「いったいなぜ……?」と、誰もが耳を疑うであろうニュースが飛び込んできた。大人計画に所属する細川徹は、コントユニット「男子はだまってなさいよ!」を主宰し、シティボーイズのライブやラバーガールの脚本・演出、ドラマ『乾杯戦士アフターV』のシリーズ構成と監督やアニメ『しろくまカフェ』のシリーズ構成などを務めてきた人物。ゆるく、シュールな笑いに全力を傾けてきた彼が今回手がけた作品は、なんと、あの「サンリオピューロランド」のミュージカルショーだ。
2013年には、DE DE MOUSEとホナガヨウコがキキ&ララとコラボレーションしてプロジェクションマッピングショーの音響・演出を手がけるなど、従来の子ども向けのイメージを覆す意欲的な取り組みを見せるサンリオピューロランド。細川が手がけるのは、この7月から1年間にわたって毎日上演される、アニメ『レディジュエルペット』をモチーフにした『レディジュエルペットの魔法のミュージカル“誕生!リトルレディジュエル”』だ。小学生女子を中心に絶大な人気を誇るアニメと、サブカルチャー好きの男女から熱い視線を送られる奇才……この2つが融合し、小ネタに次ぐ小ネタと、メルヘンに対するちょっと斜めな視線、そして<あきらめなければまあまあ夢はかなう>と歌い上げるちょっと変テコだが、ポジティブなエネルギーに満ち溢れた舞台ができあがった。メルヘン×シュール、小学生×サブカルチャーと、まるで水と油のようなこのコラボレーション。作品を完成させたばかりの細川に、その心中を聞いた。
(サンリオピューロランドのショーの演出を頼まれたとき)「他の細川さんと間違っているんじゃないかな」って思いました(笑)。
―これまで多数のコントや喜劇を手がけてきた細川さんが、まさかサンリオピューロランドのキャラクターショーを手がけるなんて……。意外すぎる組み合わせにびっくりしています。
細川:僕もどうしてこうなったのかよくわからないんです(笑)。事務所から連絡が来て「サンリオのショーの話が来たけどやる?」と言われたときには、全然理由がわからなくて、笑うしかなかったんですよね。だって、普通、僕に頼まないじゃないですか? 「他の細川さんと間違っているんじゃないかな」って思ったんですが……(笑)。
―けれども、人違いではありませんでした(笑)。本人も驚いたこのオファーを、受けてみようと思ったのはなぜでしょうか?
細川:サンリオピューロランドのショーは見たことがなかったのですが、4歳になるうちの娘がちょっと前にサンリオピューロランドに行っていて、「『ジュエルペット』のショーが好き」とはしゃいでいたんです。家でもショーの決め台詞の「アイドルナンバーワン!」という掛け声を真似しながら喜んでいたのもあって、やってもいいかなって思ったんですよ。
―ということは、自分のお子さんのために引き受けたんですね。
細川:それもありますね。普段、僕が手がけている仕事は大人向けですから、あんまり子どもが喜んでくれないんです。以前、『しろくまカフェ』というアニメの脚本をやっていたんですが、それも子どもには不評でした。「シロクマとパンダが出るアニメ見る?」と聞いたところ「見る見る!!」と言って喜んでいたんですが、いざ見始めたら1分くらいで飽きてしまって「アンパンマンがいい!!」って言われてしまった……。まだ、あのアニメの良さがわからない年齢なんですね。
―そんな子どもたちに人気の『レディジュエルペット』をミュージカルとして演出するにあたって、どんなことを考えたんでしょうか?
細川:子どもはキャラクターが好きなので、人間のキャストを出すならその必然がほしいなと考えたんです。そこで、キャラクターがアニメから飛び出してくるという設定にしました。今回、一番苦労したのは会話の間(ま)。キャラクターとダンサーの掛け合いのテンポを通常のショーより早くしたり、笑いの間の作り方には苦労しましたね。
―劇中では、観客の子どもたちがスマートフォンを使って舞台に参加できるように工夫されていますね。
細川:サンリオピューロランドのプロデューサーの佐藤さんから「スマホを連動したショーにしたい」という要望があったんです。スマホは未知の分野だったのですが、できるだけ、子どもたちが舞台に参加していると思えるような形で使おうと思いました。ただ、あまり使いすぎると、ショー自体を見なくなってしまうし、もしかしたら子どもがスマホを投げちゃったりするかも……。子どもたちは想定外の行動が多いから、それを考慮して構成を考えるのが大変でした。
『レディジュエルペットの魔法のミュージカル“誕生!リトルレディジュエル”』 ©2014 SANRIO CO., LTD.
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サンリオピューロランドだからこそできる演出術
「夢は叶う」と言ってしまうと、それは大人のつく嘘になっちゃうでしょう。だけど、「まあまあ夢は叶う」くらいなら、僕自身も言えるんじゃないかなと考えたんです。
―子どももたくさん見るショーということで、普段細川さんが手がけている舞台とは、ずいぶん勝手が違ったのではないかと思います。今回、特にこだわった点はどのような部分でしょうか?
