何事においても、大事なのは結果ではなく過程である。こう書いてしまうと、何だかお説教臭くも感じるし、「いやいや、結果を出さなきゃ意味ないでしょ」という人がいるのももちろんわかる。しかし、機能性や利便性ばかりを追い求めた末にバランスが崩れ始め、その裏側にある綻びが顕在化し始めている現代において、過程の重要性は改めて認識されるべきではないかと思う。そして、それはポップミュージックの世界においても同様で、アーティストがいかに試行錯誤して作品を作り上げたかを知ることによって、その音楽には重層的な意味合いが生まれてくる。前置きが長くなってしまったが、TAMTAMメジャー初のフルアルバム『Strange Tomorrow』は、そんなことを改めて教えてくれる作品だ。
様々な趣向性を持ったメンバーが「普通のことは絶対にやらない」を唯一のルールにプレイを提供し、4つ打ち全盛のシーンにおいて、自らのルーツであるステッパーズにこだわり、「びっくりサウンド」が満載の奇妙なテクスチャーに貫かれた『Strange Tomorrow』は、TAMTAMというバンドの本質を常に問いただしながら作られた作品だと言っていいだろう。そして、そんな過程を通過して生まれた作品だからこそ、ここには機能性や利便性だけでは説明しきれない、音楽の持つプリミティブな驚きが詰まっている。間違いなく、これまでの作品の中でベストの1枚。CINRAでは初めて、メンバー五人全員に話を訊いた。
客席に向かって歌うためには、メロディーでも作詞でも、何か訴えるものがないとダメだし、もうフワッと空を見つめて歌うような感じではないなと思ったんですよね。(Kuro)
―メジャーからのファーストフルアルバム完成おめでとうございます。全体としてSF映画のようなスケール感がありつつ、1曲1曲にもかなりの情報量が詰め込まれた、非常に濃密な作品になっていると思うのですが、実際どんな作品を目指したのでしょうか?
Kuro(Vo):アッパーなものにしろダウナーなものにしろ、TAMTAMの十八番と言えるようなタイプの曲を、さらに成熟させたいと思いました。全く新しいことをやるよりかは、今までやってきた中で「これが100%TAMTAMです」という部分を、これまで以上に強めて作りたいなと。あとは「ライブをガンガンやっていきましょう」と話し合っていた中で作ったので、肉体的なものを目指しましたね。私のライブでのスタンスも、内に閉じこもるというよりは、お客さんにエネルギーをぶつけるような感じに変わっていったので、「放出したい」という願望はありましたね。
yuthke(Gt):うん、肉体的っていうのはすごく思っていて、あとは作っていく中で、最初はもっとポップなものを想像してたんですけど、思ってた以上にドープになったなって。
左から:junet、affee、Kuro、tomomi、yuthke
―メジャーでのファーストアルバムといったら、普通はポップになると思いますが、そこでドープになるというのが実にTAMTAMらしいですね(笑)。
affee(Dr):前のメジャーデビューミニアルバム(『For Bored Dancers』)のときに、友達から「もっとやれるんじゃない?」っていう感想をもらったりもしてて。せっかくメジャーというポジションでやれるんだから、凝れる限り凝った方が面白いだろうなと思ったんですよね。なので、スタジオワークで変な音を入れてみたりとか、思いついたことはよりためらわずにやるようになりました。ライブ感とは別軸で、「音楽が好きであることをちゃんと伝えよう」ということもすごくイメージしましたね。
Kuro:その一方で、「歌ものとしてどうか?」っていうのは、ここ(Kuroとtomomi)では相当意識した部分で。
―コードの展開を考えたり、ポップス的な要素をバンドに持ち込んでいるのはtomomiくんなんですよね。以前Kuroちゃんとjunetくんにミトさんと対談してもらったときに、「tomomiくん一人だけニコ動世代に聴こえる」っていう話がありましたが、実際にニコ動周りの音源とかも聴きますか?
