『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』『夢と狂気の王国』……。2013年は例年以上にジブリ映画が注目を集めた年であり、その魅力と影響力の大きさが改めてクローズアップされた年でもあった。テレビでも再放送が繰り返され続けていることからもわかるように、大なり小なり日本人の多くが何かしらの形でジブリから影響を受け、原体験として強烈に刻まれているという人も少なくないだろう。その影響を自らのフィールドへ見事に昇華させたアーティストの代表格がDAISHI DANCEだ。ジブリ映画のメロディーにダンスミュージックのビートを融合し、2008年にリリースされた『the ジブリ set』は大ヒットを記録。そして今年12月、その第2弾となる『the ジブリ set 2』が5年ぶりにリリースされる。オリジナルを歌った本名陽子やセシル・コルベル、久石譲の娘でもあるシンガーの麻衣、三味線の吉田兄弟、武田真治がサックスで参加するなど、参加アーティストの豪華さには目を見張るものがあるが、なにより知ってほしいことはDAISHI DANCEの本作に対するアツいこだわりだ。原曲の世界観は決して壊さずに最新のトレンドを織り交ぜた絶妙なアレンジは、国内外で年150本以上ものパーティーをこなすDJとしてのバランス感覚、そしてすべての作品をリアルタイムで観てきたというジブリ愛あってのもの。ジブリ抜きには語れない楽曲制作の原点や、第2弾ならではの制作の裏側など、読めば本作を何倍も楽しめるに違いないDAISHI DANCEのインタビューをどうぞ!
“風の通り道”のメロディーとハウスミュージックのビートが融合したら、より高揚感が増していいんじゃないかというイメージが浮かんだんですよね。
―今作は、2008年にリリースされた『the ジブリ set』の第2弾になりますね。はじめにDAISHIさんがジブリにハマったきっかけから教えてもらえますか?
DAISHI:小学生のときに、『となりのトトロ』を映画館で観たんです。そこからは全作品映画館で観てますね。
―当時は音楽に興味を持つというよりは、純粋にストーリーが面白いという感じだったのでしょうか?
DAISHI:そうですね。音楽を意識するようになったのは大学生になってDJを始めてからです。再放送やDVDで、ジブリ作品をよく観ていたんですけど、特に『となりのトトロ』の「まっくろくろすけ」が夜空に向かって引っ越していくシーンと、バックに流れていた“風のとおり道”とのマッチングがすごくいいなと思って。そのメロディーとハウスミュージックのビートが融合したら、より高揚感が増すのでは? というイメージが浮かんだんですよね。
―それはまだ曲作りをする前のことですか?
DAISHI:10代からDJはやっていたんですけど、曲作りを始めたのはここ8年くらいなんですよ。初めて曲を作ったのは、ある企画盤のコンピレーションでお誘いを受けたのがきっかけだったんですけど、“風のとおり道”で浮かんだイメージがずっと残っていて、メロディアスで感動的なピアノのフレーズを作ってみたら、すごくうまくハマったんです。それが「ダンスミュージックとメロディアスなピアノ」っていうDAISHI DANCEのスタイルの原型になっています。
―DJでプレイするときは、当時からメロディアスなものをかけていたんですか?
DAISHI:プライベートでは久石譲さんのアルバムばかり聴いていましたけど、DJでは海外アーティストの最新曲をガンガンかけていまして、平日と週末に聴く音楽のギャップがすごかったです。90年代からメロディックなピアノが入ったハウスはたくさんありましたけど、どちらかというと盛り上がり系のジャンジャンしたピアノハウスが主流だったので、ジブリ音楽のようなメロディアスで切ないハウスミュージックはなかったと思います。
―逆に、やっている人がいなかったから自分で作ったようなところもあったのでしょうか?
DAISHI:「誰もやっていないから」という考えはなかったです。以前からジブリ映画を観ていて、ドラマティックなメロディーとダンスミュージックが融合したらいいなというイメージがずっと残っていたので、作ってみたというのがスタートです。ちなみに楽曲制作のきっかけになったコンピ盤は幻の企画になったんですけど、札幌のクラブで自作の曲をプレイしていたのをSTUDIO APARTMENTの森田くんが聴いてくれていたんですね。それをアルバムまで発展させて東京のレーベルからデビューという流れになりました!
―その曲はデビューアルバムに入っているのでしょうか?
