人生を変えてくれた歌はあるか Rie fuインタビュー

誰かが作った1つの歌が、他の誰かの人生を変えることがある。音楽活動と並行してロンドン芸術大学でファインアートを学ぶなど、画家としても活動中のRie fuも、内気な少女時代にカーペンターズの歌声を聴いて、歌い始めた一人だ。彼女は、より自分らしい音楽制作のあり方を求めて昨年春に自身の会社「Rie fu Inc.」を設立。前作『BIGGER PICTURE』からおよそ1年ぶりとなる本作『Rie Fu Sings The Carpenters』はカーペンターズに捧げるカバーアルバムであり、亡きカレン・カーペンターへの想いを手紙のごとく綴ったオリジナル曲“Dear Karen”を収録するなど、彼女にとってまさに「原点回帰」と言える内容となっている。カレン・カーペンターとの出会いが少女を励まし、そこからまた新しい音楽が生まれた。時代を超えて受け継がれる音楽の魅力について語ってもらった。

「原点回帰」というか、自分自身の曲作りや歌うことへのルーツを見つめ直すことをしたかったんです。

―今回のカバーアルバムを聴いて、Rieさんがカレン・カーペンターの声にそっくりで驚きました。

Rie fu:そう言ってもらえて嬉しいです。小さい頃は、声が低いのがコンプレックスだったんですけど……。人前で歌うのも苦手でしたし。

―内気な少女時代だったんですね。

Rie fu:おとなしくて、周りよりもテンポが遅くてゆったりしてて。毎日家で絵を描いては自分の世界に入り込んじゃうというか、「ちゃんと社会に適合できるのかな……」って、親も心配していました(笑)。とにかく、何かを作ることが大好きで、それを人に披露するっていうのが、おとなしい自分にとっての「表現方法」だったんです。

―そこからなにがきっかけで歌手になろうと思ったのでしょう?

Rie fu:7歳から10歳まで、父親の仕事の都合でアメリカ東海岸の田舎に住んでいたんですけど、そのときに初めてカーペンターズを聴いたんです。彼らの歌って英語がすごくキレイで聞き取りやすいので、「英語の勉強のためにも」ということで、両親が家でカーペンターズを流してくれて。それで、カレン・カーペンターの歌声に衝撃を受けて自分でも歌ってみようって思うようになりました。

―カレンも自分の声が嫌いだったそうですけど、ハイトーンボイスが溢れる中で、カレンやRieさんのアルトボイスは魅力的ですよね。

Rie fu:自分の個性として声を活かせるんじゃないかって思えるようになったのは、本当につい最近なんです。中学時代はまさに「小室世代」だったので、例えばカラオケに行ったりすると、とにかくキーの高い歌しか入っていなくて……。全然歌える曲がないし、歌ったとしてもカラオケの音響では全く響かなくて(笑)。

―今回は、どういう経緯でカーペンターズのトリビュートアルバムを作ることになったのですか?

Rie fu:これまでもカーペンターズのカバーライブはよくやっていたんです。今年はカレン・カーペンターの没後30周年ということもあり、アルバムを作ることにしたのですが、「30年」ってきりもいいですし、他にもいろんな意味があるなと思って。親と子の世代間がおよそ30年だったり、服のトレンドが1周するのも大体30年ぐらいですよね。人生の中間地点という気もしますし、私ももうすぐ30歳。そういう大事な年に、「原点回帰」というか、自分自身の曲作りや歌うことへのルーツを見つめ直すことをしたかったんです。

Rie fu
Rie fu

―まさにRieさんの人生を変えたのがカーペンターズなのですね。でも、今作では彼らを変に神格化することもなく、非常に大胆なアレンジをほどこしていて、絶妙な距離感ですよね。

Rie fu:そうですね。ただ、彼らのコーラスラインは原曲をかなり意識しています。

―それはどうして?

Rie fu:カーペンターズの曲を改めて聴き直してみたら、今まではカレンの声がカーペンターズの最大の特徴だと思っていたのですが、コーラスがあることでメインのボーカルが引き立っていたり、カーペンターズらしい音色になっていたりすることに気付いたんですよ。あとは、“Please Mr. Postman”のドラムのフィルも、ちょっとダサイっていうか、真面目に叩いている感じが可愛かったので(笑)、そこは引き継いでいます。原曲に敬意を示しつつ、オリジナリティーを入れていくというバランスはかなり意識しましたね。

―“Sing”では、声にエフェクターをかけていますよね。最近だとジェイムス・ブレイクのようなシンガーが、エフェクト処理を積極的にしていますが、Rieさんにとって自分の声を加工することは新しい試みなのでは?

