2013年の春に結成されたAwesome City Clubが、僅か2年でメジャーへと駆け上がって行ったのは、必然だったと言っていいように思う。なぜなら、中心人物のマツザカタクミが明確なビジョンを持った上で結成したバンドだったからだ。男3人女2人のメンバー構成、「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」というテーマ設定、国内外のブラックミュージックの盛り上がりを背景とした音楽性、そして、ライブよりも制作を重視し、SoundCloudやYouTubeに楽曲をあげていったプロモーションの方法、それらすべてが時代を見据えたものであり、結成当初のメンバー四人(マツザカ、atagi、モリシー、ユキエ)に、長らくサポートだったPORINの加入が決まった時点で、おそらくマツザカの中では「いける!」という確信があったに違いない。
1stアルバム『Awesome City Tracks』には、今年に入ってプロデューサーとして大橋トリオやCharaなどの作品に関ったり、ドラマーとしてもくるりのライブへ参加が決定したりと、こちらも時代の顔となりつつあるmabanuaが迎えられ、名刺代わりと言うには十分すぎるほどの作品に仕上がっている。きっとこのアルバムを中心として、2015年の日本の音楽シーンにはクリエイティブの新たな循環が生まれていくことだろう。バンドのブレーンであるマツザカに加え、ソングライティングを担当し、ソウルフルなボーカルも素晴らしいatagi、ビジュアル面を担い、その自由な感性がバンドのインスピレーション源にもなっているPORINの三人に、これまでの歩みを聞いた。
僕らは曲を売り物ではなく宣伝ツールとして捉えたんです。SoundCloudにあげて、名前が気になったらすぐに聴ける状態にしておくことで、ライブに人が来てくれるようになるだろうと。(マツザカ)
―Awesome City Club(以下、ACC)はもともと別のバンドをやっていた人たちの集合体で、結成時から明確な目的意識を持ってスタートしたバンドだという印象があるのですが、実際いかがですか?
マツザカ(Ba,Synth,Rap):その通りですね。もともと僕らがいた下北沢のバンドシーンは、ライブをたくさんやって、集客のためにフライヤーをまいて……という地道なやり方が主だったんですけど、それだとスピードが遅いと思ったんです。まずデモCDを作って物販で500円とかで売ることにも、いまいち合点がいってなかった。僕とatagiはもともとリハーサルスタジオで働いていて、モリシー(Gt,Synth)はエンジニアリングができたから、レコーディングがタダでできる状態だったこともあって、僕らは曲を売り物ではなく宣伝ツールとして捉えたんです。SoundCloudに曲をあげて、名前が気になったらすぐに聴ける状態にしておくことで、ライブに人が来てくれるようになるだろうと。まずは目先のお金のことは考えずにスタートしました。
―非常に明確ですね。メンバーの構成も、女子が2人いるというのがバンドをスタートさせるときから大事な条件だったわけですよね?
マツザカ:一番大事でした(笑)。可愛い女の子が2人いることは、絶対条件でしたね。
―でも、PORINさんは1年近くサポートメンバーだったんですよね?
PORIN(Vo,Synth):はい。正式メンバーとして入る踏ん切りがつかなかったんです。決意したきっかけとしては、“4月のマーチ”ができたのが大きかったですね。
マツザカ:サポートが歌う曲を作っちゃったっていう(笑)。
―それもやっぱり「入ってほしい」という意思表示だったわけですよね。
マツザカ:そうですね。最初は「サポートからやってくれない?」って声をかけたんですけど、それはとりあえずこのバンドに触れてほしかったからで、絶対やりたいと思ってもらえる自信はあったんです。
―PORINさんは、なぜ1年近く踏ん切りがつかなかったんですか?
PORIN:バンド活動に対して嫌悪感があったというか……前にやってたバンドは、人間関係が上手くいかなくて解散しちゃったんです。私、もともと人に合わせるのが苦手だったんですけど、このメンバーに会って変わりました。
―集団行動が苦手なタイプだったと。
PORIN:今もそうなんですけど(笑)。でもACCだとそれでも許されるというか、みんな大人なのでいい意味でゆるいんですよね。あとはマツザカくんが「幸せにする」って言ってくれたので(笑)。
―プロポーズじゃないですか(笑)。
PORIN:そういう愛情が嬉しかったです。
マツザカ:この続きは『ゼクシィ』でやろうか(笑)。まあ、みんなバンドに飽きてたというか。バンド名に「Club」って入ってるのも、「バンド」の普通のやり方からは抜け出そうということで。バンド名によくある「THE~」とか「~S」ではなくて、個々の集合体というか、プロジェクトを表すものにしたかったんですよね。そういう温度感もメンバー全員に合ってたのかもしれない。
―atagiくんはバンドのあり方をどう見ていますか?