DAISHI:『the P.I.A.N.O. set』の中に入っている“P.I.A.N.O.”という曲ですね。もちろん“風のとおり道”とは全然違いますが、日本人の心をくすぐる感動的なメロディーというものを突き詰めて作った曲です。
―ジブリ音楽のメロディーというのは、DAISHI DANCEさんの曲作りにおける、言わば原点のようなものなんですね。
DAISHI:大きなきっかけになってます。いまだに日本人の感覚に素直にメロディーを作ることを大事にしているし、ジブリ音楽から受けたインスピレーションが、今の自分の個性の1つになっていると思います。
映画のモデルになっていると言われている土地や施設の写真を撮るために全国をまわったりもしました。
―そこからDAISHIさんが『the ジブリ set』を作ることになったのには、どういう経緯があったのでしょう?
DAISHI:『the ジブリ set』を出す前から、趣味で“風のとおり道”のREMIXを作っていて。それがイメージ通りにすごくうまくできたんですけど、デビュータイミングから突然ジブリのカバーを出すことはできないので、2年かけて2つのオリジナルアルバムをリリースしてから、そのCDを名刺代わりにスタジオジブリさんと久石譲さんにお伺いをして、慎重に確認を取らせてもらいながらリリースできることになりました。今回も昨年末からスタジオジブリさんに何度かお伺いして、失礼のないように丁寧に制作を進めました。
―直接交渉に行かれたんですね! その1作目は大ヒットしたわけですけど、このタイミングで第2弾をリリースすることになったのには、どのような流れがあったのでしょう?
DAISHI:もともと1作目を出したときに、収録分数の関係もあって、希望曲を全部入れられなかったんです。でも、続編を作りたいなという思いもあって。それからなかなかタイミングがなかったんですけど、去年の秋に今年の計画を考えたときに、宮崎駿さんの『風立ちぬ』が公開されることが話題になっていて、『the ジブリ set』の1作目からちょうど5年だし、ジブリがまた盛り上がる年になるいいタイミングなんじゃないかなと思いまして。
―ずっと出したい気持ちはあったんですね。
DAISHI:そうですね。それで去年の暮れくらいにスタジオジブリさんにご挨拶に伺って、そこから制作がスタートしたんです。1年かけていろいろな確認をとったり、映画のモデルになっていると言われている土地や施設を撮るために全国をまわったり。
―写真もご自分で撮ったんですか?
DAISHI:はい。このジャケット写真も、今年の夏に羽田から新千歳に帰る飛行機の中から撮ったんですよ。「竜の巣」(『天空の城ラピュタ』に出てくる巨大な雲)の写真は常に撮りたいと思っていたので、飛行機に乗るときはできるだけ窓側に座って、いつでも撮れるように足元にカメラを置いているんですけど、この日は離陸する前から絵に描いたような入道雲が見えて、「キター!」と思って(笑)。この雲は飛行機3つ分くらいはある、すごく大きい雲だったんです。
DAISHI DANCE『the ジブリset 2』ジャケット
―ブックレットに使っている写真も、全部DAISHIさんが撮ったのでしょうか?
DAISHI:そうです。写真を撮るのは好きなんですけど、さすがにジャケットはプロのカメラマンに撮ってもらったほうがいいなと思って、今まではディレクションだけやって、撮影はお願いしてたんです。でも、OLYMPUS OMDというカメラの性能がすごくよいので、9月に出した『NEW PARTY!』というアルバムから自分で撮影してみようと思って、弾丸で屋久島に撮影に行って、初めて自分で撮った写真を使ってみました。それで自信がついたわけじゃないですけど、今はカメラの性能もいいし、アングルやシチュエーション次第で、自分で撮った写真でも使えるなと思いまして。
―今回のジャケット用の写真を撮るのに何か所ぐらいまわりましたか?
DAISHI:候補も含めたら10か所くらいですかね。
―いまどきジャケットのためにそれだけ飛び回るのって、なかなかないですよね……。カメラが趣味だとはいえ、作品に対しての愛があるからこそですよね。
DAISHI:音楽を作るのも大好きですけど、ジャケットを作るのも同じくらい大好きなんです。 今まではお気に入りの写真家さんにお願いしてデザインのディレクションをするのが楽しみだったのですが、最近は自分で撮る行程が加わったので、新しい趣味ができたような気分で、次回作以降の撮影候補地などを既に想像してみています。
この5年のうちにダンスミュージックのシーンはテンションが高くなっているんです。
―今回のアルバムには、『the ジブリ set』に収録されていた曲も入っていますよね。選曲には、どのようなこだわりがあるのでしょう?
DAISHI:全部、未収録曲で作れるといえば作れるんですよ。でも、 例えば“君をのせて”が入ってないのは寂しいし、“風の通り道”も作曲活動のきっかけになった曲だから外せないし。だから、1作目に入れた曲は新しいアレンジにしました。好きな曲の新しいバージョンって聴いてみたいかなって思いますし。一方で、この5年で新しい映画もたくさん公開されたので、そこからもピックアップさせてもらったり、1作目では入れられなかった“やさしさに包まれたなら”や、『紅の豚』からも2曲入れたり、新鮮さと安心感の両方を感じられる選曲にしてみました。
―歌は新たに録ったのでしょうか?
