ORANGE RANGEの音楽的リーダーでありギタリストのnaotohiroyamaと、シンガーソングライターRie fuによるユニットdelofamiliaが、前作『archeologic』からおよそ1年4か月ぶりとなる通算5枚目のアルバム『Carry on Your Youth』をリリースする。一見、音楽的な接点がなさそうに見える二人だが、NAOTOはUKインディーやUSオルタナ、昨今のエレクトロシーンに造詣が深く、Rie fuは1960~70年代のロック / ポップミュージックからの影響を強く受けており、そんな両者の嗜好が融合されたdelofamiliaは、洋楽指向の強いこだわりのサウンドとなっている。また、Rie fuのソロ名義よりもトゲのある歌詞世界も非常に印象的だ。
ミュージシャンとしてのキャリアを積み重ね、「もう、若くはない」ということに戸惑い受け入れながら進んできたnaotohiroyamaとRie fu。彼らが今、敢えて「Youth」という言葉をキーワードに作品を作り上げたのには、どんな意味や覚悟があったのだろうか。二人に訊いた。
(Rie fuと出会って)思ってたよりも、もっと深いなって思った。なんていうか、演出している感じがなくて、素のままでトゲというかロックな部分があって。(naotohiroyama)
―もともと、delfamiliaはNAOTOさんのソロプロジェクトだったんですよね?
naotohiroyama:はい。ORANGE RANGEも担当してくれていた当時のディレクターが面白い人で、「やってみない?」って声をかけてくれたんです。特にORANGE RANGEとは違う方向性をやりたいって強く思っていたわけではなかったんですけど、当時はエレクトロニックなものが好きだったし、女性ボーカルを使いたくて。それによって音もかなり変わってくるだろうなと思ってました。
―NAOTOさんは、UKインディーやUSオルタナなどにも造詣が深いんですよね。その辺りの音楽は、いつ頃から聴き始めていたのですか?
naotohiroyama:中学生の頃からシンセサイザーをいじりつつ曲みたいなものを作ったりはしてたんですけど、そのときは電気グルーヴぐらいしか聴いてなくて。高校が大きな学校だったので、バンドを組んでる人が多かったんです。みんなでCDを回し聴きするような文化の中で、音楽仲間に洋楽を教えてもらったり、ギターを覚えたり。自分でバンドを組んだのもその頃です。
―2ndアルバム『eddy』にRie fuさんがゲストボーカルとして参加したのがユニット結成のきっかけだそうですが、どのような決め手があったのでしょう?
naotohiroyama:その頃、楽器を弾きながら英語で歌える女性ボーカルはいないかなっていろいろ聴きながら探してたんですよ。見つかるまで一人でアルバムを作り続けるつもりだったんですけど、Rie fuさんのことは、「他の女性シンガーソングライターとは違うな」って思ってたんです。ちょっとトゲがあって、それが節々に感じられるんだけど、それを露骨に出してるわけじゃなくて……深そうだなこの人って。それで共通の知り合いを通じて紹介してもらいました。初めて会ったのは確かそば屋だったよね?
