『グラミー賞』4冠、絶頂を極めるファレル・ウィリアムスの本音

どうやら昨年に引き続き、2014年もファレル・ウィリアムスの年となりそうだ。ボーカルで参加したDAFT PUNKの“Get Lucky”と、ボーカル、作曲、プロデュースで参加したロビン・シックの“Blurred Lines”が『グラミー賞』の「年間最優秀レコード」にダブルノミネート、さらに自身のシングル“Happy”は『アカデミー賞』にノミネートされるなど、The Neptunesとしてチャートを席巻した2000年代序盤をも凌駕する快進撃は、実に8年ぶりとなる2枚目のソロアルバム『G I R L』で頂点に達することだろう。知られざるトラウマの克服から、DAFT PUNKとの友情、『G I R L』というアルバムタイトルに込めた意味まで、本人の発言からファレルの現在地を紐解いていく。

『グラミー賞』で「最優秀プロデューサー賞」など4冠を獲得

「DAFT PUNKよりファレルっしょ」なんていう声がよく聞かれるようになったのは、シングル“Happy”がリリースされた昨年末ぐらいからだろうか。今年の1月に行われた『グラミー賞』で5冠に輝いたDAFT PUNKが2013年の顔であったことに異論をはさむ余地はない。しかし、グラミーでのDAFT PUNKのステージで、スティーヴィー・ワンダー、ナイル・ロジャースと共に“Get Lucky”を披露したファレルの年であったことも、またまた間違いないだろう。グラミーの「年間最優秀レコード」には、“Get Lucky”と共に、ボーカル、作曲、プロデュースで参加したロビン・シックの“Blurred Lines”がダブルノミネート、結果的に「最優秀プロデューサー賞」など4冠を獲得したのだから。


また、アニメ映画『怪盗グル―のミニオン危機一発』のサントラ用に作られた“Happy”は世界中で大ヒットを記録し、『アカデミー賞』にもノミネート。受賞こそ、現在日本でも話題沸騰の『アナと雪の女王』の“Let It Go”に譲ったものの、「ファレルの時代」を改めて印象付けた。先日行われた『コーチェラ・フェスティバル』のステージでは、スヌープ・ドッグ、バスタ・ライムス、Diplo、グウェン・ステファニー、Nellyといった大物が続々ゲスト参加し、ラストを“Get Lucky”からの“Happy”で締め括るという、圧巻のステージを披露したことも記憶に新しい。


一世を風靡したプロデューサーチームThe Neptunes

ここでファレルのこれまでのキャリアをざっくりと振り返っておこう。バージニア州出身のファレルは、1994年に友人のチャド・ヒューゴと共にプロデューサーチームのThe Neptunesを結成。2001年に発表されたブリトニー・スピアーズのシングル“I'm A Slave 4 U”で初の全米1位を獲得すると、マドンナ、ジャスティン・ティンバーレイク、カニエ・ウェスト、JAY Zなど、数多くのヒット曲を手掛け一時代を確立した。例に挙げるのは適当ではないかもしれないが、日本で言えば1990年代の小室哲哉よりもすごかったと言えば分かりやすいだろうか。また、2002年には友人のシェルドン・ヘイリーも加わってN*E*R*Dとしてファースト『In Search Of』を発表し、これまでに4枚のアルバムを残している。


実は嫌がっていたソロ2作目の制作

ソロアルバムはまだ2006年に発表した『In My Mind』の1枚のみで、『G I R L』は実に8年ぶりとなる2作目。「超多忙のモテ男が、満を持して堂々発表する新作」かと思いきや、実はファレルはソロアルバムの発表を嫌がっていたのだという。

ファレル:初めてアルバムを作ったときは自己中心的過ぎた気がするんだ。俺にとって大切なものについても(歌詞で)話した。とにかく「俺、俺、俺、俺、俺……」 という感じだった。あまり楽しめなかったし、ライブでやるのが恥ずかしい曲もあったよ。自分のこと過ぎてね。変な感じがしたんだ。前回と今回で違うのは、今回は「アルバムを作って欲しい」と言われるとは思ってもいなかったときに「作ってほしい」と言われたってことだ。どこかの時点でソロアルバムを作るというオプションは前からあったけど、でも作る気はなかった。前回のトラウマがあったから、二の舞になると思っていたんだ。

