GORO GOLOが作る、人を集める磁場の力

常に前例のない型破りなアイデアで都内インディーシーンを盛り上げている音楽制作集団「音楽前夜社」。でぶコーネリアスの藤田千秋がボーカルをつとめるバンド・ジャポニカソングサンバンチや、MAHOΩ(マホー)といったバンドの音源も手がけるなど、レーベルでもなく、バンドが所属しているわけでもなく、「自由に音楽を創作・表現するための場所」として2008年にスタートした彼らの活動は目が離せない。

そんな音楽前夜社の首謀者、スガナミユウ率いるバンドGORO GOLOが、実に12年ぶりとなる2ndアルバム『Golden Rookie, Goes Loose』をリリースする。パンクやジャズ、ファンクといった音楽スタイルを貪欲に取り込んだサウンドは、まるでジョー・ストラマーがスウィングジャズバンドでシャウトしているような荒々しいエネルギーに満ちている。高校時代からの音楽仲間であり、GORO GOLOの鍵盤を担当するしいねはるかにも加わってもらって、バンドのこと、そして音楽前夜社のことなどをたっぷりと話してもらい、人を引き寄せる彼らの魅力に迫った。

「勝ち負け」の世界から抜け出したくて音楽を始めたけど、あえてそこに勝敗のルールを持ち込むことで、自分たちがやりたいことが研ぎ澄まされるんです。(スガナミ)

―いきなりですが、スガナミさんが率いる「音楽前夜社」が企画している、『ステゴロ』というトーナメントについて聞かせてください。バンドとバンドが向かい合わせになり、まるでヒップホップの『UMB』(ULTIMATE MC BATTLE)のようにガチンコ対決で勝敗を決めるイベントですが、これをバンドに取り入れるのがすごく面白いと思いました。

スガナミ(Vo):『ステゴロ』には「素手の喧嘩」という意味があるのですが、まさに『UMB』のようなことを、バンドでできたらいいなと思って始めたんですよね。バンドがお互いに向かい合って1曲ずつ演奏して、お客さんの拍手で勝敗を決めるという。

―そもそもは何がきっかけで始まったのですか?

スガナミ:Twitterで友達のバンドと口論になったんです。友達は、「表現が音楽的になっていくと、本質が損なわれる」ってことを訴えていたんですけど、僕は、「確かに、そこで失われるものがあるっていうのもわかるけど、音楽的な表現と本質の両方を維持していくこともできるんじゃない?」ていう具合に反論して、ものすごい喧嘩に発展して。そこから「じゃあ音楽で決着つけよう!」ってことになったのがきっかけです。

―それって本当に有意義な喧嘩の発展方法ですよね!

スガナミ:相手は生粋のパンクバンドで、僕たちGORO GOLOはパンクのマインドも大切にしつつ、いろいろな音楽的要素を入れたいというバンドなので、やり方が違う。そこを、あえてぶつけてみたときにどうなるのかを単純に見てみたかったんですよね。

スガナミユウ
スガナミユウ

―対決の結果はどうなったんですか?

スガナミ:結局サドンデスを2回やっても勝敗が決まらなくて、最後はジャンケンで決着をつけるっていう情けない終わり方に……。しかも、相手のバンドがパンクの「パー」、僕がグルーヴの「グー」を出して負けるっていう悔しい結末でした(笑)。

―(笑)。そのバンドとその後の関係はどうなりましたか?

スガナミ:大親友になりました(笑)。お客さんにも大好評だったので、「これ、トーナメント戦でやったら面白いな」って思ったんです。

―でも、そうやってシビアに勝ち負けが決まる場って、バンドにとってはキツいですけど学ぶことも多そうですね。

スガナミ:めちゃめちゃありますね。僕たちバンドマンって、そもそも「勝ち負け」の世界から抜け出したくて音楽を始めたわけじゃないですか。だけど、あえてそこに勝敗のルールを持ち込むことで、本質に迫れるというか、自分たちがやりたいことが研ぎ澄まされるんです。終わってからも、参加バンドと1か月は『ステゴロ』の話ばかりしてますね。

