夏の野外フェスだけでなく、いまや1万人規模の大型ロックフェスが様々な場所で1年にわたって行われるようになった。フェス文化は確実に日本の音楽シーンに根付いたが、一方でそれがある種の飽和状態に達しているということも、出演者やオーディエンスは感じ取りつつある。単に人気のあるバンドを集めるだけではなく、フェス自体のビジョンやストーリーが伝わり共感されることが、そのフェスが継続して成功を収めるための1つのキーになっている。
そんな中、パンクとラウドロックとハードコアの一大祭典として昨年に産声を上げたのが『SATANIC CARNIVAL』だ。主催は15年以上にわたってシーンを牽引してきたインディーレーベル「PIZZA OF DEATH」。2回目となる今年は6月20日に幕張メッセにて開催され、同レーベルの社長をつとめる横山健もKen Yokoyamaとして出演。10-FEETやFear, and Loathing in Las Vegasなど人気バンドからベテラン勢、気鋭の若手まで全22組が登場する。
「シーンの居場所作り」をテーマに立ち上げたというこのフェスの狙い、そしてPIZZA OF DEATHが見据えるシーンの現在地とはどういうものなのか? 同フェスプロデューサーのI.S.Oに話を聞いた。
僕らにはパンクやラウドロックシーンの当事者であるという意識がある。そういうシーン作りを人任せにしていると、「ちょっと違うんだよな」と感じてしまうことがあるんですよね。
―そもそもなぜ『SATANIC CARNIVAL』を開催しようと思ったのでしょうか?
I.S.O:もともとPIZZA OF DEATHはインディーズのパンクやラウドロックのシーンで15年以上活動を続けてきたレーベルです。しかし今の時代、ロックフェスがたくさんある中で、そういったシーンのバンドだけを集めた大型のイベントが、首都圏にはあるようでなかったんです。長年このシーンに携わっている僕らが旗を振って、そういったバンドを集めつつ、シーンの居場所を作ることが立ち上げ時のコンセプトでした。
―あるようでなかった。
I.S.O:首都圏では、多種多様なアーティストを扱っているイベンター主催の洋楽メインのフェスくらいでした。僕らにはシーンの当事者であるという意識もあるので、僕らが主催することによって、よりありそうでなかったイベントができると思います。
―パンクやラウドロックやハードコアのシーンの全体像を体感できるようなフェスになっているわけですね。
I.S.O:そうですね。音楽だけではなく、カルチャー的な要素も多いシーンですからね。たとえばアーティストが身につけている洋服やグラフィックにも共通項があったりする。そこで昨年はデザイナーやブランド、フォトグラファーやタトゥーアーティストが発信できるような場も設けました。立体的なシーンを1つの形にして、このシーンが好きな人の居場所を作る。それが立ち上げた時の思いです。
『SATANIC CARNIVAL'14』の様子 photo:Yuji Honda
―「居場所を作る」ということは、「自分たちが作らないとなくなってしまう」という危機感があったのでしょうか?
I.S.O:なくなってしまう、ということはないと思います。僕らはパンクシーンが1つのムーブメントとして生まれた1990年代から長く携わってきてますが、時代が変わっても新しいヒーローとしてのバンドが次々に出てきています。それに、モッシュやダイブをして楽しむようなライブも、少しずつ形は変われども脈々と続いている。こういう文化自体がなくなることはこの先もないと思います。ただ、そういうシーン作りを人任せにしていると「ちょっと違うんだよな」と感じてしまうことがあるんですよね。だから、自ら作ろうと思ったんです。
―レーベル主催のイベントでありながら、レーベルの所属アーティスト以外がたくさん出演していることが、『SATANIC CARNIVAL』の特徴の1つですよね。
I.S.O:そうですね。このフェスが、うちのアーティストに限らず、シーン全体のバンドのチャンスになればいいなと思うんです。「この若手バンドを見せたい」ということや、中堅のバンドでも「このタイミングであえてメインステージで見せたい」といったことが、僕らの感覚で提示できる。シーンの居場所を作ることを目指す以上は、憧れの場所にもしたいので、レーベルの垣根があってはならないと思っています。
―憧れの場所、というと?
