5日間連続での来日公演を終えた、フランスのロックバンド・TAHITI 80のグザヴィエとラファエル。一方、インタビューの1週間前に、渋谷CLUB QUATTROでのワンマン公演を終えたREAD ALOUDのクワタユウキ。双方、充実したライブをやり遂げた達成感があったのか、音楽の根本を見つめ直す対話が続いた。音楽って、そんな簡単には日々のBGMにはならないんだ、表立って世界を変えていくものなんだ……それぞれの純粋な模索が響き合う対談となった。
デートの時に耳元でいきなり「I LOVE YOU」と囁かれたら気持ち悪いじゃないですか(笑)。(クワタ)
ラジオの録音ブースの中から、クワタが外にいるスタッフに向かってジェスチャーで、グザヴィエが暑がっていることを伝える。セーターを脱いで頭の上でブンブン振り回しているグザヴィエ。スタッフが暖房を下げようとすると、「でもラファエルが……」と誰かの声。グザヴィエの横で、ラファエルはまだジャケットを着たまま。マフラーまでしている。暖房を下げると、グザヴィエは「ラファエルには更にブランケットが必要かもな!」とお茶目に笑う。ツアーを終えた翌日、充実感に満ち満ちとした表情がなんとも印象的だった。
クワタ:昨日まで東京、大阪、京都、名古屋、横浜と、5日間連続ライブをされていましたよね。ツアー最終日の翌日、お疲れではないですか?
グザヴィエ・ボワイエ(Vo):いいや、ちっとも。日本というのは僕たちにとってどの国よりもスペシャルな場所だからね。この直前にフランスとベルギーでツアーをやっていたので、ライブの勘を保ったまま臨めたし、どれもいいライブになったよ。
TAHITI 80:(自分たちのCDを見て何かを確認する)
クワタ:ん? 何か気づきましたか?
グザヴィエ:新作の『BALLROOM』の日本盤にだけ、ボーナストラックとしてマルコス・ヴァーリの“GARRA”のカバーを入れたんだ。もともとポルトガル語だった歌詞を僕が英訳して歌っているんだけど、ブックレットを見たら、自分のクレジットがヴァーリの名前と並んで入っていたからとても誇らしくって。
クワタ:TAHITI 80はフランス出身にもかかわらず、英語で曲作りをしてきましたね。これにはどのようなきっかけがあったんですか?
グザヴィエ:ごくごく自然のことだよ。元々自分が音楽をやり始めたきっかけが英語圏のバンドからの影響だったから。僕自身、フランスの大学を卒業したけれど、英語を専攻していたし。それに、音楽にはそれぞれ適切な言語があると思っていて、ロックは英語こそ映える音楽だと思っている。ユウキはどう?
クワタ:READ ALOUDの歌詞は基本的には日本語で、掛け声的に時たま英語を入れています。でも僕はその部分をライブでは歌わずに、他のメンバーが掛け声として発するくらいです。なぜかというと、英語を話せない自分は、それがたとえ簡単な英語であったとしても、自分の言葉だとは思えないから。デートの時に耳元でいきなり「I LOVE YOU」と囁かれたら気持ち悪いじゃないですか(笑)。
ポール・マッカートニーのトリビュート盤は聴いたよ。でも、The Beatlesをカバーするのはいつだって難しいよね。(グザヴィエ)
機材トラブルはいつ起きるか分からない。5年以上前、ある夏フェスのトリのバンドが満を持して登場するも、しばらくボーカルマイクが一切聴こえないというトラブルがあった。まもなく持ち直したのだが、その年のフェスを振り返る雑誌を見ていたら、そのミュージシャンが「このマイクを使っています」と広告に登場していて思わず苦笑い。観に行ったこちらがすっかり忘れていたトラブルをわざわざ思い出させてくれたのだった。
クワタ:ジャパンツアー初日の東京公演を見させていただきましたが、1曲目でいきなりドラムのトラブルに見舞われていましたよね。
ラファエル・レジェ(Dr):いやー、参ったよ。キックペダルが飛んでしまってね。
クワタ:でも、その後が見事でしたよね。キーボードのシルヴァン・マルシャンがそれをフォローしに、すぐさまラファエルさんの方に駆け寄っていって。僕、実はかなり前のほうで観ていたので事細かに見えたのですが(笑)、メンバー愛が凄いなぁって。
ラファエル:彼は元々ドラマーでもあるからね。どうだい、僕たちがとってもいいチームだってことが間近で見られただろう(笑)。
クワタ:こうして喋っているときにもお二人でアイコンタクトを取りながら話しているし(笑)。
グザヴィエ:僕たちはバンドメンバーである前にいい友人なんだよ。それがバンドにとって一番大事なことでもあるのは、ユウキも分かってくれると思うけど。で、このアイコンタクトって、ライブではお客さんと交わすものになるよね。それによって会場全体に生まれたバイブスが自分たちにまた戻ってくる……ってなんだかヒッピーみたいだな、僕(笑)。
クワタ:いやいや、そんなことないですよ。そういう精神的なつながりって本当に大切ですよね。メンバー同士、地元でもしょっちゅう会うほど仲がいいとか?