atagi(Vo,Gt):最初にマツザカくんが言ったような下北沢界隈って、すごくいいバンドはいっぱいいるんですけど、傍から見ていると頭打ちに見えるんですよね。だからそういう枠組みから出たかったというか。実際は、そのバンドが頭打ちになってるわけではなくて、そういう空気になってしまっていることが問題だと思っていたので、もうちょっと広い世界を見たかったんです。
―ビジョンがあるかないかの違いは大きいですよね。「いい曲を作りたい」っていうのはみんな思ってる。でも、大事なのはその先で自分たちがどうなって行きたいかで。ACCはそれが明確だったことが、結成からデビューまでのスピードの理由なのかなって。
マツザカ:そうかもしれないですね。どのバンドも頑張ってると思うけど、僕らはそのベクトルを変えてみたんです。あと、無理しない範囲でやるということも大事だと思っていて。僕らは運命共同体なわけではないから、楽しくないといけないし、ちゃんと利益も出ないと続けていけないと思ったんです。なので、「みんなが楽しくやれることをやる」ということが大事でした。
バンドを組むときに合言葉のように言ってたのは、とにかく暑苦しいのは嫌だねってこと。刹那的なものに対して、「カロリー重いよ」という思いは全員共通でありました。(atagi)
―プロフィールにある「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」というテーマも、最初からあったんですか?
マツザカ:ライブに出るにあたって、プロフィールがほしいと言われたときに、「架空の都市のサウンドトラックをやるバンド」って面白いなと思って。東京のシティポップをやってるわけではなくて、「自分たちの街で鳴ってる音楽」という感じがしっくりきたというか。僕らは渋谷で練習もライブもよくやってるから、そこで感化されて曲とか詞ができてるとは思うんですけど、別に渋谷のことを歌ってるわけではないし、自分の頭の中にある虚像の街が「Awesome City」なのかなって。あとは単純にリスナーとして、シティ感のあるもの、都会的なものが好きなんですよね。パッションでバーンと伝えるものよりも、洗練されているグッドミュージックと言われるようなものをすごく求めていて。
―なぜ洗練された音楽を求めたのでしょう?
マツザカ:やっぱり10代の頃に初めて組むバンドって、初期衝動的な部分が大きいと思うんです。でも、それが解散して、もう1回違うバンドをやろうと思うと、全体の音圧が下がるというか、ざっくり言えば「オシャレなことをやりたい」って思うんですよね。周りのバンドマンを見ててもそうで、そうなるのは歳のせいなのか、今の時代感なのかはわかんないんですけど。
―PORINさん、そのあたりどう思いますか?
PORIN:……時代なんじゃないですかね? 今そういう音楽が流行ってるからだって、私は単純にそう思ってます。
―それがひとつの明確な答えではありますよね。シティポップもそうだし、海外でもファンクやソウル、R&Bが時代の主軸になっている。
マツザカ:そういうものを間違いなく聴いていたし、意識的にそういうのをやりたいと思ってました。
―そこからさらに一歩踏み込むと、「架空の都市」というテーマとも関連して、「エスケーピズム」っていう言葉につながるのかなという気がします。最近よく取材で話していることなんですけど、やっぱり音楽がある種の現実逃避であるという側面が今改めて強まってて、だからこそ洗練されたもの、キラキラしたものを求めたのかなって。
マツザカ:確かに、このバンドを始めた年に一番聴いていたアルバムがWashed Out(アメリカのチルウェイブ系アーティスト)の『Paracosm』で、あれなんてエスケーピズムの象徴のようなアルバムですよね。メンバーが「この音楽、気持ちいいね」って共通して思うものは、エスケーピズムとリンクしてる部分はあるかもしれない。
―atagiくんはACCと今のシーンとの関係性って、どのように見ていますか?