Rie fu:そうでしたね(笑)。私もちょうどNAOTOさんがいたレーベルに移籍することが決まっていて、タイミング的にもいろいろなことが変わっていたときだったので。それで、delofamiliaの1st『quiet life』を聴かせてもらったら、子どもの声とかが入ってて可愛い感じだったので、「コーラスの1人でもいいから私も参加させてもらえないかなあ」って思っていたんですけど、メインボーカルとして参加させていただけることになりました。でも、実際やってみて深かった? どうだった?(笑)
naotohiroyama:思ってたよりも、もっと深いなって思ったよ。なんていうか、演出している感じがなくて、素のままでトゲというかロックな部分があって。
Rie fu:そっか。でもそういうトゲトゲしい部分は、自分のソロよりもdelofamiliaの歌詞により強く出ている気がしますね。しかも、作品ごとにどんどん強くシャープになっている。NAOTOさんの作品が、エモーショナルというよりはすごくドライで、淡々とした音の印象なので、それに合わせて歌詞の世界も感情を込めるというより、世の中を観察したり分析したりするような内容になっていったんだと思いますね。リズムも普通ではない変拍子が多かったり、すごく不思議な曲が多かったので、それに引っ張られて歌詞もヒネくれたっていうか(笑)。
こういう音楽を作っている人なので、何か深い哲学とかある人なのかなって思ってたんですけど、基本的には親父ギャグと下ネタとラーメンの話ばかりですね(笑)。(Rie fu)
―音楽的な部分では、最初から意気投合しましたか? 一見、あまり接点がなさそうな二人という印象ですが。
Rie fu:最初は私も、「ORANGE RANGEのNAOTOさん」っていうイメージで見ていたので、あまり音楽的な接点はないのかなと思ってたんですけど、話していくうちに実は洋楽からの影響が強い方だっていうのが分かってきて。彼も私もPJハーヴェイとか、フィオナ・アップルのような声の強い女性ボーカルが好きなので、そこでの共通点はあるなって思いましたね。
―Rie fuさんが正式加入しての3rdアルバム『Spaces in Queue』は、確かにフィオナ・アップルや、エイミー・マンを彷彿とさせるような感触がありますね。サウンドも生楽器が主体だし。
naotohiroyama:確かにボーカルもそうだし、全体的に低めの音程でしたね。実は、2枚目を出した後に初めてdelofamiliaのツアーをやったんですよ。バンド編成でツアーをやったあとに3枚目を作ったので、バンドっぽいイメージがサウンド面に影響したのかもしれないですね。
―ツアーの合間や普段は、二人でどんな話をしているんですか?
Rie fu:緻密に音作りをする人なので、何か深い哲学とかある人なのかなって思ってたんですけど、基本的には親父ギャグと下ネタとラーメンの話ばかりですね(笑)。私はそれを否定もせず肯定もせず、流すっていう……(笑)。
naotohiroyama:まあ、ラーメンと親父ギャグが僕のデフォルトですからね。
Rie fu:あっ、でも初めて『フジロック』に行ったときにNAOTOさんと現地であったら、MONOがいかに素晴らしいかを延々と話してくれたことは覚えてます(笑)。
―基本的に、どちらもマイペースっていう感じですよね(笑)。
Rie fu:そうですね(笑)。でも、初めてお会いしたときからずっと、NAOTOさんのほうがいろいろと気を使ってくださっていたと思います。私はすごく勝手気ままにやっているので、それを大らかに包み込んでくれているというか。ただ、ライブの話をすると、delofamiliaで初めてをライブやったときに、お客さんがORANGE RANGEのファンの方ばかりで、誰も私のほうを見てくれなかったんです(笑)。最初は戸惑いましたけど、やっていくうちに、それはそれで気楽でいいなって思えるようになりました。無責任に遊ぶことに慣れたというか。
naotohiroyama:僕としては、あんまり見られたくないんですけどね……。喋らなくちゃならなくなるじゃないですか(笑)。だから、楽屋裏ではいつも、「もっとMCで話してよ」ってRie fuに頼んでいるんですけど、二人ともMCは苦手なので、そこは低体温です(笑)。
年齢を重ねるに連れて作る音楽もこじんまりとしてしまいがちじゃないですか。僕はこれからもずっと、「まとまらない音楽」を作り続けたいなって思っています。(naotohiroyama)
―この度、delofamiliaの通算5枚目の最新作『Carry On Your Youth』がリリースされましたが、このアルバムを作る上で何かインスパイアされたことはありますか?
naotohiroyama:最近はヒップホップでも、あまりビートがキッチリしていない音楽が好きなんですよ、ヨレたビートというか。あとは、リズムマシンと生のバンドがせめぎ合っているような、そういうちょっと不安な気持ちをかきたてる音楽が気になってましたね。分かりやすいところでいえば、Flying LotusとかMadlib、ああいう抽象的な音楽をよく聴いていました。あとは、10代の頃に好きだったTrickyやPortisheadからの影響もあると思います。音楽理論にのっとっていない自由な感じに惹かれるんでしょうね。
―アルバムタイトルには「Youth」という言葉が使われていますが、どのような想いが込められているのですか?