ツインボーカルの相方がいなくなったから物理的にできないと諦めてしまってたんですけど、改めて集まって音楽をやったときに、自分がボーカリストとしてもっと頑張りたいと思ったんですよね。(スガナミ)

―そもそも、お二人が音楽に目覚めたきっかけは、どのようなものだったのですか? お二人とも福島出身なんですよね。

スガナミ:実家では、音楽といえば、おばあちゃんが朝一番に流すお経テープくらいしか聴いたことがなかった(笑)。それから兄が音楽にハマってラジオをエアチェックするようになったんですけど、THE BLUE HEARTSの“青空”と、ユニコーンの“雪が降る町”がとても印象的でしたね。でも、自分でお金を出して初めて買ったCDは、THE BUBBLEGUM BROTHERSの“Won't Be Long”でした(笑)。そのうちに高校生のときに兄と一緒にバンドを組むようになったのが、音楽をやるようになったきっかけです。

はるか(Piano / Organ):私は部活で管弦楽をやっていたんですけど、だんだんファストコアのようなテンポの速い音楽が好きになってライブハウスに足を運ぶようになって。そこでスガナミと知り合い、東京に出てきてから一緒にバンドを組みました。

しいねはるか
しいねはるか

―上京したスガナミさんは、いろいろな人が集まる、シェアハウスのようなところに住んでいたそうですね。

スガナミ:お金がなくて、2DKに8人で住んでたりしました。まるでテレビで取り上げられる不法滞在者みたいですよね(笑)。もともとは音楽ライターになりたくて東京に出てきたんですけど、やっぱり自分でも音楽をやらないとミュージシャンの気持ちがわからないなと思って、バンドを組んだんです。結局、音楽をやるほうが楽しくなって、ライター業は志半ばで辞めてしまったのですが。

―それで、GORO GOLOの活動に本腰を入れるようになったわけですね。結成当時から今のような音楽スタイルだったのですか?

スガナミ:はるかの鍵盤が入ったことで、パンキッシュなサウンドにジャズやファンクの要素が入り込んだのが大きな転換点になりましたね。当時、NHKで放送されたThe Specialsの日本公演をメンバー全員で観たんですけど、ものすごく衝撃を受けて。

―どんなところに惹かれたんですか?

スガナミ:白人も黒人も入り乱れて、すごく自由に演奏しているのに、ステージングはちゃんとしているんですよね。歌詞のメッセージが変なふうに和訳されて「オレたち監獄から出てきたぜ」みたいなテロップが流れるんですが、そのダサい感じもよかった(笑)。それで、みんなで「こういうのやりたいよね」ってなって、そのまんまスカをやるんじゃなくて、テンションだけを拝借したいなと。

はるか:みんな性格がヒネくれているので、「ジャズっぽい」とか「スカっぽい」とか、そういうのをあからさまに出すのが好きじゃないんです。恥ずかしいっていうか……。

スガナミ:それは共通認識としてずっとありますね。だからジャズをやろうとしてもテンポが速くなっちゃったり、違和感の残るようなサウンドになるんですけど(笑)。

―それが、GORO GOLOの愛嬌のあるサウンドにつながっているとも言えますね。The Specials以外で影響を受けたものってありますか?

スガナミ:GORO GOLOを結成した頃はまだ19歳くらいだったんですけど、BLUE BEAT PLAYERSがすごく好きで聴いていましたね。あとはThe Clashとか。

スガナミユウ

―スガナミさんの声ってThe Clashのジョー・ストラマーっぽくもありますよね?