atagi:僕は二人に比べると新しい音楽には疎い方で、もともとブラックミュージックが好きで、ソウルバーで働いてたんです。エスケーピズムの話にも通じるかもしれないけど、バンドを組むときに合言葉のように言っていたのは、とにかく暑苦しいのは嫌だねってこと。刹那的なものに対して、「カロリー重いよ」という思いは全員共通でありました。
テレビとかラジオにたくさん出ることが大事なのではなくて、アイデア勝負で仕掛けていくことが、単純にプロモーションの仕方として面白いと思うんですよね。(マツザカ)
―4月3日の自主企画イベントでは、スマートフォンを使った「バーチャル7inchシングル」を来場者全員にプレゼントをするという企画を行いましたよね。
マツザカ:はい。会場でコースターをプレゼントして、それにスマートフォンをかざしてもらうと、アルバムに入る曲が先行で1曲再生できるというものだったんですけど。今ってみんなスマートフォンを持っているから、ライブハウスにいる全員が個々でスマートフォンを通して何かにアクセスしながら同じものを共有するということがやりたくて、今回はその最初の試みですね。
―そういういろんなアイデアを試してみたいからこそ、メジャーに来たという側面もあるのでしょうか?
マツザカ:メジャーとインディーに関してはどっちでもよくて、僕たちの場合は、結果的に一緒にやりたいと思える人がメジャーにいる人だったという感じです。もともと今回のようなインタラクティブなことをやりたいとはずっと前から思ってたんですけど、自分たちだけでやるにはお金もアイデアにも限界があって、今回初めて事務所とレーベルがついたことで、やっとストリート感のある面白いことができるかなと思っています。あと、例えば、新しい機器が出たら、みんなサカナクションに使ってほしいじゃないですか? そういう感じで、ACCを介して世の中に新しいものを出したいと思ってもらえるような状況にしたいと思っていて、認知度とかイメージ作りという意味ではメジャーでやる方がいいのかなって。
―海外のアーティストで言うと、去年はAPHEX TWINの新作が出たときに、飛行船を飛ばしたり、ゲリラ的にステッカーが貼られて、それによってSNSがざわつくという、面白い動きがありましたよね。あれはレーベル主導とはいえ、『グラミー賞』を獲るようなアーティストがそういう動きをしているのは、すごく時代感を表していると思っていて。
マツザカ:テレビとかラジオにたくさん出ることが大事なのではなくて、アイデア勝負で仕掛けていくことが、単純にプロモーションの仕方として面白いと思うんですよね。海外のアーティストみたいに、「今面白いからこれをやる」っていうフットワークの軽さとタイム感で僕らも動きたいなと思っています。
atagi:いいクリエイティブチームって、ひとつになって面白いことをやろうとしてる感じがお客さんにも伝わるんですよね。音楽もそれ以外も、「ACCがやることは面白いよね」って思われることが、僕らの目指したいところです。
マツザカ:メジャーに来て一番よかったのはいろんなクリエイターと出会えることで、クリエイター同士のつながりでもの作りをすることが、一番純粋な気がするんですよね。仕事感覚じゃなくて、「ACCを通して何かを発信したい」って思ってくれたらいいなと思うし、クリエイターの聖域みたいなところでつながってお互い感化しあえたらいいと思うんです。さらに言えば、お客さんにも「ACCで自由に遊んでください」っていうことを提示して、たとえばミュージックビデオを自由に作ってもらえたりするようになるのが理想ですね。
―PORINさんはこうやって新しいこと、面白いことにトライすることについて、どう思っていますか?
PORIN:私はマツザカくんより年齢が少し下なんですけど、若者として、ワクワクしてます。難し過ぎてもダメだし、チープ過ぎてもダメだし、いいバランスのところをいってるんじゃないかなって。
マツザカ:彼女は最新のものを常に追っかけてる人なんですよ。自分のチームに、常に何か新しいものに触れて、新しい感覚を身につけた人がいるって、すごくいい循環を生むと思ってます。
―今は時代がすごい速さで進んでるから、ミーハーであることってすごく大事ですよね。
マツザカ:超大事だと思います。僕らはファッションとか音楽以外のカルチャーも大好きだから、そういうところからインスパイアされる部分もすごく大きいですね。
僕は最初、プロデューサーを入れるのがすごく嫌だったんです。(atagi)
―『Awesome City Tracks』の収録曲は、すでにSoundCloudやYouTubeにアップされている曲が中心ですが、mabanuaさんがプロデュースで参加して、ブラッシュアップされてるのがポイントですね。
マツザカ:僕は昔から「mabanuaさんと一緒にやりたい」って言っていて、今の事務所に入るきっかけも、それがひとつの理由なんです。僕から言う前にディレクターの方から、「プロデューサーを入れるなら、mabanuaさんがいいんじゃない?」って言ってくれて。
―まさに、ぴったりの組み合わせですよね。
マツザカ:僕、その人のことが気になるとブログとかめっちゃ読み漁るタイプなんですけど、mabanuaさんのことを知れば知るほど、「この人いい人だな。いいレコーディングができそうだな」と思って(笑)。ちゃんとしたレコーディングに関しては、僕らは素人だったので、誰かサポートしてくれる人がいてほしくて、なおかつそれがプレイヤーだったらいいなと思っていたので、mabanuaさんはぴったりでした。