I.S.O:バンドをやることに対する憧れや夢が生まれてほしいんですよね。やはり、世代ごとにヒーロー的存在のアーティストがいて、それに憧れることでバンドを始めたり、夢が生まれたりするのは大事だと思うんです。僕らの世代ではHi-STANDARD(以下、ハイスタ)がいた。その後も、ELLEGARDENやマキシマム ザ ホルモンやONE OK ROCKが登場してきた。ただ、ヒーローは1人だけじゃないですから。このフェスに出演しているバンドの一つひとつに憧れるようになってほしいです。
PIZZA OF DEATHのフェスでもないし、Ken Yokoyamaのイベントでもない。あくまで、シーンの発信力ある居場所作りが目的です。
―立ち上げた時に、成功する可能性、フェスが上手くいくイメージはどの程度ありましたか?
I.S.O:結構ビビってました。今って、大型フェスは多いじゃないですか。そこで、あえてこのシーンのバンドばかり集めたらどうなるんだろう、と。ただ、フタを開けたら1回目はチケットがソールドアウトしたし、出演者にもお客さんにも喜んでもらえた実感はありました。正直、成功してホッとしましたね。
―日本のパンクシーンの中でも、特にハイスタは大きなアイコンとして今もリスペクトを集めていますよね。PIZZA OF DEATHというレーベルは横山健さんが社長であり、切っても切れない関係性がある。しかしこのフェスではハイスタや健さんを前面に打ち出すわけではなく、新しく『SATANIC CARNIVAL』というブランドを作っていると思います。その理由は?
I.S.O:まず、ハイスタを主役にするのであれば『AIR JAM』(ハイスタを中心に企画されたフェス。バンドの活動休止とともに、イベントの開催も休止となったが、2011年と2012年はバンドの復活とともに開催された)でいいわけですよね。それと違うものをあえてやる以上は、切り離して考えたいと思ったんです。PIZZA OF DEATHのフェスでもないし、Ken Yokoyamaのイベントでもないということはすごく意識しています。あくまで、シーンの発信力ある居場所作りが目的ですからね。だから、できるだけフェアにブッキングも考えていて、ウチの所属バンドもシーンにいるバンドの1つとして捉えています。
―実際、去年出演した04 Limited SazabysやNOISEMAKERは、今年メジャーデビューを果たしましたね。
I.S.O:そうですね。実際に手応えとして、去年出てもらった若手のバンドが、それ以降にチャンスを掴んでいる印象があります。そういう意味でも、僕らがこれをやることに意義はあると思いましたし、今のコンセプトを突き詰めていきたいと思っています。
―では、今年のラインナップの中で、次のヒーローになりそうなバンドと言えば?
I.S.O:WANIMAですね。PIZZA OF DEATHのバンドなんですが、フェアに見ても、新人としては勢いがあるし、文句なしに今後を期待できるバンドだと思います。「メロディックパンク」という呼び方が正しいかどうかわからないですが、日本語でいいメロディーの歌を歌っているバンドで、SiMやMAN WITH A MISSION、ONE OK ROCKともまた違う路線ですし、そういう意味でも彼らが大きくなるとまたシーンが面白くなると思います。
僕らは基本的にいろんなことをDIY精神でやってます。1万人以上の規模で、イベンターを使わずにやっているフェスは他にないと思います。
―フェスの作り方についてもお話をお伺いできればと思います。『SATANIC CARNIVAL』はかなり独特の作り方をしているフェスだということですが。
I.S.O:僕らは基本的にいろんなことをDIY精神でやっていて、このフェスもイベンターを使わずに作っています。幕張メッセの担当者に直接お会いしに行って、「会場を貸してください」とお願いするところから始まり、プレイガイドに「チケットを売ってください」と交渉する。ステージ、音響、照明業者への発注からスタッフ集めまで、全て僕が仕切ってやっています。
―ほとんどのフェスはイベンターが運営しているんですか?
