谷川俊太郎×DECO*27対談 「詩はいつでも歌に憧れてる」

新年度の幕開けにふさわしい、異色のビッグ対談が実現した。日本が世界に誇る現代詩人・谷川俊太郎と、先日全編初音ミクを使用した新作『Conti New』を発表したばかりの気鋭のボーカロイドプロデューサー・DECO*27。年齢差55歳、現代詩とボーカロイドという組み合わせに「?」を思い浮かべる人もいることだろう。しかし、谷川は大の音楽ファンとして知られ、ニコニコ動画への出演経験もあり、初音ミクへの興味も十分。一方のDECO*27も歌詞に対するこだわりはボカロP界隈でもトップクラスで、ミクの声の聴き取りやすさを楽曲の最重要課題とするような言葉の人。実際に対談が始まってみると、あれよあれよと二人の共通点が浮き彫りになって、対談時間はあっという間に過ぎ去っていった。

やはり何より驚くべきは、谷川の若々しい感性。「無邪気」という形容が一番しっくりくるように思うのだが、人間の奥底にある集合的無意識を見つめ、何に対してもフラットな目線で興味を持っているからこそ、谷川の作品には何気ない日常の一コマと、生命や宇宙の神秘とが、何の違和感もなく共存しているのだと感じられた。そしてDECO*27にしても、昨年音楽家としての再スタートを切り、今また音楽と無邪気に戯れている真っ最中。変化球かと思いきや、実は2014年における文化・芸術のあり方にど真ん中から切り込んだ、非常に刺激的な対談となった。

“鉄腕アトム”が初めての曲先で、あれはアトムの特徴を入れていけばいいわけだからわりあい楽だったんだけど、それでも途中を「ラララ」でごまかしたわけ(笑)。曲先って難しくて、できれば詞先の方がありがたい。(谷川)

―今回対談を行うにあたって、事前に谷川さんにデコさんの作品を聴いていただいたかと思うのですが、どんな感想を持たれましたか?

谷川:どこがいいんだか全然理解できない(笑)。つまり、ボーカロイドっていうものの存在自体が理解できない。

DECO*27:リアルですね(笑)。

谷川:詩集なんかも出してるの?

DECO*27:いえ、僕は歌詞しか書いてないので、詩集は出していないんです。

左から:DECO*27、谷川俊太郎
左から:DECO*27、谷川俊太郎

―デコさんはいつも「曲先」(歌詞よりも曲を先に作ること)なんですよね。

DECO*27:全部そうです。僕は作る過程の中で、作詞が一番好きなんですよ。ご飯を食べるとき、美味しいものを最後までとっておくタイプなので、音楽を作る場合も先にメロディーを考えて、コードをつけて、最後に言葉を気持ちいいようにあてはめていきます。メロディーと言葉のパズルをやってるような気持ちなんです。

谷川:僕は“鉄腕アトム”が初めての曲先で、あれはアトムの特徴を入れていけばいいわけだからわりあい楽だったんだけど、それでも途中を「ラララ」でごまかしたわけ(笑)。曲先って難しくて、その後もときどき曲先でやるんだけど、できれば詞先の方がありがたい。『ハウルの動く城』(“世界の約束”)のときも曲先で、できあがっても、やっぱり自分では何となく不満なんだよね。

DECO*27:谷川さんは詩を書くときに、自分の中にリズムがあって書くんですか?

谷川:何にもなくて、自分を空っぽにして待ってると、言葉が出てくるみたいな感じかな。

DECO*27:ペンで書かれるんですか?

谷川:いや、Macですね。僕は字が下手で、字を書くのが嫌いなの。

DECO*27:あっ、僕も字を書くの超嫌いです。自分の書く字が下手で、「ウワー」ってなっちゃうんで。

谷川:じゃあ同じだよ(笑)。それに鉛筆で書くと消しゴムのかすがたまっちゃって汚いけど、パソコンは簡単に言葉を入れ替えたりできるでしょ? だからワープロの時代からキーボードで書いていて、すごい助かってるわけ。