細川:見た後に、子どもたちに「いい話」を持って帰ってもらおうと思って作りました。それで、劇中で<あきらめなければまあまあ夢はかなう>という歌詞を歌ってもらっています。
―「まあまあ」っていうのがユニークですね。全部は叶わない?
細川:「夢は叶う」と言ってしまうと、それは大人のつく嘘になっちゃうでしょう。だけど、「まあまあ夢は叶う」くらいなら、僕自身も言えるんじゃないかなと考えたんです。
―「夢」や「希望」といった内容は、普段の細川さんの舞台ではまず出てこないフレーズですよね。
細川:そうなんですよね。だから、リハーサルで舞台稽古を見てると、「いったいこれは誰が書いたんだろう?」と思っちゃうこともあります(笑)。ただ、仕事としてやりがいがなかったわけじゃありません。むしろ書いてみたらとても楽しかったんです。普通のコントならある程度お客さんの反応が想定できるのですが、今回はお客さんの大部分を占めるであろう子どもたちの反応が全然読めませんからね。
―お客さんの反応が読めないのであれば、細川さんは何を指針にして今作を執筆したのでしょうか?
細川:想像の中の子ども像です。舞台を作るにあたって、いろいろなショーを見に行って、子どもたちの反応を研究しました。ただ、子どもって、何でも喜ぶとおもいきや、意外とシビアな部分もあったり、すぐに飽きて歩き出したりするので想像できない部分が多々あります。幕が開けてみないと、どうなるかわからないですね。
いつもやっているような舞台をやるなら、別にピューロランドで見なくてもいいものになっちゃう。僕のことも俳優のことも全く知らない人たちをどのように楽しませるかを考えて作っています。
―今作で、一番お気に入りのシーンはどこでしょうか?
細川:劇中で歌っている“多摩センターの歌”ですね。<どうしてきてしまったんだろう 多摩センターに>という歌なんですが、サンリオピューロランドではタブーぎりぎりのことかなとも思いつつ……。けれども、いい歌なので、きっと許してくれるでしょう!
『レディジュエルペットの魔法のミュージカル“誕生!リトルレディジュエル”』 ©2014 SANRIO CO., LTD.
―(笑)。細川さんらしく、子どもたちをメルヘン世界の中だけには閉じ込めておかないぞ、という姿勢が表れていますね。
細川:かと言って、メルヘンから完全に逸脱して、冷めてしまうのは嫌なんですよ。メルヘンチックな登場人物たちがアニメから飛び出してきて、現実の中で“多摩センターの歌”を歌うからいいんです。あくまでも、ファンタジーの中で現実が歌われているっていう、メルヘンと現実のギリギリのラインを狙っているんです。
―劇中には、人間の世界に迷い込んでしまったジュエルペットたちの「多摩センターでバイトを探さないと!」という台詞もありますね。
細川:だって、アニメの世界から多摩センターに来たら、生活できないじゃないですか!
―確かに、そうですけど……。
細川:ピクサーのアニメでも、メルヘンの世界にちょこっと現実が入っているから、大人も子どもも楽しめる内容になっているし、今回のショーでも、そういった塩梅を目指しているんです。もしも、僕がいつもやっているバランスの舞台をやるなら、別にピューロランドで見なくてもいいものになっちゃう。今回、このショーを見るほとんどの人は、僕のことも俳優のことも全く知らないで来るわけですから、そんな人たちをどのように楽しませるかを考えて作っています。
いつもの舞台とは、方法こそまるで違いますが、「お客さんに楽しんでもらいたい」という気持ちは変わりません。
―いつもの作品とは勝手が違うことばかりですが、逆に普段と変わらずにできたこともあるのでしょうか?
細川:方法こそまるで違いますが、「お客さんに楽しんでもらいたい」という気持ちはいつもの舞台と変わりありません。僕のことを何も知らない人が見ても楽しいし、僕の普段の舞台を見ている人も「メルヘンチックな世界に飛び込んで、何かチャレンジしようとしているんだな」という姿勢は伝わるのではないでしょうか。
―今回のショーは子どもたちだけでなく、その両親や、デートで訪れたカップルなども見ることになります。大人が楽しめるような仕掛けも考えているのでしょうか?
細川:今回は……大人は二の次で、あくまで子どもを中心にして考えました。というのも、2年くらい前に、自分の母校の中学校で、進路に関する講演会をしたのですが、父兄は笑うのに中学生はきょとんとしていたんです。そこでかなり悔しい気持ちを味わったので(笑)、今回は完全に子どもを狙っています! が、大人も楽しめるようにはなっていると思います。
―(笑)。一般的に、子どもを笑わせるのは簡単というイメージがありますが。
細川:日常の中で普通に笑わせるのは簡単ですが、フィクションの中で狙って笑わせるのは難しいんです。子どもは、子どもだましのネタでは笑ってくれません。
―では、今回の舞台を見た子どもたちには、どのような反応をしてほしいでしょうか?