DAISHI:もちろんすべて新しく録りました。セシル・コルベルさんはフランスに住んでいるので、さすがに現地には行ってないですけど、もともと『借りぐらしのアリエッティ』を観たときに、すごくいい声だなと思って、自分のオリジナルアルバム(『Wonder Tourism』収録“Take me hand”)でも歌ってもらったんです。その流れで今回もお願いさせてもらいました。
―“君をのせて”と“カントリー・ロード”は日本語になりましたよね(“カントリー・ロード”は“Take Me Home, Country Roads”として英語版も収録)。
DAISHI:この2曲に関してはそのまま日本語がいいなと思って。基本的に自分の作品はクラブでかけられるように英語で作っていて、1作目も全部英詞にしていたんですけど、この2曲ならみんなで歌えるなと思ったので、今回は日本語にしたんです。“君をのせて”は前作同様に麻衣さんに大合唱のイメージでコーラスアレンジしてもらって、“カントリー・ロード”は月島雫役の本名陽子さんにお願いできて、レコーディングも映画の世界に入ったような不思議な感覚で楽しかったです。どちらも、より原曲に近いけどDAISHI DANCE節なトラックにしました。
―クラブでかけたら確実に大合唱ですよね。ジブリ音楽をクラブ仕様にアレンジするという点で意識されたことはありますか?
DAISHI:1作目に関しては、原曲の邪魔にならないように意識しながら、いかにもDAISHI DANCEらしいカラーのダンスミュージックの要素を足していたんです。今回も半分くらいは1作目の作り方の流れを汲んでいるんですけど、残りの半分は、原曲の表情によって、それぞれに合ったアプローチで作りました。例えば“やさしさに包まれたなら”や“ひこうき雲”は、もともと原曲が洋楽っぽい雰囲気なんですよ。
―どちらもユーミン作品ですよね。
DAISHI:この2曲は自分の最新アルバムでやっているような感じで作っても面白い世界観になるなと思って、ダンスミュージックのトレンドを意識して作ってますね。あとは“Take Me Home, Country Roads”も、今っぽいリミックスのやり方で、武田真治先輩(二人は高校の先輩後輩)にサックスを吹いてもらったり。逆に“あの夏へ”や、“帰らざる日々”は、ジャジーヒップホップ的な要素で作っていて。
―曲名に「Mellow mix」とついている2曲ですね。
DAISHI:もともと自分のメロディーとジャジーヒップホップ的な要素は合うと思っていたんですけど “あの夏へ”は1作目にも入れていたので新しいアプローチで作り直したんです。だから今作は、今っぽいトレンド感でアレンジしたり、定番の安定感を出したり、全然違う方向性でロービートで作ってみたり、振り幅を広げたことで、新鮮味も増しているんじゃないかと思います。
―前作に比べると、よりチャレンジした感じに仕上がっているということでしょうか?
DAISHI:チャレンジというわけでもないんですけど、この5年のうちにダンスミュージックのシーンはテンションが高くなっているんですよ。昔はストリングスも生がよかったけど、今はシンセストリングスのほうがDJ的には盛り上がったりするという変化もありますし。“風のとおり道”も1作目では原曲にビートを足した感じのメロディアスなアレンジになっているけど、今回はちょっと攻めたダンスミュージックにして、さらに吉田兄弟に三味線を入れてもらって、化学反応的な新しさを出してみました。
―確かに1作目と比べて、曲調に広がりがありますよね。
DAISHI:今回はダンスミュージックのなかでも3ジャンルくらいまたいで入っているんですよ。だから、マスタリングにもすごくこだわっています。もともとやわらかい曲もあれば、シンセがワッとエッジな曲もあるので、統一感を出せるようにエンジニアさんと試行錯誤しましたね。攻めてはいるけどうるさくないっていう、絶妙なバランスに仕上げられたと思います。
ジブリ映画は、観た後に残る余韻が一貫してますよね。忘れかけていた大事なことをハッと思い出させるというか。
―実際にクラブでDJをやるときは、ジブリの曲はかけているんですか?
DAISHI:時期にもよりますね。95%は海外新譜をかけますが、リリースした直後はお客さんが期待してくれることもあって、1作目の直後はけっこうかけてましたね。あと、テレビでジブリ映画を再放送した夜や、その週末にかけることも多いです。
―それは盛り上がりますね。
DAISHI:実際に、テレビを観てからクラブに来る人もたくさんいるし、観てなくても「そういえば今日やってたよね」という話題になったり、かけたときの爆発力がすごいですね。今回も全国でリリースパーティーをやろうと思ってますし、これを買ってクラブに来る人もいると思うので、海外の新譜を中心にかけつつ、バランスを見てドン! と投下していこうと思ってます。
―DAISHIさん自身、こういう作品を作って深くコミットすることで、ジブリに対する捉え方が変化したり、新たに魅力を感じるようになったことはありますか?