谷川俊太郎

DECO*27:意外でした。筆とか万年筆で書かれてるのかなって、勝手にイメージしていたので。

谷川:詩人ってそうしたイメージをもたれることが多いですよね。僕の場合、映画なんかで外国の作家がタイプライターを使っているのを見て、それにすごく憧れてね。それがようやく、ワープロで実現したわけ。だけどね、文学館関係の人は困るんだって。昔は「宮沢賢治の生原稿」なんて、ガラスの中にうやうやしく置いてあったわけじゃない? それがワープロになると、どうやっていいかわからないでしょ?(笑)

DECO*27:Macを置くしかないですね(笑)。

谷川:USBのメモリを置いておくとかね(笑)。

散文はやっぱり何を伝えるとか、正確さみたいなものが求められるけど、詩は正確じゃなくていい。曖昧で、どんな解釈も許すっていうところが面白いんですよね。(谷川)

谷川:アナログっぽいもの、生のものが懐かしいっていう感覚はない?

DECO*27:初めて音楽を聴いたのがカセットテープで、そこからCDになって、MDになって、今はデータで音楽を聴いているんです。だからカセットテープは、すごく懐かしく感じます。

谷川:僕のときはまだLP以前のSPレコードっていうのがあって、蓄音機で聴いていたんです。その後にLP、ドーナツ盤の45回転になって、オープンリールのテープレコーダーがあって、カセットテープになって……。

DECO*27:ようやくわかるところに(笑)。

谷川:それからCDになって、今はウェブからダウンロードする、ハイレゾとかそういうのになってて、一応全部知ってるわけ。

―ダウンロードしてお聴きになられたりもするんですか!?

谷川:ときどきね。僕は電気少年で、10代の頃は真空管ラジオを組み立てるのがすごく好きで、詩を書くよりもそっちに夢中だったの。自分で作ったラジオで外国の音が聴こえたときは、もう嬉しくてしょうがなくて、だから今でも何となく電気関係には関心があるんですよ。意味なく家電量販店の店内をうろついたりとか(笑)。

DECO*27:僕も家電大好きです!

谷川:そうなの? 趣味が合うね(笑)。

DECO*27:家電量販店に行くとすごいテンション上がるタイプで、買うわけでもないのに一番新しい洗濯機を見て、今どういう機能があるのかチェックしたりします。

谷川:僕もそうだよ。家電量販店を散歩して、ときどき無駄な買い物もする(笑)。

谷川俊太郎

―そういうことが詩作とつながっていたりもするんですか?

谷川:あるかもしれませんね。自分では気づいてなくても、そういう場所に行くことで、時代の雰囲気みたいなものは捉えていると思うし。それから僕、若い頃はプロダクトデザインがすごく好きだったの。ラジオや自動車、家電とか、そういう「物のデザイン」を美しいと思う感覚が、言葉にも通じてるんじゃないかって思ったりね。

―散文とは異なって、詩にはフォルムの美しさがありますもんね。

谷川:そうですよね。日本の伝統的な俳句・短歌っていうのは、五七五・五七五七七の定型詩だったから、日本人の感覚にはいまだに七五調が残っているんですよね。我々は戦後に自由詩っていうので始めて、「七五調は奴隷の韻律だ」って言う人もいたんだけど、美しさで勝負してるっていう意味では七五調も自由詩も同じだし、そこが散文とは違うと思うんです。散文はやっぱり何を伝えるとか、正確さみたいなものが求められるけど、詩は正確じゃなくていい。曖昧で、どんな解釈も許すっていうところが面白いんですよね。

初音ミクに似てきてるのかもしれないです(笑)。(DECO*27)

―それはまさに、歌詞にも通じるお話ですね。

谷川:歌詞を書くときに、詩人の詩を参考にしたりもするの? 日本には偉い詩人がいるじゃない? 高村光太郎とか宮沢賢治とかさ、そういうのは全然関係ない感じ?

DECO*27:関係ないです。

谷川:おー、そこがすごいね。詩人を目指す人は大体あの辺に引っかかってて、「僕も宮沢賢治になりたい」とかって思う人が多いわけ。そこから自由でいられているのは、すごくいいと思うよ。

DECO*27:僕は好きなアーティストの歌詞とかから影響を受けていて、松山千春さんから始まり、19とかゆず、BUMP OF CHICKENとか、曲も詞も両方書いて歌ってる人から影響を受けてます。

谷川:THE BEATLESは?

