巨大なテトリスのブロックのような構造物を人力で建物に搬入する『搬入プロジェクト』など「これが……演劇!?」と驚く作品で国内外の評価を集める「悪魔のしるし」の主宰・危口統之。現在彼は、画家である実の父を主演に据えた新作『わが父、ジャコメッティ』を制作中だ。評論家・矢内原伊作の著作を下敷きに、父親と彫刻家アルベルト・ジャコメッティを重ね合わせるという同作は、これまでの作風から一転し、きわめてドメスティックなテーマを扱っている。すでに試演会などが行われ、次第にそのかたちが明らかになっているが、いまだその全貌を掴んでいる者はいない。危口統之はどこに行こうとしているのか?
そこで、危口とも親交の厚いハードコアパンクバンド「core of bells」から池田武史と會田洋平を招き、鼎談を行うこととなった。すでにいくつかのプロジェクトで協力体制を築いてきた両グループは、その目的意識や趣味性において多くの共通点を持っている。ヘビーメタルとハードコアパンク。様式や構造から作品を作り上げていく制作姿勢。シーンの注目を浴びながらも、賛否両論分かれるような作品をあえて上演する理由。それらの要素を紐付けることで浮かび上がるものとは何か? 最後は批評やジャーナリズムに対する苦言まで、2時間半に及ぶ白熱した議論(もしくは男子の駄話)をお送りする。
こんなにもまったく面白くないものを作ってしまって、「俺の演劇人生は終わった」と思っていたら、好意的な意見が聞こえてきて。(危口)
―今日は10月11日からKAAT神奈川芸術劇場で、新作『わが父、ジャコメッティ』を発表する「悪魔のしるし」の危口統之さんと、公私にわたって親交のある「core of bells」(以下、コアベル)の池田武史さんと會田洋平さんをお招きして語り合っていただこうという主旨です。みなさん、ハードコアパンクやヘビーメタルといった音楽好きとのことで。
危口:話が合うかもですね。
池田:合うかな? むしろ空気を乱すような。
―音楽の話もお聞きしたいですし、コアベルが現在12か月連続で開催中の自主企画イベント『怪物さんと退屈くんの12カ月』でも、危口さんが参加協力しているという縁もあるので、その作品についても伺っていきたいです。危口さんはKAATでは2012年に『倒木図鑑』を発表されていますね。
危口:ダダスベりしたやつですね。
―……賛否両論ありましたね。
危口:いや、スベったと思うんですよ。Nadegata Instant Party(コミュニティにコミットし、その人々と関わり合いながら1つの出来事を作りだしていくアーティストユニット)の山城(大督)くんには「ほんまにクソやな!」と言われ、一緒にKAATのプログラムに参加していた快快(FAIFAI)の北川(陽子)さんには「おスベりになられて……」みたいな癒しのメールをいただいて。
池田:そこで初めてスベりを自覚したんですか?
危口:いや、初めてではないですね。やっぱり『フェスティバル/トーキョー10』(以下『F/T10』)で上演した『悪魔のしるしのグレートハンティング』が全ての始まりというか。
池田:どんな作品だったんですか?
