何気ない日常を趣深い物語に変える言語感覚も、曲に合わせた柔軟な楽器使いも、普通のバンドマンとは異なる活動を続ける彼だからこそ生み出せるものなのだろう。アイリッシュやカントリーなどを取り入れたアコースティックバンド「コケストラ」に始まり、子どもたちに大人の本気を見せつけることをめざした「歌のおじちゃん」4人組バンド「COINN」、ショピンの野々歩との親子で楽しめる童謡や遊び歌のユニット「ノノホとコーセイ」など数々の遍歴を持ち、さらにはひっそりと小学生向け音楽教室のギター講師も行っている小田晃生が、シンガーソングライターとしては実に5年ぶりとなるアルバムをリリースした。そのタイトルどおり、バラバラなアプローチで挑んだ10曲を収録した『チグハグソングス』は、どこかほのぼのとした彼の人間性が一貫して伝わってくる魅力的な作品だ。これまでの歩みとソロ活動の位置づけ、そしてハッと驚くMVについてを含む今作のこと。たっぷりと語ってもらった。
やりたいと思ったことにとことん時間を使える学校だったので、高校時代は芝居をやったり、バンドをやったり、しこたま好きなことをやってました。
―まずは小田さんが何者なのかというところから紐解きたいのですが、音楽活動はいつ頃からスタートしたんですか?
小田:表立って始めたのは、同じ高校の卒業生で結成した「コケストラ」というバンドです。すごくへんてこな誕生の仕方をしまして、ポリスターレコードの牧村さんというプロデューサーの方のアイデアで、いきなりCDをつくる企画から生まれたバンドなんです。
―ポリスターの牧村さんと言えば、シュガー・ベイブやフリッパーズ・ギターも手がけた超有名プロデューサーじゃないですか?
小田:そうなんです。「もう定年も近いし、最後に好きなことやって、パーッと終わらせたいんだよね」みたいなことを言っていたみたいで。本当はオムニバスみたいなものを想定していたみたいなんですけど、僕たちはデビューできるものだと勘違いして、バンドを組んじゃったんです(笑)。いまショピンというバンドでボーカルをやっている野々歩(ののほ)と、柴山真人というフィドルのメンバーと三人でやっていました。何年か前に活動休止しちゃったんですけどね。
―コケストラはどんなバンドだったんですか?
小田:音響設備がなくてもできるアコースティックな編成で、歌詞が柔らかいこともあって、自然と子どもたちの前で演奏する機会が多かったですね。音楽劇をやったりしてすごく面白かったんですけど、そのバンドではなかなかできなそうな曲がたまっていって、ソロ活動も始めました。
―自分で曲を作るようになったのは、いつ頃からですか?
小田:しっかり作り始めたのはコケストラをやるようになってからです。高校生の頃からがんばって書いてはいたんですけど、最初はミスチルのマネみたいな曲ばっかりでしたね。でも高校の頃は寮生だったので、昼も夜も音楽やらお芝居やら、好きなことにしこたま時間を使ってましたよ。
―自由の森学園といえば、永積タカシさんとか、星野源さんとか、ミュージシャンをたくさん輩出してますよね。
小田:普通科しか無いんですけどね。音楽の学校なの? と訊かれることがあります(笑)。今回の作品にも、同じ高校出身の元SAKEROCKの二人(田中馨と野村卓史)に参加してもらっています。ちょっと年が離れているので、関わるようになったのは卒業してからですけどね。ミュージシャンだけじゃなく、卒業してからいろいろなお仕事の現場で、同窓生と出会うことがありますよ。
僕は「チグハグ」や「デタラメ」に憧れているけど、実際にはそういう人間にはなりきれないんです。でも、少しはそういう部分があるし、そこに面白さがあるとも思うから、あえて「デタラメ」なことに挑戦してみようと。
―今回のアルバム『チグハグソングス』は、5年という長い時間を経ての新作になりますよね。
小田:今回痛感しましたけど、ソロって後回しになっちゃうんです。この5年の間に新しいユニットを組んだりもしていて、やっぱり人と関わることのほうが優先されるんですよね。でも、その中でコツコツ作りためていた曲がようやくまとまったという感じです。
―どんなコンセプトで制作を進めていたんですか?
