トクマルシューゴをはじめ、数々のアーティストをサポートしてきたマルチプレイヤーのユミコが、ついに自ら牽引する新バンドYankaNoi(ヤンカノイ)を始動させた。サポートやソロワークをこなす一方、かねてからこのバンドの結成にむけて構想を重ねてきたという彼女は、トクマルシューゴバンドで活動を共にしてきたトクマル、田中馨(ショピン、ex.SAKEROCK)、岸田佳也の三人をメンバーに迎えることで、念願かなって理想的なバンド形態を手に入れたようだ。
トランペットや、アコーディオンなどいくつものアコースティック楽器を駆使したジプシー音楽的なアンサンブル、そしてユミコのウィスパーボイスによる多重コーラスと日本語詞が穏やかながらも不思議な異国感を匂わせる、YankaNoiのファーストアルバム『Neuma』。聞けばこの作品にはユミコが世界中をまわる中で見た光景、あるいはそこで得た体験が大いに反映されているのだという。では、彼女たちはどのようなイメージからこの摩訶不思議なトラッドフォークサウンドをカタチにしたのだろうか。そこで今回はユミコ、そしてトクマルと岸田の三者に話をうかがいながら、YankaNoiについてはもちろん、この機会にユミコという音楽家のキャラクターにも迫ってみたいと思う。
この7年間くらい、トクマルシューゴバンドのみんなと一緒にやってきた中で、自分のバンドも一緒にやってみたいなと思って。(ユミコ)
―今から3年ほど前まで、ユミコさんはméso mésoというソロ名義でも活動されていましたよね。そちらの活動に一区切りを入れた理由をまずは教えていただきたくて。
ユミコ(Vo):そもそも、私はバンドがやりたくて、そのメンバーを募集するためにデモテープを作っていたんですけど、その音源をMyspaceにアップしたら、Lacies' Recordsというイギリスのレーベルが声をかけてくれて。そういう流れでいつの間にかソロでやることになって、幸運にもそれを手助けしてくれる人たちがたくさんいてくれて活動していたのですが、ソロとしての活動を続けていくと、いつまでもバンドを始めるきっかけがないなとも思っていて。
―méso mésoをスタートさせた当時から、ユミコさんがやりたかったのはあくまでもバンドだったんですね。
ユミコ:そうなんです。この7年間くらい、トクマルシューゴバンドのみんなと一緒に演奏してきて、自分のバンドも一緒にやってみたいなと思って。あと、私はソロで曲を作り始めた当時はまったく楽器が弾けなかったんですよ。
―今はあんなにたくさんの楽器を演奏されてるのに?
ユミコ:まったくできませんでした(笑)。だから、méso mésoではまずは声を多重録音することから始めてみたんですけど、その頃は録音のやり方を教えてくれる人もまわりにいなかったから、パソコンの容量が足りなくなった時点でどうしたらいいかわからず、作業が止まっちゃって(笑)。曲作り自体が初めてだったから、曲というのはどうやって作るのかを研究しているような感じでした。
―méso mésoとしてリリースした2枚のアルバムは、曲作りを覚えていく過程で出されたものだと。
ユミコ:しかも、ちょうどméso mésoを始めた頃にトクマルさんのバンドに加わったから、イトケンさんとかに「録音にはコンデンサーマイクっていうものを使うんだよ」みたいなことをたくさん教えてもらって。録音作業をいろいろやってみること自体も楽しかったんだと思います。
―先ほど、méso mésoをスタートさせた当時は楽器がまったく弾けなかったとおっしゃってましたけど、そこからユミコさんはどうやって演奏技術を身につけていったんですか?
ユミコ:もともと私はキッシーさん(岸田)と一緒にバンドをやっていて、ボーカルだったんです。そのときはメンバーがたくさんいたので、私がやらなくても楽器を弾ける人は十分に足りていたというか(笑)。
岸田(Dr):そのバンドは、たとえばサックスを買った友達がいたら「じゃあ、それ吹いてよ」って呼び入れたりしてたんです。で、あるとき彼女がアコーディオンを買ったというから、「じゃあ、それも弾いてみて」みたいな感じで。
ユミコ:アコーディオンなら歌いながら弾けるなと思って、とりあえず買ってみたんです。一度そのアコーディオンをライブに持っていったら、ちょうどそのときのライブをトクマルさんが観てくれていて。それで「『L.S.T.』(トクマルのセカンドアルバム。2005年リリース)のレコ発で演奏に参加してくれるメンバーを探しているんだけど、弾けますか?」と訊かれて、その時点でまだ全然弾けなかったんですけど、勢いで「弾けます!」と返事しちゃったんです。そうしたら大量の音源と譜面が送られてきちゃって、これはまずいことになったなと(笑)。
今まで経験したどんなライブよりも、トクマルバンドの初めてのリハーサルのほうが緊張しました(笑)。(ユミコ)
―そこからどうしたんですか?
