第138回直木賞を受賞。桜庭一樹が2007年に発表したベストセラー小説『私の男』が、最高のスタッフ&キャストにより映画化された。監督は俊英・熊切和嘉。『海炭市叙景』(2010年)『夏の終り』(2012年)と続く精鋭メインスタッフで、極寒の北海道に生まれた鮮烈な愛のかたちを圧巻の風景と共にとらえる。世間から隔絶されたところで秘密に愛し合う父・淳悟と娘・花を熱演するのは、浅野忠信と二階堂ふみ。さらに物語のカギを握る重要な役で高良健吾、藤竜也らが出演している。
父と娘の禁断の愛――そんな挑発的なテーマに真っ向から取り組んだこの話題作を、歯に衣着せぬコメンテーターとしても活躍する人気作家、岩井志麻子はどう観たのか。性愛のタブーとは、物語作品におけるリアルとファンタジーとは、人間と環境の関係性とは? 話題は映画を起点に広範囲へと及んだ。ちなみに取材場所は、岩井さんのご自宅の近所でもある新宿歌舞伎町の某喫茶店にて!
客観的事実と、主観の中の真実が異なる位相にあるのだとしたら、じゃあいったい何をもって「正しい恋愛」というのか? ってことまで考えちゃいますよね。
―岩井さんは映画『私の男』の公式サイト用に、「恐ろしい禁断や背徳や秘密は、いつでも魅惑と蠱惑に満ちているものだ。この映画はその魅惑と蠱惑が、いつの間にか美しい愛や恋や情になっていく。そこが最も恐ろしい」という推薦コメントを出されていますね。まずは、そのココロからお聞かせいただけますか?
岩井:要するに「事実と真実は違う」ということでしょうか。例えば恋愛においても、事実はひとつしかないんですよ。男と女が出会って愛し合う過程において。でも真実は人の数だけあるわけです。すごく身近によくある例だと、周りからはどう見ても「あなたが振られたんでしょ」っていう人が、でも本人は自分が相手を振ったと言い張る、とかね(笑)。でもその人は嘘をついている気はないんですよ。当人の中では「自分が振った」ことが真実なんです。
―確かにそういうこと、あるかもしれません(笑)。
岩井:つまり客観的事実と、主観の中の真実が異なる位相にあるのだとしたら、じゃあいったい何をもって「正しい恋愛」というのか? ってことまで考えちゃいますよね。だって私の祖父母の時代は、結婚式で初めて相手を見ることが普通だったんですよ。今だったら恐ろしい話じゃないですか。本人の意思を全く無視して、日常生活やセックスのパートナー契約が結ばれるなんて。でも農家に生まれたら農家に嫁いで、商家に生まれたら商家に嫁ぐのが常識で、それが当たり前の女の幸せだったとしたら、「私は違う人生を生きたい」っていうのはとんでもない親不孝者だったでしょうし、「自由に恋愛したい」なんて、もうケダモノ扱いですよね。
―つまり「禁断の愛」というタブーの形も、社会の因習や制度によって流動的に変わるものであると。
岩井:そう、何が普通で何がいけないっていうのは個人によっても時代によっても違う。きっと30世紀の人間が今の私達をみたら「信じられない!」ってことになるでしょうね。今だって、婚姻制度は国によって違いますしね。でもどっちが正しいとか、どっちが上ってことではないですよね。 だから『私の男』の父・淳悟と娘・花の関係も、彼らの中では「正しい」んでしょう。考えたら中世のヨーロッパの王室などでは近親婚は普通でしたしね。血族を守り、財産・領地をヨソ者にとられないために固まろうとした。結局、ハプスブルク家なんかは血族結婚の果てに弱体化して、帝国は途絶えてしまいましたけど。
―岩井さんも淳悟と花の関係は理解できる?