危口:ボードゲームと漫画の『賭博黙示録カイジ』がアイデアの原点で、巨大なカジノテーブル上でルールのよくわからないゲームが進行している中で、出演者が賭博に興じているシーンを観せたいと思ったんですよ。たとえばテーブルの上をSLが走っていて、ポッポーなんて汽笛が鳴ると、出演者が「負けた!」とか言って大袈裟に頭を抱えたりする『カイジ』的世界を作ろうと。
―ドラマの手触りだけが生まれては消えるみたいな。
危口:でも途中から作り込むのが面倒くさくなって「そういうことをやろうとしたけど無理でした」っていう芝居を作った。というかごまかした。こんなにもまったく面白くないものを作ってしまって「俺の演劇人生は終わった」と思っていたら、好意的な意見が聞こえてきて。
池田:はあ。
危口:「みんな一体何を見てるの!?」という感じで、そのときに自分の考えと違う意見を持っている人がこの世にはたくさんいるんだなあと思いました。
池田:初日公演が終わった後は地獄ですね。つまんないけどやり続けるみたいな。
危口:いや、違和感はあるんですが、どんな理由でも褒められたら嬉しいんで、流されるままに。でも、それがKAATの『倒木図鑑』でようやくバランスが取れて。「これは……」と思ってやったら、実際に「面白くない」と言ってくれる友だちがいて。それで、やっと地に足がつきました。
―先日、危口さんが参加した、コアベルの『子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖』が上演されましたが、それも近年稀に見る散々な評価が飛び交っていて……本音を述べず、とりあえず「いいね!」しとけばいいか、的なSNS時代にむしろ新鮮でした。そもそもみなさんが出会った馴れ初めというのは。
會田:よく会話をするようになったのは2011年の『吾妻橋ダンスクロッシング』の楽屋ですよね。
危口:そのときの参加者が、まあ多かったんですよ。□□□(クチロロ)の三浦(康嗣)さんが結成したスカイツリー合唱団も参加していて、我々は楽屋の隅っこに机を割り振られたんですけど、友だちが誰もいなかったので交流もせずに身内だけでボードゲームをやっていて。
會田:それで僕らも混ぜてもらって。
危口:そうそう。「コアベルさんもゲームやります?」って。ちょっと寂しそうだったから。
池田:お互いに居場所がない。
危口:スカイツリー合唱団の人たちがキラキラオーラを発していてねえ。蓮沼(執太)くんも王子オーラをふりまいていて……。
池田:ピアノとか弾きやがって。
危口:そりゃ弾くでしょ。
會田:途中からひどかったですよね。合唱団はかわいい女子が多いから「あの2人デキてんじゃねーの?」ってゲスな話ばかりして(笑)。
危口:僕は下ネタが嫌いなので、それには参加してないですけどね。
普段関わっている人でヘビーメタルの樹形図を書いている人なんて皆無ですからね。危口さんは間違いなく信頼できる人だって思いました。(池田)
池田:その楽屋で、危口さんが書いたヘビーメタルのミュージシャンの樹形図を見せてもらったのを覚えてます。たぶん今、それ借りパク状態だと思うんですけど。
危口:あ、コピーあるんで大丈夫です。
危口統之が書いたヘビーメタルミュージシャンの樹形図 拡大版を見る
會田:その凄まじい樹形図がきっかけになって、危口さんとなら絶対面白いことができると思いました。それで最初に一緒に行なった公演が、『moshing maniac 2000』(2014年)ですね。
池田:普段関わっている人でヘビーメタルの樹形図を書いている人なんて皆無ですからね。これは間違いなく信頼できる人だって思いました。
危口:高校時代、活字は『BURRN!』(ヘビーメタル専門誌)しか読んでなかったからね。
會田:僕らはコラボって好きじゃないんですよ。誰かを入れて何かをやる、ってことに興味はなくて。でも『moshing maniac 2000』は、ハードコアパンクバンドにおける、モッシュとかライブの「型」をひたすら極めるっていう内容だったから、これは危口さんと一緒にやったら絶対楽しくなるなと。
危口:(モッシュと言えば)いわゆる危口案件ですね。お誘いを受けて断るということが僕はほとんどないので、好奇心でやりました。
會田:それで公演が終わったときの感触がすごく良かったんですよ。とにかく楽しくて。「また何かやりたいですね」って話をしていて、それが『子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖』につながって。
『子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖』は、簡単に言うと「正直者がバカを見る」みたいなことをやりたかったんです。(池田)
―『子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖』の肝って何だったんでしょう? 会場の六本木SuperDeluxe内に仮設の迷路みたいなのを作って、ルールに従って観客全員参加のゲームが進行するっていう内容ですよね。最近流行っている『人狼』みたいな。でも、提示されるルールも複雑で把握しづらいし、果たしてルールどおりにゲームが遂行されているかも不明じゃないですか。
池田:簡単に言うと「正直者がバカを見る」みたいなことをやりたかったんです。
―最初に参加者に軍手が配られて、僕の場合はそこに「鬼」って書かれてました。「鬼」と「罪人」の2種類があって、本来であればどちらかが徐々に減っていくというルールのはずだけど、人が減っている気配はなくて。
會田:罪人もいる、というルールにはなっているんですけど、じつは全員が鬼なんです。
―やっぱり!
