の主題歌、CM曲、土屋アンナの作曲、アレンジを提供するなど、クリエイターとしても独自の存在感を放っている。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-