小田:先に『チグハグソングス』というタイトルのアルバムを作ろうというのがあって、曲ごとに世界観が異なるところにあるというか、「全体が散らばっているということをコンセプトにしたかったんです。僕は絵を描いても塗るのをサボったり、同じような色の服ばかり買っちゃったり、色とりどりな感じを発想するのが苦手なんですけど、あえてデタラメなものや予測がつかないものを目指したかったんです。
―それはなぜでしょう?
小田:僕は「チグハグ」だったり「デタラメ」に憧れてはいるけれど、実際にはそういう人間にはなれないんです。例えば、タオルをたたんだら角はピシっと揃えたくなりますし、食器がごちゃっとなってたら洗いたくなるし。基本的に僕、意外なこととか言えないんですよね。かなり真っ当な人間なんじゃないかなっていう自信がある(笑)。就職してないし、知らないこともいっぱいあるんですけど、そこまで他人にヒドいこともしてないと思いますし。やっぱり音楽をやっていると、すごい人の話っていっぱい聞くじゃないですか。
―確かにメチャクチャなミュージシャンとかいますよね。
小田:良くも悪くも、普通の自分の中で憧れが募って生まれたのが「チグハグ」という言葉だったんです。『チグハグソングス』なら「グ」が3回あって韻を踏んでるのも面白いし、まず冠を先につけて、そこに向かってできあがった曲を並べていきました。
―でも、“僕はこわくなった”や“44ひきのねこ”など、かなり振れ幅がある楽曲を聴いていると、小田さんが『チグハグソングス』という世界を構築したのには、1人の人間が1つの人格を担って生きていかなければならないということを、了解していない感覚があるのかなと思ったんです。人って、毎日考えることも違うし、少しずつ変化していくのに、社会性を保つために、ずっと同一の人間として生きていかなくてはならないという矛盾に抗っているというか。
小田:それは本当にそうで、1人の人間の中って、本当はごちゃごちゃしてるじゃないですか。いろんなことを考えながら別のことをやってたりとか。昔、CD屋でバイトしていたんですけど、同じ日に発売されたモーニング娘。の最新シングルとQUEENのリマスター盤を同時に買っていくおじさんがいたりして、チグハグしてるなって思ったんですよ。でも、自分もそういう部分があるし、それは認めたほうがいいし、そこに面白さがあるとも思うんです。
どんな些細なことでも、強みにしようと思えばできると思うんです。
―でも、小田さんの場合、いろんなチグハグした部分を出しても、全体的にほのぼのした感じがしますよね。そこは人柄なんですかね?
小田:なんか、ほのぼのしちゃうんですよね(笑)。それは自分でも聴いていて感じます。
―“雨男”とか、歌詞自体はハードボイルドだけど、歌を聴くとどこかやさしい感じがしたり。
小田:ライブだったら、そのとき限りの演奏なので歌が暴れることもあるんですけど、そういう歌を録音物として聴くと、ちょっと嫌な感じがしちゃうんですよね。「このヒステリックな感じはちょっと……」みたいな。でも、今回作ってみて、もっとメチャクチャやれるような手応えがつかめたので、次は「ギャー!!!」みたいな要素も入れたいなって。「ネオチグハグ」を目指します(笑)。
―でも、小田さん自身の性格が変わらない限り、ほのぼのした感じは抜けなさそうですけどね。それはそれで面白そうですけど。やっぱり私生活から荒れていかないと(笑)。
小田:そうですね。芸の肥やしを蓄えておきます(笑)。
―小田さんは子ども向けの音楽教室にも講師として参加されていますけど、それが作品に影響を与えている部分もあると思うんです。
小田:教えている立場ですけど、僕が学んでいる部分もいっぱいあって。例えば、初めて触れる楽器って、大人でもすごく楽しいじゃないですか。でも、鳴らすことに夢中になりすぎると、他人とアンサンブルができなくなる。これが子どもたちを見ていて発見したことでした。僕の教えている教室ではリコーダーがメインなんですけど、だんだん上達して、リコーダーというものがある程度当たり前のものになってきて初めて、僕のギターの伴奏に気がついてくれている気がするんですよね。