ファレルを口説いたコロムビア(米ソニーミュージック)の重役たち

『In My Mind』という作品は、ヒップホップとR&Bの二部構成で「人生」と「愛」について、文字通り「心の内」を明かした作品だった。すでに確固としたキャリアを築いてはいたものの、当時まだ30代前半だったファレルにとって、「初のソロアルバム」の制作は、相当肩に力の入ったものだったのだろう。そんなトラウマを克服するきっかけを作ったのは、DAFT PUNKの所属レーベルでもある、コロムビア(米ソニーミュージック)の重役たちであった。

ファレル:「よく聴いてくれ。“Get Lucky”は(DAFT PUNKのアルバムの)ファーストシングルになる。きみがアルバムを作りたくないのは知っているけれど、その考えを変えてほしい」と言われたんだ。言わば、その場でオファーをくれたようなものだった。そして俺もその場で受け入れた。とにかく驚いたし、恐れおののいて圧倒されたからね。「本当に? あなたたちがこの俺にアルバムを作って欲しいと?」という感じだった。しかも彼らは最高のレーベルだ。DAFT PUNKからAdele、THE WHITE STRIPESからODD FUTUREまで、とにかく多彩なんだ。ノーなんて言える訳がないだろう? それに、重役の一人のアシュリー・ニュートンは俺が13年前にヴァージンと契約した頃のトップだったんだ。だから昔のクルーが再結集したような感じもしたね。あの頃もクレイジーなアーティストのラインナップだったな。13年前みたいに、自分たちのクリエイティビティーが「ラジオでは何が流行ってる?」なんてことから解放されると思った。

ファレルが言う13年前のシーンとは?

今から13年前、つまり、2001年という年は、前述のようにThe Neptunesのプロデュースワークが初めて全米1位を獲得した年であり、彼ら以外にも、TimbalandやDr. Dreなどが大活躍していた頃。また、今年の『フジロック』への出演が決まっているOUTKASTが前年に発表した『Stankonia』で絶頂期を迎えるなど、クリエイティブな作品がチャート上に溢れていた時代だった。

先日CINRAで行ったVampilliaのインタビューの中で、元相対性理論の真部脩一が「日本の音楽シーンがガラパゴス化してるって言われるけど、アメリカだってチャートはすごくガラパゴス化してると思うんです。特に2000年代初頭の、ヒップホップがカルチャーとして浸透してきたころのチャートは、他の国のメインストリームから見ても、アメリカのサブカルチャーから見ても、『こいつらおかしいぞ』っていうのがバンバン入ってた」と発言しているが、これはまさにこの時期について指摘していると言っていいだろう。

「単に面白いサウンドを集めただけのものにはしたくなかった。何らかの感情を表現したかった」

つまり、ファレルという存在は「上質かつ革新的なポップミュージック」で、アメリカのチャートに新たなルールを作り上げたキーパーソンであり、だからこそ多大な評価を獲得しているのだ。そして、かつてのヒップホップ~R&B的な作風から、ポップなソウルアルバムへと進化した本作においても、レトロな風味を感じさせつつ、それをあくまで現代的に聴かせるサウンドデザインは実に見事。さらにその上でファレルは、本作において「感情」を最も大事にしたと語る。

ファレル:ジャスティン・ティバーレイクやマイリー・サイラスをはじめ、このアルバムに参加してくれた全員に言えることなんだけど、みんな本当の意味で感情をさらけ出してる。彼らが歌うときは、単に歌詞やメロディーをなぞっているわけじゃない。ただ音楽的なバックグラウンド、もしくはリズムが描き出す背景に自分たちをフィットさせようとしているんじゃないんだ。メロディーに乗って歌詞を歌うときの彼らは、感情を露わにしている。俺自身、それを目指していたのさ。このアルバムを、単に面白いサウンドを集めただけのものにはしたくなかった。何らかの感情を表現したかった。具体的に何らかの作用を及ぼすような価値を備えたアルバムにしたかったんだ。

『In My Mind』での思索から、様々なコラボレーターの協力も経て、「ラッキー」で「ハッピー」な、人生を祝福する『G I R L』へ。ファレル8年の進化が、ここに確かに刻まれている。