グザヴィエ:そうだよ。お気に入りのバーを自分たちのヘッドクオーターのように使っていて、そこでDJをやったりしてるんだ。そこにいけば誰かいる、という環境が心地よくって。
クワタ:DJをやるときに、いつもかけるのは誰の曲ですか?
グザヴィエ:やっぱりThe Beach Boysかな。『Pet Sounds』(1966年)ほど影響を受けたアルバムはないからね。でも日によってはThe Beatles、ポール・マッカートニーかなぁ。
クワタ:ちなみに先日出たポールのトリビュート盤『The Art of McCartney』は聴きました?
グザヴィエ:うんうん、聴いたよ。The Cure featuring James McCartneyの“Hello Goodbye”、ビリー・ジョエルの“Maybe I’m Amazed”なんかがよかったけど、The Beatlesをカバーするのはいつだって難しいよね。結局「オリジナルがベスト」ってのは、ぐらつかないわけだからさ。
クワタ:興味深いのは、ボブ・ディランを除けば(笑)、ほとんどが完コピだったってところですよね。ポール・ロジャース、KISS、Heart、この辺りが印象的でしたが、どれも原曲のメロディーに忠実で深いリスペクトを感じました。
自分たちのマネージャーが、フランスでコーネリアスのマネージメントを担当していて、僕たちの音源を彼に渡すことができたんだ。本当に幸運だった。(グザヴィエ)
1999年、TAHITI 80は小山田圭吾にデモテープを渡し、小山田がコンピレーションアルバムに彼らの1stシングル“Heartbeat”のデモバージョンを収録したことをきっかけに、日本でも注目を集めるようになる。インタビューを終えた後で「クワタさんなら誰にデモテープを渡してみたいですか?」と問うと、腕を組んで考え始めた。考え込んでいるというのに、矢継ぎ早に「あのミュージシャンはどうです? お金だけ巻き上げられるかもしれませんね~」と減らず口をたたいていると、クワタから「すみません、なかなか絞れないですね、次回までに考えておきます」と丁寧な返事。ミュージシャンがミュージシャンに音を託すというのはいつだって簡単なことではないのだと、しばし反省。
クワタ:TAHITI 80が日本でも広まったのは、小山田圭吾さんにデモテープを渡したのがきっかけだそうですが、その経緯を改めて教えてください。
グザヴィエ:当時の自分たちのマネージャーが、フランスでコーネリアス(小山田圭吾)のマネージメントを担当していて、僕たちの音源を彼に渡すことができたんだ。コーネリアスには様々な影響を受けてきたから本当に幸運だったし、彼がコンピレーションアルバムに僕たちの“Heartbeat”を入れてくれたのはとても嬉しかった。彼が手掛けてくれたリミックス(“Heartbeat(Cornelius Remix)”が、EP『HEARTBEAT REMIX』に収録)も素晴らしかったね。
クワタ:今フランスではどのような音楽が流行ってるんですか?
