宇宙人のは面白い。一聴すればすぐに異能だとわかるずば抜けた作曲センスで注目を集め、アニメ『惡の華』の主題歌に抜擢。後藤まりこ、の子(神聖かまってちゃん)、南波志帆といった実力派のミュージシャンをゲストボーカルに迎えた全4曲の作詞作曲を担当し、『惡の華』の不穏な世界観と自身の作風を見事にマッチさせて、話題を呼んだ。そのようにして作られた主題歌や「ロトスコープ」という手の込んだ映像技法が渾然一体となり、作品全体が異様な盛り上がりを見せた『惡の華』は、番組終了後もその熱が醒めることがなく、エンディング曲を担当したASA-CHANG&巡礼、原作漫画を手がけた押見修造まで登場して、宇宙人と三組で「惡の華」新オリジナル楽曲“白日夢”を制作、配信限定リリースするなど、勢いが止まらない。
そのような熱狂的なプロジェクトにおいて、まさに異能の作曲センスを開花させたしのさきあさことは一体どんな人物なのだろうか。「無意識でいるとつい笑いに走ってしまう」と語るしのさきにインタビューを試みるも、話を訊けば訊くほど、マイペースな独特の間(ま)にのらりくらりとかわされてしまったが、少しでも彼女の不思議な魅力に触れていただけたら幸いだ。
CINRA.NET >『惡の華』は終わらない、しのさきあさこ(宇宙人)&ASA-CHANG(ASA-CHANG&巡礼)&押見修造による企画会議
CINRA.NET > アニメシーンを逆走する『惡の華』 しのさきあさこ×長濱博史対談
一番会いたかったASA-CHANG&巡礼と漫画家・押見修造と実現した、異色のコラボレーション。
―しのさきさんは『惡の華』関連曲として、主題歌と今回の新曲“白日夢”で2曲作ったことになりますね。ご自身のバンド・宇宙人で作曲するのと違いはあるのでしょうか?
しのさき:いつも何かしらテーマをもらって曲を作っているので、今回も『惡の華』というテーマがあったという点では、そんなに変わらなかったです。でも、ニコニコ生放送で会議を公開していたので、見てる人が曲調やテーマについていっぱいコメントをくれるっていう環境はいつもと全然違うし、その中でも「賛美歌っぽい曲調」というのがぴったりだと思ったので、取り入れたりしました。
―今回の新曲はアニメのエンディング曲“花 -a last flower-”の作者であるASA-CHANG&巡礼との合作という形になりましたよね。
しのさき:ずっとASA-CHANGさんのファンだったので、イントロが始まった瞬間に、いちファンとして聴いちゃいました。「お、新曲きた」みたいな(笑)。
―冒頭に原作者の押見修造さんの声が入っているところとか、ASA-CHANGさんらしさが出ていますよね。作業の流れとしてはどんな感じだったのでしょうか。
しのさき:まずは宇宙人で最初の形を全部作ってからASA-CHANGさんに渡して、加工してもらいました。宇宙人でレコーディングしたときは、本物の銅鑼の音をバシバシ入れたけど、ASA-CHANGさんにデモテープを渡したら「あれは機械でいれたほうがいい音がするよ」とアドバイスをくれたりして、すごく勉強になりました。でも何より、こんなに面白いおじさんだとは思いませんでした。
―ASA-CHANGさんは、MCも面白いですもんね。押見さんのほうは漫画家として活躍されてますけど、別ジャンルの方と交流するのはどんな感触でしたか?
しのさき:押見先生は引き気味だったと思うんですけど、私は大好きです(笑)。すごく話しやすいし、面白い。普段、真面目に音楽の話をするのが苦手で、押見さんとはもっと他のくだらない話ができたから、楽しかったのかな。
常にマグマのごとくうごめいている「笑い」の感覚(ただし、人には伝わらない)。
―しのさきさんのいつもの曲作りについてうかがいたいと思います。普段は、曲をどこから作っていくのでしょう?
しのさき:曲によって全部バラバラです。今回はメロディーから作りました。歌詞ワードはニコニコ生放送を見た人が投稿してくれたので、まずはメロディーを用意して、うまく入れられそうなところに投稿された言葉を入れたんです。
―おお、思った以上にすごく合理的な作り方なんですね。
しのさき:そういうときもあります。今回テーマにした『惡の華』の原作の場面が、登場人物の感情の起伏がすごくて、エネルギーが爆発するみたいな感じだったので、メロディーも浮き沈み激しい感じにしました。
―前作の主題歌よりも、もう少しドラマティックな感じになっているんですね。前の曲は映像のイメージがしっかりあったというお話でしたが、今回はどうでしたか?