岩井:私自身はお父ちゃんとか息子とか、(恋愛やセックスの相手として)気持ち悪くて考えられないし、ヤツらを男として目で見たことは1回もないです(笑)。だけど不思議なことに、アダルトビデオって「母と息子」ものってたくさんあるんですよね。「父と娘」ってあんまりなくて。なぜでしょうねえ? 父と娘だと、娘が被害者っぽく感じるからかしらね。母と息子だと合意の上っていう感覚なのでしょうか(笑)。
―確かに今は「父と娘」のほうが、よりタブー感が強いのかもしれないですね。
岩井:でもウチの息子は「この世で一番見たくないものはオカンの裸」って言ってますからね(笑)。それでも「母と息子」ものの需要が多いっていうのは、時代の傾向としても何か理由があるんでしょうね。ぜひAV監督さんに聞いてみたいです。これは日本だけの現象なのか、とかも。
浅野忠信さんみたいに若々しくてかっこいいお父さんだったら、どんな娘でも一緒にお風呂入りたいですよ!(笑)
―岩井さんのコメントに戻りますと、この映画ではタブーが「美しい愛や恋や情になっていく」とありますね。
岩井:だってまず、淳悟役が浅野忠信さんですから! こんな若々しくてかっこいいお父さんだったら、どんな娘でも一緒にお風呂入りたいですよ!(笑) 現実には皆が浅野さんじゃないんだから。「リアルなお父さん」のイメージでキャスティングしたら、温水洋一さんあたりになるんじゃないですか?
―浅野さんじゃなくて温水さんだったら、まったく違う映画に見えるでしょうね(笑)。
岩井:そのへんはボーイズラブの世界を考えればわかりやすいですよね。私が10代の頃はそんな言葉なかったけど、『JUNE』って雑誌とか、竹宮惠子さんとか萩尾望都さんの少女漫画が美しい少年愛をテーマにしていたり、BL愛好者はすでにたくさんいたわけですね。今なんて書店でもBLコーナーが棚を1つ占領してたりするじゃない。それを見るとこの世には美少年と美青年しかいないように見えるけど、現実に新宿2丁目に行ったらキム・ヨンナムと杉作J太郎さんみたいなカップルしかいないんですよ!
―(笑)。じゃあ『私の男』はファンタジーに近い、と。
岩井:基本的にはファンタジーでしょう。淳悟と花は、ある時期までずっと離れて暮らしていたっていうのもポイントですよね。長いこと一緒に暮らして、ステテコ姿で臭い屁こかれたりしてたら夢なんか持てませんよ。ちなみに昔、確かノンフィクション本で読んだ好きな話があるんですね。時代は昭和初期。とある農村の貧困家庭で父と娘が肉体関係を結んで、娘さんが4人も5人も子供を産んでるんですよ。お母さんも一緒に暮らしているのに、ですよ。でもやがて娘さんに恋人ができて、「彼と一緒になりたい」と父親に言うんです。もちろん父親は狂乱ですよね。その激しさに耐えかねて、娘さんは父親を絞め殺すんです。でもお父さんは娘に絞め殺されている間、全く抵抗しないんですよね。「お前に殺されるのは本望だ」とか言うんですよ……。
―恐ろしい話ですね……。
岩井:そう、本当に恐ろしい話なんですけど、これってもはや「愛」だなって。さらに警察の取り調べで、娘さんが「お父さんとのセックスで快感がなかったといえば嘘になる」って言ったんですよ。これもまた怖いんですけど、でも実際そうなんでしょうよ! 『私の男』があくまで創作上のファンタジーなのに対し、この話は実録ハードコアですよ。でも私の中に、この親子の二つの言葉がずっと残っているんですよ。父親の「お前に殺されるのは本望だ」と娘の「快感がなかったといえば嘘になる」が。
―何か最終的に純化したものを感じる。おぞましく壮絶ですけど、どこか感動しちゃうのは否めませんね。