グザヴィエ:Phoenix(2000年にデビューしたフランス出身のロックバンド)が出てきたあたりでは、英語で歌う流行りもあったんだけど、またフランス語で歌うポップスが主流になってきたね。特徴的なサウンドがあるとすれば、シンセが入ったり、1970年代的なポップスが見直されている動きがあるかな。
クワタ:僕は1度フランスに行った事があって、ライブハウスを覗いたりもしてみたかったんですが、着いた途端に熱を出して寝込んでしまって、ほとんどどこにも出かけられなかったんです(笑)。だから、次に行く時のためにフランスの魅力を教えて欲しいなって。
グザヴィエ:おお、それはお気の毒に(笑)。パリって本当にいい街だよ。日本に来る前にフランス国内でツアーをやっていたけど、ドイツに近い東部に行けばパリとはまったく違う光景が広がっているし、西側に行けばそれはそれでスペインの文化を吸収している。コンパクトな国なんだけど、文化はとってもリッチなんだ。
音楽はいつだって、いる場所の世界を100%変えるんだ。どの音楽が素晴らしい、というよりも、そのこと自体を大切にしたいよね。(ラファエル)
クワタ:最後に、お二人にとって「いい音楽とは何か」を訊かせてください。
グザヴィエ:音楽の素晴らしさって、聴く音楽によって、いる場所のムードや表情を変えてくれるところだよね。マーヴィン・ゲイが流れているのと、Iggy Popが流れているのでは、その場の雰囲気がまったく異なるから。
ラファエル:音楽はいつだって、いる場所の世界を100%変えるんだ。どの音楽が素晴らしい、というよりも、そのこと自体を大切にしたいよね。
グザヴィエ:日本でレストランに入ると、ラウンジミュージックがBGMとして流れているよね。あれは特に聴いてもらわなくても構わないように流しているんだろうけど、音楽ってそんな簡単にはBGMにはならない。その世界を変えてしまう、音楽はいつだってそういうものなんだ。
好きな音楽をバンドの音に含ませつつ、どう差異化していくかがポイントになってくるのだろうと思っています。(クワタ)
―ちょうど1週間前に渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブが終わりました。半年前から準備されていたという事ですが、まずはワンマンライブの感想から訊かせてください。
クワタ:あっという間の1時間半でしたね。ライブが終わったら、その瞬間は喪失感でいっぱいというか、空っぽになりました。このライブを目標としながら半年間動いてきて、その成果として、ああやって多くのお客さんに観てもらったのは本当に嬉しかったですね。
―ライブを観て感じたのは、押し並べてアルバムの音よりもラウドな作りで、メンバーそれぞれの音が激しく表出しているなということです。アルバムのスマートさとは別ベクトルで音が作り上げられていたように思います。そのあたりは何か心がけていることはありましたか?
クワタ:答えを出しているわけではないし、まだ出さないようにしている、とも言えます。これは笑い話なんですけど、ギターの遠藤(タカヒロ)と自分のギターの音が似てるんですよ。僕がエフェクターを2つ3つしか使わないのに対して、遠藤は10個くらい使っていてアンプも違うのにも関わらず、PAさんから「音がほとんど一緒ですね」って(笑)。ブルースやハードロックというルーツが一緒ってこともあるんですけど、お互いの好きな音楽が似ているならば、その好きな音楽をバンドの音に含ませつつ、どう差異化していくかがポイントになってくるのだろうと思っています。
―ライブの前に、ミニアルバム『アカンサス』をモチーフとした坂本あゆみ監督(映像作家。昨年、長編初監督作品『FORMA』が、『第64回ベルリン国際映画祭』にて国際批評家連盟賞などを受賞)によるショートムービーがスクリーンに流されましたね。この映像作品を作ることになった経緯を教えてください。
クワタ:最初は“君の声を思い出す”をフィーチャーした作品にしようとしていたのですが、僕が坂本監督の『FORMA』を見たとき、その世界観に“タイムトラベラー”に通ずるものを感じたんです。監督も、“タイムトラベラー”の歌詞をはじめ、他の収録曲にも非常に共感を寄せてくださって、『アカンサス』というアルバム全体の物語を映像にしていただくことになりました。
―ある1曲にあわせてストーリー性を持つ映像を作ることはよくありますが、アルバム全体の楽曲を使って、そしてメンバーそれぞれのイメージに基づきながら登場人物を描く作品というのは珍しいですね。そしてそれでいて、メンバーと登場人物が明確にリンクしているわけではないという。
クワタ:坂本監督と、今回の作品を撮るにあたって入念な打ち合わせをしたんですが、とにかくメンバーがこれまで何を考えてきたか、今何を考えているのか、色々と聞き出してくださり、様々なディスカッションを重ねたんです。坂本監督の『FORMA』にしても、今回の映像にしても、BGMが一切流れないんですね。台本もあまりきっちりと決めずに、あえてその場で生まれた言葉を丁寧に拾い上げていく。いかにしてリアルな日常をピュアな状態のまま映し出すかを突き詰めていく監督で、とても刺激になりました。
―先日のライブでは、とにかくこの場に立てた事への感謝を繰り返されていましたね。TAHITI 80にとってはデモテープを気に入ってくれた小山田さんがまさしく恩人でしたが、クワタさんにとっての恩人となると、どなたなんでしょう。