しのさき:今回は、映像というよりも目に見えない感情の部分を出そうと思って作ったんです。ボーカルも、感情を出す歌い方はやったことなかったんですけど、感情的に歌ってみたら、歌うほどに凶暴になっていく自分を見つけました(笑)。
―今までのやり方では通用しないと思ったきっかけがあったのでしょうか?
しのさき:原作のエネルギーが本当にすごいので、曲にもエネルギーがみなぎっていないと、『惡の華』のファンの人が絶対に認めてくれないだろうと思って……。
―なるほど。しかし、いずれにしてもしのさきさんの作曲方法は、まずテーマが決まって、それに向かって作っていくやり方なんですね。
しのさき:宇宙人でも、1枚目のミニアルバムのときは何にも考えずに作っていたんですけど(笑)、2枚目の『珊瑚』からテーマに沿って作るようになりました。テーマがなかったら、ついつい笑いの方向にいっちゃうので……。
―え、笑いの方向ですか!? 笑える音楽が好きということでしょうか?
しのさき:人には伝わらない笑いみたいなのが常に自分の中にあって、音と歌詞でそれを追求しちゃうんですよ。
―人に伝わる笑いだったらいいけど、そうじゃなかったら……なんだかよくわかんない曲になっちゃいますね。
しのさき:そうなんです。それじゃダメだと思って、曲ごとにテーマを作ってます。
強烈な好き嫌いが個性を作る。
―テーマを与えられて曲を作るというお話ですが、自分から「こういうテーマでやりたい」というのはありますか?
しのさき:ヤクルトのCMソングがやりたいです。ヤクルト大好きなので。その商品をテーマにしたら、その商品をもっと楽しめそうじゃないですか。
―音楽性うんぬんというところを飛び越えたところで、テーマそのものについて考えていく作業が好きなんですね。だからテーマの方向性が明るくても暗くても同じモチベーションで作れる。
しのさき:前に「お米の歌」をテーマに作ったときも、まずは「白米とは」というところから考えて作りました。結果的に、「米研げ、米研げ、釜で炊け〜」みたいな歌詞になったんですけど(笑)。食べたことがあるものだったので、すぐできました。
―笑いに走ってますね(笑)。メンバー以外の第三者からテーマをもらえることが多いのでしょうか?
しのさき:いつもテーマをもらえるのが理想なんですけど、テーマがないときは自分たちでも考えなきゃいけなくて、私が考えるやつは、だいたい却下されてます。「メンバーが着ているセーターがおかしい」とかをテーマにしちゃうので。
―些細なものをきっかけに曲が作れるのは、逆にすごいですけどね(笑)。何でも音楽に変えられるというか。しのさきさんは作詞作曲を手がけられますが、バンドのメンバーとはどういうふうに曲を作っていくのですか?
しのさき:これもいつもバラバラです。今回の“白日夢”はパソコンの音楽作成ソフトを使って、ある程度まで編曲してメンバーに渡しました。パーカッションや基本のリズムみたいなものは入れておいて、やってほしい感じを伝えた上でアレンジしてもらってます。
―宇宙人って、デビュー当初は顔を出さないバンドというイメージでしたが、『珊瑚』ぐらいからしのさきさんが顔を出してますよね。心境の変化があったのでしょうか?
しのさき:だんだん謎のバンドというイメージが付き始めてるらしいと知って、1つのイメージで固まると聴いてもらえなくなるんじゃないかと思ったので、普通でいくことにしました。宇宙人は普通のバンドです。
―普通のバンドは、自分たちのこと普通って言わないですよ(笑)。でも、テーマに合わせて作るということは、自分の想いや考え方を世に訴えたいという気持ちで曲を作っているわけではないんですね。そういうわけで、最初はあまりメンバーが表に出てこなかったのかもしれないですね。
しのさき:確かに、自分のことを出したいとは思ったことはないです。やれと言われればやるけど、たぶんオッケーが出ないと思います。笑いに走るから(笑)。
―しのさきさんの中心にあるのは、笑いだけなんですね。泣ける話やつらい話にはいかないんですか?
しのさき:日常にそういうことがまず起きないので、笑いくらいしかないです。でも、犬や猫は苦手です……なので、テーマとして出されたら困ります。動物園は好きですし、アニメの犬は大丈夫なんですけど。熱帯魚も好き。
―つまり、近寄ってこられる可能性のある動物が苦手なんですね。しのさきさんは、好き嫌いの判断が明確だし、その判断基準が個性的で、強みになっていると感じます。
しのさき:好きか嫌いか、それしかないですね。音楽についてもそう。
―自分の曲も最終的に「好き」と言えるようになるまで作っていくんでしょうか。それがうまくいかないときはどうしますか?