池田:そもそもコアベルに好意を持ってイベントに来てくれる人は、ルールを守る真面目な人が多いだろうな、と思ったんですよ。それを利用して、全員が鬼だったらそれはいい感じの混乱が起こるだろうと。
危口:何から何まで成功した完璧な上演のイメージを設定しないままやっているのが、コアベルだと思います。
―すごく怒っているお客さんもいたそうですよ。「結局演奏しないのか!」と。
池田:演奏しないといけないとは、僕らは思っていません。というか、しなくていいとも思います。僕らはノイズとかハードコアをよく聴いてきて、そういう音楽って最初は高揚するんですけど、大概5、6分で退屈になるわけですね。発せられている音がだいたい一緒なので。そうすると何を観にライブに行っているかといえば、演奏者の顔だったりするんですよ。名前を出すとちょっと失礼かもしれないですけど……。
―大丈夫ですよ。
池田:會田くんの企画で三上寛さんと灰野敬二さんのデュオがあったんですけど、何の曲をやっても全部一緒に聴こえて……。曲が終わると、じつは“夢は夜開く”だったってわかったり(笑)。もうそうなると受容しているのは、見た目や顔なんですよ。
會田:たとえば、INCAPACITANTS(非常階段のT.美川が在籍するノイズバンド)のライブでも、もう音自体は飽和しているわけで、じゃあどこで盛り上がるかと言うと美川さんが指を客に向けて突き刺したときだったりするわけで。
池田:もはやプロレスに近いよね。「鉄板に肘鉄を入れたぞ!」とか。うまいこと話をつなげると、コアベルがやっているのはその顔、演奏の周縁にあるものを拡大することなんです。それも込みで「音楽だろう?」と思ってやっている。楽器を弾けないメンバーとして山形(Vo)を入れているのも、電気グルーヴのピエール瀧的なことで。「バンドには何もできないヤツが必要だ! デカいやつだったら尚面白い!」っていう信念のもとなんです。
會田:でも最近は、フロントマンとしての自我に目覚めて歌い出したりして、僕らは「あーあ」ってなってます(笑)。
池田:しかも最近は痩せちゃって。オモシロ要員としては不適格。クビですね。
感情から音楽をやるというよりは、フォーマットみたいなものにしか興味ないです。(會田)
―形式や様式が、コアベルの重要なポイントなんですね。
會田:そうですね。感情から音楽をやるというよりは、フォーマットみたいなものにしか興味ないです。
池田:ハードコアパンクは様式美の世界ですから。Napalm Death(グラインドコアの始祖的バンド)に“You Suffer”という曲があって、「カカカカカ……バン!」って1秒で終わる曲なんですが、初期のハードコアのマーケティングって基本的に「世界最速」だけというか、内実ともに「速いもの勝ち」な部分がありまして。そこに「世界最短」という要素を入れた結果、世界中のバンドが真似るようになって、しまいには世界各国の録音状態の異なる「カカカカカ……バン!」でコンピCDが作られるっていう。
―特異な存在として現れたものがフォロワーを生むという現象でしょうか。
危口:僕は『BURRN!』信者だったので、リアルタイムでは気付けなかったんですよ。あの雑誌はレビューでもNapalm Deathにひどい点数を付けていて、それはそれでメタル雑誌として筋が通ってて偉いと思うんですが。だからNapalm Deathを発見したのは少し後だったけど、「こんなのが出てきたら、このジャンルに先はないぞ!」って思った。でも、むしろそれは行き止まりではなく始まりにすぎなかった。
池田:終わりの始まり的な(笑)。
危口:形式がどんどん変わって行く歴史的な運動に興味があるのかも。コアベルはハードコアパンクだし、僕の場合はヘビーメタル。それと子どもの頃、ファミコンで次から次へと面白いゲームが出てくるのを目の当たりにしたのも大きな体験。面白いことをやろうとする人たちがリソースをどんどんぶっ込んで、何か運動が生まれる。
池田:かたちが先に決まっていて、内容は後からついてくればいいよ、っていう極端なハードコアの考え方は、コアベルももろに影響受けています。
『F/T10』で不可解な評価を得て以降、自分の人生から急速にリアリティーが失われたんです。(危口)
―音楽史の特異点がハードコアパンクだとすると、危口さんがやっている悪魔のしるしの活動も演劇史における特異点といえるかもしれませんね。
危口:いや、ぜんぜん意識してないです。
―演劇に限定せずとも良いのですが、危口さんが関わってきた数々の賛否両論ある作品を見て、何を表現したいと思っているのかなと。
危口:特にないですね。
―無ですか。
危口:無っていうと、ちょっと重いですね。小津安二郎みたいになっちゃう。
池田:危口さんも(小津安二郎みたいに)墓に「無」って刻むんですか?