スガナミ:え、ホントですか? 嬉しいです。The Clashは『London Calling』が好きだったんですよ。あのアルバムっていろいろな音楽の要素が入っているじゃないですか。

―それに、あの頃の彼らは、The Specialsと共鳴する部分が多かったですよね。でも、GORO GOLOは、2002年にSTIFFEEN Recordsから1stアルバムをリリースして、そのあとすぐに活動休止してしまったんですよね。

スガナミ:はい。当時はツインボーカル編成で活動していたんですけど、相方だったもう一人のボーカルが実家の都合で福島に帰らなければならなくなってしまったんです。1枚目のアルバムを発売してから3か月後ぐらいだったんですけど、このままだと物理的にバンドを続けるのが難しいな、と思ってしまって。

はるか:それに、やっぱり最初は「ツインボーカルじゃないのはイヤだな」という思いがありました。華がある方のボーカルが抜けてしまったので(笑)、「(ステージが)寂しく見えないか?」って心配でしたし。

スガナミ:でも、5年くらい前にドラマーのmatが結婚することになって、そのときの二次会で「またGORO GOLOをやろう!」ってことになったんですよ。今考えるとそれが復活のきっかけだったと思います。そこからまた少しずつ集まって、活動するようになった。それまでは、ツインボーカルの相方がいなくなったから物理的にできないと諦めてしまってたんですけど、改めて集まって音楽をやったら楽しかったし、自分がボーカリストとしてもっと頑張りたいと思ったんですよね。

はるか:さっき話したように心配もあったんですけど、スガナミやメンバーが一生懸命頑張っているのを見て、少しでもステージが華やかになるように、私も立って鍵盤を弾くようにしたりして、今のスタイルになりました。

左から:しいねはるか、スガナミユウ

―今作『Golden Rookie, Goes Loose』は、インストが6曲、歌モノが4曲っていうバランスも面白いですよね、ジェイムス・ブラウンとThe JB'sみたいな感じで。

スガナミ:確かにそうですね。それはよく言われます。あとは「ソウルレビュー」ってあるじゃないですか。オーティス・レディングやサム&デイヴのようなスターたちが、入れ替わり立ち替わり登場するショー。あれが大好きなので、自分たちのライブを構成する上でも影響を受けています。ただ、僕たちも大人になってきて向き合うものが増えてきたので、歌詞にはメッセージを込めたいという気持ちはあって。

―例えば、今作ではどんなメッセージを込めたのでしょう?

スガナミ:今回のアルバムでいうと、ダンス規制法のことを歌っている曲がすごく多いんですよ。“Back to dance floor”とか、“GOD SAVE THE DANCING QUEEN”とか。ただ、聴いてすぐにそれとわかるような、ストレートで辛辣なメッセージソングにはしたくない。照れくさいし、基本的にライブは楽しんで聴いてほしいっていうのがGORO GOLOの一番のメッセージなので。

―“MONKEY SHOW”は、黄色人種がブラックミュージックを奏でるということに対しての決意表明なのかな、と思いました。

スガナミ:そういう思いもありますね。あとは、僕らの周りにはパンクやハードコアをやっているバンドが多くて、メッセージをすごく大切にしているんです。彼らを見ていると「自分たちはパンクバンドとは言えないな」という空虚な気持ちになってくる。そこから、じゃあ自分たちは何のために音楽をやってるんだろう? ってことを考えたときに、人を楽しませるためにやっているんだな、ってことが改めてわかってきて。だから“MONKEY SHOW”は、自分たちを猿に見立てて、観てる人に楽しんでもらえるような存在でありたいという、自分たちの立ち位置を再確認する曲でもあるんですよね。

僕って何にもできない人なんですよ。だからこそ人に頼るのがうまいというか(笑)。(スガナミ)

―ソウルレビュー形式、という意味では音楽前夜社のスタイルもそこから影響を受けたのでは?