―音を出すことが楽しいんじゃなくて、音が合わさることが楽しいと思えるようにならないと、アンサンブルはできないということですね。
小田:それに、誰かのために音を出すことが楽しくなると、全体としてもすごく面白くなるんですよね。それを自然に体得してしまう子どもたちの夢中さとか、熱心さっていうのは、うらやましかったりしますね。この感覚を思い出さなきゃなと思うことも多いです。
―大人になってからは、なかなか得がたい感覚ですよね。
小田:すごいですよ、彼ら。反応がダイレクトですし。教えていても、つまらなかったらすぐ「帰りたい」って言いますしね(笑)。大人のルールが通用しない。逆に彼らが喜んだときは本当だっていう感じもして、それは音楽を作るうえでも役立ってますね。
―今回のアルバムでいう“海の食事”は、童謡っぽさもあるじゃないですか。それは普段から子どもに教えているからできた曲なのかなと思ったんですけど。
小田:そうかもしれないですね。童謡ってすごいんです。あのシンプルな構造で、同じメロディーを何回か繰り返して、歌詞だけ変わって終わったり、1番だけで終わったり。そんなに凝ったコードを使っているわけではないのに、ズシッと残るものがあるというか、そういう童謡の美しい形には憧れがありますね。
―童謡の歌詞って、内容自体はごく普通のことを言っていたりするじゃないですか。でも、ちょっと言い方を変えるだけで趣深いものになるというか。小田さんの歌詞は、全体的にそういう表現の仕方が素敵だなと思うんですけど、意識的にやっているものなんですか?
小田:日記みたいな文章にはならないようにしようという意識はありますね。これは詞であって、ただ気持ちをそのまま綴った文章よりも、一段繰り上げたものを客観的に書けたらいいなというか。
―例えば“海の食事”の歌詞だと<海の食事は果てしない掃除>というのを、「波が打ち寄せて、海岸線を侵食する」と言っても内容は同じになると思うんですけど、その表現を工夫することで、なんだか楽しい気持ちになるというか。
小田:その比喩を楽しめるセンスを人間は持っているから、歌や曲がみんな好きなんでしょうね。“海の食事”はそのイマジネーションに素直に乗っかってるケースですけど、それを裏切る方法もあると思うんです。逆に論文みたいな歌詞にしてしまったりとか。
―「リアス式海岸はこうして作られて~」とか(笑)。
小田:そうそう(笑)。それを歌にしてみても、逆に何か生まれそうですけどね。何をテーマにして曲に作るかということを考えるのは楽しい作業ですし、どんな些細なことであっても、そこを極めれば強みになると思うんです。去年の冬に、普段から仲良しで今回もジャケットのデザインをお願いした、小田聖子ちゃんがやっているmonowanoという料理や空間デザインなどを手がける3人組と一緒にイベントをやったんですけど、お客さんがテーブルのまわりをぐるぐるまわって、曲が止まったら目の前にある調味料を混ぜてドレッシングを作るというゲームをやったんです。そのための曲を僕が書いたりして。
―それは楽しそう!
小田:ついこの前も、ギターの先生として3か月のレッスンをしたんですけど、最後に各自でテーマを決めて、短い曲を書いてくるという宿題を出したんです。そしたらみんなすごくいい曲を書いてきたんですよね。短いんだけど、濃いんです。自分の名字をテーマにした曲とか、とにかく時間が足りない! っていう曲とか(笑)。なんでも歌になるんだなって思いましたね。
ここに辿り着くまでの活動の中で、いろんな仲間ができて、やっと一人で出す自信が生まれたというか。
―“ネムネムの国”のMVについてもお聞きしたいんですけど、これは鏡の部分に映像を埋め込んでいるんですか?