ユミコ:そこで死ぬほど練習したのが楽器を本格的に覚えることになった始まりだったと思います。今まで経験したどんなライブよりも、そのときのリハーサルのほうが緊張しました(笑)。
岸田:(笑)。でも、バンドってそういうものだよね。最初のリハで大筋が見えるから、そこはみんな本番よりも緊張するんだよ。
ユミコ:結果的にそこで特になにも言われなかったから、引き受けた時点で弾けなかったことは多分トクマルさんにばれてなかったと思ってるんですけど……。
トクマル(Gt, Piano):よく覚えてないな(笑)。でも、僕はその当時に岸田くんとユミコちゃんがやってたバンドを、ものすごい技巧派な集団だと思っていたからね。岸田くんにも「ドラム、うまいっすね」みたいに声をかけた記憶があるし。それに、僕はいつも譜面に起こしてバンドに渡しているから、それときちんと合っていれば基本的にはOKなんです。だから、リハのときに違和感がなかったってことは、たぶん問題なかったということだと思いますよ(笑)。
―死ぬほど練習したおかげでなんとかうまくいったと(笑)。じゃあ、YankaNoiにおいてはどうやって制作を進めているんですか? ユミコさんが各々のパートも指示しているのでしょうか。
ユミコ:そこは大まかに2つの時期で分かれていて。初期に取りかかっていた曲は、ドラムやベースの音も自分で簡易的に入れたデモを作って、それをみんなに聴いてもらったうえで、あとは各々かっこよくしてくださいとお願いしていました。あと残りの5曲くらいは、みんなからもらったアイデアをもとに構成を変えた曲もあれば、歌とギターだけの段階からみんなで一緒に作っていったものもあって。
―工程が違えば楽曲の仕上がりも変わっていきそうですが、その点はいかがでしたか?
ユミコ:そこはあまり変わりませんでした。デモを作り込んできた曲でも、バンドのみんなからアイデアが出れば一度は試すようにしていて。それがイヤだったときは、みなさんの優しさに包まれながら「私、やっぱりこれはイヤです」と言う(笑)。その結果としてどの曲にもしっかり私の想いは反映させられたと思うし、同時にみんなのアイデアも取り入れられてるんじゃないかな。とはいえ、アレンジの作業に関してはけっこう忘れちゃってることが多いんですよね(笑)。メンバーそれぞれが忙しい中、みんなの時間をちょっとずつもらいながら1年かけてゆっくりと進めていったので。
YankaNoiをやるうえで意識しているのが、かっこいいけどなんとなく気持ち悪かったり、「これ、ちょっとふざけてる?」みたいな雰囲気。(ユミコ)
―あと、YankaNoiからはサウンドだけでなく、ビジュアルも含めてなにかコンセプチュアルなものを感じるのですが、そこについてはいかがですか? あのエンブレムのようなアートワークにしても、視覚で訴えかける要素が強いというか。
ユミコ:ビジュアルでも雰囲気を作っていきたい気持ちは確かにあります。でもそれは今回のアルバムに限ったコンセプトとかではなくて、単純に私が好きなものをカタチにしたら、自ずとこういうものになったんです。これは心がけていると言ったら少し大げさだけど、私がYankaNoiをやるうえで意識しているのが、かっこいいけどなんとなく気持ち悪かったり、そういう「これ、ちょっとふざけてる?」みたいな雰囲気なんですよね……。かっこよさのなかに、それとは別の不思議な要素が入り混じってバランスをとっているものが好きなんです。
岸田:あのマークにしたって、かっこいいのかどうかと言われると、たしかに微妙なところだよね(笑)。
ユミコ:(笑)。あと、世界中の色や服、デザインなんかを見るのも大好きで。それこそ色味って国民性が出るんですよね。たとえば、日本が選ぶ赤と、アメリカの赤、イギリスの赤って全部違う。アジアの赤はわりとバキッとしてるけど、日本の赤は濾過された色って感じがしたり。個人的な感覚ですけどね。そういうものに触れていく中で感じた不思議さ、面白さを作品に取り入れたいという気持ちは、もしかしたら今回あったのかもしれません。
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岸田:特にヨーロッパって大陸が地続きだから、色彩がグラデーション状に変化していくんだよね。北に移動するにつれて色合いの濃度が変わっていったりして面白い。
トクマル:たとえばドイツに行くと、建物の色が顕著に違うんですよ。東欧の街並みってものすごくカラフルなところが多いんですけど、それを見たあとでドイツに行くと、素のままの建物が多くてけっこうビックリするんですよね。
ユミコ:うん。ドイツとイギリスでも、色のくすみ方が違うし。
―なるほど。そう言われてみると、ユミコさんの書いた歌詞は景色を描写したものが多いような気がします。