Rie fu:NAOTOさんが言った話とも繋がるんですけど、夢中になって音楽を追いかけてたときの10代の頃の気持ちって、すごく特別だったなと今になって改めて思うんです。現在の自分にも強い影響を与えているし、ルーツと言ってもいいと思う。delofamiliaも今回で5枚目ということで、バンドとしても変化している時期なんですけど、やっぱり10代の頃に音楽を聴いて感動した気持ちを、ずっと忘れないでいたいなっていう気持ちを込めたタイトルですね。
―10代の頃に持っていた初期衝動が失われたり、年齢を重ねることで自分が変わっていくことへの戸惑いみたいなものはありましたか? フィジカルなものも含めて、若さや衝動が音楽のひとつの魅力でもある中で、バンドとしてどう成熟していくかというのは、ミュージシャンの大きなテーマでもあると思うのですが。
naotohiroyama:やっぱり、年齢を重ねるにつれて作る音楽もこじんまりとしてしまいがちじゃないですか? もちろん、どんどん洗練されていく人もいると思うんですけど、僕はずっと「まとまらない音楽」を作り続けたいなって思っています。今は誰でも自分が作った音楽を、自由にアップロードできる環境にありますよね。アマチュアでも、プロよりずっとカッコいい音楽を作っていたりすることもある。それって、ヒップホップが登場してきた状況と似ていると思うんですよ。すごく刺激的な状況だと思う一方で、そういうことってキャリアを重ねていくごとにどんどんできなくなってしまうというか、フットワークが重たくなってしまいがちで。でも、僕はそうはなりたくないって思います。
―そこは抗っていきたい、と。
naotohiroyama:意識的に抗うというよりは、自然体でいたいという感じですね。というのは、味覚が変わると好きなラーメンの味が変わるように、感覚は変わり続けるわけで、そこで変に逆らうのはしんどいですよね。特に音楽みたいに感覚でやるものはなおさらそう。本当に好きなもの以外は聴いている音楽も変わっていくし、自分でも飽きっぽいな……と思うこともあるんですけど、それはそれできっと楽しいし、自然と変わっていけたらいいなあ、と。
Rie fu:お酒の飲み方も変わってきますしね(笑)。逆に、20代の頃より今のほうが、誰かのマネをして変に肩肘張ったり、ジャンルにあてはめようと型にこだわったりせずに、自由な発想で音楽ができるようになってきている気がします。試行錯誤を経て、いろんな意味で開き直れてきてるっていうか。そこは二人に共通する部分じゃないかな。それって逆に、「Youth」の言葉が本来持つ、自由さに近づいてきたような気もします。
遊び場っていうのは、本来の音楽の楽しみ方だけど、活動の形としては貴重で贅沢な場所なんです。(Rie fu)
―そういうふうに思えるようになったきっかけって何かありました?
naotohiroyama:やっぱり、なんだかんだで10代の頃に好きで聴いてた音楽が今も変わらず好きだっていうことかな。僕だったら、みんなで酒呑んで一緒に盛り上がれるような音楽。結局のところはそういう軸があるからこそ、新しい音楽も柔軟に聴けるようになったっていうことですかね。
Rie fu:今聴いて「いいな」って思う音楽も、自分が昔聴いてた音楽に実は似てるからだっていうときもあるし。
naotohiroyama:それ絶対ある!(笑) Flying LotusやMadlibは、昔自分が聴いてたダブの手法を取り入れたりもするしね。そういうことか……。
―自分が昔聴いてた音楽のエッセンスを取り入れつつ、新しい世代へ継承していきたいっていう気持ちもありますか?