岩井:ええ、ここまでいったら「愛」って呼んでいいと思うんですよ。だから「禁断」っていうのは恐ろしくて、同時に魅力的であるっていうことを、私はこの事件の話で知ったと思うんですね。ただ『私の男』も、ファンタジーと言いつつ決して絵空事ではないですよね。浅野さんの持つ男の色気っていうのはリアルなものだし、やっぱり「ザ・映画俳優」ならではの高級感があるっていうか。危ない言動があっても、実はマトモな人なんじゃないかって思わせますし、本物の変態でも「まあ、この人ならしょうがないや」って思うし(笑)。花役の二階堂ふみさんもリアル系の美少女じゃないですか。そこがまた生々しい。とっても可愛いし美人だけど、お人形さんみたいな感じじゃないので。映画女優さんでいく方って、黒木華さんとか、決して人工美女じゃないですもんね。そこに藤竜也さんまで出てくるんだから、「ああ、本物の映画を観ている」っていう気持ちになりますよ。
(二階堂)ふみさんが映画女優として素晴らしいなと思うのは、どんな過激なことをやっても「乙女」感を失わないこと。『私の男』でも、性に溺れながら熟していかないというか、印象は乙女のままですよね。
―藤竜也さんといえば、阿部定事件を映画化した藤さん主演の『愛のコリーダ』(1976年 / 監督:大島渚)がまさに「タブー」な男女の愛を描いた名作ですね。
岩井:私、『愛のコリーダ』大好きなんですよ。あの映画でヒロインの阿部定を演じられた松田英子さん(「松田暎子」名義も)、本当にパーフェクトな身体で、でもお顔は絶妙におブスなんですよ(笑)。でもそれがいいんですよ。「私、この身体で生まれたい!」っていうぐらいのナイスバディーなんですけど、もし松田さんのお顔が杉本彩さんとか松坂慶子さんみたいだったら、クドすぎて濃すぎて、単なるポルノ映画になったような気がするんですよ。やっぱり松田さんのリアル感があったからこそ、文芸作品としてのオーラが出たんじゃないかなって。
―なるほど(笑)。配役そのものが作品を文芸 / ポルノ、A級 / B級になるかを左右するっていう考え方は面白いですね。
岩井:逆パターンでいえば『失楽園』(1997年 / 監督:森田芳光)の黒木瞳さん。あんな美しいお顔で、脱いだらどんな身体なのだろう? という期待を見事に裏切ってくれたと言いますか(笑)。もし身体がボインボインだったら嘘臭くなっちゃって、結構B級な印象になってたかもって思うんですよ。そういえば原作が日本の漫画(作:土屋ガロン / 画:嶺岸信明)で、韓国で映画化された『オールド・ボーイ』(2003年 / 監督:パク・チャヌク。スパイク・リー監督によるリメイク作品が6月28日より公開)って映画がありましたが、あれも父と娘の関係がカギですよね。「姉弟」の要素もありましたけど。この映画のお父さん役(チェ・ミンシク)も一般的にはイケメンかもしれませんが、俳優としてはイケメンで売ってる男優さんじゃないしね。やっぱりファンタジーとリアルのバランスがちょうどいいんですよ。
―ちなみに岩井さんは、二階堂さんと一度共演されてますよね。
岩井:まあ一応、ですけどね。ふみさんがヒロインを演じた園子温監督の『地獄でなぜ悪い』(2013年)に、私も最初のほうにチラッと出てるんで(笑)。 ふみさんが映画女優として素晴らしいなと思うのは、どんな過激なことをやっても「乙女」感を失わないこと。『私の男』でも、性に溺れながらも熟していかないというか、印象は乙女のままですよね。これは彼女の演技力なのか、持って生まれた雰囲気や存在感なのか。性愛に溺れていってるはずなのに、ずっと恋する乙女に見えるのが凄いなと思いましたね。
淳悟や花って、意外なところに彼らなりのモラルやタブーがあるのかもしれないですね。だって私、浮気はバンバンするくせに、赤信号は絶対渡れないんですよ。
―特に印象に残ったシーンなど、いかがですか?