tomomi(Key):いや、そういうのは聴かないんですけど、一人だけちょっと違うっていうのは、正しいかもしれないです。一番好きなのがサルサなんですよね。なので、曲に「色付けする」みたいな感覚があったり。
Kuro:ともみん(tomomi)はドープなものはあんまり聴かなくて、「カラフルなものが好き」っていうイメージなんですよね。TAMTAMはもともとドープ好きばっかりなんで(笑)、これまでは遠慮してた部分もあったのかもしれないですけど、そこはともみんの1つの能力として、ガシガシ出してもらうことにしていったんです。
tomomi:確かに、前よりも遠慮は減ったかもしれないです。「ダメだったらダメって言われるだろう」と思って作れるようになりました。
―とにかくまずは、試しにやってみてから判断していこうと。
affee:そうですね。メロディーも全体的な雰囲気も、もっと自分たちの可能性を広げられるようにしたかったんですよね。今までだったら「これはやったらダメかもしれない」って思うことも、「とりあえずやってみよう」っていうモードでしたね。
Kuro:メジャーに来たからっていうわけでもないんですけど、意識がふんわり変わっていったというか(笑)。インディーズのときは「大衆に向けて」みたいなことは二の次に考えてしまってたんですけど、前作の『For Bored Dancers』を作ったときに、「歌もの」っていうことを初めて真剣に意識したんです。客席に向かって歌うためには、メロディーでも作詞でも、何か訴えるものがないとダメだし、もうフワッと空を見つめて歌うような感じではないなと思ったんですよね。
みんな器用だし、やれることも多いんですけど、ひねくれてもいるので、「こうやるべき」っていうところでそれをやらずに、「ちゃんと」ずれるようにするんですよね。(affee)
―junetくんとしては、「開かれた歌もの」でありつつ「音楽好きによるドープな作品」でもありたいという、そのバランスはどう考えましたか?
junet(Ba):出来上がってみて、「変なことやってんなあ」って思いました(笑)。みんなすげえこだわって作ってて、変なんだけど、ちゃんとバンドサウンドが成り立っているんですよね。まさに「びっくりサウンド」だなって(笑)。
―それもミトさんが対談で言ってたことですね。「ダブとはびっくりサウンドである」って(笑)。これは改めての質問ですが、TAMTAMの「びっくりサウンド」はどのようにして生まれているのでしょうか?
affee:曲を作るときに、最初から全体像が見えているわけではなくて、レコーディングのときは各自が自分のプレイに専念して、最後に帳尻を合わせるというやり方をしてるんです。あの、『カイジ』の同人誌とか、『学園ハンサム』ってゲームとかって、顎がどんどん尖っていくんですけど、僕らの曲も全員が無自覚にプレイした結果、顎が尖っていくみたいな話で(笑)。
―その例えがどれほどの人に通じるかわかんないけど(笑)、今って1曲の中に情報量の多い、編集的に作られた楽曲っていうのは結構多いと思うんですね。ただ、それこそニコ動周りとかそうだと思うけど、1人のコンポーザーが頭の中にあるものを編集してアウトプットしているのに対して、TAMTAMはあくまでバンドとして、メンバー一人ひとりが持っている要素が曲の中に放り込まれて、尖ったものが生まれてるってことですよね。
Kuro:そうですね。例えば、今みたいにロックバンドと対バンしても大丈夫になったのは、yuthkeが入ってきて、ロック寄りなサウンドを放り込んだからだと思うんです。もともとエフェクターが大好きなんで、ダブってところにかこつけて、エフェクターをめちゃくちゃ使ったりとか(笑)。
affee:みんな器用だし、やれることも多いんですけど、ひねくれてもいるので、「こうやるべき」っていうところでそれをやらずに、「ちゃんと」ずれるようにするんですよね。それが結果的にバンドらしさになってるのかなと思います。
―ちなみにyuthkeくんは“クライマクス”のときに8小節作るのに1か月以上かかったというエピソードもありましたが、今回はスムーズに進みましたか?
yuthke:今回もかなりハマりましたね(笑)。いろいろアイデアを考えてレコーディングに行くんですけど、実際やってみると「どれもダメだ!」ってなっちゃって(笑)。あとはその場で、「降ってくる」っていうのともまた違う、稲妻に打たれて出てくるようなイメージで頭に浮かんでくるんですよね。今回で言うと、“エデン”のサビのカッティングがそうなんですけど、浮かんだフレーズが難しすぎて、レコーディング中に練習してました(笑)。
junet:僕もyuthkeと一緒で、自分で作ったフレーズが弾けないことってよくあるんです。MIDIで打ち込んで、リハではできたけど、レコーディングのときエンジニアさんに「リズムにあってないですね」って言われたり(笑)。
yuthke:みんなアイデア優先なところはあるかもね。
―でも、だからこそ楽曲に面白味が生まれるわけですよね。
便利になったり機能的になったり、そういうのが正しいように見えるけど、そこには必ず裏側があるし、何にでも両面がある。(Kuro)
―アルバムの世界観としては、最初にも言ったようにSFっぽい感じがあって、実際KuroちゃんやjunetくんはSF好きだっていう話を以前にもしたと思うんですけど、今回そこはどの程度意識していましたか?