しのさき:うまくいかなかったことがないので、わからないです(笑)。作っていて悩むこともほとんどありません。今回は、Bメロの歌詞で、擬音語を使う部分にこだわりを持ったので、その擬音探しが難しかったけど、それを探すのも楽しかったですね。
次の目標は、フットボールアワーの後藤さんとコラボすること。
―お話をうかがっていると、今回のようにテーマもありつつ、ASA-CHANGさんや押見さんも交え、さらにニコ生でファンからもコメントをもらうというような、いろいろな人の意見が集まる作り方はしのさきさんにむいてると感じました。次にコラボレーションできるとしたら誰と一緒にやってみたいですか?
しのさき:ずっとASA-CHANGさんに会って挨拶するのが目的で音楽をやってたんですけど、今回一緒に曲作りまでやってしまったので……昨日次の目標を考えました! フットボールアワーの後藤さんのギターがいい音だし、テレビ番組『ゴッドタン』でやってる“ジェッタシー”(人気企画「マジ歌選手権」で後藤が作詞・作曲した歌)がすごく面白いので、一緒にやりたいです。
―早速笑いの方向に行ってるじゃないですか(笑)。でも、“ジェッタシー”とか“ヘブリカン”とか、後藤さんの音楽ネタ面白いですよね。
しのさき:私、後藤さんはミュージシャンだと思ってるんです!
―ギターもうまいですしね。しかし、しのさきさんにとってコラボする相手がミュージシャンかどうかというのは、あんまり重要じゃない気がしてきました。改めて、ご自身の中で音楽というのはどういう位置を占めているんでしょうか?
しのさき:音楽以外のことをやったことがないので、わからないです(笑)。でも、高校生のときにクラスの人とバンドを組んで、ライブやるときにCDも作って売るという話になったんです。そのときに初めて曲を作ったんですけど、コピーよりもずっと楽で、最初から作曲が好きでした。
―型にはまらない頭の中を表現するために、作曲が手に馴染んだのかもしれないですね。では音楽以外のジャンルになると、もっといろいろ一緒にやりたい人がいるのでしょうか?
しのさき:佐野元春さん。
―佐野さんはミュージシャンですよ!(笑) 佐野さんとだったら、どういったことをやりたいですか?
しのさき:『ガキ使』(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』)の「クイズ 佐野元春の500のコト」(佐野元春に関するクイズを『ガキ使』メンバーが答える企画)がすごく面白かったので対談したいです。
―佐野さんの音楽は関係ないんですね(笑)。ちなみにどこがよかったんですか?
しのさき:亀を砂に埋めたエピソードとか……。
―……なるほど。まあ佐野元春さんは立教大学で客員教授もやっていましたし、一緒に話す仕事も楽しいかもしれないですね。将来の目標はわかりましたが、『惡の華』が一段落して、次の予定はありますか?
しのさき:予定は……未定。作戦中。
―宇宙人としての次のリリースとはまた違った、おもしろいことを作戦中?
しのさき:どうなるかも作戦中(笑)。未定です!
- リリース情報
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- 宇宙人×ASA-CHANG&巡礼×押見修作
『白日夢』 -
2013年10月6日からiTunes Store・レコチョク他で配信限定リリース
1. 白日夢
- 宇宙人×ASA-CHANG&巡礼×押見修作
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- 宇宙人
『惡の華』(CD) -
2013年5月22日発売
価格:1,200円(税込)
KICM-14531. 惡の華
2. 砂漠の鎮魂歌
3. 惡の華(歌無し)
4. 砂漠の鎮魂歌(歌無し)
- 宇宙人
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- http://www.cinra.net/interview/images/in_1310_shinosaki_cd3.jpg
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2013年6月26日発売
価格:1,800円(税込)
KICS-19161. 花 - a last flower
2. 惡の華 - 仲村佐和
3. 惡の華 - 春日高男
4. 惡の華 - 佐伯奈々子
5. 惡の華 - 群馬県桐生市
6. 花 - a last flower
7. 惡の華 - 仲村佐和
8. 惡の華 - 春日高男
9. 惡の華 - 佐伯奈々子
10. 惡の華 - 群馬県桐生市
11. 光蘚(Base Ball Bear)
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- 『惡の華』第3巻(Blu-ray+CD)
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2013年10月2日発売
価格:6,300円(税込)
- プロフィール
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- しのさきあさこ / 宇宙人(うちゅうじん)
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作詞、作曲家、シンガーソングライター。高校生時代よりソロ、バンドにて音楽活動を行う。2012年、バンド「宇宙人」のボーカルとして、ミニアルバム「慟哭」(キングレコード/スターチャイルド)でメジャーデビュー。
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