Rie fu:実は最近、ライブでもキーボードのコードに合わせてコーラスを付けてくれるエフェクターを使ったりしていて。そうやって、声にもギターみたいにエフェクトをかけるやり方を楽しんでるんです。これまで、声をそのまま伝えることをやってきたので、今はむしろその声でどんどん遊んでみたい気分です。

―“For All We Know”ではハープシコードのソロが入っていて、ビートルズの“In My Life”を彷彿とさせました。カーペンターズ以外にも、かつての音楽へのオマージュが感じられるというか。

Rie fu:そうですね、バロック調な感じにしています。ビートルズは最近になって聴くようになったのですが、このカバーアルバムはカーペンターズだけではなく、時代を超えて愛され続ける全ての音楽に捧げるような意味もあります。

イギリスの蚤の市で買ってきたレコードを聴いてみたら、人肌のようなあったかさを感じたんです。

―カバーアルバムの中で、唯一Rieさんが描き下ろした“Dear Karen”は、メロディーもカーペンターズっぽいですよね。もし彼女がまだ生きていたら、こんな曲を作ったんじゃないかな、みたいな(笑)。

Rie fu:ふふ(笑)。ありがとうございます。確かにそこは意識しましたね。最初はグッと低音から始まって、コーラスではうんと高い声で歌って、みたいな。作曲の面でもトリビュートしたという感じですかね。

―カバーの中にあえて1曲だけオリジナルを入れた意味は?

Rie fu:最初、この曲は“Dear Music”というタイトルで、さっき言ったように「時代を超えて愛され続ける、全ての音楽へ」っていう気持ちで書いたんです。でも、歌を歌う人が“Dear Music”ってちょっと壮大すぎるかなと思って(笑)。それで歌詞を練り直しているときに、やっぱり自分の歌声の個性に気付かせてくれた、カレンへの歌にしよう、と。同じ時代に生きることはなかったけど、こうやって音楽を通していろんなことを教えてくれている彼女への感謝の手紙として作ることにしました。

Rie fu

―この曲は、日本語と英語の2パターンありますが、どんな棲み分けがあるのでしょう?

Rie fu:日本語と英語の歌のバランスは、デビューして以来ずっと課題だったんですよね。英語の歌詞って、音の響きやリズムの乗せ方に面白さがあると思うんですよ。一方で日本語の歌詞は、響きよりも言葉の意味が大事。歌謡曲で「いい曲だよね」って言われるのって、大抵は歌詞のことなんですよね。私はいつも、それぞれの良い部分を1曲の中で共存させたいと思ってきたんですけど、今回は思いきって完全に分けてみました。

―アルバム冒頭で、天国のカレンへ英語で語りかけ、最後に日本語で歌うことで、「カーペンターズ」を自分の血肉として取り込むまでの1つのドキュメンタリーを観ているようにもとれますね。

Rie fu:確かにそうですね。あと、最初と最後を同じメロディーにすることで、音楽が時代を超えて受け継がれていく、その周期の輪を表したかったというのもあります。

―「時代を超えて愛され続ける全ての音楽」という話が出ましたが、そういったことを意識するようになったのはなぜですか?

Rie fu:やっぱりいろんな時代の音楽を、最近掘り起こして聴くようになったことが大きいと思いますね。あと、デジタルが主流になってきたことで、逆にレコードに興味が出てきたんですよ。でもネットで注文しようと思ったら、最近はレコードの価値がまた上がってきたみたいで高くてビックリすることも多いんですけど(笑)。

Rie fu

―レコードのどんなところに惹かれるのでしょう?

Rie fu:この間イギリスに行ったときに蚤の市を覗いたんですけど、誰かの屋根裏部屋に置いてあったようなレコードがたくさん売っていたんです。その中から好きなレコードを何枚か持って帰ってきて、聴いてみたらレコードの音の良さというか、あったかさを実感したんですよね。人肌を感じさせるような音に触れたというか。

―最近はどんな音楽を聴いていますか?

Rie fu:古いものだと、最近はひたすらケイト・ブッシュを聴いています。以前、尊敬するベーシストが、「1970年代以降、新しいジャンルは出てきていなくて、全ては既存のスタイルのコラージュだったりリミックスだったりするよね」っておっしゃっていたんですけど、そういえばケイト・ブッシュみたいな新しさを持っている人っていないなあと思ったんですよ。それで聴くようになりました。最近の音楽だと、ローラ・マヴーラやリアン・ラ・ハヴァスのような、声に暖かみのある女性シンガーが好きですね。

「自分をこう見せたい」って思うよりも、「自分でも気付かなかった自分の中のメロディーを引き出したい」って思う気持ちのほうが強いんですよね。

―Rieさん自身は、新しいアイデアが苦労せずに出てくるほうでしょうか?

Rie fu:そうですね。曲作りってどこか霊媒師みたいなものだと思っていて、逆に自分のエゴが入らないように心掛けています。あくまでも自分が媒体となって、曲をキャッチするみたいな。ただ、今まではそうやってあまり深く考えずに作っていたんですけど、もっとメロディーと取っ組み合いをしたいなという気持ちも出てきて。それこそケイト・ブッシュのメロディーの世界観というのは、ただ日常の中でキャッチしているというよりは、どっぷりとメロディーと見つめ合っているんですよ。そういう制作の仕方もしなきゃいけないなという風に自分に課題を課しているところです。

Rie fu

―今おっしゃった「エゴ」についてもう少し詳しく聞かせてもらえますか?