「この社会における女性の平等化」を提起した『G I R L』。「俺はそういう風に表現するんだ。すべての女性の隣に立つとね。それがメッセージなんだ」

大文字の間にスペースの空いた『G I R L』というアルバムタイトルは、直感的に決めたタイトルなのだという。

ファレル:俺の女性に対する感謝の気持ちのスペクトラムなんだ。女性は俺にインスピレーションをくれる。たとえダーティーな形ででもね。だから『G I R L』と名付けることにしたんだ。大文字で、文字と文字の間にスペースを空けて。今の社会は完全にバランスを失っているから、人によってはヘンに見えるようにね。俺はこの世の中で注目されるべきものに貢献しようとしている。それは、この社会における女性の平等化なんだ。ひいては、何らかの議論の場を提供できたらいいなと思っている。そんな目論見を成就できるのか? あるいは、このアルバムが女性を巡る社会的不均衡に解決をもたらすことができるのか? 答えはノーだ。でも少なくとも、話題に上るんじゃないかと思う。みんながこの問題について、色々と話し合ってくれるんじゃないかと思うんだ。

ヒップホップやR&Bをはじめとしたブラックミュージックの世界に男社会的な側面があることは否定できないだろう。近年では、R&Bシンガーのフランク・オーシャンが同性愛者であることをカミングアウトして話題を呼んだが、ファレルのようなビッグネームがこのような発言をすることもまた、大きな意味を持つはずだ。一見、ハーレム風なイメージのアルバムジャケットにしても、ファレルなりの女性へのリスペクトが込められている。

Pharrell Williams『G I R L』ジャケット
Pharrell Williams『G I R L』ジャケット

ファレル:モデルは使いたくなかったんだ。もっと普通の女の子っぽい感じにしたかった。俺自身が普通だからね。ショッピングモールで見かけるような女性。もしかしたら自分の連れが狙ってるんじゃないかと思っても、「まあ、いいんじゃないの」みたいな。そういうのが俺には合っている。普通のコたち。そのコたちだって他とは違うからね。その違いがその人をスペシャルにするんだ。俺たちはバスローブを着ているだろう? 女のコたちが俺を仲間に入れてくれたってことなんだ。俺はこのコたちの前に立っていない。前に立ったら、「あなた何様なの?」みたいな感じになるからさ。かと言ってこの子たちの後ろに立ったら、「支えているつもり?」なんて感じになるだろう? だから隣に立ったんだ。大切な人だったらそうするものだからね。俺はそういう風に表現するんだ。すべての女性の隣に立つとね。それがメッセージなんだ。

「どんな曲も、必ず自分に語りかけてくるものがある。(曲は)どんな音にすべきか、自ら分かっているんだ」

それにしても、なぜファレルはここまで「ハッピー」なフィーリングを基調とした、「ガール」なアルバムを直感的に作ろうと思ったのだろうか。それは昨年10月、長年のパートナーだったモデルのヘレン・ラシチャンと結婚したことが背景にあると言っていいだろう。 サントラ用に“Happy”を書き下ろした映画『怪盗グルーのミニオン危機一発』の前作にあたる『怪盗グルーの月泥棒 3D』には、息子のロケットに捧げた“Rocket's Theme”という曲があったが、DAFT PUNKがボーカルで参加した“Gust Of Wind”は、ヘレンに捧げられている。

ファレル:この曲は俺の妻についての歌だけど、俺と彼女の個人的な関係よりも、もっと大きなものにすることができた。誰の人生にも当てはまると思うよ。どんな曲も、必ず自分に語りかけてくるものがある。必要なもの、参加すべき人、どういう風にすべきか、何を変えるべきか、どうすればもっといいか、それからどれに立ち戻った方が良いか……曲はそういうものを教えてくれるんだ。まるで自分の体のようにね。自分の体というものは、何が似合うか、何が似合わないかを教えてくれる。俺たちがどうなるかは、体が決定づけるものだからね。曲も同じ。どんな音にすべきか、自ら分かっているんだ。

「どういう訳か、社会と言うのは、自分が大勢の中の1人だって思わせようとしてきた。でも、お互いにこう言えばいいじゃないか。『いいかい、君はスペシャルなんだ。唯一無二の存在なんだ』って」

『G I R L』は文字通り「ガール」のアルバムだが、もっと広い意味で「人間の多様性」を訴えるアルバムでもある。それを象徴しているのが、ストリングスで彩られたアルバムのオープニングナンバー“Marilyn Monroe”だ。