Kuro:わりとそのとき読んでいたものの影響を受けることが多くて、あんまりコントロールして出した感じではないんですけど、かといって何かの真似にはなりたくなかったので、不器用な、かっこ悪い感じでもいいので、自然に出てくる言葉を使うようにはしました。
―ちょっと話が飛躍するけど、僕の中で今年はSFって結構キーワードで、同じレコード会社のバンドだと、くるりとかavengers in sci-fiのアルバムにもSF的な要素があったと思うんです。映画とかアニメもそういうものが多いし、2020年の東京オリンピックが象徴的だけど、今ってホントに『AKIRA』の世界というか、SFの世界を生きてるような感じがするんですよね。
Kuro:そうかもしれないですね。なんとなくみんな、明るい中にあるディストピア感に気づくようになったというか、ネットの世界も含めて、無機的なものに対して「これっていいんだろうか?」って思うようになった気はします。あ、ちょうど昨日、東浩紀さんの『弱いつながり』を読んだんですよ。
affee:あれもSNSとかの話だよね?
Kuro:『弱いつながり』いわく、最終的に言葉のメタ構造を止めるのは、肉体とか物質だという話で、氾濫する情報から、生身の体の行動へっていうのは、私も最近考えてたことなんです。それと、ちょっと前に穂村弘さんの本を読んで、コンビニエンス的などんどん便利になっていくところと、その対極にあることをずっと書いてるんですね。便利になったり機能的になったり、そういうのが正しいように見えるけど、そこには必ず裏側があるし、何にでも両面がある。「効率が悪いことが悪ではない」っていうことを、東さんの本からも感じて。
―“スピカ”の歌詞ってそういうことを言ってると思うんですね。効率を求めがちだけど、物質とか肉体の方が大事で、もっと言えば、私が私であることの方が重要だっていうか。
Kuro:そうですね。わりと他の曲でも似たような思想が出てるんじゃないかな。変な話「音楽で食っていく」とかもそうじゃないですか? 売れるかなんてわかんないし、効率悪いっちゃ悪い。ダブで成り上がろうなんて、特にそうじゃないですか? そういうバンドに対する考えも含めて、アルバムの中盤はモヤモヤしてるんだけど、最後の“ファンファーレ”で開ける感じになったと思うんです。ウジウジ悩んでるだけじゃなく、「意味がなくても、やるんだよ」っていう。
―『Strange Tomorrow』っていうタイトルにも、その感じが表れているように思います。
Kuro:やっぱり開けてる感じは出したくて、「Tomorrow」とか「Future」って言葉を入れたかったんですけど、ただパッパラパーな「Tomorrow」じゃなくて、異物感のあるワードにしたかったんですよね。
affee:「明日があるさ」じゃなくてね(笑)。
―東さんと穂村さんの本から、共通するテーマを導き出せたのも面白いですね。
Kuro:(穂村弘さんの)短歌の本に自分の答えが見つかるとは思ってなかったんですけど、日常のくだらないことを、いかに叙情的に詠むかの連続で、すごくいいなと思いました。機能性の裏側に人間らしさがあるっていうのは、「音楽もそうじゃん」って思うし、それを「ムダ」って言っちゃうのはちょっと違う。ただ、機能的なものが絶対的に悪ってわけでもないのも納得してるし、つまりは必ず両面あるってことですよね。コンビニは必要だし、でも八百屋も必要みたいな(笑)。
「レゲエ流れのダブステップ流れの今のTAMTAM」なんだと思います。(affee)
―ライブを意識したという話もありましたが、レゲエ界隈だけではなく、ポップスも含めたいろんな共演者やお客さんの前でライブをするにあたって、リズムの面ではどんなことがポイントでしたか?
affee:レゲエってもともと走ったりもたったり、ある種伸縮するような音楽でもあって、Sly & Robbieとかもフィルで走ったりするんですよね。あと、ダンスミュージックのフィーリングと、生演奏のフィーリングのバランスは意識しました。レゲエはダンスミュージックだけど完全に生演奏なんで、本当は打ち込みを乗せちゃうとバランスが悪いんですけど、打ち込みの入ってるものをどう生っぽく、グルーヴとしてまとめるかをイメージしながら作りました。
Kuro:ドラムのパターンとして、前作に続いて多いのは、「ステッパーズ」っていう、4つ打ちで3拍目にスネアが入る、レゲエで多用される攻め系のビートですかね。それはBPM140~150とかでも、アッパーかつダブを入れる隙間もできるんです。ホントはドッツータッツーっていう4つ打ちが一番機能的だったりするんでしょうけど……機能性って言葉があんまり好きじゃなくて、そこは頑なにステッパーズをやってますね。
affee:ドッツータッツーってやることもできなくはないですけど、ベースラインとの相性を考えると、ステッパーズじゃないと合わないベースラインが多いんで、そこは結果的にすごく意識しました。
Kuro:ベースラインが裏メロっぽいのもTAMTAMの特徴だったりするので、それを分断するか、大きくとるかみたいなところで。
junet:“エンターキー”とかは4つ打ちだとダサいと思うし、2拍目と4拍目にスネアが来ると、弾いてるベースラインの意味がなくなっちゃうから、その辺は考えましたね。