岩井:やっぱり北海道の圧倒的な景色ですね。この映画を思い出そうとすると、まず凍った海のイメージが全面的に来るんですよ。流氷が浮かんだオホーツク海。人間がいなくてもドラマとして成立してしまうのではないかっていうほどの、海の過酷な荒々しさ。私は岡山県生まれの瀬戸内海育ちなんですけど、瀬戸内海が舞台じゃダメですね。絶対凍らないし、の~んびりしてるし、淡い色の静かな海だし。岡山県は『私の男』の舞台にはなれんわ(笑)。
―でも原作者の桜庭一樹さんご自身は島根県生まれ・鳥取県育ちで、実は岡山県と同じ中国地方のご出身なんですよね。
岩井:えっ、そうなんだ! でもあちらだと日本海ですよね。前に鳥取砂丘に行った時、びっくりしましたもん。「海が違う!」って。ものすごい深い青で怖いと思いました。瀬戸内海は怖いと思ったことないですから。
―なるほど。『私の男』はある種、風景が主役でもあるぐらいに、海や流氷、雪に覆われた大地の映像が素晴らしかったですね。
岩井:ええ。海も絶対管理できないし、雪や氷も人間の思う通りにならないじゃないですか。それ自体がのっぴきならぬドラマと結びついているんですよ。私、景色に感動した映画っていうと、真っ先に思い出すのが『砂の器』(1974年 / 監督:野村芳太郎)。あれは何回観ても泣いてしまう。ハンセン病のために故郷を追われた父と息子が日本中をお遍路するんですけど、ボロボロの親子に対して、彼らが歩く後ろの四季の景色がものすごく綺麗なんですよ。春は桜、夏は緑がしたたるような山、秋のわびしく燃え立つような紅葉、冬は雪に閉ざされた村が本当に綺麗で、余計に巡礼する父子の惨めさが際立つんですよね。これは人間と風景、いったいどっちが引き立てているんだろうって。だから『私の男』も雪と氷、このためにこの人たちがいるんだろうかって。凍る海のために人間たちがいたんだろうかと思ったんですよ。
―すごく共感します。もし景色をちゃんと撮ってなかったら別の映画になったでしょうね。
岩井:舞台が室内だけだったら全く違っていたでしょうね。季節が夏だったとしても、別の印象になったと思う。海が凍るなんて瀬戸内海沿岸の住人には信じられない。でも海って凍るんだ! って。「海が凍る」ということと「お父さんが恋人になり得る」ということが私の中ではワンセットですよ。だからよくぞ、この背景にしたなあと。
―つまり景色や環境が人間を作っていくところがある。「海が凍る」土地だからこそ、従来の制度からはみ出た精神が育まれる気がします。
岩井:そうそう。だから淳悟や花って、意外なところに彼らなりのモラルやタブーがあるのかもしれないですね。だって私、浮気はバンバンするくせに、赤信号は絶対渡れないんですよ。
―(爆笑)。
岩井:何かが間違ってる気がするんですけど、絶対交通ルールを守るんですよ。「赤は渡っちゃいけない!」って思うから。でも一方で「浮気して何が悪い!」ってなるの。
―でも、そういう「自分基準」の感覚や判断は多かれ少なかれありますよね、我々の中にも。
岩井:だから私が50年生きてようやくわかったのは、「他人は自分とは違う」ってこと。めちゃくちゃ当たり前のことなんですけど、でも長らくわからなかったんですよ。やっぱりどうしても自分基準に物事を考えるから、「普通こうだよね」っていう物差しをそのまま他人にも当てはめちゃう。でも、そうじゃないんですよね。他人は自分が思ってもないことをするんですよ。
―岩井さんが「他人は自分とは違う」ってことに気づいたキッカケは何だったんですか?
岩井:いろいろあるけど、一番大きいのは自分の子供との関係ですよ。私には娘がひとり、息子がひとりいるんですけど、本当に親の思う通りになりませんから、子供って。まあ、私だってそうですからね。親が望むような風に全然なってない。子供をコントロールなんて絶対に無理ですね。
―わかるような気がします……。
岩井:今、ハタチの息子が映画学校に通っていて、別れた旦那で息子の父親は岡山で会社を経営してるんです。元旦那が3代目で、本来なら息子は4代目になるはずなんだけど、私は息子を岡山には帰さず、東京で何とか頑張って欲しい、きっとこいつには才能があるはずだと思ってたんです。でも今は、映画学校卒業したら岡山帰って会社継げ! って思ってて。
―それはアレですか、「不安定な業界仕事に就くよりは……」っていう。
岩井:そう! 私ってすげえ普通のお母さんだったんだ! って(笑)。このままだとうだうだフリーターみたいな暮らしをしながら、ゴールデン街に行って生意気な映画論とかぶっこいてる息子の将来の姿が見えるんですよ! だからどうか岡山に帰って父親のあとを継いでまっとうに生きてくれ。「会社やりながら趣味で映画作れるがな!」って必死に説得してるんです。
愛や恋は生身の人間の身体の前では概念でしかない。だから『私の男』って、根本的には愛や恋なんて実は無力だって言ってる映画じゃないですか。
―(爆笑)。でも岩井さんご自身は、親御さんに作家への道を反対されたりは?