スガナミ:音楽前夜社は、レビューというよりはどちらかといえばティン・パン・アレー(細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆からなるユニット)に影響を受けています。ティン・パン・アレーってメンバーがすごく流動的じゃないですか? 音楽前夜社もプロジェクトによっていろいろな人が参加できるユニットにしたいんです。その屋号として「音楽前夜社」という名前があるというか。

―音楽前夜社は2008年に始まったわけですが、GORO GOLOが活動再開したのとほぼ同じ時期ですよね。

スガナミ:その時期やっていたバンドは、僕がポエトリーリーディングをやってたり、すごく長尺だったり、アウトサイダーな方向に極まっていたんですよね。そういうのは今でも嫌いじゃないんですけど、当時は精神論に走って、メンバー同士の関係もギスギスしていて。それで1回サラ地にして、もっとそれぞれがやりたい表現をお互いに手伝おうってことにして、音楽前夜社を始めたんです。

―音楽前夜社は、最初にお話しいただいた『ステゴロ』以外にも、様々なイベントを企画しているんですよね。

スガナミ:『新宿ロフト飲み会』という、2時間1,000円飲み放題のイベントを毎月やっています。その日だけロフトが新宿一安い居酒屋になるんですよ(笑)。ありがたいことに、いつもたくさんの人が集まってくれますね。

はるか:イベントを始めた当初、音楽をほとんど聴かないサラリーマンの人たちが、「新宿・飲み放題・安い」で検索して来てくれたことがありました(笑)。そしたら「楽しかったから」って言って次も来てくれたんですよ!

スガナミ:本当に嬉しかったですね。あとは、2月から『歌舞伎町スーパーフリー』っていう(笑)、無料のイベントを平日の夜にやる予定です。SCUM PARKやLess Than TV、Booty Tuneなど、東京のアンダーグラウンドシーンの牽引的存在のイベントやレーベルをお誘いして、一緒に面白いことやろうと思っています。

―音楽活動のやり方っていろいろあって、例えばCDを作って、ライブをして、売り上げを立てて……という普通の方法もあると思うんですけど、GORO GOLOは周りの人を巻き込んで新しい活動の場を作っていくようなスタイルですよね。

スガナミ:だんだん人が好きだなって気づき始めたのもありますし、あと僕って、あんまり何にもできない人なんですよ。だからこそ人に頼るのがうまいというか(笑)。でもそれって逆に考えると、人が必要だからこそ、人と一緒にやりたくなるんじゃないかなって。

はるか:スガナミは、人のいいところを見つけるのがうまいんですよね。好きなバンドを見つけると、3日間ぐらいその話をしているし(笑)。私の話をすると、昔はもっと自己主張したい気持ちもあったんですけど、音楽前夜社を始めて、それから震災もあって、考え方がだんだん変わってきたのはあります。みんなが自分らしくいられて、それを周りも肯定してあげられるような、人がいい循環で繋がっていくような場所を作りたいと思うようになりましたね。

スガナミ:好きなバンドはたくさんいるんですけど、それに比べて今のライブハウスの現状って厳しいじゃないですか。その現状を変えたいとは思っています。人が集まらないからバンドにノルマをかけて、バンドも身内にしかさばけなくて、結局人が少ないところで演奏する……みたいな状況だと誰にとってもメリットがない。だったら、とにかく人を集めようと。人が気さくに来れるような場を作っていけば、それが突破口になって、大きな力になるんじゃないかなと思っているんですよね。だから、まずはお金よりも出会いを大切にして、楽しく音楽をやれる場所の可能性を探っていきたいです。

リリース情報
GORO GOLO
『Golden Rookie, Goes Loose』(CD)

2014年1月8日発売
価格:2,000円(税込)
PCD-18762

1. Theme#5
2. Back to dance floor
3. More Japanisch
4. MONKEY SHOW
5. Theme#4
6. Midnight Hour
7. Blues Re:
8. GOD SAVE THE DANCING QUEEN
9. Say goodbye, Say yeah
10. One more time

プロフィール
GORO GOLO(ごろごろ)

音楽制作集団「音楽前夜社」主宰者スガナミユウ、太田忠志、きむらかずみ、しいねはるか、matによるダンス・ソウル・パンク・バンド。2000年初頭に西荻WATTSを中心に活動をするも、02年にアルバムを一枚残し、活動休止へ。その後、個々の活動を経て再結成されたバンドは昨年7インチをかつての古巣STIFFEENと音楽前夜社のダブル・ネームでリリース、そしてこの度1月8日に2nd『Golden Rookie, Goes Loose』を発売する。



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