危口:そんな恥ずかしいことできるわけないじゃないですか(笑)。
―とはいえ、作品をその都度作っていくわけですから、短期的な目標はありますよね?
危口:……みんなの笑顔を見たい。
―絶対嘘でしょう(笑)。
危口:何言ってるんですか。本当ですよ!
池田:でも、何をもって「みんな」と括るかの問題はあるじゃないですか。
危口:そうか。その「みんな」が何を自分に求めているかを知りたい。つまり自画像を描きたいってことなのかもしれないですけど……いや、それも違うかなあ……。おかげさまで最近は仕事の依頼をいただくことから作品が始まっているんですよね。自分でアイデアを思いついて「これはどう?」って仲間に声かけてやるっていうんじゃなくて。動機がなくても動いていくから、目標はそんなに必要じゃない。
―環境ありき、ってことでしょうか。
危口:雑にまとめると、コアベルも悪魔のしるしも、他にやりたいことは多分あると思うんです。しかもそっちのほうが、もう少しキラキラしているように思うんですよ。
池田:スカイツリー合唱団に入りたいんですか?
危口:そうじゃないけど(笑)。それこそ『F/T10』で不可解な評価を得て以降、自分の人生から急速にリアリティーが失われたんです。だから来た依頼は全部受けるし、僕が主体的に判断しなくても転がっていくのが面白いなあと。身投げ感ありますね。
―作ることの面倒くささが、『F/T10』で上演された『グレートハンティング』になったとおっしゃっていましたが、それをしっかりやっているのが、たとえば「ままごと」の柴幸男さんだったりする気がします。
危口:そうかもしれないです。柴くんの『わが星』を観たとき、本当にびっくりして。当時、ちょっと演劇と距離を置いていて「そろそろやらないとな」っていう時期で。『わが星』のあまりのクオリティーの高さに興奮して、次回作のオーディション受けたんですよ。
會田:ええっ!? まじっすか?
危口:落ちたけど。どうやって作品を作っているのか興味があったんです。そしたら意外と身軽というか、ちょっと試してみて、違うなと思ったら別のことを試してみる。じつに実直に細かいことを積み重ねていて、やっぱりラクな道というのはなかなかないなと。
―危口さんはそれができなかった?
危口:できないですね。稽古とかあまり好きじゃないですし、なるべく思いつきだけで済むようにしたいんですよね。まあ、こんなことをやっているといつかヒドい目に遭って、そこで僕の演劇人生は終わるんです。そして来世では幸せな演劇人生が始まるんです……。
もう来年から劇団名変えますよ。「らしさ」とか重荷でしかない。「第2悪魔のしるし」を作ります(笑)。(危口)
―とはいえ、間もなく新作『わが父、ジャコメッティ』が上演されるわけですが、現在はどんな状況でしょうか。
危口:本当に危機ってやつです。早く台本を書かなければと思っています。
―『搬入プロジェクト』や『倒木図鑑』などと比較すると、一般的なストーリーのある演劇になる予感もするのですが。
危口:いや、決まってないです。あ、舞台美術は全部決まりました。要するに僕が担当している部分以外は完璧です。材料は全て出揃っていて、その組み合わせで一番喜んでもらえそうなことをやります。
―与えられた条件によって、作品を外からかたち作っていくのも、悪魔のしるし的、危口さん的な特徴なのかなと思います。
危口:いや、もう来年から劇団名変えますよ。「らしさ」とか重荷でしかない。「第2悪魔のしるし」を作ります(笑)。
池田:脚本の話ですけど、コアベルの場合、大枠は僕なんかが決めて、脚本やセリフの細かいところはメンバーの瀬木(Gt)とか山形に振っちゃうんです。危口さんの見たいものがぼんやりあるとして、脚本を具体化する段階は他人に振ってしまうという選択肢もあるんじゃないですか?