DECO*27:THE BEATLES、わからないんです。CMで流れてる曲ぐらいは知ってるんですけど。

谷川:それで「ふーん」って感じ? 「いいなあ!」ってなんない?

DECO*27:あんまり……。

谷川:おお……人間じゃないね。

DECO*27:初音ミクに似てきてるのかもしれないです(笑)。

谷川:バーチャルの世界に生きてるよ(笑)。すごいなあ。

DECO*27:僕自分が生まれる前の音楽とか全然知らなくて、自分が小学生くらい、GLAYとかラルクとか、そこら辺からの音楽しか知らないんです。

谷川:それはそれで、いいところもあるよね。詩の話でいうと、僕もどっちかって言うと知らない方なんだよね。詩人の中には、過去の詩人をよく読んで勉強して、長い歴史の先端で自分は何を書くかってことを考えて、書き始める人もいるのね。でも僕は真空管ラジオ作ってたからさ(笑)、知らないんですよ。だから、わりと誰の影響も受けずに書き始めたのがかえって良かった。僕たちは、そこも似てると思う。

左から:DECO*27、谷川俊太郎

DECO*27:共通項がいろいろあって嬉しいです(笑)。

―松山千春はリアルタイムじゃないと思うけど、親の影響なんですか?

DECO*27:父親がよく弾き語りで松山千春とかかぐや姫を歌ってたんです(笑)。それがいい曲だったんで、自分がギターを始めたときに、松山千春さんの曲でコードの勉強したりしてました。

谷川:いい親子のつながりだね。僕の場合は、松山千春の代わりにベートーベンだったんだよ。

DECO*27:あっ、僕ベートーベンと誕生日同じです!

谷川:12月16日? 僕は15日なんだよね。

DECO*27:1日違い!

谷川:僕はベートーベンと1日違いなのが悔しくてさ、ベートーベンの誕生日にはいろいろ説があるから、15日だってことにしてたんだけどね(笑)。でも、誕生日が近いと性格も似るとこあるみたいだよ。

DECO*27:血液型何型ですか?

谷川:O型。

DECO*27:僕A型です。

谷川:そこは違ったか……そこも一緒だったら合い過ぎて気持ち悪いよ(笑)。

「詩はいつでも歌に憧れてる」って僕は言うのね。ホントは音楽が一番いいんですよ。言葉の意味に縛られないで、自由に人間の心に訴えかけてくるでしょ?(谷川)

―基本的なことをお伺いしますが、谷川さんは普段どんなときに詩を書かれるのですか?

谷川:基本的に僕は注文されて書くことが多いから、「さあ、書こう」と思ってMacの前に座ることが多いんだけど、ときどき朝目が覚めて、ボーっとしてるときに、ポッと詩になりそうな言葉が浮かぶときもあるんですよ。そういうときは自発的に、それをつなげて書いたりもします。原稿用紙に鉛筆で書いてた頃から、「さあ、書くぞ」って書いてましたけど、若い頃は一時期言葉が出てきて止まらない時期があったの。二十歳ぐらいかなあ。そのときはホントに、朝起きて、朝飯食う前に5~6編書いてましたね。

―ある種の衝動みたいなものに突き動かされていたのでしょうか?

谷川:言葉が言葉を呼ぶわけですよ。自分の心の中に何もなくても、ある言葉のつながりがあると、言葉自身が動き出すみたいな感じがあって、それで書けてたんじゃないかな。そのときは意味なんてあんまり関係なくて、ちょっと音楽に似てましたね。言葉が楽譜みたいな感じで、波っていうか、調べみたいなもので書いてた気がしますね。

DECO*27:僕も朝起きてまだ意識がはっきりしないときとか、眠りに落ちるか落ちないかぐらいのときに、パッとヒントが自分の中から出てきて、そこから広げていく感じです。書こうと思って書くとあんまり書けないんですけど。