affee:それこそBurialとかBenga(どちらもイギリスのダブステップを代表するアーティスト)とかって、テクノっぽいパターンか、ステッパーズか、もっとルーツレゲエっぽい感じのビートかなので、ああいう人たちのベースのフィルみたいなのは、結果的に意識してると思います。もともとは、レゲエを通ってるんで、そっちの方がしゃべりやすいんです。特に、付点8分みたいなリズムって、ロックバンドだとスネアの位置が気持ちよくハマらないリズムなんですけど、そういうのが上手くハマるバンドだと思うんで、結果「レゲエ流れのダブステップ流れの今のTAMTAM」なんだと思います。
「変なことやろうよ」っていうのを惜しまないことが、結果的にはダブなのかなって。(Kuro)
―では最後に、これまでTAMTAMには「21世紀型ダブバンド」っていうキャッチフレーズがあって、常に「TAMTAMにとってのダブとは?」っていうことを訊かれ続けてきたと思うんですね。「ルーツをリスペクトしつつも、そこに縛られることなく、あくまで自分たちらしいダブを鳴らしていく」というのが基本だとは思うのですが、メジャーからの最初のフルアルバムが完成して、ある意味1つのタームが終わった今、最後にもう一度だけ「TAMTAMにとってのダブとは?」という質問をさせてもらいたいと思うのですが。
Kuro:そうですね……まあ、変わってないと言えば変わってないんですけど、誤解を恐れずに言えば、ダブっていうのは偶然の産物なので、基本的に「こうあるべき」みたいな固定概念に対しては、「うるさい!」って言っていいと思ってて(笑)。自分たちの言語でやって、それに対して聴いた人が「こういうの初めて聴きました」って思ってもらえれば、それがダブなんじゃないかって思います。「奇をてらう」って言うとちょっと浅いですけど、変態欲っていうか、「変なことやろうよ」っていうのを惜しまないことが、結果的にはダブなのかなって。
affee:ちょっと前にDRY&HEAVYの秋本(武士)さんと話す機会があって、面白いと思ったのは、いつの時代の流行りのダンスミュージックにも、基本にはレゲエやダブがあるという話だったんですよね。ヒップホップ、ジャングル、ドラムン、ダブステップまで、クラブミュージックが脈々と引き継いでいる、その巨大な幹がダブだと思うんです。つまり、「ダブだからこうするべき」っていうよりも、実験したり、寄り添って遊べるような場所が、ダブ自体にあると思うんで、そことちゃんと向き合っていきたいと思いますね。
- イベント情報
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- 『TAMTAM I DUB YOU TOUR 2014 -Strange Tomorrow-』
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2014年11月22日(土)
会場:北海道 札幌 SPIRITUAL LOUNGE
出演:
TAMTAM
オトノエ2014年11月24日(月・祝)
会場:東京都 新代田 FEVER
出演:TAMTAM2014年11月27日(木)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET
出演:
TAMTAM
箱庭の室内楽
and more2014年11月28日(金)
会場:大阪府 梅田 Zeela
出演:
TAMTAM
DAMBO
二人目のジャイナ
and more
- リリース情報
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- TAMTAM
『Strange Tomorrow』(CD) -
2014年9月17日(水)発売
価格:2,484円(税込)
VICL-642121. バベル
2. エンターキー
3. ニューロン・ダンサー
4. パーフェクト・ウェザーリポート
5. Interlude -untranslated region-
6. エデン
7. スピカ
8. ナッシング・バット・ア・ガール
9. サボン
10. トウキョウ・カウンターポイント
11. サナギ831
12. エンジョイ・アワー・フリータイム
13. ファンファーレ
- TAMTAM
- プロフィール
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- TAMTAM (たむたむ)
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2008年12月結成。Vocal & Trumpet担当Kuroのパワフルでキュートな歌声を軸に、ダブを土台にしつつシューゲイザー、ポストロック、様々なクラブミュージックを融合させた最新型「ダブロック」バンド。メランコリックかつポップなメロディとサウンドの先鋭性が絶妙のバランスでブレンドされた楽曲に載るKuroの歌詞は、同世代(20代中盤)なら誰もが抱く現実との折り合いの悪さ/将来への漠たる不安を、グレッグイーガン等SF小説好きを公言する彼女ならではの言語感覚で綴っており、情動と知性が同居したオリジナリティ溢れるものとして徐々に評価が高まっている。2014年4月にリリースしたミニアルバム「For Bored Dancers」はそんな彼等のハイブリッド感満載の1枚となっており、各音楽メディアや耳の早いリスナーからは驚きと賞賛を持って迎えられた。TAMTAMのチャレンジ精神にシンパシーを寄せるアーティストも多く、メジャー/インディ問わず各方面から熱い支持を得ている。
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