危口:考えたことなかった。そもそも、そういうことを引き受けてくれる人がいるとすら思ってないです。でも、力のある出演者さんがいる場合は、その人の瞬発力や経験に丸投げすることはしょっちゅうですけど。
池田:なるほど。
危口:『仕込みiPhone』の森翔太さんはその最たるものですね。森さんだけ意図的にセリフを書かないとか、しょっちゅうやっていて。明日までに用意するとか嘘ついて、本番を迎える。森さんは隙間恐怖症なので、生存本能でどんどん埋めていってくれるんです。
―それも不思議な作り方のような気が。
危口:いや、適材適所ですね。
會田:『わが父、ジャコメッティ』は試演会をやってましたよね。それも適材適所を見定めるための試みだったんですか?
危口:あれは舞台経験のない親父を一度舞台に上げてみようっていうのが目的だったんです。でもあの後大変だったんですよ。父が、自分は演劇の才能がゼロではないみたいな顔をしはじめて。それにムカついて色々ストップしてしまいました。現象としては面白いんですけど、それはお客さんが観たら不愉快だろうなと。
池田:僕も瀬木や山形がドヤ顔しながら演技しているとムカつきますね(笑)。
會田:でも、コアベルは11年もやって来たし、このメンバーでやっていくしかないって腹括ってますよ。いろんなものを許容してやっていく。
危口:調和さえ取れていればいいんです。美とは調和だと思っているので。ど素人のおじいさんが何やら調子に乗っている、というお客さんにとって迷惑な突起物みたいなことが起きたとき、その反対側に似たような突起物を置いておけば、図式的にはバランスは取れる。だから父親を野放しにしつつ、さりげなく別の突起物を用意すればいいんじゃないかと。
「コアベルは美術とか演劇とか音楽とかを領域横断してらっしゃいますよね」って言われても、でもそれってほぼ何も言ってないのと同じですよね? ってことです。(池田)
―悪魔のしるしもコアベルも、演劇だけでなく美術シーンでの評価も高い集団です。それは今まで話してきたような、カテゴライズされることから逃れる姿勢や表現によるところも大きいのではと思います。
危口:それは絶対違いますよ。もっとめちゃくちゃカテゴライズしてほしいんです。暴力的であってもカテゴライズすることは、批評家自身の見聞の範囲を自ずから告白することになる。作り手同様に、書き手もリスクを負っていこうよ。
會田:批評側がふわふわしすぎですよね。『怪物さんと退屈くんの12カ月』で公演と批評を1セットにして、言語化している理由もそれなんですよ。
池田:「コアベルは美術とか演劇とか音楽とかを領域横断してらっしゃいますよね」って言われても、でもそれってほぼ何も言ってないのと同じですよね? ってことです。
會田:「美術館でライブするバンド」とか言われても「あれー?」って感じで。それじゃこっちも創作のモチベーションが続かない。
危口:批評家はもっとレッテルを貼りまくらないとダメ。曖昧な話をするより、カテゴライズしまくって「○○系」とか決めてほしい。1つの作品から10個くらい考えてほしい。ニコ動みたいにタグがばーっとついて。
池田:ヘビーメタルとハードコアパンクは超ありますからね。セクト分けが。
危口:そうすれば、作り手もレッテルを前提に次のアクションが起こせる。もしくは他の人がそれを見て、新しいカテゴリーを作ったりだとか。軽薄に物事を断罪していくスピード感で、批評は頑張ってほしいです。
(多様性のある表現なら)1,000個のレッテルを考えればいいわけですよ。100以上思いつかない自分の不見識をごまかすための「ふわふわ」は許さん、って話ですよ。(危口)
―これはとりあえず美術に限りますけど、昨今の美術は多様性が非常に礼賛されるので、それに沿った書き方をするとだいたい曖昧になる傾向があります。
危口:それは1,000個のレッテルを考えればいいわけですよ。100以上思いつかない自分の不見識をごまかすための「ふわふわ」は許さん、って話ですよ。メタルなんて凄いですからね。最近一番笑ったのは「メソポタミアン・メロディック・ブラックメタル」ってジャンル。
―ティグリス・ユーフラテス川流域で生まれたヘビメタですか。
危口:単純にイスラエルかどっかのバンドなんですけど。でもブラックメタルって、もともと北欧で生まれたアンチクライスト系のヘビーメタルなんです。イスラエルのお前らはキリスト教徒かどうかも怪しいし、そもそもそこはメソポタミア地方じゃないだろうと(笑)。文脈を踏んだり、踏まえ損なっている音楽なんですけど、まあ最高ですよ。