atagi:僕は最初、プロデューサーを入れるのがすごく嫌だったんです。自分の作った曲に誰かの手が加わって、自分のコントロールできない範囲にいってしまうのが嫌だったし、有名なプロデューサーが入って、その人の名前が一番の話題になるのが、ホントに嫌だったんですよね。でも、mabanuaさんと実際一緒にやってみると、裏方っぽい一面もあるけど、表舞台でソロもサポートもやっていて、いろんな階層を行き来できる……変な人だと思って(笑)。結果的に、あの人しかいなかったと思います。
マツザカ:やってもらいたいことが明確にあって、それを補てんしてもらう形だったからよかったんだと思いますね。やっぱりmabanuaさんはドラマーなので、グルーヴの品質管理をしてもらいたかったのと、mabanuaさんのソロは生楽器と電子音の混ざり方が抜群なので、その部分をやってもらったんです。それに加えて、遊んでももらったのがよかったなって。
覚悟を決めて! 変化を恐れず!(PORIN)
―では最後に、今後のことも聞かせてください。まずは今年1年の展望をどのように考えていますか?
マツザカ:今回初めてのCDリリースとは言いつつ、曲自体はSoundCloudでこれまでも公開してたので、明らかに状況が変わるわけではないとも思うんですよね。ただ、「今年一番フロアでかかったのはACCの曲」ってなったらいいなと思ってて。“今夜はブギーバック”(スチャダラパー×小沢健二)とか“Rollin' Rollin'”(七尾旅人×やけのはら)みたいに、「今年はこの曲だったね」って言われるのが僕らの曲になってほしい。マスではなくても、まずはフロアとリンクしていきたいですね。
―atagiくんはどうですか?
atagi:去年はいろいろ種をまく作業が多くて、今年はそれが実ってきたと感じているんですけど、ちゃんと次の種をまくことも大事だと思っていて。次作は今作よりもっといいものを作りたいから、「いい曲を書く」っていう作業をちゃんとしておきたいなと思います。
―PORINさんからは今年の展望じゃなくて、長期的な野望を聞きたいです。
PORIN:そうですね……みんながハッピーにお金を稼げるのがいいかなって(笑)。
―音楽でやっていくぞと。
PORIN:そうです。覚悟を決めて! 変化を恐れず!
―今の「言ってやった感」、最高ですね(笑)。マツザカくんは長期的にはどんな野望を持ってますか?
マツザカ:やっぱり……印税生活ですかね(笑)。今って、ある程度はインディペンデントでバンド活動ができるじゃないですか? 僕らもそういうやり方をできたかもしれないけど、周りが「自分たちでやることがかっこいい」って言ってるからこそ、「いや、メジャーでバーンとやって、印税生活するんだ!」っていう方が、面白いし、かっこいいんじゃないかなって。正直、メジャーかインディー、すごい悩んだんです。でも、あまりに「自分たちでやる」っていう人が多いから、「もうわかった、俺は別の方を行くわ」って思ったんですよね。誰かの思い出の1ページに、なるべく多く加われた方が結果的にハッピーだと思うし、そうなれるように活動していきたいです。
- リリース情報
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- Awesome City Club
『Awesome City Tracks』 -
2015年4月8日(水)発売
価格:2,160円(税込)
Victor Entertainment / CONNECTONE1. Children
2. 4月のマーチ
3. Jungle
4. Lesson
5. P
6. It's So Fine
7. 涙の上海ナイト
- Awesome City Club
- プロフィール
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- Awesome City Club (おーさむ してぃ くらぶ)
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2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo,Gt)、モリシー(Gt,Synth)、マツザカタクミ(Ba,Synth,Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo,Synth)が正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップをRISOKYOからTOKYOに向けて発信する男女混成5人組。早耳の音楽ファン、ブロガーはもちろんの事、『Gurdian』(UK)、『MTV IGGY』(USA)など海外メディアでもピックアップされるなど、WEBを中心に幅広く注目を集めている。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル「CONNECTONE(コネクトーン)」の第一弾新人としてデビューが決定。4月8日に、待望のファーストアルバム『Awesome City Tracks』をリリース。プロデュースにCHARAやGOTCHをはじめ様々なアーティストの楽曲を手がけるmabanuaを迎えた意欲作。
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