谷川:詩の言葉は音楽に似てるところがあるんですよ。意識の下の方、いわゆる潜在意識とか無意識から出てくる言葉の方が、言葉として面白いのね。散文はちゃんと意識して、論理的に書かないといけないから出所が違うんだけど、「詩はいつでも歌に憧れてる」って僕は言うのね。ホントは音楽が一番いいんですよ。言葉の意味に縛られないで、自由に人間の心に訴えかけてくるでしょ? 歌はすごくいいですよね。

―意味や解釈ではなくて、理由はわからないけど、でも聴いてるとじんわり心に染みてくる。そこが音楽の良さですよね。

谷川:それが一番いいんだよね。『論語』を書いた孔子もさ、「詩」が一番で、次に礼儀の「礼」が来て、それから「楽(=音楽)」が来ると説いてるんですよ。孔子も詩と音楽をすごく大事に考えてたわけ。もちろん、今とは違う詩であり音楽なんだけど、人間の心を整えるっていうのかな、そういう意味で孔子は、「礼儀」と「詩」と「音楽」を一緒に考えていたって、すごく面白くて。だってさ、ロックなんて礼儀は考えずにやるもんでしょ?

谷川俊太郎

―ロックは反抗のイメージですけど、広く音楽として捉えれば、むしろ礼儀と一緒で、心を整えるものだと。面白いですね。

自分の名前を褒められるより、「ミクがいい」「この歌詞がいい」「ここのメロディーがいい」とか、そういう褒められ方をした方が嬉しい。(DECO*27)

―潜在意識から出てくる言葉が一番面白いという話がありましたが、デコさんの新作の中の曲で言うと、“たんこぶベイベ”が一番そういうタイプの曲で、個人的に、谷川さんの作風とも一番近い歌詞だと思ったんですよね。


谷川:<たんこぶベイベ>っていうのは、絶対理屈からは出てこないですから、確かにそういう言葉の出方が一番面白いんですよね。(歌詞を読みながら)でも、<愛でしょうか?>って言葉は、<たんこぶベイベ>とは出所が違いますよね。<たんこぶベイベ>をもっとわからせてやろうみたいなところで、<愛でしょうか?>が出てくる、そんな感じがします。<たんこぶってなんでしょうか? 僕でしょうか?>っていう、この辺はすごくいいですね。

DECO*27:ホントにパッと出てきて、自由に書いた曲なんですよね。

谷川:こういう出方をしてても、人が全然共感しない言葉もあるんですよ。でも、うんと深いところにはみんなが共感するようなものがあって、それを「集合的無意識」って心理学者は言うんだけど、そういうところに上手く触れられれば、みんな面白いと思うわけ。だから「たんこぶ」はさ、その深いところに届いてるのかもね(笑)。

―どれか他の歌詞も読んでいただきましょうか。

DECO*27:“大掃除”はどうですか?


谷川:(歌詞を見ながら)これも初音ミクさんが歌ってるんだよね? これを作った本人がライブハウスとかで歌えばさ、「これはマスクをして掃除をしてるときに作った歌で」って話すことで聴衆と交流できるけど、初音ミクさんはそんなこと言わないじゃない? それは残念だよね。

―今の話って面白くて、音楽家は自分で書いて自分で歌うと、その人と結びついた曲として見られますよね? でも初音ミクが歌うと、その曲が個人から解放されるというか、広く共有される可能性があって、伝わり方が違うと思うんですね。それは詩の伝わり方とも通じるような気がするんです。

谷川:フランスのシャンソンで“詩人の魂”っていう有名な曲があるんです。街にいい歌が流れてるんだけど、それを書いた詩人の名前は誰も覚えてないっていう歌で、僕それがすごく好きなんですよ。書いた人が忘れられて、歌が残るのが一番いいなって思うから。“鉄腕アトム”がそうなんだけど、作曲家知ってる?

DECO*27:わからないです。

谷川:でしょ? 僕はその後に詩の世界でちょっとは有名になったから、作詞者が谷川だっていうのを知ってる人が少しはいるけど、作曲の高井達雄さんの名前はみんな知らないんですよ。でも、あの歌はすごく残ってるでしょ?

左から:DECO*27、谷川俊太郎

―みんな歌えますもんね。

谷川:だから、僕なんかも一種の無名性っていうかね、自分の名前が忘れられていって、歌だけ残っていくっていうのは、すごく嬉しいんです。

―デコさんも、曲が残って欲しいっていう感覚がありますか?