池田:それ絶対名乗りたいだけですよね(笑)。
危口:1980年代くらいまでは、ジャーナリズムが「○○メタル」ってカテゴライズすることに、バンド側も「ちょっとなあ……」っていうのはあったんだけど。それが成熟して、今やデビューする側が自己カテゴライズするというゲームが始まっている。それはそれで面白い。
―何だか、我々は悪しきポストモダンの時代に生きているなという感じです。
危口:それはお互い様で、もう死ぬまでですよ。最後の腐れポストモダン野郎として僕は頑張りたいところでございます。
―そろそろいい時間ということで。
- イベント情報
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- 悪魔のしるし×KAAT
『わが父、ジャコメッティ』 -
作・演出:危口統之
原案:矢内原伊作『ジャコメッティ』『完本 ジャコメッティ手帖』(みすず書房)
音楽:阿部海太郎
映像:荒木悠
出演:
木口敬三
木口統之
大谷ひかる横浜公演
2014年10月11日(土)~10月13日(月・祝)全5公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
料金:一般 前売3,000円 当日3,500円 シルバー2,500円 U24(24歳以下)1,500円 高校生以下1,000円
※シルバー、U24、高校生以下チケットは、チケットかながわにて窓口・電話予約のみ枚数限定で取扱京都公演
2014年10月16日(木)~10月19日(日)全4公演
会場:京都府 京都芸術センター 講堂
料金:
前売 一般2,500円 25歳以下・学生2,000円 65歳以上2,000円 高校生以下1,000円
当日 一般3,000円 25歳以下・学生2,500円 65歳以上2,500円 高校生以下1,000円スイス公演
2014年11月4日(火)
会場:スイス クール Theater Chur2014年11月6日(木)
会場:スイス ベリンツォーナ Teatro Sociale Bellinzona2014年11月11日(火)
会場:スイス バーゼル Das Neue Theater am Bahnhof
- 悪魔のしるし×KAAT
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- 『怪物さんと退屈くんの12ヵ月』
第10回公演『コアオブベルズ大爆笑』 -
2014年10月13日(月)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:東京都 六本木 SuperDeluxe
出演:core of bells
料金:予約2,500円 当日2,800円(共にドリンク付)
- 『怪物さんと退屈くんの12ヵ月』
- プロフィール
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- 悪魔のしるし (あくまのしるし)
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- core of bells(こあ おぶ べるず)
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2003年に湘南で結成。山形育弘(Vo)、池田武史(Dr)、會田洋平(Ba)、吉田翔(Gt)、瀬木俊(Gt)による5人組。一見、高い演奏力を持った本格的なハードコアパンクバンドという形態でありながら、演奏中に寸劇などを織り交ぜて、観客を煙に巻くような演劇的パフォーマンスを得意とする。美術館などのアートスペースでの公演も多く、池田は現代美術作家としても活動。2013年、2ndアルバム『Methodelic』をHEADZよりリリース。2014年1月より六本木SuperDeluxeにて、自主企画イベント『怪物さんと退屈くんの12カ月』を12か月連続で開催中。録音、映画制作、ワークショップ、お泊まりキャンプ、ホルモン屋及びホームセンターのフィールドワークなど、そのつまみ食い的な活動はほかに類を見ない。
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