I.S.O:小さい規模のイベントだと手作りでやられているものもありますが、1万人以上の規模で、イベンターを使わずにやっているフェスは他にないと思います。イベンターにお願いした場合、主催者の僕らは企画を立てるだけでいい。会場の押さえも、当日のアルバイトスタッフの手配も、運営面でのほとんどの部分はやってもらえます。でも、僕らはあえてそこも含めて自分たちで全部仕切っています。
―素朴な疑問として、イベンターに頼むほうがラクなんじゃないでしょうか?
I.S.O:そうですね、そのほうが絶対にラクです(笑)。でも、僕らはずっとインディーズでやってきたし、「自分たちのことは自分たちでやる」という社風があるんですよね。それを突き詰めた形の1つだと思います。
―やってみたらできた、という感じでしたか?
I.S.O:もちろん周囲に助けられた部分も多かったですけれど。去年は「そもそも幕張メッセを直接借りることができるのか?」というところからのスタートでしたからね。担当者さんと直接交渉して、なんとかスケジュールをいただいて、そこから一つひとつのセクションを詰めていきました。プロデューサーの立場にいる僕が、その全てを把握しなきゃいけなかったので、情報量の多さにパンクしそうになりましたよ。
―1万人規模のフェスになると、動線の整備とかも大事になってきますよね。
I.S.O:そのあたりは、警備や運営管理のプロの方たちとも相談しながら、フェンスやバリケードの場所一つひとつを何度も考え直して、結果スムーズに行うことができました。
―『SATANIC CARNIVAL』のお客さんは基本的に暴れたい人が多いわけで、安全性と不満なく楽しめる線引きのバランスは難しいし、肝でもありますよね。
I.S.O:そこは、僕らはこれまでも自社アーティストのライブ制作を手がけてきていて、そういうお客さんばかり相手にしてきたので、経験値の蓄積が大きかったと思います。でも、お客さんにもかなり助けられました。お互いのルールを守り、助けあうようになったお客さんの成熟も大きいです。
僕らは「レーベルの価値とは何か?」ということを、数年前から考え続けているんです。ただ音源を作るだけではレーベルの役目を果たしたとは言えない。
―『SATANIC CARNIVAL』はフェスのプロモーションも意欲的に行っていますよね。単にイベントを行うだけでなく、それに絡めて出演者たちが積極的にメディアに登場する。イベント当日以外の部分でも、アーティストの魅力を発信する機会も作っているように思います。
I.S.O:そこに関しては宣伝担当の人間とも一緒に考えているんですけど、このイベントがシーンを発信する場であってほしいという目的を果たすためです。若いバンドや中堅のバンドには、いい形でこのフェスを利用してもらいたい。フェス自体のプロモーションというよりは、出演アーティストをいかにプロモーションするかに比重を置いて考えています。
―PIZZA OF DEATHは、たとえばキャリア公式モバイルサイト「SATANIC MOBILE」を持って独自コンテンツを作っていたり、発信型のレーベルでもあると思います。
I.S.O:僕らは「レーベルの価値とは何か?」ということを、数年前から考え続けているんです。インターネットが普及して、リスナーとアーティストが直接繋がることができるようになった。自分でCDを作れるバンドだってたくさんある。そうなった時に、ただ音源を作るだけではレーベルの役目を果たしたとは言えなくて、レーベルの価値は発信力の強さにかかってくるんじゃないかと思うんです。同様にこのフェスも、発信力の強さが必要だと思っています。まあ、お客さんにとっては『SATANIC CARNIVAL』がいい遊び場であってほしいって、ただそれだけなんですけどね。
―「遊び場」という意味でいえば、最初に仰ったように、単にアーティストがライブをするだけではなく、いろんなカルチャーが見える場を作っているわけですよね。
I.S.O:そうですね。なので今年も、デザイナーの作品展示とか、僕らなりに「こうやったら面白い」というものを考えています。
―そもそも、パンクシーンはなぜファッションやグラフィック、スケートボードなどのカルチャーと結びついているものなんでしょう?