細川:「もう1回見たい」と言ってもらえるのが一番ですね。もちろん、劇を通して心の中に何か残ったら嬉しいですが、たとえ何も持ち帰らなくても、30分間しっかり楽しんでもらえたらそれで十分。ただ、欲を言えば“多摩センターの歌”を口ずさんでほしいかな~! 普段の舞台なら、初日が開くまでとても怖いんですが、今回はあまり怖いという気持ちはありません。子どもも楽しめるものになってるという自信はありますから。
―つまり、今回は「笑わせる」よりも「楽しませる」ことを優先している?
細川:笑わせたい気持ちはもちろんあるけど、最重要じゃないんです。なるべく曲も短くして、徹底的に無駄を省きながら、スマホも連動させて子どもたちが30分間飽きず楽しめるものを目指しています。
メルヘンって、ある意味バカになれるというか、肩の力を抜いて没頭できるもの。大人にとってもそういう時間は必要なのではないかと思います。
―細川さんのお子さんは『レディジュエルペットの魔法のミュージカル“誕生!リトルレディジュエル”』を見て、どんな感想を言いそうですか?
細川:意外と気を使える子どもだから、きっと「楽しかった!」と答えるんじゃないかな。だいたい、どんな作品を見てもおもしろいって言う子どもなんですよ。あ、でも最近はちゃんと「つまらなかった」ということを覚えているので、やっぱり不安ですね……。
―お子さまに翻弄されていますね(笑)。細川さんの主宰する『男子はだまってなさいよ!』など、普段の舞台も見せているのでしょうか?
細川:見せていますよ。こないだの公演では、『進撃の巨人』をモチーフにしたコントを見て、「怖かった~」って感想を言っていました。
―細川さんのシニカルな舞台を子どもの頃から見ていたら、まさに夢も希望もなくなってしまいそうですが……。
細川:そんなことはないです(笑)。僕の舞台には、基本的に見た人が不快になるような悪意あるキャラは出てきません。コントの中では原発や覚せい剤なんかをネタにはしていますが、決して不快な感じになるようには扱っていないんです。むしろ親しみやすいので、子どもたちも見終わったら、楽しんで「覚せい剤! 覚せい剤!」とはしゃげるんです!
―それはだめです!!(焦) ところで、「親バカ」を自認する細川さんですが、子育てをするにあたって、決まりごとや気をつけていることはありますか?
細川:決めていることは特にないですね。すごくかわいいので、超甘やかしていますよ(笑)。
―細川さんの子育てと、今回の作品が共通しているポイントはありますか?
細川:直接的に共通しているわけではありませんが、僕自身、わりと「世の中は悪いもんじゃない」という気持ちでいるんです。だから、僕の作品には不快になるような人も出てこないし、子育てについても、本人の好きなように生きていればなんとかなると考えているのでしょうね。最近では、映画やドラマでもエグい内容のものがわりと当たりやすい傾向はありますが、僕はそっちの方向の作品を書くつもりはありません。
―「世の中は悪くない」という考え方は、子ども向けのキャラクターショーやファンタジーを創作するにあたってにぴったりのマインドですね。
細川:ただ、僕の作風としてどこかに毒も入れたいので、子ども向けの作品となると難しいのは確かです……。ただ、今回、ピューロランドでやっていいことの枠を広げてしまったので、次にやらせてもらう機会があったら、もっと毒の含んだこともできるでしょうね(笑)。
サンリオピューロランド ©2014 SANRIO CO., LTD.
サンリオキャラクター ©2014 SANRIO CO., LTD.
―今回、ピューロランドのショーを手がけてみて、改めてサンリオが持つメルヘン世界についてどのように考えられたのでしょうか?
細川:この作品を作るにあたって、初めて知ったんですが、ピューロランドには家族連れやサンリオマニアの女の子たちだけじゃなく、普通のカップルも多く訪れているんです。キャラクターって、大人が見ても単純にかわいいし、僕自身、ジュエルペットが出てくると、今でもテンション上がるんですよね。メルヘンって、ある意味バカになれるというか、肩の力を抜いて没頭できるもの。大人にとってもそういう時間は必要なのではないかと思います。
- イベント情報
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- 『レディジュエルペットの魔法のミュージカル“誕生!リトルレディジュエル”』
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2014年7月12日(土)から上演
会場:東京都 多摩センター サンリオピューロランド ディスカバリーシアター
脚本・作詞・演出:細川徹
音楽:中西ゆういちろう
映像:大見康裕
振付:夏空李光
声の出演:
齋藤彩夏
井口裕香
平野綾
ささきのぞみ
小林桂子 種田梨沙
- プロフィール
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- 細川徹(ほそかわ とおる)
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1971年10月15日生まれ、埼玉県出身 脚本家・演出家。大人計画所属。コントユニット「男子はだまってなさいよ!」の主宰として、作・演出を手掛けるほか、シティボーイズライブやラバーガールの作・演出、温水洋一のユニット「O.N.アベックホームラン」などを担当。その他、ドラマ「おじいさん先生 熱闘篇」やアニメ「しろくまカフェ」、DVD「バカ昔ばなし」などを手がけている。
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