ユミコ:たしかにそうですね。そうやって普段からなんとなく目にしているものや、思い浮かんだイメージを私は歌詞にしているのかもしれない。トクマルバンドで世界中をまわっていると、今まで見たことのないような風土をよく目の当たりにできるんですけど、そういう光景が旅から帰って日常生活を過ごしているときなんかに突然フラッシュバックすることがあって。“光の中”という曲はまさにそういう雰囲気を書いたものですね。あと、“白い遠円”もそう。あの曲は飛行機に乗って上空から見たシベリア辺りの地形がすごく面白くて、そこで「今私たちが飛んでいるこの下には、まだ人間が足を踏み入れたことのない土地があるんだろうな」と思ったときの気持ちを書いたものなんです。
―視覚で感じたものを歌詞に反映させているんですね。
ユミコ:私のそういう外国への興味って、そこで生活してみたいとか、そういうリアルな憧れよりはむしろ、漠然としてますけど、私の知らない今ここではないどこかに興味があって、そういう意味でいうと、自分が生まれる前の世界と死んだ後の世界って、どうあがいても自分の目で見ることはできないじゃないですか? そういうことにもすごく興味があるんです。
―その知らないものへの漠然とした興味って、こうして音楽をやるモチベーションにも通じるもの?
ユミコ:あぁ、そうかもしれない。たどり着けないようなイメージを自分でカタチにしてみたくて、だから、もちろん自分のパーソナルな感情を表現した音楽も素晴らしいと思うんですけど、自分が音楽を作るにあたってはそこにあまり関心が湧かなくて。なんて言えばいいかな。もっと大きなテーマというか……。
僕はミックスの作業を抽象的なイメージで捉えることがあまりなくて、むしろわりとロジカルに進めていくような考え方ですね。(トクマル)
トクマル:たしかに、みんなで話していると、よく急に壮大なことを言い始めるよね(笑)。
―でも、そういう抽象的なイメージにアプローチするような作り方って、なんとなくトクマルさんが作る音楽にも当てはまりそうな気もしたんですが、いかがですか?
トクマル:確かにそれは僕もわかります。とはいえ、YankaNoiに関してはその抽象的なイメージを具現化していく方向に持っていくのが、僕らメンバーのやることだと思っているので。如何にしてその壮大で複雑なイメージたちを面白い曲に落とし込むか。僕がYankaNoiでやろうとしているのは、あくまでもそういうことなんです。
岸田:それが最終的にこうして統一感のある作品にできたのは、制作の序盤でその抽象的なイメージをみんなで共有できていたからなんじゃないかな。「YankaNoiって多分こういう感じだな」って。
ユミコ:それは音作りにしてもそう。たとえば、今回のミックスは私とトクマルさん、(田中)馨さんの三人でやったんですけど、私はミックスという作業をサッカーのフォーメーションみたいに考えてて。つまり、配置がすごく大切なんですけど、そこでトクマルさんに「その音はもう少し右斜め後ろ45度動かしたあたりにしたい」みたいに言うと、「いや、ミックスってそういうものじゃないから」と返されちゃって(笑)。でも、私はトクマルさんのアルバムは音の配置がすごいなって、以前からずっと思っていたんですよ。あれだけたくさんの楽器が入った情報量の多い音楽なのに、すごくいいフォーメーションが組まれていて。でも、そのフォーメーションの話がトクマルさんにはうまく伝わらないんですよね(笑)。
トクマル:ユミコちゃんの言ってることって、話によっては「5.1チャンネルの映画館みたいな状態を作りたい」みたいなことだったりするからさ、難しいんだよ(笑)。僕はミックスの作業をそういう抽象的なイメージで捉えることがあまりなくて、むしろわりとロジカルに進めていくような考え方だから、そういうフォーメーション的な捉え方はしていないんですよね(笑)。
ユミコ:私の場合はそうやって視覚的に物事を考えるところがあるみたいです(笑)。馨さんも、私やトクマルさんとはまったく違った視点をもっていて、すごく面白いんですよ。
トクマル:たしかに馨くんはそういう抽象的な捉え方もできるし、なによりも全体的な雰囲気を重要視できる人ですね。すごくバランスがいいと思う。
ユミコ:テクニカルなことをちゃんと理解していながら、感覚的にも動ける人。だから、三人でミックスをやっているときに、私の話をトクマルさんがうまく理解できないときは、馨さんが「多分こういうことだよね?」と言い換えてくれたりして(笑)。
トクマル:基本的にすべてを許容できる男だよね。一旦全部認めたうえで、その作品に対して自分のエゴをどこまで出すのかをよく考えている。みんなにとって一番バランスが良いところを探してくれるんです。
ユミコ:この三人(トクマル、田中馨、岸田)は技術だけじゃなくて、柔軟性とユーモアがあるんですよ。それこそ私のエゴを三人がうまくバランスをとりながら形にしてくれるんです。
―ユミコさんの意向を汲みつつ、それぞれのセンスで動いてくれるということ?