Rie fu:「売れるために作ろう」とか、そういうこと考えちゃったら終わりっていうか(笑)。以前、メジャーに所属していた頃は、やっぱりタイアップがあって、レコード会社の人から「ちょっとサビのインパクトが……」とか、「カラオケで歌えるような曲を」とか、そういう商業的なリクエストが来るわけですね。それは当然なんですけど、その中で作った曲を今聴き返してみると、確かに分かりやすいんですけど、「私じゃなくても作れるし、もっと上手い人もいるんじゃないかな」って思ってしまって。こういうことをするために、自分は「ソングライター」って名乗っているんじゃない、自分にしかできない振り切った音楽を作らなきゃって気が付いたんです。それと、「自分をこう見せたい」って思うよりも、「自分でも気付かなかった自分の中のメロディーを引き出したい」って思う気持ちのほうが強いんですよね。それが、「自分のエゴが入らないように」っていうことなんだと思います。

―画家でもあるRieさんですが、自身の会社も経営しつつ、絵も描き続けているのでしょうか?

Rie fu:曲っていうのは歌詞とメロディーがあって、自分が表現したいことを曲として形にすることに意味があるんですけど、絵画は描き続ける行為そのものに意味があるというか。今は工事現場の絵を中心に描いていて、それを100枚描きためようと思っているんですよ(笑)。世界中の工事現場をスナップショットで撮っては、ひたすら絵にしていくっていう。その行為そのものが好きなんですよね。

―なぜ、工事現場の絵なのでしょう?

Rie fu:最近、だんだん気付いてきたんですけど、今、こうやってセルフマネージメントでやっていて、今までレーベルがやってくれていた制作の過程を全て自分で見るようになったんですね。例えば企画書を書いたり、プレス工場とやり取りしたり、請求書を書いたり。実は、自分はそういう物事の「プロセス」に惹かれているんじゃないかなって。例えば道路とか建物とか、普段身近にあるものがどうやってできているのか、どういう人が関わって完成されていくのかっていうことに、すごく興味があるんですよね。

Rie fu

―会社を設立して1年半経ちましたが、何か変わったことはありますか?

Rie fu:いろいろなジャンルのアーティストと一緒にもの作りができるのが、とにかく嬉しいことに変わりはありません。12月には東京と大阪で『fu fes』というイベントの2回目をやるのですが、今回は、d.v.d.とコラボライブを予定しています。ミュージシャンだけでなく、カバン作家やネイルアーティストといったクリエイターの方たちともコラボしてグッズも作る予定です。会社経営の毎日は地道な作業の繰り返しです(笑)。でも私が止まってしまうと何も動かなくなってしまいますから、コツコツと自分にしかできない音楽を見つけていきたいですね。

イベント情報
『fu in fukuoka 2013』

2013年10月20日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:福岡県 福岡Café Teco
料金:3,500円

『360°Premium Live featuring Rie fuワンマンライブ』Daikanyama LOOP 5th anniversary

2013年11月27日(水)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 代官山 LOOP
料金:前売3,300円 当日3,800円(共にドリンク別)

『fu fes vol.2』

2013年12月14日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 SuperDeluxe

2013年12月15日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪府 Art Yard Studio

料金:各公演 3,000円(ドリンク別)

リリース情報
Rie fu
『Rie fu sings the Carpenters』(CD)

2013年9月4日発売
価格:2,500円(税込)
DQC-1132

1. Dear Karen〜English version〜
2. Sing
3. We've Only Just Begun
4. For All We Know
5. Please Mr.Postman
6. Superstar
7. Yesterday Once more
8. Close to You
9. Top of the World
10. Rainy Days and Mondays
11. A Song for You
12. I Need to be in Love
13. Dear Karen〜Japanese version〜

Rie fu
『fu palette1』[iPhone5ケース]

価格:3,675円(税込)
美術作家としても評価の高いRie fuがデザイン

Rie fu
『fu palette2』[iPhone5ケース]

価格:3,675円(税込)
美術作家としても評価の高いRie fuがデザイン

Rie fu
『fu palette moji』[iPhone5ケース]

価格:3,675円(税込)
美術作家としても評価の高いRie fuがデザイン

プロフィール
Rie fu (りえ ふぅ)

2004年、マキシシングル『Rie who!?』でデビューと同時に渡英、2003年から2007年まではロンドン芸術大学でファインアートを学び、日英を往復しながら活動。2007年より日本に拠点を移し、定期的に個展を行い画家としての活動も続けている。2009年には井上陽水のツアーに参加。ORANGE RANGE NAOTOのプロジェクト、delofamiliaへの加入。ソニーよりアルバム5枚、シングルコレクションリリース後、2012年に(株)Rie fu設立。



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