ファレル:マリリン・モンローは美しい女性だ。クレオパトラは賢い女性。ジャンヌ・ダルクは戦略的で勇敢な女性だった。でも、自分の美しさに気づくのに、彼女たちの標準に自分を合わせることなんてない。既に他とは違うんだから。俺たちは超物質主義の世界に生きている。俺もその一部を担ってきた。超物質主義の世界に住んでいると、そこにはモノを収集するやつらというのがいる。「俺は○○を持ってるぞ」とか「フェラーリを集めている」とかさ。これまた俺もそのひとりなんだけどね。じゃあ、最も一流なもの、自分にとって特別なものは何だって話なんだ。どういう訳か、社会と言うのは、自分が大勢の中の1人だって思わせようとしてきた。でも、お互いにこう言えばいいじゃないか。「いいかい、君はスペシャルなんだ。唯一無二の存在なんだ」って。“Marilyn Monroe”はそういう曲なんだ。その人のどこが他人と一線を画すのか、それによってその人がどれだけスペシャルかを言い聞かせる。それによってその人の存在が際立つんだ。

「DAFT PUNKとコラボすると、家に帰ってきたような気分にさせられるんだよ」

ここで歌われているメッセージ自体は特別珍しいものではない。「ナンバー1にならなくてもいい、もともと特別なオンリー1」という、普遍的なテーマである。しかし、ファレルはそれをこんな風にセクシーに表現する。<これを全ての恋人たちに捧げよう / 俺たちに何ができる? / 俺たちはどうしようもないロマンチスト / 誰に惹かれるかなんてどうにもならないもの / だからみんなで踊ろう そして高め合おう>。これぞ、ファレルが世界のポップアイコンたるゆえんである。そして、この「多様性」というテーマは、再び彼が選んだ素晴らしいレーベルの話ともつながってくる。

ファレル:今回のアルバム制作はDAFT PUNKから始まったわけだけど、今回に限らず、もっと昔に遡って、ヴァージン・レーベルでもDAFT PUNKと俺はレーベルメイトで、俺と彼らは長い歴史を共有しているんだよ。DAFT PUNKに関するコロムビアのスタンスは素晴らしいと思った。だってDAFT PUNKってのは、ヘルメットをとることを断固拒絶するフランス製のロボットたちなんだ。そんなありのままの彼らを受け入れて、リスペクトしたのさ。Adeleに関しても同じことが言える。ありのままの彼女を尊重して、外見的なイメージやメンタリティーを変えようとは一切しなかった。彼女のスピリットの立ち位置も変えなかった。その結果、あんなにたくさんのアルバムが売れたのさ。俺は何も、自分も同じようにたくさんアルバムを売るって言ってるわけじゃない。ただ単に、コロムビアは本当に多様なアーティストを擁していて、自分はそういう場所に属していると強く感じたと言いたいんだ。だから俺はDAFT PUNKとコラボすると、家に帰ってきたような気分にさせられるんだよ。

そう、ファレルとDAFT PUNKを比べることに意味はない。彼らはどちらも才能に溢れ、独立したアティテュードを持ち、違うからこそ素晴らしい。「B O Y」meets「G I R L」。男と女も分かり合えないからこそ、惹かれあうのだから。

リリース情報
Pharrell Williams
『G I R L』日本盤(CD)

2014年4月30日(水)発売
価格:2,376円(税込)
Sony Music / SICP-4129

1. Marilyn Monroe
2. Brand New(duet with Justin Timberlake)
3. Hunter
4. Gush
5. Happy
6. Come Get It Bae
7. Gust Of Wind
8. Lost Queen
9. Know Who You Are(duet with Alicia Keys)
10. It Girl
11. Smile
※初回盤のみスペシャルブックレット仕様
※ボーナストラック1曲収録

プロフィール
ファレル・ウィリアムス

シンガー、ソングライター、プロデューサーとしてはもちろん、ファッション/カルチャー・アイコンとしても世界にその名を知らしめるスーパー・マルチ・アーティスト。プロデューサー・ユニット“ザ・The Neptunes”のメンバーとして10代の頃からプロデュース業に関わり、2001年に自身がプロデュースしたブリトニー・スピアーズのシングル「アイム・ア・スレイヴ・フォー・ユー」が、初の全米1位を獲得。その後もマドンナ、ジャスティン・ティンバーレイク、カニエ・ウェスト等に携わり、2013年には、同年最大のヒット曲となった、ダフト・パンク「ゲット・ラッキー」とロビン・シック「ブラード・ラインズ」の両楽曲ほか、全米アルバム・チャート1位を獲得したビヨンセ、Jay-Z、マイリー・サイラス等の楽曲も手掛け、『第56回グラミー賞』では「最優秀プロデューサー賞」他ダフト・パンクと共に主要2部門(「最優秀レコード賞」「最優秀アルバム賞」)を含む計4冠を獲得した。そしてこの度、8年ぶりとなるニュー・アルバム『G I R L / ガール』をついに発売。



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