DECO*27:あります。自分の曲で初音ミクに出会ってくれるのが一番嬉しいし、それがミクを使って曲を書くことのモチベーションにもなっているので。自分の名前を褒められるよりも、「ミクがいい」とか、「この歌詞がいい」「ここのメロディーがいい」とか、そういう褒められ方をした方が嬉しいです。

谷川:そうだよね。ホント、僕もそう思う。

DECO*27:名前から入って聴いてもらうのもすごくありがたいですけど、曲を書いてる身としては、自分が作った作品を評価してほしいっていうのがありますね。

人間が「好き」って言うときは、対象があるじゃないですか? でもボーカロイドに歌わせると、対象が曖昧なものになって、リスナーが自由に対象を置き換えられると思うんです。(DECO*27)

―一方で谷川さんは詩の朗読もしていらっしゃいますし、フィジカルと言葉との関係性っていうのも、大事にしていらっしゃるように思うのですが。

谷川:詩っていうのは文字がない時代から世界中にあったもので、印刷技術が出来上がる前までの詩は、「文字」ではなく「声」だったわけです。だから歌にすごく近かったし、僕は詩人が自分の作品を自分の声で朗読するっていうのは、紙メディアで発表するのと同じくらい大事な気がしているんです。

―なるほど、確かにその通りですね。

谷川:それに詩って、雑誌に載ったり本になっても、反応って少ないんですよ。でも、朗読をすれば目の前に何百人といて、つまんなかったら帰っちゃうし、面白かったら笑ってくれる。そういう直接の反応がすごく自分のためになりますね。

―それこそ、ニコニコ動画はリアルタイムでレスポンスがあるわけで、その声がモチベーションにもなるわけですよね。

DECO*27:もちろんです。CDを作って出すよりも、ニコニコ動画に曲を投稿した方が、曲を世に発表したなって感じがあります。

谷川:それは我々がホールとかで朗読するときと同じような感覚だよね。現場を共有してるっていう。でも初音ミクの歌って、言葉はどこまでちゃんと立って聴こえるの? 初音ミクを聴いてると、言葉がよく入ってこないときがあるんだよね。

―そこはデコさんが一番気にしてるところですよね。

DECO*27:確かにボーカロイドは無機質なものですけど、自分がミクで歌を作るときは、聴いただけで何を言ってるかわかるようにしたいと思ってます。

DECO*27

谷川:ミクの歌い方に注文をつけられるの?

DECO*27:はい、そういうこともできます。

谷川:“おじゃま虫”はすごく言葉が面白いから、例えばフォークの人がギター弾き語りでやったら受けると思うんだけど、これを無機的な電子音で聴いたときに、この言葉が生きないんじゃないかって、ちょっと思っちゃいますね。「好き」って、すごくいい言葉じゃないですか?(“おじゃま虫”は<「好き」って言って>という歌詞で始まる) 僕この頃、「好きな言葉は何ですか?」って聞かれたら、必ず「好き」って言うことにしてるんですよ。だからこの「好き」っていう言葉が、ホントにボーカロイドで立つのかなって。


DECO*27:人間が「好き」って言うときは、対象があるじゃないですか? でもボーカロイドに歌わせると、対象が曖昧なものになって、リスナーが自由に対象を置き換えられると思うんです。逆にドラマとかで役者が芝居で「好き」って言ってるの、僕はあんまり共感できなくて、それが漫画になったり文字だけになったりすると、途端にその世界に入っていきやすくなるんですよね。だから、リアルの「好き」と、ボーカロイドの「好き」と、両方の良さがあるかなって思いますね。

アーティストの中にはお金の話をしたがらない人もいますけど、実際お金は創作に絡まっちゃってるし、その影響はすごいと思うのね。(谷川)

―デコさんは昨年の一時期、音楽をやめようと思ったそうなんですね。目標を達成してしまって、次に何をしていいかわからなくなってしまった。最終的には音楽へのモチベーションを取り戻して、それでこの『Conti New』という作品が生まれたわけなんですけど、谷川さんもそういう一時的に燃え尽きてしまった時期があったりしましたか?