小田:合成は一切してないんです。鏡をたくさん貼った壁を立てて、余計なものがカメラに写り込まないように撮影していて。
―全部リアルで撮ってるんですね!(驚)
小田:上から小道具を吊って撮ったり、隣の鏡に体が映らないようにしたり(笑)。アイデアいっぱいですね。
―監督はWHITE ASHの“Jails”でも話題(ボーカルの「のび太」がストリートダンスを披露するMVで、YouTubeでは再生数100万回超えを記録)を呼んだ林徹太郎さんなんですね。
小田:実は5年前の前作でも、“夜道”という曲のMVを作ってもらってるんですよ。今回のアイデアは、林さんが中国に行ったときに、移動遊園地みたいなところで、ものすごい高さのある鏡の前の床にビルの絵が描いてあって、そこを歩くと鏡の中で人がビルを登っているみたいに映るっていうアトラクションがあったらしくて、それをやりたいって言われたんです。でも、予算的にも無理だし、まず撮影場所が見つからないという話になって。最終的にたくさん鏡を使って撮りたいということになって、ここにたどり着いたんです。
―これはこれで、めちゃくちゃ大変そうですけどね。
小田:カメラの前に鏡を置くのはかなり自殺行為なので、ものすごく緻密に配置や角度を決めて撮影しましたね。完成だと思って映像を見直したら、カメラが見切れていたこともありました(笑)。撮影スタッフの方が制作風景をずっと押さえていたので、これからオフショットの映像をまとめて公開するかもしれません。すごく面白い撮影でしたね。
―それはぜひ公開してください! 最後に今後の話も伺いたいんですけど、いただいた紙資料に小田さんの携帯番号が書いてあってビックリしたんですよ。いまは完全に一人で動いているんですか?
小田:一人ではあるんですけど、林監督や、今日インタビュー写真を撮ってくれている相澤さん、参加ミュージシャン、ほかにもいろいろなところでこうやって助力してくれる人がいてくれて、なんとかなっている感じですね。ここに辿り着くまでの活動の中で、いろんな仲間ができて、やっと一人で出す自信ができたというか。
―ソロミュージシャン一本に絞ってやっていきたいという気持ちはありますか?
小田:ソロは他の活動で得たものをアウトプットする場所であって、ソロだけでインプットするのはなかなか難しくて。もちろんソロの活動が生活を支えてくれたり、次に繋がるものにしたいという気持ちはあるんですけど、思いついたアイデアや、自分の体でやれることは全部やらないと、僕はすぐ枯れてしまう気がするんです。
―では、この先もこのままのスタンスで活動していく?
小田:そうですね。これでうまくまわっていけたら。今回の作品にはいろいろな曲が入っているので、これが音楽家として僕ができることをプレゼンする資料のようなものになってくれるのもいいなと思ってます。「僕はこういう作品を作れるんですけど、どうですか?」みたいな。自分ができることや、興味があることをソロ活動で見せて、それを健全な形で次に繋げられれば理想的ですね。
- リリース情報
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- 小田晃生
『チグハグソングス』(CD) -
2014年3月29日(土)発売
価格:2,520円(税込)
TORCH-0011. チグハグ
2. 僕はこわくなった
3. ネムネムの国
4. 海の食事
5. スラローム
6. 44ひきのねこ
7. うっかりの日
8. 猟師と三日月
9. 雨男
10. 旅のもの
- 小田晃生
- プロフィール
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- 小田晃生(おだ こうせい)
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音楽家。作詞作曲と歌、演奏楽器は主にギター、パーカッションなど。2006年頃より、ソロ名義でのギター弾き語りを中心としたライブ活動を始め、小さな呑み屋や食べもの屋さん、ライヴハウス、コンサートホールなどなど、大小さまざまな会場で幅広く演奏を行っている。これまでに2つのアルバム作品『まるかいてちょん』('07年)『発明』('08年)をリリースした。また、こどもとその親たちの為のコンサートや音楽制作も行っており、齋藤紘良率いる4人組チルドレンミュージックバンド“COINN”のドラムとバンジョー。そして、ショピンのボーカル、野々歩とのふたりユニット“ノノホとコーセイ”のギターとして所属し、それぞれで歌や作曲も手がけている。そのほかに、舞台・映像作品・CMなどの音楽制作や、小学生向け音楽教室のギター講師などの活動の場も持つ。2012年、NHK Eテレで放映された5分アニメ「ノンフィクション型旅アニメ おかっぱちゃん旅に出る」では、声の出演として、全13話で登場するたくさんの奇天烈で愉快なキャラクターたちを声色を変えながら演じた。
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