岩井:そりゃ、「お前に作家なんて無理に決まってる」って言われたし、離婚した時にも「実家に戻って来い!」って言われましたよ。でも「絶対帰らねえ!」って東京に出てきて、おかげさまで今はお仕事も頂けてる身になってるんですが、息子は私ほどの運の良さも打たれ強さもないと思うんですよ。本当に、心から岡山で会社を継いで欲しいと思うなんて、私って実は普通のお母さんだったんですね!
―いきなり保守的なキャラになってますが(笑)。でもそれって「何が普通なのか」ってことは流動的である、という先ほどの話にもつながりますよね。
岩井:そう。だから見方を変えれば、『私の男』って「子供をコントロールできなかった親の話」でもありますよね。父と娘の間に恋愛感情が生まれて、それは異常だと思ったとしても、二人の濃密な時間や関係の中で「普通の親子関係」に戻すことはなかなかできないですよ。だから、「愛」や「恋」が万能のように、至上のように思ってる人もいるでしょうけど、本当に愛し合ってる夫婦に子供ができなかったり、見知らぬ男に強姦されたら子供ができたとか、そういう不条理な現実がこの世には満ち溢れているわけですよね。あるいは好きな男とセックスしても気持ち良くなかったり、何とも思ってない男とヤッたら意外に気持ち良かったり。人間の身体ってそういう風にできているんですよねえ。愛や恋は生身の人間の身体の前では概念でしかない。だから『私の男』って、根本的には愛や恋なんて実は無力だって言ってる映画じゃないですか。
―確かに「業」の前では、どんな概念やコードも失効するというお話だと思います。それこそ荒ぶる海や大地の前ではあらゆる人間が無力なように。
岩井:例えば「正義」っていうのは実に恐ろしいもので、戦争はどの国も自分たちが正しいと思ってやるわけでしょう。正義の反対は悪ではなくて「別の正義」っていうやつですね。あと焼きもちとか単なる私怨を正義感にすりかえる人っていますよね。バッシングする側は「羨ましい」っていう気持ちが根底にあるわけじゃないですか。戦争中だったら「パーマは敵国のヘアスタイルよ!」とか「今のご時世に何なの、この振り袖は!」とか。美しく着飾る贅沢を許さんっていうオバさんたちは、実は羨ましさもあったんでしょう。だけどそれは正義感であると無意識にすり替えてますよね。
―確かにそうかもしれません。
岩井:だからタブーってどこか羨ましさもあるんでしょうね。自分の中にあるものを刺激されるから人は反応するんでしょう。『私の男』は、今の日本社会で平穏な市民生活を営む私たちの底に眠っている欲望を突いてくるんだと思います。タブーがなければ物語は生まれないですからね。禁忌のない世界は恐ろしいですよ。あらゆるものが自由な社会になると「別の不自由」をすぐ作り出しますから、人間は。
- 作品情報
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- 『私の男』
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2014年6月14日から全国公開
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:桜庭一樹『私の男』(文春文庫)
音楽:ジム・オルーク
撮影:近藤龍人
出演:
浅野忠信
二階堂ふみ
高良健吾
藤竜也
配給:日活
- プロフィール
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- 岩井志麻子(いわい しまこ)
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1964年岡山県生まれ。1999年『ぼっけえきょうてえ』で第六回日本ホラー小説大賞を受賞。また同作を表題作とした短篇集で00年に第13回山本周五郎賞を受賞。02年に『岡山女』で第124回直木賞候補、『自由恋愛』で第9回島清恋愛文学賞受賞。日本推理作家協会会員・日本文芸作家協会会員。第2回婦人公論文芸賞を受賞した『チャイ・コイ』が2013年川島なお美主演で映画化。現在、東京MX「5時に夢中!」木曜日レギュラー、集英社「週刊プレイボーイ」内 BATTLEREVIEWコラム、講談社「山口百恵『赤いシリーズ』」内 赤の壺コラム、双葉社 日刊大衆「岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー」コラムなどの連載をはじめ、映画「地獄でなぜ悪い(園子温監督作品)」への出演など活動は多岐に渡る。
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