クワタ:18歳の頃にロックバーでアルバイトをしていて、そこのマスターから教わったことは今の自分にとても大きな影響を与えていますね。マスターがジョージ・ハリスンをかけて「これ何で弾いているか分かるか?」と問われ、「うーん、ジョージだからストラト?」「違うよ、レスポールに決まってんだろ!」なんて言われながら(笑)。
プロデューサーの亀田誠治さんに教わったのは、優しさの伝え方ですね。音楽の方法論というよりもフィーリングの在り方を学びました。(クワタ)
―それにしても、TAHITI 80のお二人に話していた初めてのフランス旅行は悲惨でしたね。着いてからすぐに寝込んでしまうとは(笑)。
クワタ:1日だけなんとか観光できたんです。ディズニーランドに行ったら、「ロックンロールコースター」というAerosmithの楽曲が流れるジェットコースターがあって、出発前に『アルマゲドン』のテーマ曲を聴かされるんですよ。
―イヤですね、2度と戻って来れなさそう(笑)。ところで、TAHITI 80は今作で外部プロデューサーと作業しましたが、READ ALOUDも新譜のプロデュースを亀田誠治さんにお願いしていますね。亀田さんのプロデュースによってバンドが得たものが何だったのか、改めて訊かせてください。
クワタ:抽象的な言い方になりますけれど、優しさの伝え方ですね。音楽の方法論というよりもフィーリングの在り方を学びました。自分たちのなかにある音楽性をいかにしてつなぎ合わせるかを重点にして、さりげない軌道修正を重ねて魔法のように仕上げてくださった。先ほどライブと音源の違いの話が出ましたが、亀田さんから「ライブはライブ、作品は作品、というスタンスでいい。そういう柔軟性を持ったほうがいい」と教わったのは大きかったですね。
―アルバムにツアー、そしてラジオ番組と、クワタさんにとって2014年は激動だったと思います。2015年はどのような年にしたいですか?
クワタ:亀田さん、坂本さんをはじめ、本当に多くの人とつながることの幸福感をたくさん味わえた2014年でした。そのつながりを、今度は自分たちがどうやって更に膨らませていけるのか、そのことを懸命に模索していきたいですね。
- イベント情報
-
- READ ALOUD
『臨場感空間論 TOUR 2015』 -
2015年5月20日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET2015年5月22日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE2015年5月29日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 eggman料金:前売2,500円(税込・ドリンク代別)
※各地ゲストバンドあり
- READ ALOUD
- リリース情報
-
- READ ALOUD
『アカンサス』(CD) -
2014年11月5日(水)発売
価格:1,650円(税込)
CCCL-31. タイムトラベラー
2. 君の声を思い出す
3. 風が吹くから
4. 月と太陽
5. BGK
6. 朝
- READ ALOUD
- 番組情報
-
- 『Good To Go!』
-
毎週土曜24:00からInterFMにて放送
- リリース情報
-
- TAHITI 80
『BALLROOM』(CD) -
2014年9月10日(水)発売
価格:2,700円(税込)
VICP-652531. CRUSH!
2. LOVE BY NUMBERS
3. COLDEST SUMMER
4. T.D.K.
5. THE GOD OF THE HORIZON
6. MISSING
7. BACK 4 MORE
8. ROBERR
9. SEVEN SEAS
10. SOLID GOLD
11. GARRA
12. KOUNTY VOLKS
13. EMPIRE
- TAHITI 80
- プロフィール
-
- READ ALOUD (りーど あらうど)
-
自分の心に浮かんだ感情や言葉を素直に音読する(READ ALOUD=読み上げる。朗読する。)というコンセプトのもとクワタユウキ(Vo,Gt)を中心に結成。2012年夏より、現メンバーでの本格的なライブ活動をスタートさせる。逞しいボーカルと、アイリッシュやサンバ等様々なリズム要素を取り入れたビートで確実にその注目度を上げている実力派バンド。2014年11月5日は、3rdミニアルバム『アカンサス』をリリース。InterFM『Good To Go!』(毎週土曜24:00~)でDJを務める。
- TAHITI 80 (たひち えいてぃー)
-
1993年、フランスのノルマンディー地方、ルーアン(ジャンヌ・ダルクが火刑にされた町)の大学生だったグザヴィエ・ボワイエ(Vo)を中心に、趣味の共通した仲間で活動をスタート。1998年フランス国内でデビュー。2000年、アメリカ、イギリス、そして日本とワールドデビューが決定。2000年の夏には『SUMMER SONIC』に初出演。ライブのパフォーマンスでも高い評価を受け、デビュー作からすでに名盤化を果たした。2013年『FUJI ROCK FESTIVAL』に初出演。6th Album『BALLROOM』を、2014年9月10日にリリース。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-