I.S.O:それはもう、ごく単純に、そういう音楽が好きな人は、ストリートファッションも好きだし、スケボーも好きだったりする。タトゥーもそうですね。かっこいいと思う、面白いと思う、僕らからすると当たり前のことです。だから自然と結びつくんです。
―そういう意味では、フェスって、いわばカルチャー誌みたいなところもあるわけですね。メインステージのヘッドライナーが雑誌の表紙で、中面にはいろんな企画もある、という。
I.S.O:その通りだと思います。
正直なところ、「またフェスかよ」って思われないよう、いかに差別化できるかは僕らの課題です。
―とはいえ、今の音楽業界にはフェスが乱立し飽和状態とも言われます。実際、フェスは1年中いろんな場所で行われている。
I.S.O:飽和状態ですね。
―そうである以上、お客さんもフェスというだけで目新しさを感じるのではなく、そのフェスならではの魅力や意義を感じてチケットを買うようになっていると思うんです。『SATANIC CARNIVAL』もそういうことは意識しましたか?
I.S.O:そこは最初にいった「居場所」ということですね。この手のシーンは「村社会」と揶揄されたこともあったんです。でも「村社会上等だ」と(笑)。そういう村には、その村の遊び方があっていい。
―「村社会」というのは、言い換えるならばそのシーンのカルチャーがちゃんとある、ということですよね。
I.S.O:そうですね。正直なところ、「またフェスかよ」って思われないよう、いかに差別化して面白くできるかというのは僕らの課題なんです。差別化の肝がカルチャーなんだと思います。音楽業界全体の流れとして、イベントが多くなるのは仕方がない。しかし、そうするとどうしても刺激的ではなくなってしまう部分が出てくる。出演者ですら「またかよ」と思う場面すらあるわけですから、お客さんにとってもそれは同じだと思います。僕らとしては、どうやって刺激的な場所を作るか、面白い場所と思ってもらえるかを意識してやっていくだけですね。続けていけば回を重ねるごとにフェスのストーリー性も出てくると思うので、シーンのためにやり続ける以外はないです。
―他のフェスのことは意識しますか?
I.S.O:横を見たらキリがないですよね。やると決めてやっている以上は、楽しんでもらえるものを作るだけだし、ここから先はサバイバルだと思います。面白いものが残っていくし、つまらないものは淘汰される。それだけですからね。
- イベント情報
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2015年6月20日(土)
会場:千葉県 幕張メッセ国際展示場 9~11ホール
出演:
04 Limited Sazabys
10-FEET
BACK LIFT
BUZZ THE BEARS
coldrain
CRYSTAL LAKE
FACT
Fear, and Loathing in Las Vegas
GOOD4NOTHING
G-FREAK FACTORY
HAWAIIAN6
KEMURI
Ken Yokoyama
locofrank
MONGOL800
OVER ARM THROW
RADIOTS
ROTTENGRAFFTY
SHANK
The BONEZ
WANIMA
怒髪天
料金:8,500円
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- プロフィール
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- I.S.O (いそ)
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横山健が代表を務めるインディーレーベル「PIZZA OF DEATH」にてライブ制作を担当。また、Ken Yokoyama、Hongolian、Andrewとともに、ハードコアパンクバンド「BBQ CHICKENS」を結成、ベースを担当している。2014年よりスタートした、PIZZA OF DEATH主催の音楽フェス『SATANIC CARNIVAL』のプロデューサーを務め、初年度は1万7千人の観客を集め、大成功に収める。今年は、6月20日(土)、会場は昨年と同じく幕張メッセにて開催。
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