谷川:途中で嫌になったことは何度もありますよ。でも、やめようと思ったことはないですね。そもそも書くこととお金を稼ぐことが結びついちゃっているから、書き続けないと生活が成り立たなかったんですよ。だからあとで振り返ると、「この頃の作品は良くないな」っていうのもあって、当時の自分は意識してなかったんですけど、実際はスランプだったんでしょうね。

―それでも、書き続けることが大事だったと。

谷川:だって、お金が要るもん(笑)。それを無視することはできませんよね。アーティストの中にはお金の話をしたがらない人もいますけど、実お金は創作に絡まっちゃってるし、その影響はすごいと思うのね。例えば今、出版界は本が売れなくなってるから、本以外のメディアで読者に届ける方法はないだろうかって考えるし、本を作ったら、サイン会とかスピーチとか、何かパブリシティをやる必要も出てきていたりするわけ。一昔前までは景気も良かったから、そんなに悩まなくても済んでたと思うの。

左から:DECO*27、谷川俊太郎

―読者リスナーに作品を買ってもらうために、作品を作る以上のことをする必要が出てきているわけですね。

谷川:そうだね。でも詩っていうものは作者と読者の間にあって初めて成立するものだから、読者がいなかったら、ただの独りよがりになっちゃいますよね。だから僕は、自分と他者との関係っていうのをずっと考えてきました。例えば会社員だったら、会社で他の人と結びつくし、大学の先生だったら生徒と結びつくわけでしょ? でも物書きっていうのは、それを読んでくれる人以外とは結びつきようがないんですよ。

DECO*27:ニコニコ動画でも、やっぱり再生されないと、聴いてもらわないと意味がないから、例えば動画を公開する日をいつにするとか、人が家にいる時間を考えたりとかする必要があって、僕はそれを面白いと思ってやってきたところはありますね。

―やっぱり他者とどうつながるかっていうのが、創作のモチベーションになってるわけですよね。

谷川:僕の場合はそうですね。全然読者は要らないっていう詩人もいるんですよ。読者が1人もいなくてもいいから、好きなように書く。それもひとつの態度だと思うけど、そういう人は大体別に生業を持ってるわけ。だから、そういうことが言えるんだよね。

詩人ってやっぱり内向的な人が多いから、新しい物事にあんまり乗らないんですよ。寺山修司なんかが生きてたら絶対乗ると思うんだけど、あれは珍しい詩人だったね。(谷川)

―デコさんは今ちょうど27歳なんですけど、谷川さんはご自身が27歳の頃に何をしていたか覚えていらっしゃいますか?

谷川:一生懸命仕事をしてましたね。当時は詩を、大新聞なんて俗っぽいところで発表しちゃいけないっていう空気があったんですよ。でも僕は初めから、一人でも多くの読者がいた方がいいって考えだったの。ちょうど『女性自身』って週刊誌が創刊されたのがその頃だったかな? たぶん、そういうところで書いたりしてましたね。あとは詩だけじゃなくて、絵本のテキストを書いたり、記録映画の台本を書いたり、作詞をしたり、だんだん手を広げ始めた頃だったと思うな。

―デコさんも、ひさびさのボーカロイドアルバムを1枚作り終えて、また今後手を広げていこうとお考えですか?

DECO*27:でもやっぱりDECO*27としては、「DECO*27の曲で初めて初音ミクを知りました」っていうのが一番嬉しいから、中心はボーカロイドだと思っています。例えば他のアーティストさんに曲を提供させていただいて、その人のファンがボーカロイドにたどり着いたりとか、そういう広げ方になればいいなって。

―谷川さんは、アプリだったり、本当にいろんな方法で詩を発表されていますよね。そういうチャレンジをすることで、後進に道を開くような目的もあるのでしょうか?

谷川:そんな親切心は全然ない(笑)。そういうのも自分で始めるわけじゃなくて、プロデューサー的な人がいろんなアイデアを持ってきて、面白いからやってみようっていう感じだから。そういうのから刺激を受けて、若い子が出てくればいいとは思うんだけど、詩人ってやっぱり内向的な人が多いから、そういうのにあんまり乗らないんですよ。寺山修司なんかが生きてたら絶対乗ると思うんだけど、あれは珍しい詩人だったね。

左から:DECO*27、谷川俊太郎

―そういう仲間と刺激し合って、それが創作につながった部分もありましたか?