ユミコ:うん。三人とも私が気づいたことやカタチにしたいものをちゃんと理解しようとしてくれるので。
トクマル:そういえば、ツアー中とかに「最近、私気づいたんだけど!」っていうの、わりと口癖だよね(笑)。
ユミコ:あ、言われてみるとそうかもしれない。たしかに私はしょっちゅう何かに気づいていますね(笑)。
―(笑)。最近ではどんなことに気づきましたか。
ユミコ:えーっと。最近だと何があったっけ? 具体的なものがなかなか出てこない(笑)。でも、きっと私はそういうひらめきが好きなんですよ。小さいひらめきが自分のエネルギーになって、こうして今回のアルバムにつながったのかもしれない……って、今私なんとかうまいことまとめようとしてましたね(笑)。すみません。すぐに思い出せないくらい、毎日あまりにもいろんなことに気づき過ぎてるので(笑)。
- イベント情報
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- 『YankaNoi 1st Album「Neuma」Release Tour』
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2014年9月14日(日)OPEN 16:00 / START 16:30
会場:愛知県 名古屋テレビ塔
出演:
YankaNoi
LAKE
小鳥美術館 -band set-
料金:前売2,800円
※展望台入場料500円が必要/p>2014年9月15日(月・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:京都府 UrBANGUILD
出演:
YankaNoi
ゑでぃまぁこん
キツネの嫁入り
DJおやきボーイズ(田中馨&トクマルシューゴ)
料金:前売2,500円(ドリンク別)2014年9月26日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 吉祥寺 STAR PINE'S CAFE
出演:
YankaNoi
森は生きている
おれ、夕子。(T.V.not january)
料金:前売2,500円(ドリンク別)
- リリース情報
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- YankaNoi
『Neuma』(CD) -
2014年9月3日(水)発売
価格:2,592円(税込)
PCD-243621. ちぎれた海
2. ヒバリ
3. 真夏の陽炎
4. 光の中
5. ひこうき雲
6. 凍原の裏
7. そら
8. 山の向こう
9. ネウマ
10. 対岸の君
11. 白い遠円
- YankaNoi
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- YankaNoi
iPhone5/5Sケース「がっきねこ」 -
価格:3,780円(税込)
トクマルシューゴバンドなどで活躍するユミコが率いる新バンドのグッズ登場!
- YankaNoi
- プロフィール
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- YankaNoi(やんかのい)
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2013年、トクマルシューゴバンドで10種類以上の楽器を操るマルチプレイヤーとして活躍するユミコが中心となり結成。ボーカルのユミコがすべての楽曲の作詞・作曲を担当し、ギターとピアノ、そしてエンジニアとしてトクマルシューゴ、コントラバスに田中馨、ドラムに岸田佳也が加わり、その4人が中心となってアレンジを加え、ロマ(ジプシー)のような雄大さと完成度の高い楽曲が生み出される。ユミコ自身は、様々なアーティスト(トクマルシューゴ、SiN、Gutevolk、良原リエ、クランペチーノテツンポなど)のサポート活動をしてきた傍ら、ソロプロジェクトméso mésoとして2枚のアルバムをリリース後、活動休止。5年の構想を経て、YankaNoiを結成し、ファーストアルバム『Neuma』を作り上げた。ライブメンバーには、松本野々歩(ショピン)、三浦千明(蓮沼執太フィル)の2人を加えた6人編成バンドで再現される。
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