naotohiroyama:うーん、どうだろう。でも、このアルバムは全体の長さが30分弱なんですけど、僕自身がそれぐらいで集中力が切れちゃうんです(笑)。だから、1枚のアルバムをスピーカーの前に座って、アルバムのブックレットやら解説やらを読みながら、音楽と気持ち良く向かい合ってもらえるように作りました。そういう意味では、自分が若い頃に聴いていたような聴き方をしてほしい、っていうのはありますね。
Rie fu:あと、ちょうど アナログレコードのA面 / B面にあたる4曲目と9曲目で、delofamiliaの曲をサンプリングしたインストが入ってるんだよね。
naotohiroyama:他の曲からサンプリングするのでも良かったんですけど、ちょっと茶目っ気がほしいなと思ったときに、自分の曲の中に使いたいフレーズがあったのでやってみようと。
Rie fu:これ、作るのすごく大変だったんだってね。私は歌ってないけど(笑)、この2曲が一番好き。
―先ほどRie fuさんは、「ライブでも自由気ままにやれる」っておっしゃっていましたけど、delofamiliaではそういう開放感がモチベーションになっていたりもするのでしょうか?
Rie fu:そうですね。たとえて言うなら、delofamiliaの曲は私にとって孫?(笑) 孫だったら後先考えず、幾らでも甘やかしていいじゃないですか。後先考えずに好きなようにできるところが、delofamiliaの魅力なんだって思いますね。そういう遊び場っていうのは、本来の音楽の楽しみ方だけど、活動の形としては貴重で贅沢な場所なんです。NAOTOさんとは、メジャーレーベルを辞めた時期も近かったんですけど、delofamiliaの活動のおかげで、ソロのほうもどんどん自由になっていますし、この制作をきっかけで知り合ったエンジニアのzAkさんにソロのほうでの録音をお願いしたり、素敵な出会いも増えました。
naotohiroyama:僕にとってのdelofamiliaは、自分がやりたいことを自然体のままやれて、なおかつパッケージングできる貴重な場所っていうことかな。雑念がないぶん、ピュアでいられるというか、計算がない。Rie fuにとってdelofamiliaが孫なら、僕にとっては自分自身そのものっていう感じですね。
Rie fu:えーじゃあ、わたしNAOTOさんのおばあちゃんっていうことになっちゃう(笑)。
- イベント情報
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- 『delofamilia(trio) Rooms「Carry on Your Youth」』
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2014年6月22日(日)
会場:京都府 京都 SOLE CAFE2014年6月23日(月)
会場:兵庫県 神戸 BO TAMBOURINE CAFE2014年6月25日(水)
会場:北海道 札幌 くう COO2014年7月2日(水)
会場:福島県 福島 Player's Cafe2014年7月3日(木)
会場:栃木県 宇都宮 Obbligato料金:各公演 前売3,000円(ドリンク別)
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- 『delofamilia tour 14「Carry on Your Youth」』
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2014年9月12日(金)
会場:大阪府 心斎橋 CONPASS2014年9月13日(土)
会場:愛知県 名古屋 ell. FITS ALL2014年9月18日(木)
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
- リリース情報
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- delofamilia
『Carry on Your Youth』(CD)2014年6月11日(水)発売
価格:2,484円(税込)
SUPER ((ECHO)) LABEL / SELC-1003 -
1. Roll
2. Brigitte
3. Because Of Animals
4. hope-lab
5. Your Youth
6. WOW
7. Only One Thing
8. Close Enough
9. Hog_T W O S
- delofamilia
- プロフィール
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- delofamilia(でろふぁみりあ)
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2007年に始動。ORANGE RANGEのリーダー / ギタリストであるNAOTO (naotohitoyama)と、シンガーソングライターRie fuを中心としたバンド。当初はNAOTOのソロプロジェクトとして始動し、信近エリや車谷浩司 (参加当時AIR名義)がボーカリストとして参加し、1stアルバム“quiet life”をリリース。2nd アルバム”eddy”にゲスト・ヴォーカリストとしてRie fuを迎えたことをきっかけに、2011年に発表した3rdアルバム”Spaces in Queue”からdelofamiliaは2人のユニット・プロジェクトへと発展し、現在の体制に至る。現在までにdelofamiliaとしてオリジナル・アルバム4作をリリース。adidasコンピレーションアルバム1作に参加。今作”Carry on Your Youth”が5作目のオリジナル・アルバムとなる。
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