谷川:意識はしてなかったけど、絶対にあったと思う。でも、違うジャンルの人から受けた影響の方が大きかったと思うな。例えば僕は武満徹とも親友だったから、すごく影響を受けたと思う。

DECO*27:僕はニコニコ動画ではあんまり知り合いがいないんですけど(笑)、でも谷川さんがおっしゃったように、違うジャンルの人というか、まったく音楽をやってない普通の友達、例えば建築業の友達とスタジオ立てる話をしたりとか、そういう方が刺激になりますね。普段から音楽どうのって話はあんまりしたくないですから。

谷川:僕たちもみんなで集まることはあったけど、詩の話なんかは全然しなかったね。大体酒飲みながら世間話してたな(笑)。

―今日の対談も、お互いまったく違う分野だからこそ、面白い話になったのかなと思います。ただ、共通点の多さにはびっくりしましたけど(笑)。

谷川:まあでも、彼が銀行員だったら、ここまで話は弾まなかったと思うよ(笑)。

―そこはやはり、もの作りをする人同士だからこそ。

谷川:そうだと思うなあ。今さ、電子版の詩集って結構あるんだ。ネットでダウンロードして読む詩集。これ(『Conti New』)電子詩集で出したら面白いんじゃないかな? 初音ミクの声じゃなくて、文字で読んでもきっと意味があると思うんですよ。その中に自分の朗読が入っててもいいと思うし。

DECO*27:考えたことなかったなあ……メロディーとセットで作ってるので、詞だけっていう発想はなかったですけど、いいですね。ホントに、歌詞を書いてるときが一番楽しいんで。

谷川:詩人の仲間になっちゃうかもよ(笑)。

リリース情報
DECO*27
『Conti New』(CD+DVD)

2014年3月26日(水)発売
価格:3,086円(税込)
UMA-9033-9034

[CD]
1. ストリーミングハート feat. 初音ミク
2. おじゃま虫feat. 初音ミク
3. 毒占欲feat. 初音ミク
4. Lonely Shit feat. 初音ミク
5. Starlight Girl feat. 初音ミク
6. たんこぶベイベfeat. 初音ミク
7. 大掃除feat. 初音ミク
8. 音偽バナシfeat. 初音ミク
9. アンチビートfeat. 初音ミク
10. 妄想税feat. 初音ミク
11. an feat. 初音ミク
12. 8月31日feat. 初音ミク
[DVD]
1. 「妄想税 feat. 初音ミク」MV
2. 「音偽バナシ feat. 初音ミク」MV
3. 「愛迷エレジー feat. 初音ミク」MV
4. 「大掃除 feat. 初音ミク」 MV
5. 「毒占欲 feat. 初音ミク」MV

プロフィール
谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)

1931年東京生まれ。詩人。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。 1962年「月火水木金土日の歌」で第四回日本レコード大賞作詞賞、1975年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、1982年『日々の地図』で第34回読売文学賞、 1993年『世間知ラズ』で第1回萩原朔太郎賞、2010年『トロムソコラージュ』で第1回鮎川信夫賞など、受賞・著書多数。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表。近年では、詩を釣るiPhoneアプリ『谷川』や、郵便で詩を送る『ポエメール』など、詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦している。

DECO*27(でこ にーな)

福岡生まれ、男性。レフティスタイルでキターを奏で、作詞、作曲を手掛ける27歳のアーティスト/プロデューサー。ロックをベースにフォークからエレクロニックミュージックまでを柔軟に吸収したサウンドと印象に残るメロディー、等身大の感情をリアルに、かつ絶妙な言葉遊びを用いて描かれた歌詞が若い世代から絶大な支持を得ている。2013年9月には1年8カ月ぶりとなる新作ボーカロイド曲「妄想税」を発表。活動5周年を迎えたメモリアルイヤーである2013年、自身初となるボーカロイド・ベストアルバムをU/M/A/Aよりリリース。2014年3月26日に4thアルバム『Conti New(コンティニュー)』をリリースした。



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