DAISHI:作品を作って大きく変化したわけではないんですけど、ついこの前も公開されたばかりの『かぐや姫の物語』を観て、どの作品もそれぞれの時代に応じたメッセージはありつつ、観た後に残る余韻が一貫してるなと思いましたね。忘れかけていた大事なことをハッと思い出させるというか。例えば、人に親切にしなきゃってことだったり、改めて日本のよさだったり。
―忙しく日常を過ごしていると、わかっていても気がまわらなかったりしますもんね。
DAISHI:わーっと忙しく生活していると、忘れていることってあると思うんですよ。例えば、車を運転しているとき、急いでいると、ここでバスには入られたくないなって思うことも正直あるわけじゃないですか? だけどジブリの映画を観た後だったら、ダンプカーだろうが、のろのろ走る車だろうが、気持よく「どうぞどうぞ」と2台くらい入れてあげる余裕ができると思うんですよ(笑)。
―確かに、ジブリの映画を観たり、音楽を聴いた後に、荒っぽい運転をしようとは思わないですもんね。
DAISHI:極端な話ですけど、明日人を殺すかもしれない人が、たまたま前日にテレビで『となりのトトロ』の再放送を観たら、殺さないと思うんですよね。そのくらい影響力があるのはジブリだけだと思うんです。この前も『かぐや姫の物語』を観たときに、「あー、日本っていいなー」って思いましたから。
―DAISHIさんは、「今」の感覚にすぐれているのと同時に、「懐かしさ」や「日本人らしさ」といった感覚も大事にされていますよね。今でも札幌を拠点に活動を続けられていることなどは、そういった部分も関係あるんでしょうか?
DAISHI:日本人らしさを出そうという感覚はないですよ。ただ、自分は日本人なのでやっぱり和を感じるメロディーっていいなと思うし、自然とそうなっている部分はあるかもしれないですね。いまだ札幌在住なのは、DJというのは毎週移動して、違う土地を現場にしていて。東京に住んだとしてもほとんど移動することになるので、それだったら、住み慣れた札幌を拠点にすることで気持ちもリセットできるし、自分の感覚を見失わないでいられると思っています。それに約200万人都市の札幌の応援ってすごいんですよ!
―今回の作品を聴いて、クラブに行くきっかけになってほしいという気持ちもありますか?
DAISHI:クラブに来てもらいたいという想いは、MIX CDや、オリジナルアルバムで表現しているので、これに関してはクラブとは全然結びつけて考えていないんです。このCDで久しぶりに“君をのせて”を聴いてジブリの映画をすぐ観たいと思ってくれたり、そういうきっかけになってくれたら。実際、僕も本名陽子さんとレコーディングしてから、また『耳をすませば』を観たし、モデルとなった聖蹟桜ヶ丘にも行って写真撮ってきました(笑)。
- リリース情報
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- DAISHI DANCE
『the ジブリset 2』(CD) -
2013年12月18日発売
価格:2,800円(税込)
DDCB-180021. 天空の城ラピュタ:君をのせて feat.麻衣(JPN ver.)
2. 魔女の宅急便:やさしさに包まれたなら feat.GILLE
3. 耳をすませば:カントリー・ロード feat.本名陽子(JPN ver.)
4. となりのトトロ:風のとおり道 feat.吉田兄弟
5. もののけ姫:アシタカとサン
6. 借りぐらしのアリエッティ:Arrietty's Song feat.Cecile Corbel
7. 紅の豚:帰らざる日々(Mellow mix)
8. 紅の豚:時には昔の話を feat.COLDFEET
9. 風立ちぬ:ひこうき雲 feat.arvin homa aya
10. 千と千尋の神隠し:あの夏へ(Mellow mix)
11. コクリコ坂から:さよならの夏〜コクリコ坂から〜 feat.Lori Fine(COLDFEET)
12. 耳をすませば:Take Me Home, Country Roads feat.arvin homa aya, SHINJI TAKEDA Re-Visited SAX mix
- DAISHI DANCE
- プロフィール
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- DAISHI DANCE (だいしだんす)
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札幌を拠点に活動するハウスDJ。メロディアスなHOUSEからマッシブなHOUSEまでハイブリッドでカッティングエッジなDJスタイルでダンスフロアに強烈なピークタイムと一体感を創り出す。ピアノやストリングスを軸としたメロディアスな楽曲プロデュースが特徴的。
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